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旅立ちの前に

お久しぶりです(デンドン)


「よろしくお願いしますね?」

 一国の姫だというのに、彼女は俺たちにあいさつをしてくる。

 なるほど、こういう女の子があの魔王陛下は好きなのかと思う。

「いえいえ、これが仕事ですから……」

「しかし、あのお方もこんな短時間で二人も用意できるなんて、人徳がおありなのね?」

 俺たちは苦笑する。

「いえいえ、あのお方は私どものことを最近まで知りませんでしたよ」

 姫様が声を上げる。

「はは……私たちの祖父が彼に仕えろ……そういったので、あのお方の元に行ったら快く迎えてくれましてね?」

 彼女は首をかしげている。

 大方、あのお方が適当な人選をしたと思ったのだろうか?

「まぁあのお方は、貴方のみに何かあればすぐ逃げ帰ってこい俺が出るからと言っておられましたけどね?」

 弟がゆっくりと近づいてくる

「あのお方なら大丈夫ですよ、姫。姫のことを誰よりもよくお考えになっていますからね?」

 出会って間もないのによくそこまで信用できるなこいつは……

「ふふ、まぁ兄貴も理由だけならわかると思うよ?」

 そういう弟に向けて、姫様は不思議そうな顔をしている。

「行きますよ?」

 フレイトがそういい、俺たちは馬車へと乗り込む。

 俺たちはまだこの時理解していなかった……この旅が魔王を終わらせるために仕組まれ、魔王が利用した計画だとは……

 この時の俺たちは無知だったのだ……



「……魔人の受け入れも終わったか」

 俺はため息をつきながら、紅茶を流し込む。

 ここ一ヶ月で行ったのは、町のあいている家の確保と、新しく森を切り開き簡易の壁を作って安全性を確保した居住区画だけだった。

「助かったのは魔人に、俺のミニチュアの魔法が伝わっていたことだな」

 町を護る壁を増築しないといけないので、居住する家の建築までは手が回らなかったのだ。

「……魔人の皆さんには防壁の建設を依頼するとしてだ」

 国王陛下からの手紙を開ける。

「ほぅあの姫さんが、教皇国に向けて出発したとはな……そろそろ俺も……」

 扉がノックされ、執事長が入ってくる。

「旦那様、旦那様にお客人です。相手方は貴族ですのでどうしましょうか?」

 俺は静かに分かったと答えると立ち上がる。

「応接室に通しておいてくれ、俺は来客用の服装に着替える」

「わかりました」

 さて誰が来たかは大体わかってはいる……さっさとお引き取り願おうか……

 小さくつぶやくと悪趣味に見える服に手を伸ばし、ゆっくりとそれを着込む。

 応接室に行くと、小太りの男が座っていた。

「ラトリシア伯爵……お久しぶりです」

「おぉ、アルバート!!陛下の手紙に書いていたことは……」

 俺は魔剣を呼出し、ラトリシア伯につきつける。

「爵位が上の者に対して無礼だとは思わん?ラトリシア伯よ」

 かつて父親だったものにそう告げる。

「貴様、私はお前の父だぞ!!」

「私はアルバート・フォン・フィーリスだ。ラトリシア殿……たとえ貴公が実の肉親だとしても、立場の差は変わらぬよ。それが陛下から拝命した名と位ならなおさら……貴公は陛下の決定に唾を吐きかけるつもりか!!」

 俺はそういうと、ラトリシア伯は目を細める。

「何かの間違いであろう、馬鹿な真似はやめて……」

「……忙しいときに面倒事を起さないでくれラトリシア伯……イラついて口調が崩れてきてるからこれが最後通告だと思え。貴族の誇りを穢された、ゆえに攻め入るは貴族の常識だろ?」

 剣を床に突き立て睨みつける。この男の姿はどこまでも俺をイラつかせる。

「帰れ!!文句を言うのなら陛下に直接言ったらどうだ?ラトリシア伯!!貴公は優れた貴族なのだからな!!」

 そういいながら、応接室を出ると、執事が耳打ちしてくる。

「一組旦那様にお会いしたいというドワーフが……」

「ドワーフが?俺の執務室に通してくれ、そうだな何飲むか全員に聞いて最高のおもてなしをしろ」

 来客用の服を脱ぎ捨て、いつもの軽装に着替える。

「やぁ待たせてしまってすまない」

 平均身長130cmの男性は異様に筋肉質のずんぐりむっくりで、女性は子供のような姿をした種族たちが座っていた。

「貴方がアルバート様ですか?」

「様はいらん、アルバートと呼んでくれ土の精霊の友よ」

 俺は右手を差し出すと、代表者らしきドワーフが俺の手をしっかりと握る。

「この集団の代表フュンレフです」

 白いもさもさっとした髭を蓄えたドワーフを見てゆっくりと笑う。

「よろしくフュンレフ。今日はどういった?この町の入植者ということならうれしいんだが」

「えぇその入植に関して、なんです」

 ほぅ……それは何とも、土を総べてあらゆる鍛冶に精通したドワーフとなれば多少無茶しても引き込む必要がある。

「私どもは90年前からこの団体で数年おきに土地をうつりかえて鍛冶屋を営んできました。ですがやはり人の敵意は少し子供には辛いものがありまして……」

 なるほど、そこで俺が他種族との街を作ろうとしている話を聞きつけたというわけか。

「そういう話ならば歓迎するよ。ご希望ならば、しっかりした鍛冶場も作ろう。それ以外でいるものはあるかい?家はこの人数なら空き家があるそこに入ってもらえばいい」

「ありがとうございます。ご厚意に甘えさせていただきます。私どもであなたの力になれることは?」

 ふむ……本当はないと言いたいところだが、いろいろと面倒なことがあるんだよなぁ。

「では、男手は町の増築の手伝いをしてもらいましょう。町の住民は喜んで手伝ってくれていますが、多分今後もっと人口が増えるのでね?」

「解りました、喜んで」

 彼等が出て行ったあと、俺は椅子に腰かける。

「……ドワーフ族か……計画が早めにすみそうだ」

 ちらりと試作段階の量産製紙に書かれた設計図を見る。

「日本の様な精度の高い製鉄技術と、鋳造技術があればな……型取りの技術も欲しいなぁ……これを完成させるのに何年かかることやら……」

 苦く笑うと、ゆっくりとため息をついた。



「んーやっぱり、他種族がおおーいでーすねー」

 昔来た時と違い、この場所は活気あふれた街となっており時折、人間の姿が見える。

「……教団的には異教徒とか悪魔とかいわれそうなこーいでーすねー」

 正直、今の僕は殺すことにしか興味ない……

「勇者とここに来た時のことを、おもいだしまーすねー」

 最後に来たのは魔国が負けてすぐの時だった。

 六人将のうちの二人が必死になって異種族をまとめていた廃都に来た勇者は自分がこの国の王となると言ったことを思い出す。

「あの時は、何考えているかわかーりませーんでしーたーがー」

 いやはやこんなものを見てしまうと、あの人の理想も悪くはないと思ってしまいますね。

「しーかーし、僕はしーごとでー来ているーわーけでーす」

「わざわざ死にに来たの?イモータル!!」

 その声ににやりと笑う。

「お久しぶりでーすーねー?ネルフィー80年ぶりでーすーかー?」

 僕は笑いながら振り返ると、そこにいた一騎当千とまで言われた魔人の女性を見る。

「何しに来たの?攻め込みかしら?後そのうっとおしい喋り方やめなさい!!」

「わかったよ。いやー教皇命令で初代魔王が復活したって聞いて、ここにいるんじゃないかなーって偵察?あわよくば暗殺?」

 仕方ないので、先ほどまでの喋り方を引っ込める。

「初代魔王陛下はたしかに復活したわ。でも、ここにはいないわよ?」

「……なーんだ?じゃぁ罪人の首10つもらって言っていいか?教皇国相手に殺しに飢えた狂人っていうスタンスでとうしてんだ」

 現在でも教皇は俺に過度な干渉をしてこない。

「ということは勇者も現れるわけか……先代勇者だったら俺は何もしないが……これが他の勇者だった場合……」

「どうして初代勇者にこだわるの?」

 僕は笑う。彼女はあの人の何を見てきたのだろうか?聖女よりも気高き、女神よりも美しい彼女の……

「勿論、最初の正義は彼女だけのものだからさ……僕はね?ネルフィー彼女以外の正義を正義とは認めないんですよ。たとえそれが神が正義だと言ってもね?」

 たとえそれが自分の身を削る結果になったとしても。

「イモータルと名乗り始めたその日からそう決めているんです」

 モータル……死すべき運命を否定するイモータルとして生きると決めた80年前のあの日から。

「今代の魔王に逢いたいんだがいいかな?」

「はぁ、案内するわ。一応罪人の首を貴方に上げるわ好きに使ってちょうだい。後こちらから教皇国に対して抗議文も入れておくわ信憑性を高めるためにね?」

 助かると、小さくつぶやくといいのよと彼女はつぶやき、先導して歩き始めた。

 王城内に招かれると、そのあまりない装飾に驚かされる。

「あーあの国にいたから僕の感覚がマヒってますねー」

 信者からの支援で建てられた建物は、過度な装飾に加えてありえないほどの大きさを誇っていた。

 だが魔国の城は機能を重視し敵の侵入経路を極端に絞る形で設計されているのっだ。

「……この城は初代魔王の時から変わってないなぁ……」

 あの時の城もこんな感じだった。

 懐かしい謁見室に足を踏み込むと、そこには今代の魔王が座っていた。

「よく来た母のご友人よ……」

 その言葉を聞き、僕は目を見開くとともに80年前に見た彼の成長した姿に少し感動する。

「あの時の子供か……大きくなった……」

 その言葉に、今代の魔王は少し微笑む。まるで、我が子を見る父親のような顔で。

「懐かしいですね?あの時は私自身あなたのことを誤解してましたよ」

「あぁ誤解し続けてくれた方が楽だったのに……いやまぁいいんだが」

 それから、昔話に花を咲かせることになるのは別の話だったりする。



「おう、エリク久しぶり」

「突然呼び出して、なんなんです?」

 魔人の男、エリクを見て俺は苦く笑う。

「いや、お前に俺の留守の間ここの管理を頼もうかなと……」

 俺の装備は旅をする旅人の装備ではなく、ただありふれた軽装だった。

「ちょっと教皇国までな……カチコミに」

「……それを素で言っていますか?」

 苦笑いしながらその言葉を肯定する。

「あぁ、ちょっと野暮用がな……」

 俺は剣を担ぐ。

「俺なんかよりガゼクノド様……」

「あーあいつはだめだ、次の世代であるお前じゃないとな?何かあったらこいつで連絡してくれ、すぐに帰る」

 10枚の術符渡すとにっこりと笑う。人間の寿命とこいつらの寿命は違う、国柄的に俺の息子や孫の代までこの計画は続いていくだろう……それを教え導く役目がいると思っているから彼に頼んだのだ。

「通信符だ。簡易通信だったら余裕でできる。んじゃ頼んだよ」

 俺はあわてて走り始める……すべてが終わってからじゃ遅すぎるのだ……

 そう……俺が愛し託したはずの彼女が死んでからでは……

 あの子が俺の前に現れ、あの腐った神に逢いたいと言った時から、俺はこうすることに決めていた。

 あのストリンジェンドがよこした子供達が居なければ、自分の力で人間を創造し俺の代わりに送り込む予定だった。

「しかしまぁ……」

 俺は内心苦笑する。

 あの戦争で魔国が負けた理由が、魔王が一人の少女を愛し、国を愛した結果だというのだから笑える。

「まぁ予定は変わったが、彼等ならあいつぐらいは連れ出せているだろ……」

 だがまぁ……

「今回はしっかりと手をつかんで、引っ張り上げてやる!!人間が作った正義という妄想に溺れさせる前に!!」

 確かな信念のもとに、俺は歩み始める。今度は間違わないように……今度は手放さないように。

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