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アンドロイドは涙を殺す方法を知っている  作者: 和本明子
第三章 ティアとナイツ
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-2- 「私の名前は、ナイツです」

 真夜中。

 ベッドの上で、ティアは膝を抱えていた。何をすることもなく、ただ静寂の中でじっとしている。


 ティアは目覚めてから、深く眠れなかった。

 まったく眠れない訳では無い。しかし、眠りについたとしても、短い時間で目を覚ましてしまうのであった。

 不眠は冷凍睡眠による弊害だと診断された。長時間眠るのを心の何処かで拒んでいるという精神的な問題だと。


 それと違和感があった。

 ふと、自分の隣を見る。


 いつも寝る時は、誰かが寄り添ってくれていたような気がした。

 記憶を失っているティアにとって思い違いなのかもしれないが、独りで寝るという状況が心の隅を突いていた。


 部屋の天井に窓が取り付けられていた。そこから外の……空の景色が見えたが雲に覆われていて、星も月も見えない。

 ティアは味気ない夜空を眺めながら、浅い眠りに誘われるのを待つことにした。

 その時だった。


――プシュー!


 突然、空気が一気に排出されるような音がした。

 ティアは何事かとベッドから降りて辺りを伺うも、薄暗くてよく解らない。

 夜目で僅かに見える視界の中、音がした方へゆっくり進み行くと、普段だったらデンジャーたちが来る時にしか開かない扉が開いていた。


 恐る恐ると開いた扉の先を覗き込む。扉の奥は、より真っ暗だった。

 だがティアは部屋から出られる欲求に背中を押され、戸惑いと躊躇いつつも扉の先へと一歩踏み出した。


 暗闇の廊下を、ティアは壁伝いに進んでいく。

 この先に何があるのか解らない不安と、デンジャーたちに見つかったら怒られるかも知れない恐怖が心を覆っていた。しかし、いつまでもあの部屋に閉じ込められているよりかはマシだと思い、勇気を振り絞っていた。


 やがて、廊下の終わり……行き止まりに辿り着く。

 小さな冒険も、ここで終わりかと……思えたが、手探りで立ちはだかる壁を触っていると、出っ張り――取っ手が有るのに気付いた。


 その取っ手を握り、何気無く押すと少しだけ動いたのである。これは扉の取っ手だと判断し、力一杯押した。

 ティアの弱い力で扉を開けるのは、かなりの力仕事だったが、なんとか開けることが出来た。


 扉の先には、非常灯の小さな光が灯っており、辺りを照らしていた。

 そこには上に行く階段があった。

 ここは部屋ではなく、屋上へと続く非常階段があるスペースだったのである。


 ティアは階段を見上げ、行ける所まで行こうと、意を決して上がり始めた。

 階段を上がりきり、踊り場らしき場所に辿り着いた。すると扉があり、微かに開いていたのだった。

 その隙間を大きく広げて、念願の外へと飛び出した。


 ビューと、強い風が吹き抜ける。

 目覚めてから初めての自然の風だった。

 しかし、その風は心地良いものでは無かった。風は濁っているような感じで、変な匂いがした。呼吸をする度に(のど)に絡み付いてくる。

 『外に出ない方が良い』と、デンジャーたちが言っていた意味を何となく理解した。


 ふと、空を見上げる。

 真っ暗な夜空には厚い雲が覆っていた。あの雲は四六時中覆っており、目覚めてから青空も星空を見ていない。

 星の煌きも、眼下に広がるスラム街からも光は無かった。

 暗闇が世界を包んでいるようで、ティアは恐怖を感じた。


 外に出られたこともあり、そろそろ自分の部屋に戻ろうとした時、屋上に巨大な物体が置かれているのに気付いた。

 それはデンジャーが所有する二機の内の一機の大型ヘリコプターだった。これに乗せられてきたのをティアは知らない。そのヘリコプターの付近で人影が見えた。


「誰?」


 ティアがポツリと呟いた声に反応してか、人影がゆっくりとティアの方に近づいてくる。

 カツンカツンと足音が響き、少しずつ姿が見えてくる。

 闇夜に溶け込むような黒い服を着ており、夜中にも関わらずサングラスを着用していた。見た目的に男性であると判る。その姿に、おぼろげながら覚えがあった。初めて目覚めた時に見かけた人物だった……が、名前などは知らなかったから改めて訊ねる。


「あ、あなたは……誰?」


 ティアの問いかけに男性は答える。


「私の名前は、ナイツです」


「ナイツ……」


 初めて耳にする名前だった。

 だが、ティアはその名前に少しだ安堵を感じた。


「そうなんだ、ナイツって言うんだ。良い名前だね。あ、私の名前はね、ティアって言うの」


「ティア? ティア様!」


 ナイツは、その名前に反応して、瞬時に膝を地に着けて跪く。


「えっ、あっ……その……」


 ナイツの咄嗟の行動と仕草に慌て驚くティア。


「失礼いたしました。ティア様とは気付きませんでした」


「そんな、別に……。ねぇ、ナイツはどうして、こんな所にいるの?」


「……それは……気がついたら、ここにいました」


「気が付いたら?」


「ええ」


 ナイツの話しにティアは首を傾け、次に気になったことを訊ねた。


「ねぇ。これって……ヘリだよね?」


「そうです。これはヘリコプターです。正確に言いますと、CH―47チヌーク型。大型輸送用ヘリコプターとして生産されたものです。搭載容量は……」


 専門的なことまで説明し始めて、ティアはついていけなくなり、


「えっ、あ……その……ちょ、ちょっと、まって……」


 ナイツに静止を求めた。


「う、うん。やっぱりヘリなんだよね……あっ!」


 ティアにある考えを思いつく。


「ねぇ、ナイツはこのヘリを運転することが出来るの?」


「運転……操縦しろと、言われれば操縦いたします」


「本当!?」


 ティアは羨望ある期待に満ち足りた眼差しでナイツを見つめたのだった。


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