表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FASTEST!!  作者: サトシアキラ
12/90

第02-03話

 部屋に戻ってベッドに寝転ぶと、途端に手持ち無沙汰になる。気温もどんどん高くなって来ているのが、額の汗の量で分かった。

 野球部の練習は無いし、俺もここ二日ぐらいは腕を休めておきたいし……。


 結局、一人で河原に散歩に行く事にした。このクソ暑い中、わざわざ散歩する事もないとは思うけど……暇な時には、あそこで水面を見つめるのが一番落ち着いて時を過ごせる。そうと決めた俺は、真理には黙って外に出た。

 道路の上にはもやが立ち上り、気温の高さを物語る。せわしない蝉の鳴き声が、それに一層の拍車を掛けていた。昨日まで、こんな猛暑の中で運動していたなどとはとても考えられない。

 河川敷の野球場に出ると、小学生達が草野球に興じていた。

(おーおー、まっ昼間っから元気のいい事で。)

 自分の昨日の境遇も暑さで忘れてしまった俺は、まるでじじいの様な事を考えていた。

 小学生達を後目に、河原近くの草むらへと降りる。水の流れる音が耳に、頭に心地良い。時折、近くの鉄橋から電車の通る音も聞こえてくるが、それすらも単調な水音に対してのアクセントになっている気がする。適当な箇所を見つけて、ごろりと寝転んだ。当然ながら、青い空が視界を被う。時折吹く風が耳元の草を揺らし、ざわめき立った。イメージ画像(サウンドノベル風)

水の近くという心理的効果も有るのか、汗がすーっと引いて行くのを感じた。

(負けたんだ、俺……)

 今さらながらに敗北感を味わう。辺りの適度な静けさが、昨日の試合の要所をフラッシュバックで蘇らせる。

(ハナっから勝てるとは思ってなかったのに……。やっぱり悔しいんだな、自分が直接決勝打を打たれた訳じゃないから、尚更なのかも知れない……)

 拳に力が篭ってくる。手の平に爪の痕が付く位に拳を握り絞め……振り下ろした。馬鹿みたいにそれを繰り返していると、何だか全ての事がどうでも良く思えて来る。


(俺が……俺が悪い訳じゃねえ)

お前のせいだよ。お前のコントロールさえ良けりゃあ、無駄なランナーも出ないし、守備のリズムも良くなる筈なんだ。

(点を取れないのが悪いんだ。)

 こんな弱小校じゃ当り前だろう?大体、こんな学校を選んだのは誰だったんだ?有名校のスカウトだって来ていただろう?その誘いを断って!!

(あの時は肘を壊していて、また野球が出来るなんて考えてなかった……!!)

 リハビリしながらでもいいって申し出てくれた、酔狂な学校もあったのにか?

(俺は普通の野球部になんて入りたくなかったんだ!!)

 リハビリが恐かったからだろう?もしも投げられる様にならなかったらどうしようかって……。それに、この日本に、野球ではなくベースボールをやる学校が何処にあるって言うんだ?

 全ての自問には、明確な自答が用意されていた。そう、俺は自分が望めば、甲子園常連校で野球をする事も出来た。五塚から願書の変更も出来た。

(でもカベはどうなる……!?)


 カベが五塚を選んだのは、明らかに俺と同じ高校を選んだからだ!!俺には、真壁大成という名を全国区に知らしめる義務がある!!

(当の本人の気持ちも聞かずに?その義務とやらが、逆にあいつの重圧になっているかも知れないのに?)


 違う!!


 違う!!


 違う!!



 まるで、別人と……俺の全てを否定している人間と話ている様だった。果てしない自問自答をすればするほど、俺が野球をやっている意味をぼやけさせる。


 誰か、助けてくれ……!!

(誰も助けになど来ない。と言うより、誰も助けられない!!)


 その時頭の方で、草を踏みしめて歩いて来る音が聞こえた。

(現実……?)

 ばちっと目を開けると、ふわりとめくれあがったスカートと、すらりとした脚、その奥の何かの布きれが。一体なんの布きれなのかは皆目見当が付かない。

「やだっ、もう!!ヤな風!!」

 真理だった。

「お兄ちゃん、黙って出ていかないでよ。家中捜しちゃったじゃない」

いつの間にか風が強くなっていて、真理は顔にへばりついた髪をかき上げながら言った。

「それよりもお前、どうしてここが……」

 背中じゅうの草を払って立ち上がろうとすると……。

「オレが教えたんだよ。きっとここだろうと思ったからな。出先ぐらい伝えて出掛けろよ」

 カベが真理の後ろに立っていた。

「そっか……」

「遠くから見てると面白かったぜ、ひとりごとをつぶやきながら拳を振り挙げてるし、うなされてるし……」

「何だ、見てる暇があったら早く声を掛けてくれれば良かったのに……人の悪い奴らだな」

「まあまあ。それより今日のお昼ご飯、私が作ったの。ペペロンチーノよ。真壁さん好きだったよね?一緒にどーぞ」

「ああ、じゃあご馳走になろうかな」

 ちょっと考え事をしてたら、もう昼になってしまったらしい。腹も減ったし、帰るか……。

 時間を忘れる程の悔しさも、空腹の前には無力だった。腹が減ってるとろくな事考えないって、案外本当なのかもな……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ