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アンドロイドは涙を殺す方法を知っている  作者: 和本明子
第六章 クールVSナイツ
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-2- 「動いたら、この娘の命はないぞ!」

 ゆっくりと降下していくエレベーター。

 クールは気絶しているティアを抱きかかえ、直ぐにでも動ける準備をしていた。


「やれやれ……。まぁ、こうやって眠っていてくれた方が都合が……っ!」


――ドンッ!


 突然、天井で大きく鈍い音と共にエレベーター内が大きく揺れた。


「なんだ?」


 身構えるクール。

 すると、黒い腕が天井を突き破ってきた。

 クールは「うおおっ!」と驚嘆しつつ扉が近い方の隅に身を移動し、左手でティアを抱え、右手には砲銃を構えた。


 突き出た腕が引っこ抜かれると、空いた小さな穴から顔が僅かに見える。腕の主は、ナイツだった。


「あそこから飛び降りてきたのかよ!」


 発砲しようとしたが、ここは狭いエレベーターの中。

 弾丸の爆発や衝撃でエレベーター自体が損傷して途中で止まってしまうのではと考慮し、踏み止まった。


 ナイツの腕が何度も天井を突き破り、徐々に穴が広がっていく。このままだとナイツが侵入してしまう。その場合は、止むを得ずに発砲してなんとかするしかないと覚悟をするも、一刻でも早く扉が開くのを願った。


 デジタル画面に表示されている階数が十階を切ったところだった。

 ナイツが天井から降りてきて姿を現し、すぐさまクールに襲いかかろうとした時だった――


「動くな!」


 クールは叫び、手にしていた砲銃の銃口をナイツではなくティアに向けていた。


「動いたら、この娘の命はないぞ!」


 脅し文句で、ナイツを牽制する。しかし、ティアは大切な届け物。クールはティアを撃つつもりは毛頭ない。しかし、おかしな感覚がクールを襲っていた。

 引き金にかけている指が、まったく動かないのである。


(なんだ? まさかナノマシンウィルスの影響じゃないだろうな……)


 だが、その様相をナイツに気取られないように、強い姿勢で牽制し続ける。

 そのかいもあってか、ナイツはティアの身の安全を考慮し、微動だにしない。


 狭い空間内、息苦しいほどの緊張感に包まれ、時間が過ぎていく。やがて高い音が鳴り、一瞬クールは肩をビクッと動く。すると、同時にエレベーターの扉が開いた。


 しかし、クールはそこから一歩も動かない。

 ナイツの襲撃を警戒しているだけではない。待っているのだ。扉が閉まり始めるのを。


「今だ!」


 扉が閉まり始めると、クールは一目散に外へと飛び出す。

 その動きに反応してナイツも後を追いかけるが、クールは振り向きざまにティアに向けていた銃口をナイツに向けて、引き金を引いた。


 放たれた弾丸はナイツに命中し爆発すると、爆風でナイツをエレベーターの中へと押し戻していく。

 そしてクールは、瞬時に片手で砲銃の薬室から空薬莢を捨てると宙に放り投げ、ポケットから新しい弾丸を取り出した。流れる動作で宙に舞う砲銃に弾丸を装填し、持ち手を掴むと、再びエレベーターの中に居るナイツへと躊躇無く撃ち放った。

 先ほどよりも大きな爆発が起こり、エレベーターを吊っていたワイヤーが切れたのか、エレベーターはナイツを乗せたまま落下していった。


「これで、くたばってくれれば……」


 クールは様子を見分せず、すぐにその場を後にした。まだ気絶するティアを抱えて。

 廊下を駆けていると背後から、


「ティアァァァァァァさまーーーーーーーーー!」


 大きく叫ぶ声が響き轟いた。

 クールは一瞬振り返ったが、すぐさま真正面を向いて駆ける足を早めたのだった。


   ***


「今頃は地下に逃げ込んだぐらいか……。上手く逃げてくれるといいのだが……」


 博士は、デンジャータワーの警備システムなどを制御管轄するメインコンピュータールームへとやってきて、クールの逃亡の手助けをするために様々な装置の操作をし、改ざんを行なっていた。

 タワーの各ポイントにある防火扉で通路を塞ぎ、扉などをキーロックして、デンジャーの部下たちを封じ込めていた。


「今のわしが出来ることは、これぐらいだが……」


 ピーピーと緊急回線のコール(呼び出し)音が鳴り響く。

 特別の音色……それは、デンジャーからのダイレクトコールだった。

 息を飲み、腹を据えて取り出した携帯端末機の通話ボタンをオンにした。


「はい。いかがなされましたか?」


『博士か。 突然、緊急ブザーが鳴り出してな。どうした、何かあったのか?』


(鳴った? 警戒機能は切っておいたのに……)と内心思いつつ、真実をある程度隠しつつ伝えることにした。


「は、はい……それが、このタワーに侵入者が潜入してしまいました」


『なに? そうか……』


 その口調は、不自然なほどに冷静だった。


『それで、その侵入者は捕まえたのか?』


「い、いえ……。今、警備の者たちに追わせています」


『ほう、そうか…。それで博士……』


「はい、なんでしょうか?」


『いつからだ? いつから、私の敵となった?』


 博士はビクっと身体が動揺し、額や背中に言い様がない嫌な汗が吹き出した。デンジャーは博士が裏切り者であると確信をもった口ぶりだった。


「な、なにを、おっしゃるのですか? わ、わしがアナタ様に歯向かうようなことは……」


 極力平静を装うも、声が僅かに震えていた。


『わし、か……。違和感の正体は、それだよ。“私”と言ったり、“わし”と言ったり。私が知るかぎり、自分の一人称というのは、そんなに言い変えないものだが……。で、博士。もう一度、問う。おまえは、何者だ? いつから私の敵となった?』


 重く冷たい言葉だった。

 誤魔化せないと察して、博士は一息を吐き、おもむろに口を開いた。


「かつて……この博士が数時間、行方をくらます……誘拐されたことがあっただろう。その時に、ちょっと細工をさせていただきました」


『細工? 本物の博士を何処にやった?』


「この身体は、あなた方が言う博士本人ですよ。この頭脳もそうです。大変、素晴らしい知能です。おかげで、こちらの研究の方でも有効に活用させて頂けました。それに、あなた方が進める完全人間計画についても、面白い情報を知ることが出来ました」


 心無い感謝の言葉に、デンジャーが軽く舌打ちしたのが聞こえた。


『……ナノマシンか。ナノマシンで博士を操った……いや、乗取ったのか』


「そこまでご存知だとは」


 デンジャーの明察に、博士は驚きの表情を浮かべる。


『フン。噂は耳をしていたが、そこまでとはな……』


「お褒めの言葉として受け取っておきますよ」


『だが、そのナノマシンを持っていたとしても完全人間がいれば、意味の無いことではないか?』


「ええ。ですから、そちらの完全人間であるティア様を、これから頂戴いたしますよ」


『フッハハハ! 別に構わん。あんな小娘ぐらい、貴様にくれてやる。と、言っても持って帰ることができればな』


「なん……!」


 デンジャーの言葉の真意を訊こうとした時、所々から大きな爆発音がし、タワー全体が大きく揺れ始めた。


「なんじゃ? 貴様、何をした?」


『“別荘”を失うのは、少々痛いが仕方ない。貴様の手垢がビッシリとついてしまっているのでは仕方がない。タワーは、貴様にくれてやる。ただし墓標としてな。貴重な完全人間も献花として贈ってやる』


 デンジャーの話している間でも爆発音と振動は止まらず、やがて博士がいる部屋も大きく揺れ始めた。


「まさか、ここを破棄するのか! これほどのものや、ティア様までも!」


『完全人間は、また探せば良い。まぁ、貴様らの所為で価値は下がってしまったが。それじゃーな、博士……』


 会話が終わると、博士は携帯端末機を勢い良く地面に投げつけた。

 端末機の破片が飛び散り、無様にバラバラとなった。


「こんなところで……」


 言い終えもしない内に、博士は爆発に巻き込まれてしまった。

 デンジャータワー全体で爆発が起きる。


 タワーに残された人々は、ナノウィルスによる麻痺が抜けきれず、扉は鍵がかかっており避難が出来ず、多くの人々が逃げ遅れ犠牲となった。

 やがて壁一面にヒビが入り、穴だらけとなったタワーは、大きく崩れ出したのであった。


   ***


「よろしかったのですか?」


 デンジャーの側にいた女性が、そう問いかけた。


「よろしい訳があるか! あの建物や設備、そして完全人間……多大な損失だよ。だが、他の者もスパイがいるかも知れぬ。誰がスパイなのか解らぬのであれば一掃した方が断然良い。それで、研究結果のデータは全てあそこに移行しているのだろう?」


「はい。博士……いえ、あの裏切り者がデータをまとめている時に、意図的に除外していたのも全て」


「そうか……」


 デンジャーはまぶたを閉じて、最低限の研究データを確保できていたことに安堵した。

 女性は落ち着いた様子で言う。


「ティアさ……。いえ、あの完全人間を本当に見捨てても良かったので?」


「仕方あるまい。あのモルモットは、ほとんど検査し尽くした。もしかしたら、ある程度の対抗策が発見されているかも知れぬ」


「対抗策?」


「完全人間の命令は絶対。その絶対である命令を聞かないようにする方法とかな。まぁ、詳しくはあの裏切り者が残した研究データを解析すれば良いことだな。それに、あのモルモットがもし助かったとしても、この汚れた世界では長くは生きられぬさ」


 デンジャーは遠くの景色を眺めつつ、ヘリコプターは地平線の彼方へと飛んでいった。


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