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アンドロイドは涙を殺す方法を知っている  作者: 和本明子
第六章 クールVSナイツ
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-1- 「遵守序列は私が最高位のはずだ! 止まれ、ナイツ!」

 デンジャータワーの最上階――ティアの部屋。

 その部屋の主…ティアは大きなベッドに横になり、寝息を立てていた。

 ナイツは警戒の為に部屋の中央に立って見守っていたが、突然ティアの安らかな寝顔が歪み始めると、忽然と目の前が真っ暗になり、その場に倒れ込んでしまった。


「ティ…ティア…さま……」


 身体は麻痺して指一歩も動かすことが出来ず、ティアの方を見つめ言葉を発するだけだった。


   ***


「……ということだ。もし、そういう状況になったら躊躇わず、やってくれ」


「ああ……。本当にそれで良いのか?」


 エレベーター内で、博士はクールにティアについて話していた。


「最悪の場合だ。もちろん途中で死んでしまったら、当然報酬は支払われない。出来る限りそうならないようにするのが、お前さんの仕事だ。それで、先ほど言った場所にバイクを隠してある。それに乗って、ティア様を送り届けてくれ」


「解ったよ」


「それと、これを耳の穴に入れておけ」


 博士がクールに手渡したのは、耳栓のような小さな機械イヤホンだった。


「なんだ、これ?」


「ティア様の声が聞こえなくなるようにするものだ。現時点で、唯一の対抗策だ」


「対抗策?」


「ティア様は特別な娘だ。誰もがあの娘の言うことを聞いてしまうんだよ」


「なんだよ、それ。何かのオカルトか?」


「良いか。先ほど言ったように、私の指示を忠実に守ることだ。それが絶対条件でもある」


「ヘイヘイ。注文の多い依頼者だとだよ……」


 クールは言われた通り、イヤホンを両耳に付ける。


「これで良いのか?」


「うむ」


「そういえば……。オレが言うのもなんだけど、ここまで用意周到なら、あんた一人でも、そのティアを連れ出せるんじゃないのか?」


「確実な方法を採ったまでだよ。これまで様々な方法を試したんだが上手く行かなくてな。結局は、こうして第三者に任せたほうが良いと行き着いたのだよ。それに私はここで残って、後始末をやらないといかないしな」


「ふーん。そうか……」


 デンジャーの依頼といい、今回の博士スパイの強奪といい、ティアという娘が貴重な存在であると認識していた。ただの人間ではないとクールも薄々感じてはいるが、ただ大金さえ手に入るのならと割り切っていた。


 そうこうしている内にエレベーターの扉が開き、デンジャータワーの最上階に辿り着いた。

 自分の顔が鏡のように反射する廊下を進み行くと、奥の方で豪華な扉が見えてくる。その扉の付近では、体格の良い黒服の男たちが倒れていた。博士は、それらに気に留めることなく扉を開け放つ。

 綺羅びやかな内装がクールの目に飛び込み「おー」と声を漏らしつつ、辺りを見渡していると部屋の中央で、また人…黒尽くめのナイツが倒れているのが見えた。


「あれもウィルスで麻痺しているのか……」


「なにをしている。早く来い」


 博士は真っ先にベッドの方へと駆けていく。クールも倒れているナイツを横目に後を追いかけた。

 ベッドの端で一人の少女が眠っていた。クールはそっと覗き込み、少女のあどけない寝顔をまじまじと直視すると、確信を持って言い放つ。


「間違いない。オレが見つけた冷凍睡眠されていた少女だ……。あれ、この子も眠っているけど、これもウィルスでか?」


「いいや、ティア様は純粋な……」


 博士は言いかけた言葉―完全人間―を飲み込んだ。そのことは、名も無きトレジャーハンター(クール)如きに、別に明かさなくても良いと判断したのであった。


「いや、ただ単に眠っているだけだ」


 そう答えた後、ティアの肩に触れ優しく揺り動かした。


「ティア様、起きてください」


「う……んっ……。え、博士……どうした…の……?」


 ティアは寝ぼけ目で博士を見た。寝起きでハッキリと目覚めていないからか、現状の把握が出来ないでいた。


「ティア様、大変申し訳無いのですが、賊なる者に侵入されてしまいました。危険ですので、急いで安全な場所へ避難してください。案内は、この者がいたします」


「え……」


 博士が促した先に、バンダナを巻いた見知らぬ男性クールの姿があった。

 ティアの視線と合ったクールは、何気なしに挨拶がてらに片手を挙げたが、その行動にティアはビクッと身体を震わせた。


「ご心配無く。信用出来る者です。彼がティア様を外へと連れて行きます」


「やだ! ナイツがいい! ナイツは? ナイツはどうしたの?」


「残念ながらナイツは……」


 ナイツは昏睡し倒れており、使い物にならないと話そうとしたが、


「ナイツ!」


 ティアが叫んだ。博士が振り返り、クールも遅れて後ろを向くと、黒尽くめのナイツが足元はおぼつかずフラフラと立ち上がっていたのだ。


「てィ……ティあ…さ…ま…」


 ナイツは足と同様に震える声で呼び答え、ゆっくりティアの元へ近づいていく。


「バカな。もう動けるだと……」


 思わず声を漏らしつつ、博士はハッと口を手で防いだ。


「ナイツ!」


 ティアが叫んだと同時に、クールは砲銃をナイツに向けて引き金を引いた。

 撃ち放たれた弾丸がナイツに直撃すると、爆撃音と衝撃が部屋中に響き、ナイツは後方へと吹き飛んだ。


「これで良いんだろう?」


 ナイツを敵だと判断した、クールの咄嗟の行動だった。

 呆然とするティア。

 だが事態を把握すると、


「ナイツ! 大丈夫なの!」


 ナイツの元へ駆け寄ろうとしたが、博士に止められる。


「いけません、あれは危険です」


「離して! ナイツが!」


 その言葉に、博士はティアを掴んでいた手を離してしまった。

 ナイツの元へと駆けていくティア。

 しかし博士が声を上げる。


「クール! ティア様を捕まえろ!」


「たくっ、何やっているんだが」


 クールは言われた通りに、ティアの腕を強くつかみ捕まえた。


「離して! 離して! ナイツが!」


 ティアがジタバタして叫ぶものの、クールはさっきの博士みたいに手を離さなかった。

 クールにはティアの声が聴こえていなかった。博士から渡されたイヤホンをしていたからだ。そのお蔭で、ただティアの口がパクパクしているだけだった。

 藻掻くティア。だが、小さなティアの力ではクールから抜け出せなかった。

 悠長にしてられないと博士はクールに言う


「早くティア様を連れて、ここから出ていくんだ。脱出経路は言った通りだ」


「あんたはどうするんだ?」


「気にするな。私は、ここに残って後始末をする。おまえさんは無事、ティア様を丁重に扱って、あの場所へ無事に届けてくれ。報酬はそこに居る者から受け取れる。さぁ、急いで行くんじゃ!」


「わかったよ! ほら来い」


 ティアの手を引っ張るも抵抗し、その場から一歩も動こうとしない。

 すると撃たれたナイツが立ち上がったきた。直撃を食らったにも関わらず、大したダメージを受けていないようだった。


「ナイツ!」


 ティアが大声で呼ぶと、ナイツはフラフラになりながらも歩き出す。


「ティア…さま……」


 クールは「チッ!」と舌打ちをすると、ティアを乱暴に脇に抱えて部屋から出るとエレベーターへ向かい、ナイツも後を追いかけていく。


「ナイツ、待て!」


 博士が呼び止めるも、ナイツは無視する。


「遵守序列は私が最高位のはずだ! 止まれ、ナイツ!」


 博士はナイツを静止させるために肩を持つと、反射的にナイツは裏拳繰り出した。

 重い衝撃が博士の顔面を奔り、意識が飛んでしまいそうになり、膝から崩れ落ちた。

 そしてナイツはティアたちの後を追っていき、博士はその姿をただ見つめるしか出来なかった。


「早く開け、このポンコツ!」


 弾丸を喰らっても損傷与えられない相手ナイツがやってくる恐怖心から、エレベーターの開ボタンを連打しているクール。何秒の待ち時間が、何時間にも感じてしまう。

 扉が開くと、ティアを抱えたまま中に入ると同時に閉ボタンを押した。

 だが、閉じていく先でナイツが扉に向かって跳躍し、完全に閉まる直前……僅かな隙間に、ナイツの伸ばした腕が挟み込んだ。

 扉の安全装置が働き開いてしまうが、クールは砲銃をナイツに向けていた。


「邪魔だ!」


 撃とうとした瞬間、


「ダメッーーーー!」


 ティアがクールに飛びかかり、射撃の邪魔をしてきたのだ。

 その所為で狙いがズレてしまった状態で引き金を引き、放たれた弾丸はナイツの左足に命中し爆発した。

 近距離のため爆風の衝撃がティアを襲い、エレベーターの壁に叩きつけられて気絶してしまった。しかし、ナイツを扉から離すことに成功した。

 ティアを心配する間もなく、クールはすかさずエレベーターの閉ボタンを押し、扉を閉じた。

 今度は邪魔されずに扉は確実に閉じて、下へと移動し始めた。


「ふぅ~。ウィルスとかで眠っていたんじゃないのかよ、アイツは……。とにかく、このお嬢様を……ゲッ!」


 落ち着いた所で、ふと隣を見るとピクリとも動かない倒れているティアを見て、サーと血が引き嫌な汗をかくクール。

 慌ててティアの身体を起こし、声をかける。


「お、おい……大丈夫か? ん?」


 ティアが小さくも息をしているのを確認する。

 それに安堵しつつ、貴重なお届け物を丁重に扱うべきと、改めて決心したのであった。


 粉塵が舞う中、砲撃を受けたナイツはゆっくりと立ち上がり、辺りを伺う。

 もちろん、自分が守るべき存在―ティア―を探していたが、どこにもその姿は無い。

 まだ完全に痙攣が回復しておらず、ぼやけた思考ながらも自分がやらなければいけないこと……ティアを守るという考えで一杯になる。


「ティア…さ…まを…ティア、さまを……」


 ティアを見失った場所……エレベーターへとと足を動かしていき、扉をこじ開けると、ためらわずに昇降路から飛び降りていった。

 その光景を伺っていた博士。


「ナノマシンウィルスの麻痺があるのにも関わらず、あそこまで動けるとは……。それほどまでに完全人間の威は強力ということか。だからこそ、ティア様がこの世界を平和に導けるはず……」


 ティアとナイツ――今までの二人の関係を当然把握している。ティアがナイツに特別な感情を抱いているのは、薄々感じとっていた。ただ、それは完全人間パーフェクトヒューマンによる命令の所為でもあると推論したが、引っかかっていた。


「それとも、ナイツにインストールした、あの映像も影響しているのかも知れないな……」


 冷凍睡眠されたティアの解凍作業をしていた時に、一つの動画データを見つけていた。

 その後、動画データを解析したところ、ある男性のダイイングメッセージだったのである。


 その男性は、ティアに関わりがある人物で、しかもナイツに似ていた。

 博士は試しにと、ナノマシンを用いてナイツに映像をインストール……ナイツの海馬に焼き付けたのである。

 それから、ティアと接するナイツが普段よりも落ち着いた態度となるなどの安定効果が有った。


「おっと、こうしてはおれん。デンジャーが戻ってくる間に後始末をせんとな。ナイツがあの状態ならば、なんとか逃げ切れるだろう……ティア様の方は任せたぞ、クール」


 そう呟きつつ、破壊されて使用不可となったエレベーターではなく、壁の方に向かい、手さぐり始めた。

 壁から隠し扉が開き、中にあるボタンキーを入力すると部屋に隠されていた非常階段が出現した。博士は、そこから降りていったのであった。


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