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FASTEST!!  作者: サトシアキラ
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第11-03話


 ……何もやる気がしない。

 何も……見たくない。

 何も……聞きたくない。

 あの試合でKOを喰らって以来三日間、俺は家から一歩も出ていない。勿論、カベとの特訓もやっていないし、学校自体にも行っていない。一応、体調不良だからと連絡は入れておいてはいるが、どこまで信じられているか……何しろ、俺が試合開始早々にKOを喰らった話は、とっくに学校中に知れ渡ることとなっているだろうからな……

 ……

 ……身体が重い。

 ……頭が重い。

 立ち上がる気にすらならない。

 ……くそ、学校では、俺は散々笑いものになっているいんだろうな……初回を持たずに、しかも我がを崩壊させてしまって……はは、ちょっとは俺に甲子園への期待を掛けていた人もいるだろうにな。

 ……いや、人の期待などどうでもいい。

 一番に考えなくてはいけないのは、カベの事だ。あのピッチングでは……カベの期待を裏切ってしまうことになる。しかし……そもそも、俺は伊東に全力勝負を挑み、そして……打たれたんだ。俺の全てを掛けた、あの速球を……。

 今は水曜日。

 夏の大会まで一日もムダに出来ないと誓ったのは今は昔。今の俺は……負け犬に他ならない。あれだけ努力して、あれだけ辛い練習に耐えたのに、伊東はその俺が投げた一番の速球をものの見事に弾き返したのだ。俺が努力している以上の進化を、ヤツは成し遂げていた。これ程才能の違いというものを思い知らされた事はない。

 ……あの日、試合から帰ってきた俺を出迎えた真理は……酷く驚いていたっけ……無理もないか、きっと幽鬼のような顔をしていたんだろうしな……それから、しばらくは気分を察してか、しつこく状況を聞いてくるような真似はしなかった事は幸いだが……三日も学校をサボっているだけに、そろそろ何か言ってくる頃なんじゃないだろうか。

 姉さんも、やはり俺に気遣ってくれている。部屋から出なくても、時間になれば食事がドアの前に置かれていたり、しかもなるべく気を遣っていないように見せるため、すれ違ってもいつもの態度と全く変わらない。……本当に、二人とも優しすぎるんだよ。こんな時くらい、叱り飛ばしてくれたって良さそうなものなのに。

 ……それにしても、カベが一言も言ってこないことは意外だった。しかし、考えてみればそれも当然だ。一人で試合を壊し、挙げ句の果てにはそれを投げたかのような投球に終始してしまったのだから。俺を気遣ってくれているというよりは、呆れ果てて物も言えなくなってしまったのだろう……

 再び寝返りを打つ。

 折角布団の中に籠もっているというのに、三日前から殆ど眠れていない。悔しくて悔しくて、しかも伊東に打たれたあのシーン2つだけが、イヤでも脳裏に何度も何度もフラッシュバックしてしまう。顔面に直撃するスレスレの打球の異様な風切り音までもが、俺の身体の自由を奪ってゆくようにすら思えた。

 かのナチス・ドイツの急降下爆撃機、シュツーカが搭載していた爆弾には、サイレンのような、地上に落下していくときに凄まじい音を発し、敵への威嚇効果をねらったものが取り付けられていたと聞いたが、その『音の恐怖』は痛いくらいに理解できた。俺の耳元を掠める、あの鋭い笛のような音が……猛烈な打球の風圧とともに襲いかかるそれが、未だに恐かった。

 もぞもぞと布団の中でいたたまれない思いを持て余していると……

 こんこん、とドアをノックする音が聞こえた。

「お兄ちゃん?大丈夫……?」

 控えめに声を掛けてくる真理だが……今の俺には、それにすら答える気力がない。この三日間というものの、俺のしていることは……眠る(正確には目を閉じているだけ)・悪夢に苛まれるの2つだけだ。これでは、逆に気力が無くなってしまっていても仕方がないが……本当に何もやる気が起きない。自分の限界を垣間見てしまう事が、これほど恐いことだったとは……あの時、中学の時に自分の限界を知る事への恐怖から野球を一端は投げた俺だが、その時は……まだまだ全ての事実を知った訳ではなかった。

 ……今は……

 伊東に、自身の渾身の速球を完璧に打ち砕かれたという無惨な結果がある。

「お兄ちゃん……」

 何度か真理が声を掛けるが、それに応える気も起きない……。最初からドアにカギなど掛かっていないから、入りたければ勝手に入ってくればいいのだが、あえてそこまではしてこない。しばらくして諦めたのか……再び、真理の声が聞こえなくなった。その代わり、なにやらひそひそ話らしき声がしていると思ったら……

 がちゃり

 とドアが開いた。

 俺はと言うと、やつれた……鏡を見ていないから知る由もないが、顔も洗っていないしヒゲも剃っていないから、多分そう見えるだろう……顔を見られたく無いが為に、ドアノブを何者かがひねる気配を察知した瞬間、急いで布団の中に丸まった。いつもなら、三日と置かずに姉さんが乾しておいてくれる布団からは、爽やかな太陽の匂いがするのだが、今は全く感じられない。

 室内に踏み込んでくる、その重厚な足音から、真理や姉さんではないことはすぐに分かった。が、となると、わざわざ家まで押しかけてくる人物と言えば……

「休みはそろそろ終わりだ。早く起きろ、いつもの練習をやるぞ」

 無遠慮な声。もちろん、カベだ。

「もう俺は疲れた……あれだけ練習して、しかも打たれちまったんだからな」

「それがどうした。それはつまり、まだまだ努力が足りなかったと言うだけの話だろう?」

 ……。

「努力が……足りなかった!?」

「そうだ。聖にはタダでさえ二年近いブランクがあるんだ。人間は、一日練習をサボった分を取り返すには、三日努力しなきゃならないと言われている。つまり六年は精一杯やらなくては人並みにはなれないということだな」

「……あれだけの練習のどこに足りない部分があるって言うんだ?一日何百球も投げて、しかもそれを全速力で走って追い掛け」

「じゃあ聞くが」

 カベは、俺の訴えを一方的に打ち切り、そして

「お前は、本心から精一杯やっていると言えるのか」

「……」

「三ヶ月後、夏の大会が終わっても、『自分には当時やり残したことは無かった』と胸を張って言えるのか。半年後、一年後、五年後……そう言い続けていられるのか」

「う……」

 言葉に詰まる。カベの言う通り……かも知れない。後悔は、年月が経ってゆくにつれ激しくなる、どうにも厄介な代物だ。今はこの三日間のサボりが何とも思えなくとも、夏の大会が終わる頃……いや、ひょっとしたら明日にでも後悔しかねない、今はそんな大事な時期なんだ。でも……でも……!

 一向に動く気配のない俺(の上の布団)を見ていた(らしい)が、結局

「……好きにしろ。誰もお前には強制しない。これまでも、そしてこれからも」

 カベが諦めてしまった。

 これもカベの言う通り。俺はカベに頼まれて野球をやっているわけではない。只偏にカベを有名にしたくて……もう少し言ってしまえば、二人で認めて欲しくて……今の今までやって来たんだ。そのカベに呆れられてしまったからには、もう……

 でも、カベ自身はそんなことを口にも出さずにやっている。これ以上急かすでもなく、あくまで一野球人として俺を鍛え上るのに終始している。その俺がやる気を無くしても、別にどうと言うことはない……のか。

「真壁さん……」

「真理ちゃん、聖がやりたくないと言うんだったら、それでいい。やる気になるまで、或いはやる気にならなくてもそれでいいんだ。全部は……聖がやらないというのだから、それが全てなんだろうよ」

「……でも……」

「後は任せるよ」

 それだけ言葉を交わすと、カベの重厚な足音が遠ざかって、部屋のドアを閉める音がした。特に強く閉めるわけでもなく、あくまでそ~っと閉める辺り、いかにもあいつらしい。

 そして、カベが去った後もしばらく人の気配が残っていた。真理がまだ俺の部屋に残っているのか。部屋に立ち籠める甘い芳香からいってもそうだろう。

 ……真理。お前は全く気付いていないし、気付く術もないだろうが、今の俺の不安定な精神状態に、その『女の匂い』は毒だぞ。すごく。……これも、俺自身が不甲斐ない為の言い訳に過ぎないな。だって、普段はこの匂いを思い切り吸い込んでも、こんな妙な気分になることなど有り得ないのだから。

「お兄ちゃん、何があったのか知らない……ううん、知ってるけど、元気出して。お兄ちゃんが塞ぎ込んだままだと、私も悲しいよ……」

 ……お前に何が分かる。

 ……お前が何を知っていると言うんだ。

 ……お前に、自分の全てを注ぎ込んだものを無惨に粉々にされた気持ちが分かるのか。

 ……お前には絶対に分からない。

「……じゃあ聞くけどな」

 反論したくなって、がばっと布団を跳ね飛ばし、真理に向き直る。その瞬間、真理の顔ではなく、黒いミニのプリーツスカートから伸びる真理の脚に目が行ってしまった。真理自身は、急に俺が身を起こしたので驚いたようだが、俺はと言えば……健康的……と呼ぶにはやや肉付きの甘い、しかしすんなりとした脚が妙に眩しく見えた。只でさえ今は不安定な精神状態なのに、こんなものを見てしまっては……殆ど自暴自棄になっている俺の腐った頭に、邪な、浅ましいものがどくどくと音を立てて流れ込んでゆく。それが流れ込む血管が脈打ち、更に頭の中でのたうち回る様な感覚が、俺の正常な思考を焼き切ろうとしていた。この状況で、自暴自棄になってやることは、唯ひとつ。

「……どうしたの?」

「……」

「お兄ちゃん、その……大体の事情は聞いたし、無責任な事は何も言えないけど……元気出して、ね?私、何でもするから……」

 何でも……!?

 何でも、か。

「お兄ちゃんが元気になるんだったら、私、何でもする。だって、それ位しか役立てる事がないから……」

 その言葉を聞いた瞬間、俺の理性という名の、自らの闇を戒める鎖を引きちぎった。

「きゃあっ」

 真理の短い叫び。

 野球以外では考えられない俊敏な動きで駆け寄り、一気にその小さな身体を捕らえてベッドの上に押し倒す。

「や……お兄……」

 自分の置かれている境遇が飲み込めないらしく、俺の顔を見つめたまま、引きつったような……笑みとも、泣き顔とも取れる表情のままだ。

「何だってするって言ったよな!だったら……」

 一気に、真理のか細く白い首筋へとむしゃぶりつく。唇を付けた瞬間、甘い、ミルクの様な香りが立ち昇った。そのたまらない少女の匂い……真理自身は、発していることすら意識していないだろうが、男を狂わせる、この世で最も香かぐわしい……を吸い込むと、益々抑えが利かなくなる。

「お兄ちゃん、な、何するのっ!?」

 ようやく自分が何をされようとしているのか悟った真理は、口ではそう言いながら激しく抵抗する素振りを見せない。

「何でもするって言っただろう!」

 華奢な両の手首を片手で簡単に纏め上げる。もっとも、俺がそれほど力を入れずとも、あっさりと組みしだくことが出来た。

「何でもするっていたんだから、大人しくしろ!それとも何か?お前はウソツキなのか?」

「私、ウソツキじゃありません……」

「だったら、大人しくしてろっ」

 既に、自分の口から出ている言葉が自分のものでなくなっている。これが、隠された俺の嗜好なのか。普段の自分なら疑って掛かりたくなるような下卑た台詞がぽんぽん出てきやがる。ま、いいさ。これから汚れるところまで汚れようとしている俺には相応しいだろう。こんな事を考えれらる俺と言うことが分かっているからこそ、姉さんと真理は今まで呵ってこなかったんじゃないだろうか。

 真理は諦めてしまったのか、今後起こることの全てを目に入れたくないかのように、ぐっと力を入れて目を閉じている。

 ちゅーっと首筋を強く吸う。犬のマーキングみたいなモンで、これからヤることを真理の身体に刻み付けておくんだ。

「や……キスマーク、付いちゃう……」

「付けようとしてるんだよ」

 抵抗らしい抵抗を何ら見せずに、ただただ顔を真っ赤に染めて、俺の愛撫とも言えない無粋な手つきを受け入れる真理。だけど……俺も罪科を背負い、そしてそれを二度と繰り返さぬと誓った人間だ。真理の首筋の辺りでもぞもぞとするより先に踏み込めない。恐いのか、俺は。田舎で、散々あんな事をしてきたというのに。恐いのか、今更。身体だけの関係を再び結んでしまうことが。

 真理の顔を支えていた自分の手を、段々と下に持ってゆく……でも、鎖骨の辺りまでしか……動かない。自分の深層心理内で歯止めを掛けているのか。

「くそ」

 ならば、と、再び顔に手を寄せ、その小さな唇に俺の唇を寄せに掛かる。こうして……一気に何もかも奪ってしまえば、そのままなし崩し的に自分を捨てられるはずだ……

 しかし。

「ダメっお兄ちゃん、ダメ、今はダメぇえええっ!」

 今までなすがままだった真理が、初めて対抗らしい抵抗を見せて、俺を突き飛ばした。

「あ……」

「……」

 華奢な身体からは想像も付かぬ、恐ろしいまでの力によってベッドの端の方まで跳ね飛ばされ、それでようやく目が覚めた。

 真理は乱れた胸元をかき抱き、必死に何かを堪えている。その脅えたような姿を見て、初めて自分のしでかそうとしていた事の重大さに気がついた。

「それで本当にお兄ちゃんが安らぐなら、許してもいい……だけど、今許したら……きっと、お兄ちゃんがダメになっちゃうから……」

 ……真理はどこまでも俺のことを思ってくれている。真理のことなど何も考えていなかった俺の為に。こんなに情けない俺の為に。

「だから……今はダメ。勘違いしないでね、今はダメなの」

 今はダメ。

 イヤではなく、ダメ。その違い、どちらも否定の言葉には変わりはないが、そこに含まれる意味が全く違う。

「だから……もしお兄ちゃんがまた頑張って、夏の大会が終わって……その時点で、お兄ちゃんが自分を良くやったと褒めてあげられたら、そのご褒美として……ね?」

 自分で自分を褒める。その価値観が、人によってどれだけ違うか……簡単に自画自賛してしまう人間も居れば、己に妥協せずにとことんまで自分を追い込んでしまう人間も勿論存在する。そして俺は……恐らく後者だろう。つまり、真理は最初から身体を許すことを考えていなくもなかったが、こう言ってエサをぶら下げておけば、俺の性格から言って半端な妥協をしないと……上手いこと考えたな。

 でも、真理の言うとおり……あの流れのままに身体を重ねていたら、肉欲による一時凌ぎには確かになったかもしれない。しかし後々……俺も真理も、そして家族もどん底に落ちてしまって、何もかも滅茶苦茶になっていた可能性が高い。それこそ、家族の絆も、俺の野球選手としての将来も……冷静に思い返してみれば、本当に危ない橋を渡ろうとする寸前だったんだな。

 いざ考えを纏めて落ち着いてみると、頬にひりひりとした痛みが走っている。手をやってみると、指にほんの少しだけ血が付いていた。跳ね飛ばされた際、弾みで真理の爪で引っかかれたらしい。その痛みすら、俺の嗜好を冷静に戻す効果があった。ともかく何にしろ、今の俺は不安定のどん底から脱却した、と言い切って良かった。

「あ、頬にキズ……」

「これくらい平気だ」

「ううん、お兄ちゃんがケガしたら大変だから突き飛ばすつもりはなかったんだけど……ちょっと待って」

 平気だというのに、真理はわざわざポケットからハンカチを出し、ツバで湿らせた上で俺の頬を拭い始めた。男にされたら鳥肌が立つ思いだろうが、何しろ相手は完璧美少女だ。

「ありがとな、真理」

「え……?」

 ベッドの上に、ちょこんと女の子座りをしている真理。その姿を見て、俺は慌てて目をそらした。何故って、折角劣情を抑えたと思ったばかりなのに、その愛らしい姿を見ていると、再び抑えきれないほどになってしまいそうになったから。本当に……真理は美しい。外見の美しさなんてのは一目で分かるが、真理はその性格も極上だ。自分の身を朽ち削ってでも他人に尽くす覚悟がある。

「その……色々と、さ」

 『色々』の意味にかなり深いものを感じてはいるのだろうが、真理はすぐに首を振った。

「どういたしまして」

 短い言葉に宿る、その優しさ……お前は、本当に出来た人間だな。どこをどうすればこんな人間が誕生するんだろう。そのあまりの出来は、ともすればこちらが嫉妬しかねない。

 ……間違いない、俺は真理に惹かれ始めている。

 胸に燻るこの感情の正体に強引に答えを付けるとなると、そうだとしか言えない。この2つ下の義妹に、俺の心が奪われつつあった。

 考えてみれば、一年前のあの雨の中、俺に野球をやる力を再び与えてくれたのも真理だったし、こうして闇に囚われそうだった心を再び救い出してくれたのも真理だ。言ってしまえば、真理は俺の精神の恩人になる。そんな恩人にある種の感情を抱いてしまうのは異常だろうか?でも、そう意識すればするほど自分の中の炎が燃えさかるのも事実な訳で。でも今は、それを表には出さないでおこう。あくまで、『自分の気持ちに強引に答えを付けるなら』という注釈付きなのだし、第一、真理の方が俺に『義兄』より上の感情を持つ可能性があるかどうかすら分からないのだから。

 頬を拭い続ける真理の横顔をちらちらと眺めつつ、今は……もう一度野球に集中しようと頭を切り換えるだけだった。



 次の日。

  朝、目が覚めてから自分の部屋を出て行くとき、階段を下りて来る俺を見た、弁当を作っている姉さんの優しい視線が忘れられない。その瞳を見て、一体どれだけ心配を掛けていたのかを思い知らされた。悩みは俺一人だけの問題ではなく、俺を慕ってくれている姉妹達にまで心配を掛けてしまうのだな、と改めて身が引き締まる思いだった。

 登校する間も、授業を受けている間も、周囲の視線は……気にならなかった。というより、ハナからそんな視線を気にする必要など無かったのだ。俺に期待してくれている人間は、存外に少ない、少なくとも校内には殆ど居ないという事実が、拍子抜けもしたが、かえって有り難かった。

 そして……部活の時間。

「よお、加藤。体調はもういいのか?」

「三日間も寝てたんだから、まだ無理しない方が良いぞ」

 どうやら、カベが俺を寝込んでいた事にしていたらしく、グラウンド整備をしている部員達に声を掛けられる。ここでも、俺に対しての視線は意外なまでに優しかった。途中で試合を投げ出すという結果を導き出してしまった人間に対するにしては寛容すぎると思ったのだが、その疑問は、音もなくするすると側へ寄ってきたカベの一言によってすぐに解明された。

「結局の所、自分たちの責任だと思ってるんだ」

 と。

 つまり……投手は最高クラスなのだから、その投手の調子が悪いときは、自分たちバックがフォローしてやらなければいけなかった。そして点を取られたなら即座に取り返してやらなければいけなかった、ということで全員が反省しているらしい。

 ……そうか、結局は自分で自分を追い込んでいただけに過ぎなかったんだ。廻りの部員とはあまり話をしたことはないけれど、それでも俺を信頼してくれている……正直に言って、俺の力は突出していると思う。そして、過去にはそれが原因でバラバラになりかけたチームも実在していたらしい……つまり、その突出した投手だけがチヤホヤされ、負ければ「他の選手のせい」と吹聴され、廻りの部員が気を悪くするという悪循環だ……。

 でも、俺はそんなことを気にする必要など無かったんだ。みんな、みんな良い奴らばっかりだった……今の今まで、何を信じて投げていたんだろう。本当に俺はバカだ。考えてみれば、春に負けたときだって、みんなで敗戦の悔しさを分け合ったじゃないか。ガキの様に意固地になる必要など、どこにもない。今までも、そしてこれからも。

 不覚にも涙が出そうになるのをぐっと堪え、マウンドへと向かう俺の心に、初めてカベ以外に信頼できる部員を得た満足感が満ちていた。

 ……俺は、野球が好きだ。

 野球の神様、お願いが有ります。




 どうかもう少し、彼らと一緒に野球が出来ますように。


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