従者の武器
ただいま(デデドン)
「君たちが殿下の護衛をするためによこされた人員ね?」
俺たちの前に、いきなり騎士の甲冑を着た女性が現れる。
「あぁ、アンダンテとグルーヴだ。貴方は?」
「あぁこれは失礼、私は王立騎士団所属殿下直属近衛騎士フレイトです。よろしくお願いします」
差し出された手を握り、俺はゆっくりと笑う。
「よろしく、しかしフレイトさんは一体何の用で?」
「殿下直属なのですが、貴方達を街へ案内するようにと陛下に申し付けられてね?」
ほぅ、まだ謁見もしていないが、あのお方の影響力はすごいものがあるな。
「……貴方方は一体?」
「話せば長いから、さっさと武器を買いに行こう」
王都に出ると、人が大量にいて、めまいがおきそうになる。
「来た時も思ったが人ってこんなにいたんだなぁ」
「田舎の方の出身ですか?」
俺等はその言葉に苦笑いを浮かべる。生い立ちと、今までの生活考えたらどこの出身かわからないからだ。
「いや、獣人や魔人の集落を転々としていた。親父もおふくろも死んじまってな……」
「よく無事でしたね?」
確かに人間を敵視していた連中は多数いたが、命の危機があったとは思えなかった。
「まぁ祖父が有名な方だったんでね?」
「有名な?」
問いかけにうなずくと、グルーヴが口をひらく。
「進撃のストリンジェンド……たった一人で、先陣を切り魔族側の前線を引き上げた英雄……」
「魔王軍唯一の人間の将……というか、生きていたのですか?」
俺は苦く笑う。あれから90年はたっている。普通の人間ならば、まず間違いなく生きてはいられないだろうが……
「ちょっと前にくたばったけどな、あの爺さん……」
そんなに珍しいことなのだろうか?魔族や異種族につく人間というのは……
「ん?どうした?」
彼女は真っ青になりながら、俺たちのことを見ている。
「……いえ、本当に人間だったんですか?人間の寿命を超えてますけど?」
「あぁ、それもあやしいが俺等は人間だし、親父らも刺されりゃ死んだしなぁ……どうおもう?グルーヴ?」
俺はグルーヴに話を振ると、彼は目を細めた。
「あの爺さん、実際のところ半分化け物だから、初代魔王陛下の力を分け与えられて生きていた云々つってたからなぁ……種族人間だろ」
……死ぬ直前まで俺ぼこぼこにされた記憶がよみがえったんだが……
「ここが武器屋よ。ところで、二人はどんな武器を使うの?」
俺はゆっくりと笑う。
「俺は近接武器はある程度、射撃武器は7割当たる程度、そしてそれらの武器を用いるより素手の方が強い」
グルーヴはたしか……
「たいていの遠距離武器と、大鎌ですね俺は兄貴とは違い魔法が使えるので発動媒体が埋め込まれた武器ならなおさらいいです」
そういえば、こいつ魔法も使えたよなぁ……俺はからっきしだけど。まぁ肉弾戦の才能は俺が保持しているわけだし、どっこいどっこいなんだよなぁ。
そういいながら店内に入り、武器を見る。
「すごいな」
「ん?兄さんら武器屋は初めてか?」
店主がそういってくる。
「うん……?あぁ、なんでこんなに見てくれだけの粗悪品を表に出してんだ?」
そういいながら、樽の中に無造作に突っ込まれた剣を握りこれいいなとつぶやく。
「ほぅ、兄さん解かるのかい」
「解る。つか……わざとだろ?」
そう笑いかけると、店主が苦笑いを浮かべる。
「店内に入ってきたときの問いかけする前から理解していただろ?」
それもそうだなと思いながら剣を一振りを店主の前に置く。
「こいつをくれ」
「上質な弓ってあります?」
グルーヴがそう店主に尋ねる。
「弓だけでいいのかい?」
「この通り」
魔力で編んだ矢を取り出し、グルーブは笑う。
「あぁあと、発動媒体が埋め込まれた大鎌……それがあれば完璧です。鎧は適当に籠手だけ見繕ってください」
しっかりと防具だけは主張するところはさすがは俺の弟だと思う。
「フレイトの嬢ちゃん……面白い二人を連れてきたな」
フレイトは声をかけられ、微妙な顔をしている。
「彼等は王城の客人なんですが……」
「あ、わるい。俺も籠手とやっすい剣それから人を殴り易そうな籠手用意しておいてくれ」
◇
「およびでーすかー?教皇陛下」
ニタニタした笑いを浮かべながら、双剣を腰に差した剣士は教皇の元へ進み出る。
「相変わらずだなぁ」
「うひひ……僕が変わったら、世界が終わりまーすよ」
そうかと短く、教皇陛下はいい深くため息をつく。
その溜息の理由は、剣士は知らないが直感で、何か面白そうなことになっていると感じ口角を上げた。
「貴様に頼みたいのは、魔国の偵察だ」
彼の顔は少し陰る、いつもの通り生き物を断ち切れると思っていたためだ。
「なーぜ今になってなんでーす?」
「……先代魔王が復活したとのお告げがあった……今、先代魔王が魔国にいるかの偵察といると確認した場合の排除を頼みたい」
なるほど……ということは新しい勇者も選ばれるということかな?と剣士は無表情のまま考える。
そして、その勇者と戦えばどれほど楽しい殺し合いになるだろうかと考えた瞬間顔がゆるみ楽しい気分になってくる。
「妖しいと思ったら殺せばいいんですね?あぁたのしーみだーなー」
自分より強いやつに逢えるかもしれないという考えが、彼の心を支配する。
「しーかし、あの時の魔王が……僕に不死の呪いをかけた魔王が生きているなんて、なんてぞくぞくするんだろーねー」
決して死ななくなった体を見ながら、少し笑うと剣士は教皇に背を向ける。
「いい知らせをもちかえりまーすよーへいかー」
足音もなく掻き消えた剣士に対して教皇はため息を吐く。
そう……取り扱いを一歩でも間違えば、彼によってこの教皇国が消えていた可能性があるのだから……
「ふふふ……化け物は化け物同士で潰し合ってればいいんですよ」
不死の化け物に対して、そうつぶやくのだった。
◇
「うん……最高だ」
発動媒体が埋め込まれた黒い上質な大鎌と真っ白い弓を手に取りながらグルーヴはつぶやく。
「それに黒いぼろぼろの外套があればもろ死神だよな」
苦笑いを浮かべながら俺はそうつぶやく。
「それはそうと、兄さん本当にその剣と安物だけでいいのかい?」
おやっさんの問いかけに俺はゆっくりとうなずいた。
「安物は言わずもがなだが、こっちの剣は俺の魔力の通りがいい」
俺は魔法は使えないが、物体の魔力強化に特化している。
「発動系の攻撃魔法はからっきしだけど、こういう小手先の技……身体強化とかは俺の得意とする範疇だぜ?」
そうつぶやきながら剣を鞘に入れる。
「……正騎士と同等の戦力を持っているんですか!!」
その問いかけに俺はうなずく。
「かりにもあの爺さんが俺たちを認めたんだ……正騎士は知らんがそれぐらいの戦力はあるだろうな」
少し苦笑いを浮かべながらそう答える。
「御代なんだが……兄さんと嬢ちゃんの試合を見せてくれればなしにするぜ?」
「……城に出入りできる武器屋か、お抱えなのか?」
そう問いかけるとおやっさんはゆっくりと笑って頷いた。
そして俺たちは武器屋を出ると城の訓練施設に足を向けていた。
「へぇ、広いな」
訓練施設にしては広いそこでため息をつく。
「……模擬剣しかないからグルーヴは無理だな……いけそうだが」
俺は模擬剣をつかむとにやりと笑う。
「フレイト、ちゃっちゃと終わらせようぜ」
軽く剣を振ると、剣圧で大気が揺れる。
「細胞に魔力は流しにくいんだよなぁ……」
そういいながら剣を無造作に構えた。
「両者いいな?」
俺とフレイトは同時にうなずく。
「では、はじめ!!」
二人分の踏み込む音が聞こえた次の瞬間、かわいた固いものをぶつけ合わせるような音が響く。その直後空気が破裂するような音が続く。
「くぅ」
小さくフレイトの口から声が漏れ、俺の左足はフレイトの側面に位置する場所に移動していた。
「へ?」
死角に瞬時に移動したために、フレイトの眼には俺が突然消えたように映っているだろう。まぁタイマンの時しか使えない歩法だったりするのだが。
「そんな攻撃に引っかかると思っているの?」
横なぎに来る剣筋をジャンプでよけ、空気を蹴るという非常識の方法で着地する。
「ふぅ、あぶねぇあぶねぇ」
少し肝が冷えた気がする……まぁどうでもいいわけだが。
「ほんとに人間?」
フレイトの剣戟を受け止めながら、俺は苦笑いを浮かべる。
「どうだろう?人間やめてましたって言ってもおかしくはないぜ?」
振り下ろしを左腕で剣の腹を殴ることでよける。
「ビンゴ!!」
きれいに決まるとは思っていなかったが、ここまで楽に決まると後々が楽しい。二合三合と切りあっているうちに彼女の焦りが見て取れる。
打ち合いに力が抜けているところを見ると、どうやらだんだんと手がしびれてきているのだろう。そろそろつまらなくなってきたので終わりにするとしようか……
最後の打ち合いを袈裟切りのように剣をたたくと、剣はきれいな放物線を描きながら弾き飛んだ。信じられないといった表情をして止まった彼女ののど元に俺はゆっくりと剣を突きつけた。
「チェックメイトだ」
「そこの嬢ちゃん、近衛だったはずだが兄さんはどうやら遊んでて同等レベルのようだな」
歩いてくる親父を見ながら苦く笑う。
「本気出すと模造剣がぶっこわれるからな。最初の打ち合いでやばかった」
そういいながら剣を振ると剣の中腹あたりから綺麗に剣が割れる。
「魔力流してないと、こんな感じだよなぁ大体どんなものも」
「……さてと」
訓練中に間借りしたのでほかの騎士たちがざわめいている。
「俺もやった方がいい?」
グルーヴがテンションアガッテキタ―と言ったふうに立ちあがる。
「やめろ、ここら一体が焼け野原になるから……」
「どういうこと?」
フレイトが俺に確認を取ってくる。
「こいつ魔法が得意と言いながら、上級と複数人でやる極大級の魔法が得意なんだよ。しかも一人でそれをやるからな!!だから模擬選で本気になると、ここら一体が消滅する危険性がある」
歩く最終兵器な弟を見ながら俺はそう答えた。
「……姫様の護衛……戦力過多なんじゃ……」
あーまーそーだろうなーと濁しながら答え、俺は目を細めた。
しかし、昔の部下だからと言ってこれだけの戦力を投入する魔王陛下のお考えとはいったい……
「やっぱりおれの目に狂いはなかったな!!次来るときは覚悟して来いよ!!もっといいものを置いておいてやる!!」
そういいながら武器屋のおやっさんは、店へと帰って行った。