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FASTEST!!  作者: サトシアキラ
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第02-05話

 或る日……惰眠は美奈津の声で破られた。

「お兄!!いつまで寝てんのよ!!」

 ちらっと美奈津の顔を見るが、面倒臭いので相手にしない。タオルケットに潜り込むと、それをぐいぐい引っ張って引き剥そうとした。が、俺も無言で端っこを掴み抵抗する。もはやこの時点で面倒臭い。

「あ!!こら!!離しなさいよっ!!」

 しばらく引っ張りっこをした後で、ひゅっと手を離す。

「きゃ!!」

 という短い悲鳴を残して、美奈津の姿はベッドの向こうへ消えて行った。この緩急の付け方、ピッチングにも通ずるものがあるな、うんうん。

「いたた……腰打っちゃったじゃないのよ!!この寝坊助!!えいっ!!」

 美奈津は、自分と一緒に落ちた枕を投げつけて来た。

「うるせえ、俺の安眠を邪魔しやがるからだ」

 それを軽く受け止める。

「何が安眠よ!!いくら疲れてるって言ったって、もう十時なのに!!買物につき合ってくれる約束でしょ!?」

 全くうるさい奴。寝坊助とは酷い言い草だ。昨日は練習から帰って十一時に寝たから、十一時間しか眠って……やっぱり充分か。

「分かった分かった、起きるよ、起きればいいんだろ?」

「んもーっ、その言い方は何?折角起こしてあげたのに!!」

「……そう思ってるんだったら、もう少し静かに起こせ。寝起きの頭に響く……」

 俺は頭をがしがしと掻いた。美奈津の奴は、既に何を言っても無駄と言う事を察したらしく、アホ臭そうな顔になっていた。

「はー。もういいから、とにかく早く起きてよね!!」

 それだけ言うと、ばたんとドアを閉めて部屋をでていった。台風一過だ。これ以上まどろんでると後が恐いので、早々に着替えてダイニングへと向かう。あーあ、それにしても女の買物につき合うなんて、考えただけでかったるい。どーせ荷物持ちだろうし……

 いざ食卓を見ると、牛乳のかかっていないコーンフレークが、実にちんまりと用意してあった。

「もう少し早かったら、パンを焼いてあげようと思ったのに……時間にルーズなお兄が悪いんだからね。大体、計画は10時に横浜着だったんだから!!」

「分かってますよ……」

 俺は、昨日したその約束を後悔し始めていた。由紀姉は大学に用事、真理は友達と夏休みの宿題をしにどこかへ行ってしまった。あいつは一応受験生だからな。そこで……近場のバスケの有名校に推薦入学が決まっている美奈津は、俺をターゲットに定めたらしい。何も俺じゃなくて、友達同志でわいわい行けばいい物を……そう言ったら、美奈津は

「だって、女の子同志で行ったら、ナンパされちゃって怖いんだもーん!!」

 とほざきやがった。まあ、ハタ目から見れば……背は俺と同じ位有るし、外見だって、他の姉妹達と負けず劣らぬ…つまりそこらへんのアイドルなど、廃業しかねないぐらいの美少女だ。そう考えると、可愛い妹に悪い虫がつかないよう努めるのも、兄の重責とは言えるから、納得してやる事にしよう。


「で、何を買いに行きたいんだ?」

 とりあえず横浜駅から出て、通りをぶらぶらしながら聞く。というのも、具体的な買い物の内容を聞かされてないからだ。女の買物につき合う時は、まず目当ての物を先に買わせた方がいいって、カベが言ってたっけ……。あいつ、過去に女の子とつき合った事有るんだろうか?

「へへ、知りたい?」

 知りたくないと言っても、耳を引っ張られて強引に聞かされるのがオチだ。

「ああ。無駄足を踏まない為にな」

「無駄足とは酷いなあ……折角、彼女居ない歴十七年の寂しい高校生と、ボランティアでデートしてあげてるっていうのに」

 彼女居ない歴十七年…その言葉が、俺の胸にぐさっと刺さった。 「ボ、ボランティアなんて……誰もそんな事頼んでねーだろ?」

「いいからいいから……で、買いたい物はねえ……」

ややツリがちな、ネコを思わせるような大きな瞳が、悪戯っぽく光った。

「み・ず・ぎ」

 やっぱり……嫌な予感は的中するもんだ。大体、女が水着を選んでる時に、待ってる男の方は何をすればいいって言うんだ?更衣室の前で、水着とっ換えひっ換えのファッションショーでも眺めるのか?そりゃ苦痛だぞ……。

「もう……帰るって言っても無駄だよな?」

「もちろん。折角ここまで来たんだから、さぁさ、お買い物へれっつごー!!」

 美奈津は、俺の腕を(もちろん左腕)引っ張るように、デパートへと入って行った。



「はあ、疲れた……」

 散々買物を堪能した俺達は、とある喫茶店で休んでいた。天気も相変わらずのカンカン照りだから、さっき見つけたレストランに駆け込んで、良く冷えた生ビールを一気飲み!!…したくなる衝動をぐっと堪えて、目の前のオレンジジュースに口を付ける。

「やだ、あの位で疲れちゃったの?」

 美奈津は、アイスコーヒーをストローでかき混ぜながら、さも以外というふうに言った。

「疲れもするよ、肉体より精神面が特にな」

 水着を選んでる時、俺を試着室の前で待たせて、予想通りの水着ショーを開催してくれたもんだから、本当に疲れてしまった。店員やお客のおネエさん方の視線の痛い事痛い事……。

「まあまあ、このあたしの水着姿が見れて良かったでしょ?」

 精神的疲労の根源にもかかわらず、美奈津の様々な水着姿が脳裏に蘇る。そう言やあ、中学三年の割には結構肉感があった様な……。スリーサイズは、上から81、55、82ってなトコか。同い歳の真理と比較しても、やや勝っているだろう。

「想像してるね、お兄」

 美奈津の一言で、慌てて頭の中から水着姿を消去する。

「うるせえ、何でお前の水着姿を想像しなきゃならねえんだよ!!」

「ほら、やっぱり」

「……」

 どうもコイツにはかなわない。軽口を叩き合っても、言いくるめられるのはいつも俺の方だ。どうやら、頭の回転は速い様だ。

「本当、お兄ってえっちなんだから。しかも、始末に終えないムッツリタイプだもんね」

「やかましい、男なんて誰でもスケベだよ。それに、ムッツリが嫌だって言うんなら、開けっ広げなスケベならいいのか?」

「そっちもイヤ」

「お前なあ……元はと言えば、そっちが挑発する様な事言うから悪いんだろうが。この歳で女に興味が無かったら、人類滅びちまうよ」

「尤もらしい御意見で」

 俺と美奈津は、いつもこんな感じだ。真理はすごく素直だし、姉さんは大人って感じでもの静かだから、こうやって軽口を叩き合うのは美奈津とだけだ。それだけに、いつも新鮮な気持ちがするし、ネコの目の様にめまぐるしく変わる瞳を見るのも楽しい。

「な、何?」

 俺は、他の姉妹二人とは系統の異なる、美奈津のネコ目をじっと見つめた。真理と由紀姉さんは、ややタレ目系統の顔で、姉妹ということは一目瞭然だ。

「や、やだ、ちょっと、お兄……」

 いつも強気な言動を取るクセに、たまにこういう風にからかってやると、じんわりと頬が赤く染まって行く。言う程、男の視線には馴れていない。そこが今風の中学生っぽくなくて気に入っているのだが……可愛い奴。もちろん、今風って言っても、皆が皆そんなんじゃないって言うのは分かってる。俺が中学生の時だって、そんなのはごく少数だったし。なんにしても、ウチの姉妹が悪い意味での今風じゃなくて良かった。亡八国に成り下がったこの日本で、彼女らのモラルの高さは群を抜いている。

「お兄!!もう……」

 美奈津はたまらなくなったのか目を逸す。長い睫が横顔に映えた。しかも、その目の逸し方が何故か妙に艶っぽく見えて、俺はちょっと……どきっとしてしまう。

(ガサツな様に見えて、やっぱり女の子なんだな……)

 髪もベリーショートで、普段から活発な美奈津を見ているから、ふとした時に見せる女の子らしい姿には、どきっとさせられる。その二つのギャップの差が激しいからだ。いつも女の子女の子している真理では、ギャップを感じる事すらないだろう。

「人の顔見て何ニヤニヤしてんの?」

 そう言われて、初めて自分が微笑んでいた事に気づいた。

「いやな、お前もたまにはしおらしい表情が出来るんだなっと思ってよ」

 美奈津は、少し膨れた様な顔をして、

「じゃあ、いつもは女らしくないって言うの?」

「いつもはな。俺としては、もうちょっと大人しくしてもいいと思うけど。ま、俺が強要する事じゃ無ぇし」

「ふーん、お兄は大人しいコの方が好みなんだ……」

 美奈津は、不気味な笑みを浮かべて言った。

「だ、誰もそんな事言ってないだろ?そんな風にガサツだったら、男が寄って来ないと思って心配してやってるのに」

「残念でした。あたし、学校じゃあ結構人気あるもん」     

「……女の子から、だろ?」

 ツッコむと、美奈津は言葉を失ってしまった。図星だったらしい。

「そーだよ、悪かったね。ふんっ……だ。どーせお兄は、真理みたいな大人しいコの方がいいんでしょ!!」

「何で真理が出てくるんだよ。大体、真理が大人しいか?あいつ、いつも明るいじゃねえか」

 美奈津は、大きな溜め息を一つついて、これだからお兄は……と呆れながら話し始めた。

「いい?真理がそういう姿を見せるのは、お兄だけなの。あの子、学校では物静かな美少女で通ってるし、あたしや由紀姉の前でも大人しいんだから」

 大人しいなど、俺には想像もつかないが……そういえば、カベに初めて真理を紹介した時、あいつのいかめしい身体つきを見たら、俺の背中に引っ込んで隠れてしまったっけ。

「だから、あたしの心配なんていいから、絶対にあの子を裏切る様な事しないでね!!」

「あ、ああ、分かった」

 美奈津は、真理の事となるとアツくなる。妹思いなんだな。

 喫茶店を出た後……正しくは、真理に関する話をしてから、美奈津の機嫌が悪くなっていた。俺が真理を良く分かってない事に、姉として腹を立てたのだろうか。それが当たっていたら、怒るのも尤もだ。中学の頃まで、女の子と話す機会なんてまるで無かったし、自分から話をしようなどとは考えもしなかった。三姉妹がやって来たお蔭で、少しは免疫が付いたとは思うが、自信が付いたとは思わない。今だって正直な話、女は苦手。他人も羨む環境で暮していながら、それを楽しむどころじゃないというのが実情だ。しかし何と言っても、同居してるのは、妙齢の……しかも血のつながっていない美人三姉妹なのだから……難しいものなんだ。

「なあ、何を怒ってるんだよ」

 前を歩いている美奈津に声を掛けるが、振り向きもせずにすたすたと歩き続ける。手ぶらな美奈津の歩くスピードは速く、荷物を持った俺は、その後をよたよたと追う形になった。

(何だよ、答えてくれたっていいじゃ……ん?)

 美奈津が、とある店へ入って行った。自動ドアが開くと、中から騒々しい電子音が聞こえて来る。どっからどう見てもゲームセンターだ。

 俺も後を追い、中へ入る。美奈津を捜すと、いわゆるUFOキャッチャーの前で、中の景品を見ていた。

「おい、何見てるんだ?」

 中には、ペンギンが主人公の、某クレイアニメのぬいぐるみがいっぱい。

「お兄、あれ取って」

 こちらに振り向きもせずに指さすのは、恐らく……オットセイのキャラだ。

「あのオットセイか?俺、こういうのヘタなんだよな……」

「ウソ、お兄の部屋にいっぱい有ったじゃない。真理にもあげたりしてるんでしょ?」

 前に、真理の気に入りそうな景品を取ろうとしたら、千円使っても取れなくてアホ臭くなった事があった。結局、カベに取ってもらったんだけど。あいつは、この手のプライズものがやたらに上手い。

「真理にやったのは、カベに取ってもらったヤツ。俺の部屋にあるのは、真理から貰ったヤツだ」

 真理も、こういうプライズもんは上手らしい。家のいたる所に、俺の見たことがない景品らしきぬいぐるみが飾ってある。

「……」

 美奈津はようやくこっちを向いた。相変わらずのふくれっ面だ。

「いいからやってみてよ。あたしは多分、お兄に輪をかけてヘタだろうから」

 頼まれりゃあ、悪い気はしない。

「分かった、一か八かやってみるけど……その代わり期待すんなよ?」

「うん」

 コインを入れて、獲物を狙う。幸い、そいつは一番上にあったので狙い易い。こんなのを取れないのか?初めは慎重に横移動のアームの位置を合わせ、次は縦移動。位置を決めたら、後は運を天に任せるのみ……おっ、掴んだ!!落とすなよ……。美奈津も、息を潜めて成行きを見守っている。ぶらぶらしながらアームに掴まれた獲物は、酷くゆっくりと景品の取り出し口の上へやって来て……一揺れした後に、ぽいっと景品をおっことした。

「ほらよ、お望みのもんだ」

 俺はそれを取り出して、美奈津へと渡す。すると、意外な程……小踊りして喜んだ。よっぽど欲しかったんだろう、たかがぬいぐるみで大層な喜び方だ。機嫌の悪いのも吹き飛んでしまったらしい。

「やった!!……有りがとね、お兄。ヘタって言ってた割には一回で取ったじゃない」

「まあ、運が良かっただけだけどな」

「でも……ホントに有難う」

 美奈津は、そのぬいぐるみをぎゅっと抱き締めて、にっこりと笑った。ネコ目ネコ口が一層強調されて、美奈津の健康美少女っぷりを際だたせていた。ちょっとドギマギしてしまう。それに、ぬいぐるみを取っただけでそんなに感謝されても……。

「それ、そんなに欲しかったのか?」

「うん。この前、友達と一緒の時に見つけたんだけど、その時は上手い子が居なくて。ね、可愛いでしょ?」

 美奈津はそう言って、ぬいぐるみを自分の顔の辺りに持って来た。

(可愛いモン同志……か。)

 俺がうなずいて同意を示すと、美奈津は大事そうに買物袋の中に仕舞った。

こういう、ぬいぐるみが好きなんて所は歳相応の女の子してる。……いや、中学三年でも可愛いもの好き、なんてのは俺の幻想か。真理を見てるとそうでもないかと思えるが、あいつは誰が見ても幼いだろうからなあ……。

「ねえ、お兄。これ、一緒にやろうよ」

 美奈津は、二人同時プレイの出来るガンシューティングを差して言った。

「ああ、いいぜ」

 俺は、今日は美奈津にとことんつき合う事に決めた。美奈津の新たな面を見る事が出来たし、俺と一緒にいても退屈してる素振りを見せない……むしろ楽しそうだから。最初は買物に来たのを後悔していたが、今は来て良かったと思える様になっていた。

 美奈津と接してみて分かったけど、一年半近くも一緒に暮してるのに、三姉妹の事全然知らないな。俺のコミュニケーション不足が原因だというのははっきりしてる。折角家族として暮しているんだから、もう少し接触の回数を増やしてもいいのかもな。もちろん、煙たがられたらヤメにするのは当然だけど。

「お兄ちゃん!!」

 と、丁度ゲームが終った所に、背中から声を掛けられた。振り向くと、

「何だ、真理か」

 真理が居て、お友達とおぼしき女の子二人とこっちにやってきた。

「よく後ろ姿だけで俺って分かったな」

「当たり前でしょ、そんなの…あれ?美奈津お姉ちゃんも……」

 隣に居た美奈津を見て、以外そうな顔をする。

「ねえ、真理ちゃん。お兄さんって事は、あの五塚高校のエースの?」

 お友達の中の、三人の中では最も小柄……と言っても真理と1、2センチ程度の差だが……な、ショートボブの子が、目をきらきらさせて真理に尋ねる。美奈津とは顔見知り程度の認識らしい。ま、同級生といっても沢山居るしな。

「俺の事、知ってるんだ?」

「はい!!私野球がすごく好きで高校に入ったら野球部のマネジャーをやろうと思っているんです横浜学院との決勝戦テレビで見てました残念でしたねでも凄いピッチングでしたよ中でもあの伊東選手との第四打席の対決は興奮しました~」

「あ、そ、そう。有難う」

 瞳をきらきら輝かせて、早口でそう捲し立てる彼女に、正直圧倒された。本当に野球好きなんだなぁ。

「私、周防梨魅すおう・りみって言います。宜しく、お兄さん!!」

 さっと右手を延ばす梨魅ちゃん。

「あ、ああ、よろしく」

 俺も、ぎこちなくその右手を握り返す。

「ほら、舞依子ちゃんは挨拶しないの?」

 梨魅ちゃんは、もう一人の女の子を促した。

「え、私はいい……あん、梨魅ぃ!!分かったから押さないで。しょうがないわね……わたし、村雨舞依子むらさめ・まいこ。よろしく」

 舞依子ちゃんはそう事務的に答え、手を差し出さなかった。彼女は三人の中で最も背が高く(でも155、6センチ)、目線はキツめ、髪もロングで一番大人っぽく見える。

 それにしても、二人ともメチャ美少女じゃねえか。類は友を呼ぶ……って奴か?三人並ぶと、新手のアイドルユニットみたいだ。

「お兄!!何見とれてるのよ!!」

「いで!!」

 美奈津が俺の手の甲(左手)をつねった。危うく美奈津の存在を忘れかけちまうところだった。

「ねえ、お姉ちゃんは、お兄ちゃんと遊びに来たの?」

 真理は不安そうに聞いた。すると美奈津は、

「そう。デートしに来たんだ」

 と、俺とわざわざ腕を組んで宣いやがった。

「えっ!?」

 真理は絶句して、表情が氷りついてしまう。

「違うぞ真理、ただ単に買物につき合ってやってるだけ……」

 否定しようとすると、

「何言ってるの、買物して、お茶して、こーやって遊んでれば立派なデートでしょ?」

 美奈津は更に腕に力を込めた。うう、腕に柔らかな感触…って、それどころじゃない。

「そう……なんだ。じゃあ、邪魔しちゃ悪いよね。行こ、二人とも」

真理は、明らかに無理やり笑顔を作って、友達を促して(特に梨魅ちゃんを引きずるようにして)ゲーセンを出て行った。

「おい、美奈津!!」

 腕を振りほどき、正面に向き直る。

「何?」

「何じゃないだろ?あんな、デートだなんて……真理が誤解する様な事を何故言った?」

「じゃあ逆に聞くけどね、どうして真理に誤解されたらいけないの?何かまずい事でもあるの?」

 逆質問されて、口篭ってしまう。

「そ、それは……」

「ほらね、答えられないでしょ?大体、あの子はお兄を完全に自分の物と思ってるフシがあるからね」

「自分の物って……どういう事だ?」

「今は分からなくていい。そのうちきっと分かるから……」

 そう言って瞳を伏せた。

 意味深なセリフ……。その言葉がどんな意味を持つのか、今の俺にはまるで理解不能であった。ただ、女の火花が散っているように見えたのは、俺の気のせいだったのだろうか……。


 みーんみーんみーん……。

 都市部だってのに、セミがやかましいことこの上なかった。


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