表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FASTEST!!  作者: サトシアキラ
8/90

第01-07話

午後4時ちょうど。

 場所は横浜球場の外。皆は既に制服に着替えている。大塚さんと、顧問にして監督の大淀さんが、輪になって立っている部員全員の真ん中で最後の訓示をしていた。大淀さんの話は、こんな状況でもアクビが出る位つまらないものだったが、大塚さんの番になると、みんな涙ぐみながら話を聞く姿勢になった。この事からも、大塚さんがいかにキャプテンの器にふさわしい人物であったかが窺い知れる。


「さて……」

 大塚さんが皆の顔を一通り見回してから口を開いた。表情はとても穏やかだ。

「今日はいい試合だった。良く守り、良く走った。俺には悔いは無い。悔いが残っている者も居るだろうが、その悔しさを後々まで忘れないように。そしてそれを力に……」

 そこまで言って、大塚さんは言葉を切った。何だろうと思っていると……。

「止めよう、在り来たりの訓話は。この位の話なら誰にでも出来るし、言われなくても分かってるだろうから」

 と、苦笑した。

「つまり、俺が言いたいのは只一つ。みんなと野球をやれて楽しかった。これからも、くれぐれも義務で野球をやることの無い様にしてくれ。以上だ」

 大塚さんに涙は無かった。それは、一生懸命に生き、悔いのない者だけが到達できる高みだと、その時俺は思った。が、それは実際に有り得ない事だと思い直したのは、新キャプテン指名式の時だった。新キャプテン指名式とは、ウチの部で三年の現キャプテンが引退する時、二年の新キャプテンを現地で指名するという物だ。気持ちに空白を作らないようにする為という事らしい。

「さて、次期キャップだが……俺は真壁に任せたいと思うが、どうだろう?」

 異存など有ろう筈もない。正式なキャプテンこそ大塚さんに違いないが、グラウンドレベルじゃ、カベが現場監督のようなもんだったからな。寡黙で喜怒哀楽を表に出さず、野球の知識も豊富。背中で人を引き付けられる男だ。

 みんなが無言をもって、その意見を支持する事を伝えると、大塚さんは大きくうなずいた。

「じゃ決まりだ、真壁」

 大塚さんが手を差し延べ、カベは握手で応じた。

「真壁……」

 大塚さんは、カベの名を呼んだ後に俺の方を見て、

「加藤……」

 と、やはり俺の名を呼んだ。

「お前達が中心になって盛り上げていけば、必ず上が見えて来る。だから……俺の夢を押し付ける訳じゃないが……」

 大塚さんはそこまで言葉を絞り出して……涙を一雫、こぼした。

「俺の届かなかった夢を……叶えてくれ」

 そうか……そうだよな、悔いのない人生を送った人なんて居る訳ないじゃないか。あれ程清々しい笑顔だって、悔しさを必死で隠した上での事だったんだ。高校野球をやるからには、目標は一つ。

 真紅の大優勝旗。

 そこまで行かなくとも、甲子園出場。

 それに手が届きつつあったでの敗戦。自らの技量の未熟。

 その涙が、高校野球への惜別であった事は容易に分かった。

 俺は無言でうなずく。

 カベも、その心意気に強く打たれたようで、大塚さんの手を強く握り返す。

 俺は正直言ってピンと来なかったが、黙礼で応えた。



 最強のバッテリーは、新たな季節へと走り行く。




 大いなる夢へ向かって。



俺の公式戦成績

投球回数44イニング

投球数  696球

被安打    7

被本塁打   0

奪三振   79

与四死球  33

失点     2

自責点    0

防御率 0.00

ノーヒットノーラン二度



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ