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FASTEST!!  作者: サトシアキラ
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第06-02話

  さて、ピンチの後にチャンスありとはよく言ったもので、4回の裏、我が五塚高校は、ワンアウトランナー一・二塁の好機を迎えた。そこで向かえるバッターは!!


 9番!!


 ピッチャー!!


……


 つまりは俺だ。



 しかし参ったな……定石なら当然バントなんだが、野球経験の浅い俺にとって、それは困難を極める。何故って、投球練習ばっかりやってるから、勢い攻撃の練習などに割く時間がなかったからだ。

 バッターボックスに入って、ベンチのカベのサインを一応は見てみるが……案の定、バント。それも、俺のサインの見方が正しければ、の話だが。

 ややバットの先端を立て気味にして、バントの構えをする。当然、内野手のバント警戒ムードが最高潮に達するわけだが……チーム内でもバントが上手い方の、一年の屋久じゃあるまいし、相手がバント包囲網を敷いている中では、決める自信などまるでなかった。  と、そんな泣き言を言ったところで、カベがサインを変えてくれる筈もない。今日のカベは何だかとても厳しい。

 相手ピッチャーがセットポジションに入る。俺に出来ることと言えば、慎重にボール球を見送り、確実に転がすだけだ。一塁ランナーは平均的走力の愛沢、二塁ランナーは俊足(あくまでウチのチーム内で、だが)の一年の新堀だから、三塁手に捕らせるように転がせば何とかなるだろう。

 問題は、ピッチャーがバント上等の投球をするか、あくまでバント許さじの投球をしてくるかにかかっているのだが……正直、相手がバント封じに来たら、俺はお手上げだ。

相手ピッチャーが球を長めに持ち、一二塁ランナーの動きを伺ってから、モーションを起こす。愛沢と屋久がするするとリードを広げた。

よし、好球バントだぞ、好球バント!!じっくり球を見るんだ!!

と自分に言い聞かせていたら、

「ストラーイク!!」

 じっくり見すぎて、投球はとうにど真ん中を通過していた。ランナーの二人が慌てて帰塁する。

 ほれ見ろ、言わんこっちゃない。……自慢して言う事じゃないが、俺にはバッティングの素養なんてものはまるで無いんだ。夏の県予選も全くのノーヒットだったし。

 バントくらいちゃんと決めんか、というランナー達の無言の威圧を感じながら、第二球を待つ。……そしてその二球目、絶好球が来たと思いきや……


 空振り。 


 またもや、腰砕けのようになったランナーが帰塁する。  こうして打席に立つと、自分の投げる球よりも大分球速が劣る筈なのに……まあ、俺の方が速い球を放れるからといって、じゃあ自分と同等の球を打てるかといったら、もちろんそれはノーだ。大体において、俺という投手は、野球選手としては極めてイレギュラーな存在なのだろうから。投球以外は素人同然、っていうね。


 さあ、気を取り直して次の球を狙う。俺が相変わらずバントの構えなのを見て、一・三塁手がじりじりと前進してくる。ここでバスターでも決めれば、犠牲どころかチャンスを拡大できるのだが……俺にそんな選択肢などあろう筈が無い。

 3球目、4球目はボール。ひとまず外してランナーの動きを伺ったようだ。ランナー達のほうも俺のバントの腕を信用してないらしく、きちんと転がすところを見ない限り、スタートを切らない腹づもりらしい。それこそバントがやりにくくなるんだけどな……

 そして四球目。ボールは、やや内角寄りの速球。コースを冷静に見極められているんだったら、自ずとバントも出来そうなものだが……なにしろ、今の俺は上手く転がすことしか考えていなかった。

 で。

 俺は思わず目を瞑りそうになりながらも、なんとか転がしはしたが……余りに勢いを殺された打球は、即座にキャッチャーが捕球して三塁へ送球。スタートの遅れた二塁ランナーの新堀は、三塁目前で敢え無くタッチアウト。ピッチャーの俺も塁に残ってしまうという、散々たる結果に終わった。

 勿論、これは采配上の責任じゃない。当たり前の事を出来ない俺が悪いのだ。こういうところで、俺の野球経験の無さが浮き彫りになる。とにかくランナーに残ってしまった俺は、塁に出た以上は走らないとしょうがない。

 打順は、一番に帰って屋久は三振。二番の御曽というところで、由々しき事態が発生した。御曽は粘りに粘り、カウント2-3から実に8球も粘ってしまったのだ。粘ってしまった、というのも、ツーアウトでフルカウントだから、ランナーは投手がモーションを起こしたら、その度に自動的にスタートを切らなければならない。いくら俺が投手だからといって、それをやらないと怠慢プレーになっちまうからな。

 で、散々走らされた挙句に、御曽は14球目をファーストフライでスリーアウト、チェンジ。俺はといえば、ベンチに戻る足はフラフラ、肩で息をしていた。流石の俺でも、これはキツイ。

 ところが、俺の投球をマネージメントするはずのカベは、そんな俺の疲労を和らげるために時間稼ぎをするでもなく、すぐさまレガース類を身にまとってホームベースへと走っていった。おいおい、俺はまだベンチにも到達してないというのに……高校野球は全力疾走がモットーだから、俺も疲れた脚とはいえ駆け足せざるを得ない。

 マウンドに立つ頃には大分息の乱れも収まってきたとはいえ、正直まだしんどい。

 俺は自主的に間を置いて投げようとしたが、カベがそれを遮り、早く投げて来いと促す。

 まったくどうなってるんだ、今日は!!



 お陰で、この回の先頭打者から連続で単打を浴びる始末だ。そこから連続で三振を奪ったはいいが、一つファボールを出してしまい、ますますピンチを広げるという体たらく。。

 ツーアウトながら満塁で、打順は三番。5回の表ながら、もう三度目の対戦となるが、前2打席を見るに、三番を務めているだけあってまずまずの振りの鋭さだった。甘いのを放ったら、大きい一撃を食いかねない。

 勿論サインはストレートだから、コースは甘いなりに球威のあるのを放らなければいけないのだが……未だに足がガクついていやがる。

 それでも、俺はマウンドに立っている以上、投手としての役割を果たさねばなるまい。カベの目をキャッチャーマスク越しに見るが、いつもと同じ……要するに、常に厳しく、他者に隙を見せない、斗う男の目だ。さらに要するに、俺を甘やかすつもりは毛頭ない、厳しい鬼教官の目でもある。

 未だに肩で息をしながらセットポジッションを取る。今日の体調がいまいちというのも、この疲労回復が遅い事の要因か。まったく、どうしようもない悪循環だ。

 回が進んできた事もあって、ランナー達に動く様子はなし。やや長めにセットを取り、初球を投げる!!

 が。

 俺の予想した以上に球威は落ちていた。

 投球のコースがど真ん中に入ってしまった上に、指の引っかかりも悪い。ボールをリリースした瞬間に、投手としての嫌な予感が身体中を駆け抜けた。こういう絶好球を投げる瞬間、俺にはその後の、ボールを捉えるバッターのスウィングの軌跡、更にはそこから弾き出される打球が、一本の白い筋となって大空へ消えていく光景まで見えてしまうから困ってしまう。

 果たして予想通り、センター方向に大飛球が飛んだ。センターの黒沢が背面キャッチを試みるが、それも虚しく、打球はフェンスにワンバウンドで当たった。俺はといえば、あまりの痛打っぷりに茫然自失、いずれかの塁のカバーに入ることも忘れ、ただそこに立ち尽くしていた。

 その間に、当然の如く二・三塁ランナーはホームイン。さらには、黒沢が打球に追いつき内野に返球しようとする頃には、一塁ランナーまでもが三塁を蹴ろうと、身体を内野側に傾けて走っているところだった。

「何やってる!!ホームのバックアップに入れ!!」

 俺を我に帰させたのは、カベの声だった。

 瞬間、俺はその声に弾かれた様に、わき目も振らずマウンドを駆け下り、本塁で返球を待つカベの後ろへ入った。正面を振り返ると、今まさに丁度一塁ランナーが本塁に突入してくるところで、中継のセカンド、新堀がバックホームしようとしていた。


 が。


 送球はあっさりと、しかも大きく、一塁方向へ逸れた。俺は何とかバックネット裏でボールを掴み、ホームへと返球する!!

 が。


 その返球もまたカベの手に届かぬところとなった。長身のカベの頭上を越えた送球は、二塁の新堀がしっかりとキャッチしている。新堀は、あまりの出来事にきょとんとしていた。バッターランナーがオーバーランしているのにも関わらず。

 結局のところ、ランナー三人が全員還って三点献上となった訳だ。次の打者をファーストゴロに討ち取り、この回は何とか凌いだ。……凌いだと言えるのか、これ?



 その後、今日はウチの打線は湿りっぱなしだった。

 もっとも、打線が活発だった所を見た事があるほど、俺は野球部に在籍しちゃいないが。

 頼みのカベも打球が正面を突き、他の皆は相手投手を打ちあぐねている。そして俺はというと、フラフラながら5回の3失点で何とか踏みとどまって……

 とうとう9回の裏、五塚高校最後の攻撃。得点は、もちろん0対3のまま。攻撃は三番の黒沢からだ。ベンチ内には、殆ど敗戦を覚悟した雰囲気が漂っていた。普通に考えれば敗色濃厚なこの状況だが、俺はまだ諦めていない。さしたる根拠は無いが、今まで不発だった打線が、何らかのきっかけでこの回に爆発するとも限らない。……と思うくらい勝手だろう。だって、諦めたらその時点で終了なんだから。それに、俺は負け慣れているほど野球経験がある訳でもないしな。

 さて三番の黒沢は、これまで三打数の二安打。凡退した打席も、打球が正面を突いただけのものだったから、今日のチーム内では、カベを別格とすると、もしかしたら一番振れているかもしれない。

 今マウンドに立っている相手投手は、7回から登板している二人目の横手投げだ。先発投手は、ヒットを打たれながらもなんとか凌いでいたが、流石に完投するほどのスタミナは無いらしい。

 その二番手だが、先発投手よりも大分レベルが落ちる。黒沢は一、二球目のボール球を余裕を持って見逃し、三球目にストライクを取りに来た甘いボールを強振した!!

がきっという快音と共に、打球が左中間へと舞い上がる。慌ててレフトが追うが、ワンバウンドでフェンスに当たり、ようやくレフトが捕球して返球する頃には、黒沢は余裕を持って二塁ベース上に達していた。いわゆるスタンディングダブルという奴だ。  黒沢のこの目の醒めるような辺りを目にした皆は、もう逆転が確約されたかのような沸き立ちようだった。今の今まで敗戦を覚悟していて、葬式の参列者の様な表情をしていたような奴らとはとても思えない。調子のいい奴らだ。

 そしてランナーを一人おいて登場するは、我らが真壁大成。

 巨体を誇示するでもなく、ごく普通に打席に入る。しかし、その実力を知っている俺らの目には、地上に出現した救世主にしか見えなかった。

 相手ピッチャーも、いい加減カベの噂は聞いていたようで、どうにも浮き足だっているように見える。ここで俺の頭に、嫌な予感がよぎった。

 ピッチャーが何やら目配せをすると、案の定……キャッチャーが立ち上がった。

 出た、出ましたよ。

 立派な作戦の一つという言葉の隠れ蓑を纏って闊歩し続ける、日本野球界の病巣のうちの一つ。作戦などと言っておきながら、結局は勝利至上主義の表れでしかない。といってもなすすべなく、一塁へ歩かされるカベ。それでも、不快そうな顔一つしないでいるのは、流石としか言いようが無い。

 そして、カベに比して安全パイと判断された5番バッターは、一塁の浦永恭貴。安全パイと言ったって、このチーム内では(カベを除き)黒沢と一二を争う強打の持ち主だ。体格的にも黒沢と同程度(身長180Cm程度)で、ついでに言えば近隣中学の強打者同士とも聞いた。要するに、この二人はチーム内でのライバルと言う事になる。確かに新チームになってから、二人は練習でも精力的に動いていたような気がするな。五塚って意外と駒は揃っているのかも知れない。

 その浦永は、大きな身体を更に大きく見せるような構えをする。さすが中学時代に四番を張っていただけのことはある。相手の投手もこの近隣の中学出身の筈だから、あるいは浦永の名前を知っているかもしれない。それで気圧されたのかどうか、非常にゆるいボールを投げた。チームメイト達が、浦永がスウィングをする前から身を乗り出すような……投球がバッターに届くまでの時間を考えたら、とてもそんな時間などある筈は無いのだが……とにかく、そんな錯覚を覚えさせる程の絶好球だった。

 そんな甘い球を浦永が見逃すはずも無く、

きんっ!!  と、いやに甲高い音とほぼ同時に、打球はサードのグラブを激しく叩いていた。瞬間、野球場全体がどっと沸く。

 弾かれた打球は、大きく内野側に跳ね返った。慌てて二塁が捕球するが、弾かれた打球が大きく宙を舞った為、ランナーは既に次の塁へ進んだ後だった。浦永は、思ったより打球が上がらなかったのが悔しかったのか、一塁で地団駄踏んで悔しがっていた。

 いよいよ満塁。ここで(可能性は低いが)一発出れば逆転サヨナラという場面。

 バッターは、6番の影屋剛章から。影屋は身体は小さいが、以外にパワーがあるし、それ以上に当てる技術が上手いので、この打順に収まっている。

 基本的に、満塁はバッター有利なんじゃないかな、と思う。だって、相手はフォアボールは出せないし、ワンバウンドするボールも投げにくい。好球必打を心がければ、自ずと有利と思うのは、素人考えなんだろうか。

 ともかく、影屋は一球目二球目のつり球に手を出さず、三球目の低めのボールを躊躇うことなく弾き返した。どうやら、この満塁という状況下で、集中力が高められている模様だ。打球はあっという間にセンター前に到達し、三塁ランナーの黒沢が生還。1点返してなおもフルベースだ。既にベンチ内はお祭りムードに近い。

 打者は7番の新堀。彼もどちらかと言うと当てるのが上手いバッターだ。とはいえ、この状況で小細工は考えられないし、増してや塁が埋まっているのだからスクイズも危険だ。三塁ランナーのカベは、予想通り一切のサインを送らない。もう、この流れと新堀の力量に託すつもりらしい。

 ところが当の新堀は、何やら不安そうな顔をして打席に入った。どうも、プレッシャーに弱い性格らしい。そんな表情を皆は読み取ったのか、ベンチの逆転確定お祭りムードは一発で吹き飛んでしまった。

 またその雰囲気を見事に汲み取ってしまったのか、新堀は予想に違わず、ガチガチに力の入ったスウィングであっさり三振した。

 まだワンアウトであるにも拘らず、がっくりと頭を垂れてベンチへ帰ってくる新堀。そんな彼を、誰も慰めようとも元気付けようともしない。

 決定的なチャンスを物に出来なかった新堀は、ベンチの隅っこの方の席に腰を下ろし、頭からタオルを被って、そのまま顔を上げようともしなかった。いくら何でも、そんなに落ち込む事は無いと思うのだが……

 さてワンアウトランナー満塁。バッターは8番の愛沢。五塚の中では非力だからこの位置を打ってはいるが、足はある。もっとも、満塁と言う状況では俊足を生かすのは難しそうだが……何とか転がして一点を加え、後は次のバッターに託し……

「おい加藤、早く行けぃ」

 そうだった。次のバッターは俺じゃないか。黒沢に促されてようやく気付いた。……ということは、何が何でも愛沢にケリを付けてもらわねば困る。慌ててバットとヘルメットを手にネクストバッターズサークルへと向かう。三塁からは、カベが厳しい視線で俺を見つめていた。遅れて悪かったよぅ、カベ……

 さてその愛沢だが、初球……外角へのカーブに手を出した。その打球の行方は、恐らく五塚の全員が最悪の事態を想像したに違いない。


 なんとなれば。


 打球はセカンド真正面。

 相手セカンドは即座に本塁へ転送する!

 しかし、三塁ランナーはカベだ。判断良くスタートをを切っていたカベは、何と本塁セーフ。だが、更に一塁へと素早く転送され、一塁はアウト。

 封殺プレーだったため、キャッチャーはアウトセーフに関わらず一塁へ投げる腹づもりだったという事だ。

 球場全体に、明らかな落胆の空気が漂ったが、しかし、ツーアウトながらあくまで満塁。まだまだ一打同点のチャンスは残っている。……あくまで表面上は、だ。

 何とこの俺が、直接勝敗を左右する打席に入らなければならなくなってしまったのだ。打てば少なくとも同点、長打なら逆転サヨナラ確定。……参ったな、もう……

 観客はごく少ないながらも、彼らが紡ぎ出す「サヨナラ期待」的な空気は、只でさえ自信のない俺のバットから、平常心を奪い去っていくような気がした。

 俺のもたもたした打席入りを見てか、カベは相変わらず厳しい表情を崩さない。

 とりあえずバットを短く持って、ピッチャーと相対する。相手も不安そうに見えるけど、俺の比じゃないだろう。

カベをちらりと見やるが、無論サインなど出ていない。要するに、俺が何らかの形で生き残らなければ、その時点で試合が終了してしまう。俺も野球選手である以上、自分のバットで決着をつけなければいけない時がある。今がその時だ。

 ……といくら自分を奮い立ててみたところで、自分のバッティングのスキルが上がる訳でもない。とにかく、満塁なのだからボール球には手を出さぬ事。カベの基本的な教えを頭の中で反復しつつ、第一球を待つ。

 ……そうだ、こういう時こそカベのリードを参考にして、次の一球を推察してみようか。次の一球のヤマが脹れれば、少しは自分の助けになるかも知れないしな。そうでもしなければ、最高の女房とバッテリーを組んでいる意味がない。自分が成長した所をカベに見てもらいたい。

 と考えをまとめた所で、初球がストライクゾーンを通過した。



 ………………しまった……



 で、では勝負はここからだ。


 さて、俺が今、身じろぎ一つせずに見逃した光景は、相手バッテリーにとってどう映っただろうか。俺はポーカーフェイスを通しているから、読みが外れて戸惑っているとは考えないだろう。では、平然と見逃した理由はどう取るか……最初から打つ気がない、フォアボールの押し出し狙い……少なくとも、追い込まれるまでは良くボールを見ていく、と取ったかも知れない。俺の拙いバッティング技術は、前3打席で痛いほど見せ付けているから、恐らく……下手に変化球を投げてカウントを悪くしたり、甘いコースに入って打たれるより、速球で押す事を選択したと踏んだ。それが証拠に、第2球目もストレートだった。これは辛うじて内角に外れ、カウント1‐1。こうしてボールを見極めている俺も表面上は冷静だが、内心は文字通り心臓バクバクだ。

 考えてみれば、自分の一打に勝負がかかっている場面に直面するなど、生まれて初めての事だったりする。そんな余計なことを考えていたら、余計な力も入ってしまうのは当然なことで……

 3球目。

 俺のへろへろのスウィングが、速球を捉えた。頭ではカウントが悪くなるまで待っていた方がいいとは分かっていても、打者としての本能が、身体を動かしていた。

 そして……打球は、ファースト真正面に力なく転がっていった。

 俺は、それでも全力疾走しながら、ファーストが捕球して一塁ベースを踏むのを見送った。

 全力疾走などしなくとも結果は同じだが……

 きっと、自分は一生懸命、精一杯やっていた、というアピールを無意識の内に行っていたんだと思う。

 どうあれ、試合の結果は全く変わらなかった事だけは確かだった。


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