表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/14

ゴブリン

しばらく出稼ぎにいってくるっちゃね

 エリクを置いて、俺は町の墓地に歩いていく。

 前領主はしぶしぶだが虐殺した獣人たちの墓を作ることを許可したのだった。

 墓地に入ると、そこには悲しみの空気が流れていた。

「……90年前、俺があきらめなければ、俺が途中でやめなければ貴方たちが死ぬことはなかった」

 頬を暖かい水のしずくがつたう……

「珍しいですね?ここに村の方以外が来るのは」

 フードをかぶった幼い少女の声色の人物が声をかけてくる。

「えぇこれは俺たち国を動かす人間の責任であり、過去に俺がやりきらなかったことによっておこった俺の責任なんだ」

 俺はフードの少女に頭を下げる。

「全ては俺の責任だ……すまない獣人の少女」

「……え?」

 ふわりと風が吹き、彼女の驚いた眼が見える。

「貴方は一体……」

「俺か?俺は……アルバート……ただの貴族だよ」

 少女の隣を通り過ぎて、ゆっくりと笑う。

「……父さんを奪った!!」

「あぁそうだ……君の父親を奪い母親を殺した貴族だ。書類だけで知っているよ。でもよかった……」

 そうぼそりと漏らす。

「え?」

「君が生きてくれていて……復讐を考えるかもしれないが10年は待ってくれないか?君が普通に……そのフードなしに生活できる環境を作るから」

 だから……

「見ていてくれないか?たとえおれがやったわけじゃなくても、血縁がやってしまった罪の償いを……」

 俺はそういうと墓地を離れてゆっくりと空を見上げる。

 まだ知識があるものを殺したことがない手を必死に空に向けて掲げてにやりと笑う。

「今度こそつかんだ手を離さないように……」

「「「お探ししました、魔王陛下!!」」」

 俺のまえには2人の若く屈強な男がいた。



「お待たせしました……」

 最長老と呼ばれる老人にひざまずき2人の若く屈強な男はそう口を開く。

「そうだ、ワシはあのお方のそばにあり見極めるには歳をとりすぎた。そろそろ主らに魔王様から授かった力を分け与えようとな」

「……最長老、我々に分割して分け与えても……」

 最長老はゆっくりと笑う。

「ワシの血を引くお主らなら、代を重ねるごとにワシより強くなっていっとる。心配いらんよ」

 そういう最長老は光り始めて、光が収まる時に彼の心の臓の鼓動が止まる。

「さぁ行こう」

 若者たちは歩き始める……これは魔王が目覚めるほんの数年前の話……そして話は……



「君らは……いや、あいつの子孫か!!いやー若いころのあいつにそっくりだ。あいつの死にざまはどうだった?」

 現れた2人を見て俺はにやりとそう笑いかける。

「魔王じゃなくてアルバートと呼んでくれないかな?俺はまだ魔王になっていないからね?」

「解りました、アルバート様」

 俺はにやりと笑う。

「出会って間もないのだが、一つ頼まれごとをしてくれないか?」

 俺はにやりと笑い、頼まれごとの内容を告げると12人の顔が驚きに彩られる。

「何故、魔王である貴方が勇者の復活の援助を?」

「俺の知る彼女なら、勇者になるのはありえないからな!!」

 ゆっくりと笑う。

「初代魔王を討った勇者……彼女も今代に?なるほどそういうことですか」

「まぁ勇者は死ぬことないからいいとしてだが……多分向うに龍人が一人潜伏してるから、拉致ってきてくれないか?」

 生きているはずなのに、一向に俺に顔を見せに来ない龍人が潜んでいるであろう場所なので一緒に連れ帰ってこいと命じる。

「なぜ敵の本拠地に、6人将のかたのおひとりが?」

「あーあいつはある一点における同士でね?6人将の中でも特殊な立場だったんだ」

 もっとも、俺にとって6人将以下一平卒まで同士なのだが、あいつだけは俺の考えを完璧に理解した上に俺に同調してついてきてくれていたふしが合うからな……

「実は俺の最終目標は、そこから真なるこの世界の敵を引きずりだしぶっ飛ばすってものなのだが」

「真なる敵?」

 そうだと、苦々しく笑い俺はその手を持ち上げる。

「あそこにいるのだとしたら、大体どうなるか理解できる。勇者の方は見捨ててもいい、すぐに殺されることはないだろうしな」

 俺が魔王復活宣言と同時に攻め込むつもりだからなぁ。

「開け転移門!!」

 目の前に魔法陣が現れ、その上に黒くてまがまがしい門が構築されていく。

「これが!!」

 ゆっくりと、ただゆっくりとうなずき俺は右手を握りつぶすように閉じる。

「……魔王としての魔法瞬時に一個師団を戦地に出現させた魔王の力の一部だ」

「解りました……魔王陛下」

 2人の男は門の奥へと消えていき、俺は閉じた門を見て表情を顔から消す。

「この分だとあいつの子孫も出てきそうだなぁ~あーやだやだ」

 少々こっち着てすぐの身の回りが男ばっかりでむさくるしく感じる。

 まぁ昔から大して、それは変わらなかったわけだが……



「でこれからどうする?」

「どうするも何も王都の近くだし……あれ?」

 そういえば俺等って王都に入る手段を持ち合わせてはいないんだけど。

「おぉまだいたな。はいこれ王都の門で騎士に渡せば自動的に王城に連れていかれる魔法の手紙!!」

 隣に現れたのはアルバート様だった。

「あの門は実際俺がついて転移しないとき専用なんだ。まぁいいや、書簡渡したし俺は帰る!!」

 突然現れ突然消えていくアルバート様を見て、すこしあっけにとられる。

「あの人、短いスパンで魔法使ってるけどどんだけの魔力量なんだろ?」

「さぁ……?じっちゃん……最長老が言っていた話だとあの人は人間じゃなくて魔王という種族だと……」

 そんな馬鹿話をしながら王都までたどり着いた。

「はい次の方」

「雇い主からこれを見せろと言われたのだが?」

 検問を行っていた騎士に書簡を渡すと、騎士は少々お待ちくださいと言った後に騎士はあわてて走っていく。

「何かいたんだろう、あの人……」

「お待たせしました、こちらへどうぞ」

 連れられたのは王城の一室だった。

 そこにはどうやら偉い人が座っていて、入ってきた俺たちを見て

「やぁ君らが、彼がよこした護衛だね?」

「はい、アンダンテとグルーヴと申します」

 そうかと、偉そうな人がつぶやくと、こちらに右手を差し出してくる。

「ハルワルド・フォルストランドだ。よろしく頼む」

 握手を交わし合い促されて席に座る。

「急いで馳せ参じてくれたのはありがたいが、こちらの準備が整っていなくてね?君達のような護衛が来るという話は聞いていたが、何分、距離があるため一月は考えていたんだすまないね?」

 いえいえ、そんなことはありませんと俺たちは首を横に振るう。

「一月の宿泊は王城で過ごしていってくれ、陛下もそうおっしゃられていたのでね?」

「はい、お言葉に甘えさせていただきます」

 ゆっくりと頭を下げ、感謝を伝える。

「それで、君達の素性を聞きたいのだが……いいかね?君たちを疑っているというわけじゃないが、一国の姫殿下を預けるからね?」

「えぇ、大丈夫です。初代魔王陛下に仕えていた6人将進撃のストリンジェンドの孫です」

 ハルワルドさんは少し驚いたような表情を見せる。

「人間が6人将をやっていたのかい?」

「魔王陛下は種族差別をしないお方だったみたいですね?自分の考えに同調するものは拒まず配下に置いたみたいです」

 そうかと、彼はうなずく。

「なら力の方は問題がないだろう……一応は見栄えとして防具や武器をそろえておいてくれないかい?こちらでお金は持つから」

「解りました」

 そんな会話と共に時間は流れて行った。



 紅茶を飲みながら、必要な書類をまとめていく。

 この町を街並みに発展させるには、いろいろなところの許可が必要なのだ。

 さすがに陛下がある程度やってくれるとはいえ、正式書類に出しとかないとクーデター起こった時が面倒臭い。

 それに対クーデター部隊の新設と、それを王都にすぐにおくれるように王都からの連絡手段も作らないといけない。

「面倒なことが山積みだな」

「紅茶をお持ちいたしました」

 執事長が紅茶を持って入ってくる。

「ん?業務はもう終わっているはずだが?」

「サービスということで……本当に他種族間で和平の場を設けるつもりなんですね?」

 執事長は大量の書類や資料を見て、ぼそりとつぶやく。

「そういえば執事長はアレが起きる前のこの町に住んでいたことがあったよな?」

「……よく御存じで、伯爵様から?」

 俺は首を横に振るう。

「いや、いろいろと調べた」

 紅茶を飲み苦笑いを浮かべる。

「何時の間に?」

 俺はにやりと、資料が置いてある場所を指さす。

「たいてい、使用人を調べている調書があるからなそれを呼んだ」

「あれを全てですか?すごいですね?」

 少し苦笑いを浮かべる。

「まぁな、敵が混ざっていても面倒なだけだし、早々に切り捨てれるものなら切り捨てたいんだよ」

 幸い、そんな人間はいなかったけどな……

「ん?森が騒がしいな……」

 俺はちらりと森の方を見ると、森が騒がしく見える。

 エリクは今日は町の方に泊まるらしく、仲良く酒でも飲んでいるのだろうが……

「……嫌な予感がするなぁ。よっと」

 窓枠に足をかける。

「どちらに?」

「町の様子見てくる。しっかり戸締りして、俺が戻ってくるまで屋敷を開けるなよ」

 夜の世界に飛び出していく。

 外に出ると風の臭いと共に、嫌な気配を感じる。

「ボスゴブリン……か、40……いや100はいるなぁ」

 面倒だ、実に面倒だ……あぁ面倒だ。

 だから……

「一瞬で殺しにいく……わめこうが命乞いをしようが知らん」

 少しどう猛に笑いながら、体の周りに紫色に光る魔法陣を展開する。

 風がざわめき森泣きわめく。



 ボスゴブリンは、仲間の敵を討とうと人間の町に襲撃をかけるところだった。

 しかし町に近づくにつれて嫌な気配が広がる。

 そしてある一点を超えたあたりで、森が泣き始めた……

 風に乗った感情が木々に伝わり、木々が何者かにおびえているのがわかる。

「ウンボ?」

 知恵のない我が配下の者達も、異常な状況に気づいているのだろう。

「ほぅ、知恵のあるやつが王になったか」

 人間の鳴き声が聞こえ、俺はあたりを見渡す。

「意味は理解していないが、人間だということは理解しているか……残念だ。君は俺の求める知性ある存在ではないようだ」

 首から上がなくなり倒れていく手下を見ながら、俺はゆっくりと理解する。

 この人間には手を出してはいけないのだと、敵に回してはいけない存在を敵に回してしまったと……

 生きている手下は逃げ惑うように散るものの、ある一定の位置でばらばらに切り刻まれていく。

「逃がすと思うのか?」

 人間の鳴き声の意味は解らないものの、その鳴き声は俺たちを逃がさないと言っていることは理解できる。

 ちらりと見えた人の姿は、まるで闇を纏っているように暗い紫色に発光していた……

「ガーライ……」

 その姿を俺は知っている。

 かつて、まだ自分がゴブリンだったとき、人の言葉を解すボスゴブリンの元についており、そのボスゴブリンと魔王が懇意にしていたため彼の姿を知っていた。

「俺を知っているのか……」

 俺はその王なるものに頭を下げる。

「ゴロンバギガ」

 不意に自分たちの言葉で話しかけられる。

 人間が、こちらの言葉を知っている……これほど恐怖に思うことはない……

 いや、もはやこの人間は人ではないのだろうと思う……その身から感じ取れる魔力の質で俺はそれをいやというほど理解したのだ。

「ガラバンバ」

 もう遅いそういわれ、人間の腕がおろされ、紫色の光る何かが迫ってくる。

「かつての俺を知る者よ……静かに眠れ」

 真っ暗になる意識の中、やさしく言われた気がした。



 俺は町の人々と酒を飲んでいた。

「それで、なんで新領主様と一緒にいたんだ?」

 猟師のおじさんが俺にそう尋ねてくる。

「人の世界を見てみたいってのもあったんですよ。俺はあの大戦以降に生まれた魔人なのでね?口頭で伝えられたイメージなんか糞くらえなんですよ」

 ゆっくりと窓の外を見渡す。

「は!?」

 いきなり襲ってきた恐怖に、言葉を漏らす。

 ちらりと見ると、一般の人々は解っていないようだが、猟師が顔を強張らせている。

「……今のは!!」

「あいつが、何やらやっているみたいですね……」

 やはり危険に身を置いている人間は解るんだろうなぁと思いながら風に乗ってくるむせ返るような血の臭いに苦笑いを浮かべる。

 感じるのは膨大な死の恐怖と怒りと憎しみに彩られた魔力の重圧……

 におうのは血の臭い……

「一体何をやっているんだ?」

 翌日、俺は驚愕することになる……その日おこったことを聞き……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ