リベウス
…へ?
聞き間違えたかと思った
「具体的に説明しよう
我々アマノイワト社は3年前から人間自身にリベリオンの持つ技術を移植する計画を極秘に立てていた
1年半前の時点で人間の脳内の電気信号に介入し、通常10パーセントしか使われないと言われる脳を最大100パーセントまで引き出すナノマシンを開発した
しかし、それだと人間の肉体が持たない
そこで我々はリベリオンの持つ強靭な外骨格部分を人間に移植しようという結論にいたった
その時役立ったのが君が1年半前持ち帰ってきた破片だよ
破片は君と共に戦ったダイチ君の腕の中に紛れていた
それが人間の肉体内とリベリオンの材質との反応を観察に使えた
そして、半年前対リベリオン兵器、恐らく人類最後の、最高傑作の兵器が生まれた
その兵器、ナノマシンを体に移植した人間兵器のことを我々はリベウスと呼んでいるが」
……
人間兵器。果たしてそれは人間と言えるのだろうか…
色々と疑問がある
「それは…人間の脳に干渉するんですよね?
あまりに危険では?
それに日常生活は送れるのですか?
それにそれとパニック障害を治すことの関連性
リベウスとやらはリベリオンに対しどれくらいの効果があるのか、お尋ねしたいです」
俺は早口で聞いた
「危険は、ない。
ナノマシンは戦闘時に着用する専用の兵装と反応した時だけ発動する
だから日常生活では一般人と同じ力に制御されて普通に暮らせるから安心しなさい
それに万が一命に危険なレベルの電流がナノマシンより流れそうになったら強制シャットダウンされるようにしてある
そして、パニック障害についてだ
このナノマシンを利用して君の脳内の不安を感じる所に作用させることも可能だ
そこで不安を和らげる物質を分泌させるよういじることでかなり緩和されると予想される
つまり、君が戦う時、同時に治療も行っているというわけだ
最後のリベリオンに対する効果についてだが
これについては自信を持って効果があると言えよう
詳しくはまだ言えないがこのナノマシンを使ってできることは他にもある
たとえば君が1年半前受けたリベリオンからの攻撃
あれを例え頭に直接受けたとしても気を失うことさえないだろう
それくらい君の体自体も強化される
」
彼女は全ての質問に対して答えてくれた
なるほど、治療を受けたいなら戦えという訳か
「最後に一つ付け加えて教えてあげよう
もし、人類が戦わずこのまま地下でのほほんと暮らしていけば、我々の計算上、リベリオンの進学スピードから考えてヤツらが地下に侵攻し可能になるのは
長くて半年後だ」
このまま何もせずにいれば人類は半年後に滅亡…
しかもリベリオンに惨殺されていくのだろう
俺も、もちろんカナも
「なんで俺がそのリベウスとやらの兵器の候補に選ばれたんですか…他の現役の優秀な軍人から選んでもいいのでは…」
俺は一度軍をやめ、さらにパニック障害持ちだ
そんな俺がなんでリベウスになる必要がある?
「優秀なリベウスは比較的若い体が必要だ
さらにできれば実戦経験がある方がいい
そして、もう一つ条件があるのだがまぁこれは些細なことだから気にしなくていい
それで選ぶとほんのわずかな人しかいない
実戦経験ある若者はほとんど死んでしまっているからな
現に今この日本にいる国連軍の数は5万人程度
そのうち治安維持などではなく対リベリオンのために訓練され、さらに実戦経験ある者はせいぜい1000人くらいだ
そこからさらに若者を選び、条件に合う人となると30人いるかいないかくらいになる。この国でだ
そのうちの1人が君、というわけだ
30人全員がリベウスになるだけで理論上少なくとも日本は地上を取り戻せる
それくらいリベウスは強い。君もリベウスになってはくれないか…」
たった30人で日本の地上を取り戻せる?
本当…なのだろうか
「少し考えさせてはもらえませんか?」
今すぐには決められなかった
「もちろん、今ここで答えを出せとは言わない
だが人類に残された時間は少ない。明日の朝またここに来て答えを言いに来てくれ」
俺はその後国連事務総長やら作戦の総責任者やらとも話をして、家へ戻った
帰宅途中俺は考えた
俺は人類のためにもう一度戦うか?
それとも仕事も辞めてカナと一緒に残り半年暮らすのも悪くないのではないか…
いや、それは俺自身のことしか考えていないからそんな考えが思い浮かんじゃうんだ!
まず、俺は何のために戦える?人類のため?そんな大きなものへの責任俺には到底負えない
カナのためならどうだろう
1年半前の作戦の時、俺は何で死を覚悟してまで戦った?
確かに当時は軍にいる他なかったから戦っていたが心のどこかでカナに地上で普通の暮らしをさせたいとも思っていたはずだ
それにやっぱり俺は正直死にたくない
何もしなければ100パー死ぬ
リベウスになれば助かる希望がある
しかもカナと共に
俺は自問自答を繰り返して繰り返して家に着く前に答えを決めた
「ただいま…」
「おかえり〜今日は大丈夫だった?」
いつも通りカナが食事の準備をしている
「うん、パニック障害の発作は起きなかったよ」
いつも通りの会話だった
だけどそれも今日で一旦お預けだ
俺はカナとの食事の時話すことにした
「カナ、ちょっといい?」
「何兄ちゃん、わたしの口の周り何かついてる?」
「いや、ついてないけど…そうじゃなくてね」
本題を言おうとした
「兄ちゃん、本当にクビになった…?
それともまさか…軍に戻るなんて言わないよね?」
ドキッ。でも俺は言った
「カナ、俺は軍に戻るよ。パニック障害を軍の人が治してくれる代わりに俺はまた戦うよ
大丈夫!アマノイワト社、お前も知ってるだろ?そこの人がな、兄ちゃんが昔使ってた兵器より断然強い兵器を開発したらしいんだ。兄ちゃんならその兵器使いこなせるって言われてね
だからね、カナ…ね、兄ちゃん戦うよ…戦って地上を取り戻してみせるよ…ね、だから…泣かないで…」
俺はカナのために戦うことにした
俺が戦えばほんの少しでもカナが地上で暮らせるようになる確率が上がるというのなら、俺は命をかけて戦うことに値すると考えた
それが帰宅途中出した結論だ
「兄ちゃん…明日の朝は、カレー粉で味付けしたカイコもう一度作るね…
わたしにできることといえば兄ちゃんが好きな料理を作って見送ることくらいだから…」
…いい歳して涙が流れてしまった
「あぁ…楽しみにしてるよ
兄ちゃん必ず生きて帰ってくるよ
必ず生きて、一体でも多くのリベリオンを倒して、地上をとり戻して帰ってくるよ
そしたら、カナ、一緒にカレー食べよう、牛とか豚とかのお肉一杯入ったカレーをな」
必ず生きる。そして地上を取り戻す。カナのために
心の底からそう俺は思った