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第2話:決意

黒雨はくろさめ、と読みます。

 「情報感謝します。情報料として後日、これくらいの金額を口座に振り込んでおきます」

 見たことも無い漆黒の金属で出来た剣を腰に携え、顔に幾つもの傷跡があるいかにも強そうな男性が健一と綾乃に資料を見せた。


 場所は対新人類特殊警察の支部。

 黒雨が逃げた後、目撃者として対新人類特殊警察の人に支部まで連れていかれた。

 黒雨の事を聞かれ、健一と綾乃は躊躇いもなくすべてを話した。何故なら黒雨は親友ではなく、人類の敵なのだから。


 そしてすべて話し終えた健一と綾乃に差し出されたのは、金額が書かれた一枚の紙。

 そこに書かれているのは、

¥10,000,000。


 一千万円である。一人につき一千万円。たった情報を教えただけで、だ。どれほど新人類に対して人類が憎んでいるか分かるだろう。


 (な、なんだよ。この金額……!!これがあったら数年は税金が払える!!)

 健一の心のはで嬉しい気持ちで溢れていた。

 これで数年は母親と一緒に安全に過ごせる、と。


 先ほどまでの親友だった黒雨への罪悪感は無い。

 (あいつは俺を騙してやがった。あいつは俺の敵、人類の敵だ!)




 一方、綾乃にも罪悪感は無かった。

 (人類を餌として殺す新人類なんて存在していいはずが無い)

 綾乃も自分を騙していた黒雨が憎かった。もし自分が食事の対象として見られていたら、と思うとゾッとした。


 ((黒雨は、新人類は、人類の敵だ))

 健一と綾乃はそう心に刻んでいた。





1




 (何であいつらを助けてしまったんだ……()だけなら逃げられていて事故にも合わず、自分の正体を知られなかったのに!)


 床や壁、天井がすべてコンクリートで覆われた薄暗い部屋のベッドで黒雨は頭をかきむしっていた。

 美しい銀髪は乱れボサボサになり、服は事故の影響でボロボロだ。


 (俺は……自分の正体を知りたくなかった………!!)

 

 黒雨は健一に綾乃、通行人に言われるまで自分が何者か分からなかった。

 だが、親友だった(・・・)2人を助けてしまったばかりに……、黒雨は自分が新人類だということを知ってしまい、あまつさえ命を助けた2人にまで裏切られた。(何で俺が新人類ってだけであんな敵意をむき出しにして殴りかかってくるんだ)


 黒雨は健一の行動を思い出しベッドを殴りつけた。

 ドンッ!!

 ある程度弾力がある布団を殴ったとは思えない音がして、布団は骨組みのベッドと共に拳大の穴が開いた。


(……身体能力が高くなっている?)


 今まではそんなこと無かったのに、と黒雨は穴の開いたベッドを見ながら呆然とした。あの事故で自分を縛っていた何かが解放されて再生力、身体能力、共に人類では考えられないほど上昇している。


(俺に何が起こっている?)

 

 黒雨は混乱しながらも考えることを続けた。


(あの事故で俺は新人類になった?いや、違うな。

 あの事故のせいで人類に偽装していたのが解除された?)


 その考えは概ね正しいと言えるだろう。黒雨はあの事故で偽装が解除され、驚異的な回復力と身体能力が、元の新人類と同じに戻ったのだ。


(俺は何で新人類なんだ?俺の親は誰なんだ?)


 人類には新人類がどうやって誕生するか解明できていない。

 新人類の誕生はもしかしたら人類のように性交を行う事でできるのかも知れないし、自然と発生するのかも知れない。

 それが人類に解明出来ない理由は一つ。新人類を捕らえる事が出来ないからだ。

 捕らえられれば尋問や解剖で何か分かるかも知れないが、新人類は死亡すると未知の金属に変化するため、体の構造が調べられないのだ。



(今まで親友だったのに、命を助けたのに、普通に暮らしていたのに……)

 たった、俺が新人類だと分かっただけで裏切り敵意をむき出しにするなんて、と黒雨は心の中で叫んだ。


(憎い、裏切って俺を捕まえようとする奴を呼んだ親友が憎い。裏切って俺に殴りかかった親友が憎い。新人類だと分かっただけで敵意をむき出しにする人類が憎い!)


 穴の開いたベッドから降り、コンクリートで覆われた壁を殴る、殴る、殴る殴る殴る!


ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドッドッドッドッドッドッ、ドカンッ!!


 新人類特有の身体能力に身を任せ、黒雨は拳を壁に打ち付けた。何度も何度も。

 驚異的な身体能力で繰り出される拳はコンクリートの壁を少しずつ削っていき、最後の一撃で大きな音をたて、大きな穴を開けた。



 黒雨は拳が皮が擦り切れ骨が折れるまで殴ったにも関わらず、瞬時に回復し息もあがっていない。


 「なるほど、新人類が恐れられるわけだ」


 黒雨は自分の驚異的な体を理解し、呟いた。

 その後、黒雨はうつむき少し考えると頭を勢いよく上げた。


 「今の人類の考え方を変えないといけない……」


 裏切られ憎んだ、偏見を持つ人類を、黒雨は変えるため頑張ろう、と決意した。


 それが、人類と新人類の運命を大きく変える一人の少年の決意だった。




2



 「目が覚めたか?」

 黒雨の背後に音も無く現れたのは[デスオアデッド]の戦闘員第3位魔犬のフェルズ。


 「あぁ、あなたですか。先程は助けていただいてありがとうございます」


 黒雨は驚きもせず助けられた事へのお礼を言った。

 

 「驚かないのか?」


 フェルズの言葉はもっとだ。なにしろ薄暗い部屋の中でいきなり背後に現れられたら、驚かないほうがびっくりである。


 「何か、気配のようなものを感じましたし」


 そう、黒雨は第六感のようなものでフェルズが現れたのを感じていたが、あえて気づかないふりをしていたのだ。


 (身体的な変異に続き感覚までもが……)

 黒雨は自分が新人類だという事を新ためて理解した。



 「そうか、ああそうだ。先程じゃ無い。2日前、だ」

 と、フェルズは少し言いにくそうに言った。それは黒雨への気遣いでもあり、自分の気配隠蔽を破られた驚きを隠すための言葉でもあった。



 「2日も()は寝ていたのですか?」

 黒雨の言葉にも表情にも驚きは無い。

 裏切られたショックで黒雨の感情が無くなりかけているようだ。


 「そうだ。それよりお前にこれからどうしたいかを聞きたい」


 フェルズは真剣な表情に切り替え、黒雨を見つめ言った。


 「そう、ですね。今後のために力を付けたい、です」


 黒雨は人類が新人類に持つ偏見を直すとい目標のためには、まず力を付けるのが優先だと判断し、そう答えた。


 「そうか、ならお前は[デスオアデッド]に入れ。そうしたら戦闘訓練や実戦も出来るからな」


 「……分かりました。これからよろしくお願いします」

 黒雨は少し考えた後、フェルズに頭を下げた。

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