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FASTEST!!  作者: サトシアキラ
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第07-03話

 あっという間に時は過ぎて、文化祭当日。慌しい準備期間もあっという間に過ぎ去り、いざ祭りが始まってしまえば、周囲の盛り上がりもそれなりになっていた。要するに、彼らは用意をすることだけ、出し物に頭を捻る事だけが面倒臭いという事か。

 さて、俺達野球部は、文化祭二日目の日曜日に、県下では割と名の知れた強豪・日本学園藤沢、通称・日学藤沢との練習試合が組まれていた。どうやら、他の強豪私立は県大会決勝にまで駒を進めた五塚の実力を、本物かどうか計りかねているらしく、そこそこの強豪高であり、数年前には甲子園にも出場した日学藤沢が挑む事を、格好の試金石と見ている節もあるらしい。

 俺達にとっても、自分達の実力が全大会時からどれだけ上達しているかを知る良い機会にはなるだろう。県大会決勝からまだ二ヶ月も経っていないが、自分達では集中して練習した気にはなっている。練習時間的には、名門校とは比較にならないだろうが、限られた時間の中で集中し、また工夫を凝らして効果的になるように考えたつもりだ。少なくとも、やる気では負けないぜ!!少なくとも、それだけで勝負が決まるほど野球は甘くも無いが。

 ともかくそういうことだから、二日目はクラスを殆ど手伝えない。初日だけ出ずっぱりになることは避けられないだろう。ま、他に興味を惹かれるような出し物も無さそうだから、休憩時間もそう待ち遠しくはならないだろう。

 我ら2年5組のお好み焼屋が陣取るは、昇降口近く。校内に入るには、とりあえずここを通らなければならない構造だから、露出不足という事はあるまい。ひたすらに頼るは、俺達の作った味だけという訳だ。

 開幕時間も間近に迫り、いよいよ鉄板に火が入る。開幕は午前9時だから、カキ氷や喫茶店とはダッシュ力が違うが、いざ昼が近くなれば、昼飯代わりにお好み焼の真価が発揮される、とクラスメイトの大方は踏んでいた。意外と全員の士気は高い。その理由は、他の飲食系模擬店との売り上げ勝負なるもんが企画されてるからだ。無論、それぞれ原価が違うから、主に原価に対して幾らの率で儲けが出るか、で勝負を競うらしい。例えば、原価50円のお好み焼が200円で100個売れたら、原価が5000円で利益が20000円。純利が15000円で、原価に対し300倍。対し、原価30円のカキ氷が100円で同じく100個売れると、利益が10000円で純利が7000円になり、原価に対し約233倍。勝者はお好み焼、といった具合らしい。


 そんな訳で、午前中の間は暇な事が予想されるため、露店を離れ部室に行こうとした。そこで……

「あの、加藤くん……」

 背後から、こんな控えめな声を掛けてくるのは、もちろん一人しかいない。

「ん?おっ?」

 振り向くと、いつもとは違う髪形の黒木が立っていた。赤いリボンでポニーテールにしてる。髪質が極めて滑らかで美しいから、どんな髪型をしていても似合う事は似合うんだろうが。今さっきまで、昨日と同じ……長い黒髪を後ろで一つに結わえていた……髪型だったから、ちょっと驚いた。

 俺が髪形の変化を感じ取ったのが分かったのか、黒木はイヤに照れ臭そうに馬の尻尾の先を指先で弄った。

「加藤くん、今、お暇ですか?」

「ん……ちょっと部室へ、明日の試合の確認をしに。午後から忙しくなりそうだからな」

「そうですよね……では、調理班の人たちに許可をもらってきますから、今日の午前中は……よろしければ、一緒に出し物を見て回りませんか?」

 ……誘われちゃったよ、この俺が。ま、他に見て回る心当たりもないし、なにしろ、文化祭の最中はずっと調理のテントに篭りっぱなしだと思ってたから、クラスの了解が得られれば願ったり叶ったりだ。

「そうだな、そうするか。あんまり興味が無いとはいえ、一通り回っておきたいしな」

 そう言うと、黒木はとても嬉しそうな顔をして、

「分かりました。じゃ、ちょっと言って来ます」

 小走りに露店のテントへ行き、二言三言交わして戻ってきた。それにしても、よくもあっさりと了承したものだが。

「随分簡単にいったんだな……てっきり、俺が調理の陣頭指揮を執らならんかなと思ってたが」

「え、ええ、それは……加藤くんが忙しくなりそうなのは皆知ってますから……気を利かせてくれたのではないでしょうか」

「ふうん……ま、いっか」

 こちらとしては、無いものとばかり思っていた自由時間が取れた為、嬉しくはある。素直に喜んでおこう。

「じゃ、何処を見に行こうか。噂になってる店とか、今の時間じゃまだ分からないしな……」

「取り合えず、一通り回ってみませんか?それでも十分時間はあると思います」

「よし……4階の、一年の一番端のクラスから覗いていってみようか」

「はい」

 黒木はいい笑顔で頷いた。本当に、美人だな、この子。そんな子が、何故か俺の隣を歩いている。それがいかに羨望を集める事であるかは、4階に行く途中で、散々俺達に注目が集まっている事からも良く分かる。

 そういえば、横浜に姉さんと買い物に行った時も、やたらに男からの視線を集めまくっていたっけな……同時に、俺へのやっかみの視線も。でも、今はそういう類の視線は感じられない。カベが言うには、俺は先の大会で校内でも一二番を争う有名人になったそうだから、名声が付けば女も金も付いてくる、といった具合に思われているのか。

 ともかく、悪い気分でない事は確かだ。

 4階から順繰りに、一年生の出し物を冷やかして行く。その先々で、俺に集まる視線を感じる。そう感じた矢先、

「加藤さんですよね!?握手してください!!」

 いかにもお調子者そうな男が、俺に手を差し伸べてきた。つい、反射的に左手を差し出してしまう。しかし、その男が差し出したのは右手。俺達は乾いた笑顔を張り付かせて、間抜けにかみ合わない手を差し出しているだけだった……



 その後、一通り一・二年の教室を覗いてみたが、特にこれといったものはなし。ま、最初から想像は付いていたけどね……これなら、体育館で運動部系の試合を見るとか、格技場で軽音部の演奏を聴いていた方が余程ましだったのではないだろうか。あくまで、一寸はマシという程度なのは言うまでも無いが。

 結局、俺達のクラスの店近く、商売敵の筈の、隣のクラスで売っているペットボトルの飲み物を買って、客の入り具合を横目に見つつ、ゆっくりする事にした。

 店員が、いかにも冷たそうな氷水に手を突っ込んでペットボトルを取り出す。今日も天気がいいから、弾けた水滴に太陽が反射してきらきら輝いていた。

 花壇に腰掛けて、客の入りを見る。校門を通って、入場してくる客はそこそこ多いけれども、予想通り、お好み焼きにはあまり人は流れていなかった。その反面、俺達が今飲み物を買った店は、割と繁盛している。直接氷水で冷やす方式は、視覚的にも涼しげだ。今日は日付が一ヶ月もが戻ったのかと思うくらいの猛暑だった。

「暑いなぁ……」

 ついこの間も、その感環境の中で150球近くを投げたんだが……それとこれとは全く暑さの時限が別物なんだな……

「暑いですね……」

 それ以上会話が続かずに、お互いペットボトルのお茶を一口すする。

 ふと空を見上げると、気温は高くとも、今が真夏ではない事が、空の高さからも窺い知れる。きっと、この暑さが過ぎるとあっという間に涼しくなって、そしてまた冬が来るんだぞ。ああ、速いなぁ、時間が過ぎるのは……懸命に練習をしているより、こうして休んでいる方が、余程時間の流れる速さを身に染みて感じてしまう。

「加藤くん……」

「ん?」

 青空から視線を移すと、黒木がなにやら眩しそう顔で俺を見ていた。

「ど……どうした?」

「いえ……なんだか思いつめたような顔をしてらっしゃったので、何か悩み事でもあるのかと……」

 駄目だ駄目だ、今から時間を気にしては。確かに俺には時間が無い事は確かだが、だからと言って、慌てふためくほど追い詰められてる訳でもないのだから。

「悩み事があるといえばあるけど……今悩んでいても仕方の無い事さ。さ、どうする?まだ時間があるけど……」

 あまりその悩みに立ち入られたくない俺は、そそくさと立ち上がった。黒木も、そんな心境を察してくれたのか、何も聞かずにいてくれるようだ。

 勝手知ったる校内だから、探検なんていうのも無理だしな……適当に校舎の中を歩いていると、とある教室の前で、急に黒木が足を止めた。見てみると……

「パソコン研究会・パソコン相性占い」

 と、ダンボール箱にマジックで書き殴ったような、汚い字の看板が立っている。少しでも客に来て欲しいなら、こういう所から気を使ってみてはどうだろうか。教室の中をちらっと見ると、定番の出し物のわりに中には客らしき人の姿は殆ど見えず、暑苦しい部員が数人、年代物のパソコンの前で暇を持て余していた。と思いきや、奥の方では、さらに数名が新しそうなパソコンの前に群がり、何やら盛り上がっている。どうせなら、そっちの方を客用に提供すれば、少しは見栄えが良くなると思うのだが。

 とっととスルーしようと思ったが、黒木はすでに入ろうか止めようか考え中だった。確かに、女の子から率先して入りたい類の教室ではない。しかし、こんなインチキ臭いものに食いつくとは……

 その気持ちを察してやり、思い切って中に入る。すると、机に脚をかけんばかりに崩して座っていた部員が、慌てて背筋を伸ばした。そうそう、いくら金を取る訳ではないとはいえ、仮にもお客が来たのだから、すこしはやる気になって欲しいものだ。

 慌てて後から中に入る黒木。俺は取り合えず、パソコンの前に二脚用意されていた椅子に、どっかと腰を下ろす。

「さ、占ってもらおうか」

「は、はぁ」

 俺のあまりにも傲岸不遜な物言いに、部員は圧倒されたらしい。別に意識してやっているワケではないが、俺には愛想と言う物が元々欠けているから、どうしてもこういう物言いになりがちだ。誤解を生みやすい事は言うまでも無いから、何とか直したいとは思っているんだが。

 黒木は、控えめに俺の隣に座った。

「で、では先ずお二人のお名前と生年月日、血液型を教えてください」

 おずおずと、いかにも度の強そうな眼鏡をかけた、ガリガリの部員が言った。

「……えっと……そんな事、パソコンなんだから、何も言わずにぱぱっと結果が出ないのか?」

「む、無茶言わないで下さいよ、パソコンだって万能じゃないんですから」

「ふーん……案外不便なもんだな……」

 親父が電脳関連の先駆者だというのに、俺はそっち方面には疎い。ちと行き過ぎのような気もするが。

「俺は加藤聖。「せい」は聖水の聖だぞ。誕生日は……4月の6日でA型」

「わ、私は、黒木奈々です。神奈川の「な」に、繰り返し記号です。誕生日は11月25日、血液型はO型です」

「はいはい……っと」

 俺達の伝えた情報を、かたたたと惚れ惚れするような速度でタイピングしてゆく。どうでもいいが、その情報だけで占いなんて出来るもんか?

「……出ました。おうし座A型の男性と、いて座O型の女性との相性は……」

 いくら占いなど信用しないとは言っても、それなりに気になるものだ。ごくりとツバを飲み込む……

「相性は……!!」

「相性は……!?」

「……最悪です」

 がく。

「おい、本当に占ってるのか?その占い!?」

「そ、そんな事僕に言われても……ソフトも僕が作ったものじゃありませんし……」

 気弱そうなその部員は、俺に詰め寄られて泣きそうだ。無論、本気で詰め寄った訳じゃない。だけど、役に立たないなりに、面白くない結果を言われるのも気分が悪い。

「か、加藤くん……こんなの、ただの占いですから……」

 俺を窘める黒木だが、何故か少し笑みを浮かべていた。

「ま、いいや。とっとと行こう」

 席を立つと、奥で俺達の動向に目を凝らしていたらしい他の部員と目が合ってしまい、向こうが慌てて逸らした。

 多少早足で教室を出ると、黒木が後をついてくる。彼女は少し楽しそうに

「加藤くんって、占いの結果を気にするタイプだったんですね」

 と、くすくす笑った。やっぱりそういう風に取られたか……

「違うんだ、そういうんじゃなくて……まぁいい」

 説明するのも面倒臭いから、そのまま放置した。

「すみません……気分を悪くされましたか?私があそこに興味を持たなければ……」

 黒木が早足で俺の横に並び、済まなそうな顔で聞いた。どうやら、俺が詳しく説明する気が無いのを、機嫌が悪くなったと勘違いしたらしい。

「いや……そうじゃなくて……本物の占い師でもない人間にいい加減な結果を出されたから、ちょとだけ面白くないだけさ。黒木のせいじゃない」

「それならばいいんですけど……」

 その後はどうにも会話が続かず、また適当に校内をぶらぶら散策する。こうしてみると、まだ時間も早いからか客もまばらだ。これ幸いとばかりに、色々なクラスのつまらなそうな出し物を冷やかしてみるが……やっぱりつまらなかった。それで会話が弾む筈も無く……仕方なく、俺達の店のテントに戻ってきてしまった。戻ってきた黒木を見て、福浦と初芝が慌てて彼女に駆け寄り、なにやら耳打ちしていた。会話の内容が気にならない訳は無いが、聞き耳を欹てるほど、俺は下衆じゃない。

 しばらく見ていると、黒木は二人からようやく解放され、俺のほうへ戻ってきた。

「ごめんなさい、加藤くん……今度は何処を見に行きましょうか?」

 想像するに、おおかた二人に「帰りが早い」とでも吹き込まれたんだろう。しかし、俺にだって都合というものがある。そろそろ部室に行かないと、カベに何を言われるか分かったものじゃない。

「黒木……悪いけど、俺そろそろ部室に行かなくちゃ……」

 伝えると、本っっっ当に残念そうな顔をする。まるで、こっちが悪い事をしているような気分だ。

「あ……もうそんな時間なんですか……」

「で、でもまぁ、もう少しだけ余裕はあるような、あはは」

 うう、無下に断れない。福浦と初芝の視線も痛い事だし。何だか脅迫されているような気がするのは俺だけか?

 まあ、このまま分かれてしまっては、黒木の俺への心象も気になる。ハナから黒木に気に入られたいなどという邪念はないが、悪い印象を与えたくないという邪念は持っている。このままだったら、俺は間違いなく「つまらない男」の烙印を押されてしまうだろう。それは俺にとっても不本意だ。

「本当ですか?」

 行った途端、黒木に笑顔が戻った。今まで大人しい子という印象が強かったが、意外と表情が豊かではある。

「うん……折角だから、軽音部のライヴでも見に行こうか?」

「はい!!」

 黒木は力強く頷いた。一体、俺と歩く事が何故そんなに楽しいのだろうか?こんな、話題にも愛想にも乏しい男と。

 俺によりそう黒木を横目に歩きながら、1回だけ見た文化祭のパンフレットの記憶を辿りながら、軽音部のライヴの次は何を見ようかと思案していると……

「お兄ちゃん!!」

 聞き慣れた声が背後から。振り向くと、我らが美しき姉妹達が、男どもの視線を一人占めして立っていた。昨日、早い時間に全員で来ると言っていたっけ。

「おう、みんな来てたのか」

「うん、今来た所で、お兄ちゃんが見えたから走って来ちゃった」

 今まで黒木と歩いていて緊張した分、こうして家族の顔を見るとほっとする。

「聖くんは、まだお店の仕事しなくていいの?」

「うん、午後っからだから、あと少し時間はある」

「じゃ、お兄が作ったお好み焼きを後で食べようよ」

 美奈津が、真理と姉さんの手を引いて、嬉しそうに言う。

「そんなもん、幾らでも家で食えるだろ?折角ここまで来たんだから、もっと他のモン食え」

「ええー?お兄ってば、こういうところで食べるから美味しい物があるってこと知らないの?風情がないなー」

「聖くん……ところで、今は……黒木さんと一緒なの?」

 姉さんが、俺の背に隠れるように立っている黒木を見て言った。

「うん……まぁ」

「そう……じゃ、お邪魔しちゃ悪いわね。私達はしばらく他の所を見ているから、午後になったらまた来るわね」

 立ち去る姉妹の背後に、軽く手を振って見送る。よーく見ると、真理と美奈津が、昇降口に入ってこちらが確認できなくなるまで、俺の方を見ていた……なんなんだ?

 ……と、突然我に返り、周りを見てみると……自分のクラスのテントと言わず、あらゆるクラスの生徒が、俺と姉妹達に注目していた。奴らからしてみれば、あの美人達は何者だ?と盛り上がっているところに、いきなり俺と親しげに会話をしだしたのだから、そうとうに不思議がっているんだろう。かといって、俺と彼女達との関係を聞いてくるほど親しい間柄の奴など居ない。

「……本当に綺麗ですね、お姉さんたち……」

「俺もそう思うよ。普通の人は、いや、そんなことないとか言うんだろうけど……」

「きっと素直なんですね、加藤くんは」

「そんな事あるもんか。俺は相当なひねくれ者だぜ」

「いえ……そうだと思います」

「………………」

 黒木が何を根拠に言い切るのか分からないが……そんなに俺の事を見ているのか……?まあいい。

 さて、部室に行くまであと30分。そこまで軽音部のライヴで間が持つのかいなと思った直後……


ぴんぽんぱんぽーん。


「2年5組の加藤くん。至急野球部部室まで来てください。真壁くんが怒ってます」


ぴんぽんぱんぽーん。

 非常に分かりやすい内容の放送が。わざわざ校内放送で呼び出してくる辺り、カベは本気で怒っているんだろう。……これ以上怒らせないほうが良さそうなのは言うまでも無い。

「……と言う訳で、ごめん、黒木」

 浅く頭を下げると、黒木は寂しげに微笑んだ。

「いえ、私の方こそ……つき合わせてしまって済みません」

「いや、謝る事でもないと思うんだが……」

 どうにもやりにくい。黒木は気配りに長けるのはいいが、その所為で何でもかんでも自分が悪いという妄想に囚われがちのようだ。

「じゃ、ちょっと行ってくる」

「はい……」

 黒木は、ちょっと寂しそうに微笑み、手を小さく振った。俺はそれを、自分でも判別の付かない気持ちで視線から外し、体育館方面へ向かった。



 さて、いざカミナリが落ちる事を覚悟して部室に行ってみると……以外にも、カベは怒ってなどいなかった。

「聖の遅刻に慣れた俺が、こんな事で怒るとでも思ったか?あんな放送、ハッタリに決まってるだろ?」

 だそうだ。

 用事というのも、明日の試合の集合時間などの確認だけだ。これだったら、わざわざ文化祭の時間中に部室に来なくても良さそうなものだが。そうカベに言うと、

「お前だけ特別に、俺から伝えたんだよ」

 と、有り難いお言葉。こういうことに関しては、俺は全く信用されてないらしい。ま、遅刻をしないなんて、社会的信用を得る手段の第一歩だからな……それを守れない俺は、反論する資格も無い。

 気の抜けた俺が、さも気力が抜けたように歩いてクラスのテント前へやってくると、そこには人だかりが出来ていた。

 見れば……我が愛しき三姉妹に、ムサい男どもがハエの様に群がっている所だった。可愛そうに、妹二人は怯えきってしまっている。そこを大人な姉さんが上手くあしらってやっている様だが、それにも限度があるだろう。姉妹達が文化祭に来ると言った時点で、こうなる事は予想できたんだが……だから来るなとも言えるわけが無いし。

「ちょっと……ちょっとごめんよ。彼女らは俺の客なんだ、悪いな」

 目立つ事は極力避けたいが、俺の心配より姉妹達のほうが何百倍か大切だ。

「お、お兄ちゃん!!」

 殆ど涙目になった真理が、俺を見つけて、人だかりから抜け出し、背後に隠れた。うう、男どもの視線が痛い。全員が全員嫉妬に燃えている。

「校内を見に行ったんじゃなかったのか?確か、昼頃こっちにって……」

「それが……」

 姉さんが、眉を曇らせた。それだけで、理由が分かってしまう。要するに、校内のどこへ行っても、今と同じような状況を生み出してしまう、という事か。

「大体分かったよ。それにしても、美奈津がよくキレなかったな」

「あ、あたしだってこんな所でキレたくないもん」

 ま、そうだろうな。野獣の中で仔猫ちゃんが精一杯毛を逆立てて威嚇するようなものだ。やれやれ。三姉妹が俺の家族という事が分かり、興味を失ったのか、波が引くように野獣どもが消えていった。

「大丈夫か、真理」

 背後に隠れた真理に声を掛けると、

「ちょっと……恐かったけど、お兄ちゃんが来てくれたからもう大丈夫」

 潤んだ瞳で、鼻をすすりながら、それでも健気に頷いた。全く、こんな思いをさせるなんて……これじゃ、男を毛嫌いする女がいても全く不思議じゃないな。

 それにしても、こういう喧騒を放っておいたクラスの奴らは……ふん、所詮は他人事、係わり合いにならない方がいいという事か。

 少なからず失望した俺は、約束通り自らが調理したお好み焼きを食わせてやった。もちろん、大好評なのは言うまでも無い事だ。

 結局の所、彼女らを今のところ守ってやれるのは、俺しかいない……のか?自信は無いが、やれるだけやってみるしか法はない。

 それが、俺という人間の厚みを増すための試練だと言うなら、受けてやろうじゃないか。……微かな視線を感じつつ、今は姉妹達が美味そうにお好み焼きを頬張る姿を眺めるしかなかった。


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