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 廃墟が地平線の彼方まで広がっていた。


 かつては多くの人々がここで暮らしていたのだろうが、今は見る影も無く、建物などは瓦礫となり、ほとんど崩れ去っている。


 そんな中をひとり彷徨う青年がいた。

 青いバンダナをハチマキのように額に巻いて、片手には携帯情報端末機を持っていた。ディスプレイに映る地図を見ながら辺りを注意深く見回し、何かを探していた。


「確かこの辺りが、研究所らしき建物が在った場所なんだが……」


 目に映るのは瓦礫の山。

 バンダナの青年は、ふーと息を吐くと、ベルトにかけていた“砲銃ガレオ”を手にとった。

 “砲銃ガレオ”とは、口径が十センチもある、携帯が容易な小型大砲とも呼ばれる銃。

 その砲銃の銃口を瓦礫の山へと向けて、引鉄トリガーを引く。


―――ズッガーン!


 耳の鼓膜を破けそうな激しい音が鳴り、放たれた弾丸が瓦礫の山へと直撃した。すると、けたたましい音が響く共に大きな爆発を起こして、粉塵が舞い上がった。


 しばらくして粉塵が晴れると瓦礫の山は消えており、地面がさらけ出されていた。すると、青年はガックリと肩を落とした。


「何も無いのかよ……。あの情報屋の情報はアテにならねーな。しかし、こういった研究施設には、地下とかシェルターがあるはずなんだけどな。まぁ、既に荒らされている率は高いよな……」


 ぶつくさと独り言を呟きつつ、転がっている瓦礫の破片を蹴っ飛ばした。

 転がっていく破片が何かにぶつかって音が反響する。そして、遠くへと落ちていくような音に変わった。


 音の変化に青年は気に留めて、蹴っ飛ばした破片の方向へと走りだす。

 自分が蹴っ飛ばした破片の行方を探していると、地面に小さな穴が空いているのを見つけた。


「これは……」


 穴の中を覗き込むと、中は当然の如く真っ暗だった。深部の先は何も見えなかったが、何かありそうな予感がビビッとくる。


 穴を拡張させようとしたが、その場所はコンクリートではなく金属でできていた。中規模の爆薬程度では破壊できない強度があった。


「もしかしたら……。う~ん、だけどここでアレをぶっ放すのもな……。威力は高いんだけど、その分値段も高いんだよな……いや、ここはオレの直感を信じるか」


 青年は背負っていたリュックサックから一つの弾丸を取り出した。所持する弾丸の中で最も強力な威力がある弾だった。

 掌に収まらないサイズで、ずしっと重みがする弾丸を強く握り締めると、穴の中に貴重品が眠っていると願いを込めて、名残惜しそうに砲銃へと装弾した。


「よしっと……」


 小さな穴に狙いを定めて、引鉄を引く。


 銃口から放たれた弾丸は穴付近の場所に直撃すると、先ほどよりも大きな爆発音と衝撃が起こった。

 あまりの破壊力に青年はバランスを崩し、地面に腰を着いてしまった。小さな穴は、青年がギリギリで中に入れるほどの大きさに拡がっていた。


 青年は穴の先を伺い、覚悟を決めて穴の中へと飛び降りた。


 穴の中は通路のような場所で陽の光が入らず真っ暗だったが、青年は明かりなどを点けずに辺りの様子を見回した。

 所々崩れており、瓦礫が散乱していた。だが、地上と比べて大した被害はなかった。


「地下……だからじゃないな。それなりにしっかり造られているようだな……」


 壁を触って質感を確かめつつ、建造物の耐久性を憶測する。覚悟を決めて、恐れずに暗闇の先へと進んで行く。

 時々、瓦礫に足を引っ掛けて転びそうになってしまったが、奥へ奥へと進んでいき、やがて行き止まりに辿り着いた。


「……いや、扉だ」


 青年の前に壁と一体化したようなシンプルな扉があった。


 扉の付近にはディスプレイ機器が設置されており、本来ならこれで扉を開けるのだと推測した。

 だが、適当にディスプレイを触っても何も反応しなかった。


「やっぱり故障しているな。そもそも電気が通ってもないし、完全にダメになっているんだろうな……」


 とりあえず力任せに扉を開けようと、押したり引いたり、上へと持ち上げたりしたが、扉はビクともしなかった。

 どうやって、この扉を開けるかと考える。


「やっぱり強行突破しかないかな」


 そう呟き、青年は愛銃を手に取った。

 扉から少し離れ、銃口を扉に向けて、撃ち放つ。

 先ほどと同様の爆発音と衝撃が奔る。弾は見事に扉に命中したが、微かな傷と軽い焼き焦げを付けただけだった。


「おいおい……。オレの手持ちの弾の中で最高の弾なんだぞ……。流石は、人類が最も繁栄した時代の遺物か……」


 頑丈な扉を前に昔の技術力を感心しつつも、尚更この扉を開けなければと決意する。

 なぜなら、十中八九この扉の先には手付かずの“宝”が眠っていると、確信を持ったからだった。


 しかし、相手(扉)は最高の破壊力を持つ弾丸でも壊せない頑丈な扉。しかも、この手の防護扉は何重にも存在していると予測できた。何発も弾丸をぶっ放して壊すというのは難しい。それに弾丸の数も、多くある訳では無かった。


 青年は頭を抱えながら、隅々と扉の周りを見た。

 この手の防護扉はコンピューター制御するにしても単純明快な作りになっていることが多い。


 防護扉は災害から身を守るためのものであり、ただの扉の役目だけである。つまり、災害が起きればライフライン……特に電気系統などが真っ先に使えなくなる可能性が高い。災害から身を守れたものの、その後、電気が通ってなくて扉を開けることが出来ないのは愚の骨頂だ。


 その為、電気が使えなくなった場合に備えて、何処かで“手動”で開けられるようにしている可能性は高いと推測した。


 辺りをくまなく見ていると、扉の隅に隠し扉があることに気付いた。その扉を力任せに開くと、レバーらしき突起物を見つけた。


「ビンゴ!」


 青年はそのレバーを手に取り動かそうとするが、長い年月、ほったらかしにされて錆びついているのか挙動部は固くなっており、中々動かせなかった。


 精一杯の力を込めて、少しずつだがレバーを動かしていくと、その動きに連動して扉がゆっくりと開いていく。

 やがて青年が通れるほどのスペースが開いたところで充分として、狭い隙間から入っていった。

 しかし、扉の先には通路があり、その奥へと進んで行くと、またしても扉が立ちはだかった。


「ま、まぁ…そうだろうな……」


 青年は顔を引きつらせ、疲労困憊のため息を吐いた。


 扉を開いては、次の扉が進行を妨げる。

 その度に開閉レバーを見つけては、扉を開いていった。


 いくつもの扉に邪魔されて、青年は埃と汗にまみれになりながらも、七個目の扉を開くと、これまでの通路とは違う広い空間……部屋のような場所に出た。


 その部屋は埃が多く積もっているが他の場所と比べて被害は皆無だった。

 そして部屋の中央に設置されている大きな機械が目に入った。


「あれは……」


 その機械からは、ぼんやりと明かりが発していた。

 ゆっくりと近づきながら様子を疑っていると、僅かに電子音が聴こえてきた。


「おいおい電気が通っているのか……」


 機器類が動作しているなど、状態の良さに驚く。


 微かな明かりが漏れている場所には、小さな窓があるのに気付いた。窓には埃がびっしり積もっており、中が良く見えない。

 窓の埃を払いのけると、人間の顔が浮かび上がった。


「うわっ!」


 突然の登場に、思わず驚き仰け反ってしまい尻餅をついてしまう。


「な、なんだ……?」


 心を落ち着かせて、恐る恐ると再び窓の中を覗き込むと、そこには安らかな表情で眠る少女がいた。


「人間……。女? 生きているのか?」


 よくよく確認しても生死の判断はつかない。ただ、肌の状態は新鮮で、とても死んでいるようには思えなかった。


「もしかして、これ……冷凍睡眠装置コールドスリープか」


 大きな独り言を発し、青年は辺りを見回す。機械ポッドの中に入っている人間の情報の痕跡がないかを探した。


 近くの机の上に置かれていたコンピューターを見つけては適当にキーを打ち込んだが、何も反応はなかったが、電源は生きているのか小さな明かりが点灯している。どうやらコンピューターにはセキュリティロックがかっているようだった。


 どうにかしてコンピューターを動かそうと思案していると、机に何やら文字らしきものが刻まれているのに気付く。


「これは?」


 青年が判読できる部分だけを読み取る。


「EG九十一……確か、このEGって確か終末の時代の年号だよな……という事は、これ……約七十年前の時のものか」


 続けて判読できた文字を読む。


「T…E…A、R……名前か何かか?」


 他にも文字が書かれていたが、難解な単語の組み合わせの文章となっており、後は判読できなかった。

 だが、青年は推測する。


 おそらく中に入っているのは終末の時代の人間。その人間に対して別れの文章が書かれているのだと。


 しかし、そんな別れの文章より冷凍睡眠装置に入っている人間が、いつ冷凍睡眠されていたのかが重要だった。

 刻まれた文字を追っていくと、日付らしき数字の並びを見つけた。


「9月11日……消失の日前の人間か!」


 青年の口元が緩んだ。


「よっしゃー! 今までオレが見つけたガラクタの中で、最高の宝物だぜ!」


 喜びを爆発させるように叫んだ後、高らかに笑った。


 ポッドの窓から漏れる僅かな光が室内を照らし、青年の怪しげな笑い声が響く。傍から見れば、とても不気味な光景だっただろう。

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