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FASTEST!!  作者: サトシアキラ
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第04-02話

 夏休みも半分を過ぎ、俺達五塚高校新チームの練習も軌道に乗っていた。相変わらず、部の事についてノータッチの大淀さんは無視して……。俺が立案した二箇所ノックも、カベが提案した事になったからか概ね好評で、みんなの守備は段々と上達していった……様に思える。まあ、まだ新チームになってから半月も経ってないから、目に見えてって訳じゃないが。

 唯一のマネジャーだった強羅さとみも、同じ一年の湯河原智恵子を勧誘して来て、二人制で雑用に精を出していた。二人ともなかなかに可愛いコで、俺とカベ以外、野球部7人の人気を二分している。

 内野陣の連係練習が終り、個人個人での課題練習が始まった所で、俺はロードワークに出ようとしていた。靴をアップシューズに換え、足首を入念にストレッチしていざ出発。

 コースは、この五塚高校が高台に有るのを利用した、ヒル・トレーニング。校外の坂道で負荷を掛けて走れば、時間あたりの運動効率がいい。大体、1時間をかけて走り込む。1時間が過ぎた頃に学校に戻れば、丁度練習が終る時間になっているのだ。今日も、その位の時間に帰って来た筈なのだが……。

 今日は、ネットもケージも出したまま。みんなはヘルメットとバットを持ち、ご丁寧に打順通りに整列している。

「お、やっぱり時間通りに帰って来たな。寝起きは悪いクセに」

 カベだけは、各種プロテクターに身を包み、キャッチャーミットを手にしていた。

「おい、カベ。もう練習時間は……」

「お前にシートバッティングのピッチャーをやってもらいたいんだ」

 カベは、さっさとキャッチャーボックスに入る。シートバッティングって言っても、人数が足りないから、走者なし……つまり試合形式のフリーバッティングなだけだったりする。

「俺に?」

「ああ。みんなの希望だ。数日後に練習試合があるから、その対策だと」

「対策って言っても……」

 カベは、みなまで言うなとばかりに首を振った。

「マトモに投げてくれたら、練習どころか調子を崩すハメになっちまうのは、みんなも分かってる。走って来たんだろ?だったら、その少し疲れた体で、6、7分の力で放ってくれれば丁度いいだろう」

「……分かった」

 取り敢えず納得して、肩ならしを始める。

「じゃあ、コントロール重視で行くから、マサカリじゃ投げないぞ?」

 カベに告げると、奴は右手を挙げて答えた。カベは、俺が通常の大人しいフォームで投げた時のコントロールを知っている。味方に投げて、デッドボールやフォアボール連発なんて話にならないからな。それに、球速もMAX135キロ程度に落ちるから、みんなの練習台にはうってつけだ。

 肩ならしを終えると、1番バッターの屋久が打席に入った。バットを思い切り短く握っている。カベのサインは……外角のストレート。元巨人の水野氏に似てると言われたフォームで……投げた!!屋久は、ボールの上っ面を思い切り叩き、ぼてぼての打球を三遊間に運んだ。皆は、カベに注目し判定を仰ぐ

 「判定、遊撃内野安打」

 カベが言うと、屋久はうなずいて、2番の御曽に打席を譲った。

 いきなり先頭を出してしまった。となると、「高校野球道」に基づく次なる一手は……送りバントだろうな。事実、御曽はバントの構えだ。サインは、高めのストレート。ぎりぎりボールの、様子見とも取れるボールだが、盗塁にも対応できるボールでもある。スピン良く放れればバントもしにくい。カベは、本気で抑えようとしてリードしているらしい。セットポジションから、クイックで投げる!!

 御曽は、素早くバットを引いてヒッティングに転じ、高めのボールに食らいついた!!

がつっ!!

 という音と共に、打球は一、二塁間へ転がって行った。もし、野手がバントに備えて前進して来ていれば、鮮やかにその間を抜いたろう。高めの威力にやや押された感も有ったが、それも方向的には結果オーライだ。

(心なしか、二人とも振りが鋭くなっている様な……?)

 今までだったら、ポップフライか空振りか……。単に調子がいいだけかも知れないので、気を取り直して3番の黒沢を迎える。黒沢は、チーム内でカベに次ぐ長身で、一発の有るパワーヒッターだから警戒が必要だ。

 しかもこの球威では、甘く入ったら持っていかれる可能性がある。サインは内角のシュート。肘を捻らない、ストレートの握りをずらしたものだ。今日の皆は、初球から積極的に打って来るから、詰まらせて内野ゴロを誘うつもりか。ノーアウト一、二塁というピンチに、早くもマサカリで投げたい衝動に駆られる。味方の調整目的で投げていても、打たれるのはヤなもんだ。くそ、自分の思い通りの球威で放れないってのは、結構フラストレーションが溜るな。肩や肘を故障したリハビリ中の選手が、満足のいく球を投げられないのに似ている。……実は俺、その気持ちも経験済みなんだけどね。

 セットから……やや長くボールを持ち、空想のランナーに目を光らせ……投げた!!ボールはコントロール良く膝もとに切れ込む!!が、黒沢はそれを落ち着き払って見送った。手が出なかったんじゃない。ゲッツー狙いのボールを見送られたのだ。

(みんな……つい半月前とは随分違う……。)

 落ち着いているから、球も良く見えるのだろう。ただ、落ち着いている理由は分からない。練習だからか、それとも何か秘密があるのか……。

 二球目は、内への体を起こすストレート。ボールで、カウント1ー1。三球目、外角低めのストレート。内を見せられていた黒沢は、手が出ずに見逃し。カウント2ー1で、カベが勝負球に選んだのは……

 外角低めへの、ストライクからボールになるスライダー。俺の投げるスライダーも握りをずらしたタイプだが、その曲り具合いは上々だ。俺は精神を集中し、投げる!!なまじ一球外角を見せられて目が馴れていた黒沢は、哀れストレートのつもりで空振り……しなかった。出掛かったバットがぴたりと止まり、ボール。

(……?動体視力が良いのか、球種を読まれたか……)

 それではと、読んでいても当たらないフォークを投げた。これでようやく空振りしてくれ、1アウト。

(手こずったぜ。それにしても……三人ともボールに目がついていってる)

 どうやら、俺は秘密練習の実験台になっている様だ。さて、四番は……と見ると、カベはいそいそとプロテクター類を脱いでいた。

「マサカリでいいから、自分の思った通りの組み立てで投げてみな」

 カベは、バットの握りを確かめ、バッターボックスに入りながら言った。キャッチャー無し、か。構えたカベからは、すさまじい気迫を感じる。味方で本当に良かった、と思える一瞬だ。並のピッチャーでは、射すくめられて勝負を避けたくなってしまうだろう。だが、カベにだけはマサカリで放れる。俺には、それが嬉しかった。

 セットポジションの間、他の7人はかたずを飲んで成行きを見守っている。高校最高レベル同志の戦いだけに緊張感が出たのか……でも、静かでいいね。

 第一球を投げる。球種はフォーク!!

 さすがに裏をかかれたか、カベは空振り。カベは首を傾げているが、フカシの可能性は十分に有る。カベの狙い球が分からない以上、威力の無い変化球は危険だ。初球に変化球を見せている事もあって、二球目はストレートを選択した。力まない様に留意して……投げた!!


が。


 カベのバットは、トスのボールを打つかの様に閃き……。

かっきいいいぃぃぃん!!

 快音発生。打球の行方を追って振り返ると、センター方向の防球ネットの遥か上を飛行していた。


 飛距離約140メートルの特大弾。


 完敗、だ。

 本当に……

 敵じゃなくて良かった。



 その後、俺はスリーアウトを取る代わりに5点を献上してしまい、皆に自信を植え付ける結果になってしまった。そんな事より、一番の収穫だったのは、俺がもはやカベ無しでは投げられない投手になっていたという事が分かった事だ。


「なあ、カベ」

「ん?」

 恒例の、お好み焼き屋「蒼空亭」での二人だけの反省会の席上。

「あの時のボール、やっぱり速球を投げてくるってバレバレだったか?」

「まあ……少なくとも、オレには読めてたな。」

「やっぱりな。カベ位のスウィングをする奴に、ストレートを狙われたらひとたまりもないよ」

 何故か、俺には敗北感は沸き上がってはいなかった。多分……最初から抑えられないと、頭の中で割り切っていたからだろう。勝負するからには打たれたくないが、なにしろ相手は俺のピッチングの師匠だ。俺がどんな配球をするかなんてのは、見破られていて当然なのだ。そしてバッターは、投手の投げて来る球種が分かれば、高い確率でヒット出来るという。つまりが、俺はカベにはかなわない……と。

「……そう思うか?」

「ああ」

「じゃあ、次はオレを打ち取れるようにならないとな。オレごときに打たれてるようじゃ、伊東にリベンジされるぞ」

「え?」

 俺は、豚玉を口に運んでいた手を止めた。

「伊東はオレよりも上だ。間違い無ぇよ」

「そんな、何でそんな弱気な事言うんだよ……俺には、カベの方が凄いと思うぜ?」

カベは、視線を手元に落してしまう。

「違うんだよ……根本的な野球選手としての資質がな……」

 それは、俺が初めて見た、カベの野球選手としてのコンプレックスだった。天才同志にしか分からない違いらしい。


 俺は天才ではないから、資質の違いという意味が分からない。その事に、何となく疎外感を抱いてしまう俺だった。



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