-3- 『ちょっと特別な弾丸だよ』
「街の地下に、こんなのがあるなんてな……」
暗闇の通路をクールは明かりも点けずに進んでいく。クールの目は機械改造しており、こういった暗闇の場所でも視界を確保できているのであった。
前に潜入した研究所の地下通路よりも横幅は広く、天井が高かった。かつてここは電車が走っており、地下鉄道という公共機関であった。
それが今では天井からなどから崩れ落ちてきた破片が雑然としており、所々は無残な壊れている。
ちょっとした衝撃が起これば、今にも天井が全て崩れ落ちてきそうなほど、ボロボロであった。
そんな所を、なぜクールが一人歩いているかというと、依頼人からこの場所で待ち合わせの指定を受けていたからである。
***
『シックスツリーポイント? なんだ、そこは?』
聞き慣れない地名にクールは首を傾げると、義眼の男は呆れた表情を浮かべる。
『勉強不足だな。かつて、この街にあった地名の一つだよ。そこの駅で依頼人が待ち合わせとのことだ。場所は地図をダウンロードしておけ。ああ、もちろん暗号付きだからな、後でプロテクト解除コードを送るよ。そこで依頼人のDという人物に詳しく聞け』
***
などと、情報屋のおやっさんとの会話を思い出していた。
「しかし、まだ着かないのかよ?」
クールが地下通路に入ってから、かれこれ一時間ほど辺りを警戒しつつ移動していた。単調な一本道が続いているのもあり、疲労をより感じていた。
「結構距離があるんだな。ふぅ……」
先ほど説明した通り、ここはかつて地下鉄道として利用されており、この街のランドマークであったデンジャーが住むタワーまで線路が続いているという。
この通路を進むことは、自ずとデンジャータワーへと近づいているということになる。先へと前進している中、クールは“違和感”を感じていた。
「しかし、ここまでやってきて何も無さすぎるんだよな……」
一息を入れ、休憩をしようとカバンの中から水筒を取り出そうとした時だった。
――キュラキュラ
奥から怪しげな音……キャタピラー音と共に何かを砕く破砕音が響いてきた。
クールは、その音に気付くと素早く近くに建っていた柱に身を隠し、砲銃を手に取った。
様子を伺っていると、次第に音が大きくなり、音の正体が見えてきた。
それは戦車型コンパクトロボットだった。
全長は成人男性二人ほどの大きさ。足はキャタピラーで小回りが利き、どんな悪路でも進んでいける。その上にボール型の胴体が設置されており、腕のようなものとして、右にはロケット砲、左にはマシンガンらしきものが付けられている。
「完全なロボットタイプだな……。しかし、なんであんなものがこんな所に……まさか!」
クールの脳裏に“罠”なのではと推察してしまう。
戦前に冷凍睡眠された人間は貴重な存在だと知れ渡っている。もし、デンジャーが冷凍睡眠された少女の存在している者を呼び寄せようとしている……というのも考えられる。
「どうする?」
このまま目的地には行かずに戻るべきかと考えていると、戦車型ロボットの左腕に備えられているマシンガンから銃弾の雨が撃ち放たれた。
「な、なんで、撃ってきやがったんだ!」
戦車型ロボットのカメラアイに搭載されているサーモグラフィーでクールの体温を感知し、不審者として反応したのである。
銃弾の雨が止むと、今度は右のロケット砲からミサイルを発射してきた。
「いっ!」
ミサイルはクールが身を隠した柱に直撃し、大爆発を起こす。
大きな爆発音と共に衝撃が炸裂――だがクールは、すかさずその場を離れ、新しい避難場所を求めて後ろへ駆け出していた。
しかし、戦車型ロボットは見逃さない。
キャタピラーの鉄輪が動き出し、クールを追いかけてくるもスピードは低速で、速度はクールの足の方が勝っていた。しかし、大小の破片が辺りに散乱していて、走り難い道となっており、足を取られ思う通りに走れなかった。戦車型ロボットは、逃げ惑うクールを狙ってミサイルや銃弾を容赦無く撃ち放ってくる。
そんな中ジグザグで走っては、散らばっている破片の影などに隠れては、運良くかわし続けていく。
かと言って、背を向けて逃げているだけではなく、
「くらえっ!」
時々反撃に出て、手にしている砲銃を撃ち放つ。
クールの弾丸は真っ直ぐ追いかけてくる戦車型ロボットに見事命中するも、装甲は硬く大したダメージを与えられてはいなかった。
「やっぱり、普通の弾丸じゃダメか……うわっ!」
クールの横をミサイルが掠め、着弾すると爆発の衝撃と爆風の煽りを受けて吹っ飛ばされてしまう。
「くっそ……」
どこからともなく軋む音が響き、クールは青ざめる。
「おいおい、こんなところでドンパチしていたら崩れるぞ」
しかし、落盤の危険もお構いなしに戦車型ロボットはミサイルなどを撃ちまくる。
「早くなんとかしないと、あいつ共々下敷きになっちまう……でも、どうする?」
音速以上の弾丸やミサイルが襲ってくる状況下――ゆっくりと考える時間は無い。何としてでも、あの戦車型ロボットを止めるしかないのだ。
「まてよ。おやっさんから貰った……」
逃げつつも、カバンの中から一発の弾丸を手に取ると、走馬灯の如く、おやっさんから貰った時の記憶が駆け巡る。
***
『代金はまけられねぇが……オマケを付けてやるよ。ほれ』
おやっさんは目の前の机に一発の弾丸を置いた。
自分が愛用している砲銃の規格弾丸である。
『なんだ、これ?』
『ちょっと特別な弾丸だよ』
『特別?』
『ああ、それはな……』
***
クールは手にした弾丸を砲銃の薬室に装填し、すぐさま銃口を戦車型ロケットに向けた。
「くたばれっ!」
発声と共に銃声が響く―――
撃ち放った弾丸がロボットに着弾すると、モチ状の物質が広がり覆った。粘着性の物質でベトベトに絡まったロボットは身動きが取れなくなり、やがて静止してしまった。
クールの砲銃の特徴として、普通の弾を撃つ弾丸から、高圧のガスを噴射する弾丸など様々な効果を持つ弾丸を撃てるのであった。
「スッゲー、これほどとは……。おやっさんが、相手の動きを封じる弾とか言っていたけど……」
注意しつつゆっくりと戦車型ロボットに近づきながら、新しい弾丸を銃に詰め込む。
そして、銃口をロボットのアイカメラに密着させると、容赦なく引き金を引いた。
外す訳が無い、ゼロ距離射程。
これほど密着かつ弱い箇所を狙い撃たれれば、傷一つぐらいつけられる。それに砲銃に装填されている弾丸は、手持ちの中で最高の破壊力を持つ弾丸だ。
弾はロボットのカメラにめり込み、内部にて爆発を起こした。
戦車型ロボットの上半部は吹っ飛び、完全に沈黙したのだった。
自分の勝利を確信し、
「へっ、どんなもんだ!」
クールは自慢気に言い放ち、恨みを晴らすかのように残った下半部を蹴っ飛ばしたが、「あ痛っ!」と装甲は思った以上に硬く、返り討ちに遭ってしまった。
つま先に響く痛みにもがく。
暫くして鎮静してきたところで、これからどうするか思案する。
「どうする。このまま引き返した方が良いんじゃないのか?」
今までの経緯……先ほどの襲撃によって、今回の呼び出しが罠である可能性は高まっていた。
だけど、これまでの経緯があったからこそ憤りを隠せず、引き返したくなかった。
「一度ならず二度までも、オレを騙しやがって……」
鬱憤を晴らすがために思いっきり一発ぶん殴ってやると決心し、当初の予定通り目的の場所へと向かったのだった。