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FASTEST!!  作者: サトシアキラ
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第15-06話



 狭い部屋の中は歓喜の渦に包まれている。

 ここは宿舎近くのカラオケボックスだ。歓喜の源は……三回戦突破。そのご褒美とも言おうか、で、思いっきり叫んでも何しても迷惑が掛からない、今までの鬱憤を少しは晴らせる場所ということでここが選ばれた。

 今まではそう実感はなかったのだけど、流石にここまで来ると相当の所まで行けるのではないかと錯覚してしまうのも無理はないと思う。

 そして、『もういつ負けてもいいや』というある種の諦観も同時にやってきている。俺にも、

 ……そして恐らくチームメイトたちにも。俺たちに残された時間は、どうあれ短い。それを知ってか知らずか、五塚ナインの結束は益々強くなって行く。この結束は、勝っているから成り立っている……つまり、プロ野球などの実力至上主義な世界にありがちな『強いからファンが付く、弱いからファンが付かない』という力によるものなのだろうか。

 俺には、それを知る術はない。もちろん、俺の隣に座って気怠そうにしているカベにも、多分。

 

 何処で誰が狙っているか分からないから、もちろん般若湯の類は持ち込みも頼みもしないものの、基本的に大騒ぎが好きな男たちであるから、まるで最初から『出来上がっている』かのような陽気さで流行歌を歌いまくっている。それこそ肩を組んで手を振り上げて……俺はイマドキの曲なぞほとんど知らないから、ほとんど壁の花と化しているが。カベについても同じようなものらしく、おとなしくオレンジジュースを啜すすっている。

「聖、歌わないのか?」

 俺の視線に気がついたのか、カベはちらりと俺の顔を見ながら言った。モニターの青白い光が反射して余計に青白く見える。どうもこのところのカベの体調が気になる。無理もないか、只でさえこの猛暑な上に俺のリードで心労を掛けているのだから。かといって、カベに頼らずに投げる方法など思いつきもしないけど。

「俺は歌そんなに上手くないから……」

「上手い下手の問題じゃないだろ?こういうところで歌うって」

「そうだけど……さ」

 これといって得意な曲もないし、かといって歌って鬱憤晴らしなんて芸当も自分の性格的に出来そうにない。考えてみれば、加藤姉妹と一緒にカラオケに行くなんて事もなかったな。みんな声が可愛い・綺麗だから、歌声もさぞかし良いものだっただろう。姉妹等は、下校時に友達とカラオケに行く事もあるという話をしていたから、一回くらい誘ってみても良かったか。

 そうやって少し考えていると、

「じゃあ、オレとデュエットするか」

 というお言葉が。

「……なんだって?」

 あまりに思いがけない、まさかカベの口から出たとは思えないような類の言葉だったから、思わず聞き返してしまった。

「だから……オレとデュエットするかと言っているんだ。せっかく金を出してカラオケに来てるのに、歌わずに帰るなんてもったいないだろう?」

「確かに、そうだけどさ」

 カベの深意を量りかねていると、丁度曲の予約が途切れたところだった。仲間達も一息ついて飲み物や菓子に手を伸ばしている。

「黒沢、カタログくれ……リモコンも」

「あいよ……真壁、何か派手なの歌やってくれよ」

「お?真壁が?珍しいなぁ」

 みんなはカベがリモコンを握ったことに興味津々だ。どうやら想像通り、カベが歌うことは極めてレアなケースらしい。俺より一年半近く付き合いの長い黒沢や愛沢らがそう言うからには間違いあるまい。しかし意外なのは、あくまで『珍しい』であって、カラオケなどに行くのは初めじゃないという事実だ。

「たまには歌いたい瞬間がある、人間なら誰しも」

 名言なんだか迷言なんだか、多分照れ隠しにごにょごにょと口にしながら、割と慣れた手つきでリモコンを弄るカベ。ひょっとしたら、いつもリモコンの入力役を買って出ているのかも知れない。

「始まったぞ」

 カベがカタログとリモコンをテーブルに置くが早いか、耳を澄ますまでもなくある意味心地よいメロディが聞こえてきた。

「え……」

「演歌だ。デュエットと言っても他に思い浮かばないからな」

 カベはそう言うと、マイクを引っ掴んでステージに上がる。

「聖、早く来い。知らない曲じゃないだろろろ……?」

 マイク越しにエコーの利いた声。確かに、歌自体は俺も知っている有名な曲だが。

「わ、分かったよ」

 指名されたからには歌わぬ訳には行くまい。やれやれ……カベって、まさか普段から演歌を聴いてるんじゃないだろうな?有りそうだから恐い。

 もはやハイになっている仲間達は、俺たちが歌うというだけで盛り上がっていて曲目などどうでもいいらしい。

 俺は心を無にしてモニターに向き合い……仲間の方に視線を合わせられなかったと言う方が正しいかも知れないが……必死でカベの良い声を消すまい、遅れまいと喉を振り絞るのだった。




「あ~」

 俺は畳に寝っ転がると伸びをした。背中が攣らないように気を付けながらも、自分の身体が何倍にも伸ばす気持ちで手足を弓なりに反らす。リフレッシュに行った筈なのに、いざ宿舎に帰ってくるとどっと疲れが出たような気がする。緊張感っていうものは、得てして疲労の増長を促しかねない。人前で歌うってのはこんなに疲れるもんなんだな、特にカラオケの経験なんて皆無に等しい人間には。

 それにしてもおかしかったのは、カラオケ店から外に出た瞬間、ゴシップ誌の記者と思しき影が一斉に物陰に引っ込んだことだ。大方、飲酒のスクープでも撮ろうとしていたんだろう。少しでも酔っぱらったような姿を見せれば、それこそいい見せ物を提供してしまうところだった。

「どうした?疲れたのか?」

 足を投げ出して座っているカベは、背中を壁に付けてぼーっとしていたようだが、俺の情けない声を聞いて少しだけ申し訳なさそうな顔をした。

「うん、ちょっとだけな」

「オレが無理矢理誘ったりしたから……悪かったな」

 疲れたのはもっともだが、はいそうです、と言えるはずもないしな……そもそもカベの責任じゃない。

「違うって……流石に三試合も独りで投げると疲れるもんだな、って」

 控え投手として影屋も居るには居るが、影屋自身が既に投げる気を無くしている。自分が投る時が来たら、それは五塚の甲子園での斗たたかいが終わる時だと。でも、

「もし加藤に何かあったら、俺は喜んで投げる。だから、安心して、思いっきり投げてくれ」

 と申し出てくれていた。つまり、俺の肩なり肘なりに異常が見つかったときは、打たれるのを承知でその後の泥を全て被る覚悟が出来ているのだと。続けて影屋はこうも言っていた。

「俺たちがここまで来られたのは加藤のお陰だ。だから、俺たちは何も言わない。マウンドを降りるときも遠慮無く言えよな」

 とも。

 それだけのことを言ってくれる。本当にありがたい。野球が投手一人で回って居るもんじゃないという至極当たり前の事など分かっているはずなのに。俺の方こそ、『全員の力があったからこそ甲子園でも勝ち進めたんだ』と言いたかったのに……言えなかったのは、心の片隅に『全ては俺のお陰だ』と思っている心があったからなのだろう。そして、みんなはそれに気がついていながらも何も言わない。本当に感謝しなけりゃならんと思う。

「疲れる、か。確かにそうかも知れない」

 カベは一瞬考えるような素振りを見せてから時計に目をやり、

「少し外に出るか、散歩でもしに」

「ああ、出ようか」

 チームメイト等は風呂に行ってしまったらしく、姿が見えない。甲子園に来て以来、久しく二人で話をすることなど無かったから、俺も二つ返事で後に続いた。

 

 外に出て、ねっとりと絡みつく夜の熱気を纏いながら歩く。今夜も熱帯夜だろう。俺らの泊まっている部屋にはエアコンが付いてはいるけど、誰が言うでもなくタイマーをセットして眠ろうとはしない。消灯と同時にエアコンも消すんだ。あの狭い部屋に大人数が眠っているんだからそりゃ暑いに決まっているが、それでも寝冷えをするよりはマシだということだろう。寝苦しい事による睡眠不足のリスクとどっちを選べと言われたら返答に窮するが。

「明日も晴れだな……オレは晴れの日が好きじゃないんだが」

「うん?まあ夏の晴れの日が好きじゃないのも頷けるか」

 二人して、足下がお留守になるのを承知で空を見上げる。夜空には、満点とは言い難いが雲一つ無い星空が広がっていた。天気予報でも明日は快晴だそうだ。イコール猛暑って事だな。五塚の次なる試合は明後日と、間隔が開かない。それだけに猛暑は堪えるぜ。勝ち残っているチームが少なくなって来ただけにそろそろ日程も過密気味で、本当の甲子園地獄はこれからだ。

「カベ、それで明日なんだけど」

「明日は休養したい……って言いたいんだろう?オレもそう思っていたところだ。今頃練習したところで意味はないし、明日の練習時間が取れるのは真っ昼間だけだったし、。暑い中で練習やったって消耗するだけだからな」

「流石、カベは話が分かる」

 そうおどけると、カベは突っ込みも言わずに小さな公園に入ってゆく。本当に小さな、街灯が数本と、公園という言い訳のために設置されているようなベンチだけの公園だ。

 カベはベンチに座ると、いつの間にか買ったものやらズボンのポケットから190缶のコーヒーを二本取り出し、一本を俺に無言で手渡した。結構前からポケットに入っていたらしく、生温い。俺もカベの隣に座る。

「……」

「……」

 カベと俺は、そのまま数分黙りこくっていた。話をするのがもどかしいような、話をするのが勿体ないような、そんな奇妙な空気が二人の間に流れている。決して切り出しにくい話をしようとして躊躇してるってんじゃない。

 やがて、どちらからともなく缶コーヒーのプルトップを引き上げて中身を一気に煽った。もちろん、二人とも同じタイミングで。どちらか一人が違う行動を取るはずがないと何故か決めつけていた。

 そして一息ついたところで、

「聖」

「ん?」

 振り向くと、カベがじっと俺の目を見つめている。いやん、恥ずかしい……などとボケる気にもならず、かといって視線を外す事も出来ず、二人して見つめ合う。どのくらいそのままでいたのか、

「聖」

「何だ」

 再びカベが俺を呼んだ。

「……お前、進路、どうするんだ」

 口から出たのは……斗いの後の話。戦いの最中なのに『その後』のことを聞かれるとは思わなかった。しかしちょっと考えれば、それは現実的な、最早先送りに出来ない問題である事が分かる。この先、あっさり負けてもおかしくない相手との対戦が続く。今までの目標が目標だけに、『その時』を迎えて虚脱状態にならない為には考えておいてもいいのかな。だだっ広い砂漠にいても、遠くにかすかなオアシスの姿が見えれば迷わない、そんな感じだろう。

「進路、か。今まで考えたこともなかったけど……」

「けど?」

「出来るだけ、高みを目指してみたい」

 去年の県大会決勝戦後、当時キャプテンだった大塚さんから送られた言葉。それまで夢想だにしなかった『高み』。今現在自分がやりたい事としても、客観的に自分の能力を見つめてみても、この投球を最高の舞台で試してみたい、と気持ちは既に一点に固まっていた。回り道なんて……出来っこない。もう自分の気持ちに嘘はつけない。狭い日本球界から逃れたかった。

「高み……?」

「……」

 今まで面倒を見てくれたカベに対してはっきり言うこと、それは自分への戒めにもなる。

「俺、アメリカに行きたい」

「観光に、か?」

 よもや茶化されるとは思ってもみなかった。俺はよほど酷い表情になっていたんだろう、カベはわざとらしく咳払いをしながら一言、

「ごめん」

 と謝った。カベが冗談を言うとは思わなかったからと、ちょっとムキになってしまった自分を反省する。

「いや、はっきり言わない俺も悪い」

 すー。

 はー。

 目を閉じて、深呼吸をして、

「メジャーで投げてみたい。メジャーで何処までやれるか、全てを賭してぶつかってみたい」

 一気に言ってしまった。そして、続けて……

「だから」

 カベ。

「俺と」

 カベ。応えてくれ、俺の言葉に。

「一緒に、来てくれないか?」

 女性河村蛍子への告白でもここまで心臓が踊らなかったというのに、今の俺はどうだろう。でも、だからといって告白を躊躇するなんて選択肢はハナから存在しなかった。


 カベと野球がやりたい。高校までじゃなくて、これからもずっと。


「……何も同じ球団でプレー出来るとは限らないぞ」

「分かってる。ただ、『同じ場所世界』に居て欲しい」

 見つめ合った。ただ言葉もなく。俺も目をそらさない。言ってくれ、カベ。『イエス』と。それだけで俺は救われる。ここまで一緒にやってきたんだ、カベだって快く引き受けてくれるに違いない。


 しかし、予想に反して……カベは俺から目線を離した。


「それは出来ない」


 ……え?

「出来そうに、ないんだ」

「……」

「野球を続けられそうにない」

 耳を疑った。あれだけの資質をもった選手であるカベが、野球以外の道を選択するというのか。あり得ない。

「な……あ……」

 何か言ってやろうと思っているのに言葉にならない。さっき缶コーヒーを飲んだばかりだというのに喉と口がカラカラで、口を開けば只ぱくぱくするだけの酸欠の金魚状態だ。

「でもオレが居なくても、もう大丈夫だろ?お前はこの一年で成長した。オレ自身が想像するよりずっと、な。聖、自分でも気がついてるんだろ?もはやお前に敵う選手などこの世でも一握りしか存在しない事に」

 カベは、そんな俺の状態を見もせずに実にあっさりと言ってのけた。俺の頭には半分程度しか意味を理解して入ってこないが、耳にだけは届く。ただ、

『カベが居ない、俺の進もうとする道には』

 という事実だけが繰り返し繰り返し思考の表面上だけを堂々巡りしていた。

「まさかここまで来るとは思わなかった。出会った頃は単なるノーコンのピッチャーだとばかり思ってたが、今や」

「カベっ!」

 ようやく声が出た。水道管に詰まっていたものが取れ、水が一斉に圧力を伴って吹き出す様に、大声として。

 カベは、それでも俺の方を見なかった。

「どうして……なんだよ」

「……」

「家の事か」

「……」

「それとも……俺と一緒、というのが嫌なのか」

「まさか、野球に飽きたとか?そりゃ、日本の野球は狭いし非合理的だ。だったら、俺と一緒にアメリカに行こう。自由な空気の下で、発祥の地で、オヤジの慰みモノなんかじゃい、尊敬される国技としての野球をやろうぜ?」

「カベ」

「……」

「カベっ」

「答えろよ、カベっ!」

 カベの肩がびくっと震えた。近所迷惑も顧みず大声を出してしまった事を多少は反省しつつ、カベの言葉を待つが……

「今は言えない」

 と、出てきたのは蚊の泣くような声だけ。俺が聞きたいのはそんな言葉じゃないのに、カベの弱々しい声を初めて聞いた瞬間に全てが吹き飛んだ。それまで咄嗟に用意していた説得の文句も何もかも。

「……い……で……」

「?」

 声にならない声にカベがようやく振り向いた様な気がするが、今度は俺がそっちを見ない。

「……今……まで……」

 その代わりに、ちょっと前まで心に封じておこうとした筈の言葉が、

「今まで俺が野球をやってきた意味が無くなるじゃないか!」

 溢れ出してしまった。

「俺はなぁ、カベをこの世に知らしめたくて野球に復帰したんだ。カベという選手をもっと知ってもらいたい、俺と同じ高校を選んだが為に埋もれてしまうかも知れない、俺はそれが恐かった!だから再びマウンドに上がろうと思ったんだ……そして目立たせて、注目させて、プロに入って契約金を……」

 一度溢れ出した奔流は止まらない。そこまで一気にまくし立てたところで、カベの目に宿る複雑な色に気がついた。それは、俺の激しい波を一気に押さえ込み、押し止まらせる。増水で荒れ狂った大河に、いきなりのダムとなって立ち塞がったそれはあまりにも……巨大すぎた。一気に俺の感情が冷めた。


 踏み込み過ぎたんだ。


 カベの家が裕福でないことは本人から聞くともなく、なんとなく理解していた。それに、卓越した野球技術がありながら硬式への道を絶たれたとも自嘲気味に漏らしていたカベだ、気にしていない訳がない。でも、それ以外のプライベートは聞いたことがなかった。俺が知っているのはあくまで同級生としてのカベだけ。カベが家でどんな暮らしをしているのか、家族構成はどうなのか、一切知らない。カベは何を聞いても語尻を濁すだけで弁解しようとも説明しようともしなかった、それはつまり触れて欲しくないということ。取り返しがつかなくなってしまうかもしれない自分の不用意な一言に、思わず背筋が寒くなった。

「聖」

 怒鳴られるかと思って身を固く竦すくめて衝撃に備える。

 ……しかし。

「オレがいつそんな事を頼んだ?」

「え……」

 予想に反し、カベの表情は軟らかかった。苦笑、といったところか。

「それにオレは自分の意志で五塚に入ったんだ。家から近いしな」

 嘘付け。カベの家から歩きで20分は掛かるくせに。

「だから、お前はお前の為に、自分自身のために野球をやるんだ、これからはな」

「でも」

「余計なお世話って言葉、知ってるか?」

「……!!」

「まあその、何て言うか……そこまで考えられると重いっていうか、さ。な?」

 決して話し上手ではないカベの事だ、俺を傷つけまいとして言葉を慎重に選んでいるのが良く分かる。でも……どんなに先っぽを丸く磨いだ針だとしても、尖っていれば結局は刺さっちまうんだよ。俺にとってはそんな言葉だった。

「オレにはオレの道が、聖には聖の道がある。その事をよく考えろよな」

「……」

「……聖」

 カベは、俺の見たこともない奇妙な愛想笑いをしばらく浮かべていた。俺の顔色を伺いつつ、しかし仮面のようなその笑顔を崩そうとはしない。

「……分かった」

「……分かってくれるか」

 この期に及んで駄々をこねるつもりなんか無かった。はは、そうだよな、俺だって分かっていた筈だ、こういう結果だって有り得ると。だから尋きくのが恐かったんだが。それならばそれで仕方がない、仕方がないことだ……と自分を納得させようとするが、難しい。何しろ、一年ちょっとの間俺の生きる金科玉条、存在意義そのものだったのだから。

「でも、その代わりと言っては何だが……オレがホームを守っている間は、オレと聖は一心同体且つ一蓮托生だ。その点に関しては心配するなよ」

「ああ」

 自分の口から出たことも疑いそうになる、いかにも気が抜けたような返事。でも、今はそんな返ししかできない。今のオレは、もう抜け殻も同然だ。

 カベは立ち上がり、背を向けて

「さ、もう帰ろう。みんなが捜してるかも知れないぜ」

「ああ……」

  正直に言って、もうどうでも良かった。チームのみんなには悪いけど、俺が野球を続けていく意味を失ったのだから……カベはそこまで俺が思い詰めていることなど知ってか知らずか、全く変わりがないように見えた。それとも、俺の告白が冗談とでも思ったのか。

 もう、どうでもいいや。どうにでもなれ。



 カベの、カベの……

……

…………

………………

 馬鹿野郎、なんて言えないか。全ては俺が入れ込みすぎた、自分の想いを勝手に押しつけていたせいなんだから。


 ……でも、

 寂しいよ。



 公園から出て遠ざかるカベの背中を追いかける。まるでそれは、俺がこの世界から取り残される象徴のようで苦しく、切なかった。




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