魔王の剣と始まりの地
会食も話も終わり、俺は陛下と再び会いまみえていた。
「それはまことか?」
俺は自分の考えを王に伝えていた。
「推測が正しければリリー殿下は……勇者です」
あの時彼女に言われたこと、それは自分を教会本部、教皇国まで連れて行ってほしいということだった。
「なぜ、解るんだ?」
下手なことを言うと、今この段階で陛下に俺が魔王カーライアだということを伝えないといけない。それは下策中の下策という物だろうと俺は思う。
「まぁいい……それの確認手段は?」
「彼女を教皇国にあると言われている、選定の泉で神と対面させればいいかと……以前の勇者選定の時のようにね?ほって置いても、多分向う側からアクションがありますしね……」
あの神ならば、俺が復活していることも理解しているだろう……なんらかの対抗策をこの世界に打っているはずだ……
「お前はどうして気づいたのだ?」
「他の国に対して情報を漏らさないと約束成されるのであれば、お話しすることは可能です。魔国の重鎮から言うなと言われている事項なので」
陛下の目がゆっくりと細められる。陛下にとって、それはとても興味深いことだろう。
「……誰にも言わん、融和派の人間にもね?」
「なら……私が初代魔王にそっくりだということと、初代魔王……その本名がアルバートという名だったんです」
彼女は初めて会ったとき、俺を見て俺の名を呼び俺を見て驚いた……当たり前だ、目の前に初代魔王のそっくりさんがいるのだから。
初代魔王としてなのっているわけじゃないから、そっくりさんで陛下のイメージは固まっているはずだ。
「初代魔王が人間だということは知ってはいたが……なるほど、それであの時のリリーの驚き方につながるわけだな?」
えぇと短くうなずきながら、陛下に向けて口を開く。
「神が記憶を与えている可能性がありますね。真に勇者だった場合、何らかの試練が神より与えられるはず……故に選定の泉より神の試練を聞く必要があります」
出せる手札は今のうちに、出し切ってしまおうと俺は思っている。
「いいだろう……その通り手配しようして、今日は王都でとまるのか?」
「いえ、私は一刻も早く自分の領地に帰りたいと思っております。明日には領民たちに方針を説明したいと考えておりますので」
そういうと陛下はそうかと言いながら、門を通る許可状をくれた。
◇
陛下との謁見からしばらくたった後、俺はエリクを連れて
「夜の森はいろいろと危ないんじゃ?」
「大丈夫だ、そろそろ転移するから」
俺は手を二回たたくと、足元に魔法陣が展開される。
「は?」
「魔法の発動条件は知っているよな?」
エリクはうなずく。流石は魔族だなぁと思いながら
「確か、呪文や術式に魔力を込めて発動するんだっけ?でも、魔法陣は主に大規模魔法を発動するための呪文や術式拡張のためのものだったはず……」
うーん、やっぱこの程度の知識か、どうもこの世界の人間はこっちの常識にとらわれ過ぎているようだな。
「半分正解、魔法陣に関していえば魔法陣に魔力を込めることにより呪文や術式なしで発動できる」
それがこの魔力で編まれた魔法陣ということだ。
「これの構成要素は大気中に無意識にばらまかれている誰かの無形の魔力を使用して編まれているんだ」
「他人の魔力の安定化とか化け物か!!」
魔法陣がなぜ大規模魔術の補助に使われるのかというと、一人では発動不可な魔法を他人の魔力で補うためである。
他人の魔力は人ごとに違う波長が違うために一人一人魔力の色が違う。
波長が違うものを操るのは不可能なので、魔法陣で変調してためておくわけだが……
「魔王は魔法が得意だった理由な。世界中が魔力の源だから魔法が得意だった。転移と」
俺が預けられた領地付近に飛ぶと、とんだ先にゴブリンの群れが立っていた。
「……てへ」
「テヘじゃないですよ!!どうするんですか!!」
ふーむどうしたものか……
「問題ない!!来いよ、俺はここにいるぜ!!」
手元に魔法陣が現れ、そこから柄が伸びる。
それを引き抜くと、一振りの剣が現れ大気を震わせる。
まるで剣が『俺もここにいる』と主張しているかのように……
「まだ体の方がなれてない、数は20……流す魔力は抑えるぞ!!」
剣がまるで俺の言葉に承知したと返すようにつかを通じて振動を送ってくる。
ブオンと暗い森の中に黒い魔力を纏った剣が振るわれる。
「すごい……」
エリクがそう漏らすのも無理はない、俺は今樹齢何年かわからないほどでかい木を切り倒しながら同時にゴブリンをはねているのだから。
「あめぇよ。暗闇というアドバンテージあるのに音を立てて襲い掛かってくるな!!」
背中に飛びかかってきたゴブリンを振り向きざま上半身と下半身をさようならさせる。
ゴブリンは暗視が効くので暗闇の獲物を難なく狩ることができる。
そのため油断してか、暗視が効かない獲物……人間に対しては動きが大雑把になるのだ。
「あれ?人間って……」
多分あいつは人間ってなんだったっけ?といいたいようだが、魔族も同じことできるだろとため息をつく。
「暗闇で目が効かなくとも音を頼りに地形を探ることができるし風の流れで物が大体どこにあるのかわかる。つか90年前にいたマスタークラスの人間だったら同じようなことできたぞ?」
最後の一匹の首をつかみ、わざわざ腹に剣をぶっさした俺はにやりと笑う。
「つまりは身体的な差異など俺には問題はないということだ!!」
「理屈がおかしい、そもそもその体はまだマスタークラスに作りこまれてないはずだろ!!」
しかし、体の方を何とかしないと動かしにくいなぁ。
「いやまぁ、いろいろまだ秘密があんのよ。俺にもね?」
魂の方から身体強化術式垂れ流してはいたものの流石に身体能力が追い付かない。
魔王だった時の体の流れも、すべてのしなやかさも追いつかず、俺は一人苦笑いを浮かべた。
「話は変わるけど、そのまがまがしい剣が……」
「魔剣ゴードリスだ。巷では魂をくらい力に変えると言われているが、魔力食わせるとなんでも断ち切ることができる」
つっても、人間や他の亜種族が使えば軽く扱うだけで、魔力を吸い取られすぎて死ぬが。
この剣が盗まれたときに、使用したバカが居たっけな……それであの噂か……
「さてと、そろそろ行くぞこっちだ」
「なんでわかるんだよ!!」
まったく、エリクたんは一々説明しないといけないのかよエリクたんは……
◇
暗い森の中でゴブリン達の死臭が漂い始める。
その場所に40匹ものゴブリンが立ち止り、何か騒がしくしている。
「がららららららら!!」
一匹の体の色が茶色ではなく白色の他の個体より一回り大きいゴブリンがそう叫ぶと、40匹のゴブリン達は騒ぐのをやめる。
「がーららがらがら」
「「「うんばぼふぁー」」」
はたから見れば何しているかわからないその行動でも、歴戦の戦士が見ればわかるだろう。
そのゴブリン達の目に憎しみの炎が宿っていることに……
◇
「……到着だ。ここが俺の新たな拠点……フィーリスだ!!」
「お帰りなさいませ、アルバート様」
俺が任された領地の屋敷に入ると、夜も遅いというのに執事が出迎えてくれた。
「ご苦労、執事長……すまないが明日の朝一に全員を集めてくれないかい?これからのことがあるしね?」
「そちらの魔族の方はいかように?」
俺はちらりとエリクを見て、笑う。
「客人として扱ってくれ、彼はこの領地の要だ」
「……それが、全員に伝えないといけないことですか?」
俺はにったりと笑う。
「それも含めてだ。まったく察しがいい使用人はたちが悪いなぁ。彼のことを頼んだよ」
俺は自室にはいると、ランプをともし羊皮紙とインクを取り出す。
書き込まれていくのは一つの魔法陣だった……この魔法陣だけは魂の術式では再現不可能な魔法陣……やろうと思えばできるが……リスクが高すぎるためやりたくないもののひとつである。
「……勇者がいるということは、俺を殺しに来るか……」
仮にそうだとしたら、俺は備えないといけなくなる……最悪の状況を打破するために……
「出来ればこれは使いたくないけどな」
俺はため息をつくと、ランプをけし別途に横になった。
そして、翌朝日の出とともに目覚めた体で立ちあがり、ゆっくりと目を細める。
「もう朝か」
個人的にはあと13時間ぐらいは寝ていたいが、今日はそんなことを言っている場合ではない。
「……旦那様、おはようございます」
執事長が入ってきて、俺を見る。
「あー悪い、飯にする前に全員集めておいてくれないか?」
慌てて出ていく執事長を見て、俺は口をほころばせる。
「ふふ……さてどうやって説明すべきかねぇ……」
◇
「……教皇陛下、今後の方針としてはどうなされるおつもりですか?」
教会騎士団長が教皇陛下にそう問いかける。
「公表するしかないだろ?初代魔王が復活したということをその上で、各国に勇者を探すようにと手配するしかないだろうな」
ため息をつきながら陛下はゆっくりと騎士団長を見る。
「……しかし、神も無茶なことを言う……魔王が復活したなんて誰も信じませんよ?」
「だろうな、たちの悪いことに先代勇者が今の魔国を作ったから、あそこの信頼度は各国がよく理解している。故に我らが手を出せない場所だったのだがな……」
しかし本当にまいったことになったと、教皇はすこし頭を痛める。
それは騎士団長も同じようで、苦い顔をしていた。
「公表すれば、確実に神の存在が疑われるでしょうね?」
……その通りなのだ、人間に危害を加えない連中に対してましてや貿易などで利益を得られる商人、国として付き合いが長い連中はまず教会を疑うだろう。
疑わないのは、教会が金で引き連れている連中と熱心な信仰者だけだ。
「我らをおつくりになった神様を疑いにかかるなんて、嫌な世の中になった物だな」
◇
「というわけで、君達は本家に戻るかこちらで再就職かを選んでもらいたい。もちろん、この話を聞いたうえで残ってくれるというのならば、お金の方は弾むけどね?さすがに怖がるものに無理強いはしないよ」
使用人をすべて集め、俺は軽く今後の流れを領主が変わったことなどを喋り残るか否かをとう。
「おい、誰が怖いだ誰が」
軽く小突いてくるエリクの腕を取り、そのまま投げる。
「うぜぇよ。ごく一般的に見たらあの大戦以降人間と他種族間で両種族が恐怖の代名詞になってんだよ。それぐらいわかれ、俺があの村に行った時に敵意むき出しにしてきた連中いたろあれとおんなじ感じだ」
まー人間の噂の方が、実際に大戦を体感していないから性質悪いわけだが。
「まぁ俺に投げ飛ばされるような、魔族怖くないだろ?」
ケタケタと笑っていると、使用人総60人の内15名は退室していく。残りの45名は動く様子はない。
「……お前らはいいのか?これから大変になるぞ?」
「お言葉ですが旦那様、ラトリシア伯爵の元にいても苦労は絶えませんよ?」
……つまりは帰るぐらいなら、こっちで雇ってもらうわつう話か……ったくあのクソ親父使用人に何やってんだよ。
「迷惑をかけると思うが、よろしく頼む。さてエリク、この町の町長に逢いに行くぞ。つうことで、また留守を頼む」
俺はエリクを連れて邸宅を離れると、外に広がる町を眺めながら歩いていく。
「おい町の人たちが俺を見て、逃げていくんだが」
ちらちらとこちらを見てくる平民を見ながら、俺は苦笑いを浮かべる。
「お前のせいだけじゃないよ。貴族である俺のせいでもあるんだ」
そう、かつてここには人間と獣人がくらす町だった。
「それに理由をつけて、獣人を殺し平民に重い税をかけたのが貴族だからな……」
「……じゃぁ、友好の下地は?」
俺はにやりとわらう。
「勿論できているというわけだ。しかし運がいいここならエリクが頑張ってくれなくても多少はどうにかなる」
平民の家にしては立派な家にたどり着き、俺はその家の扉をノックする。
「これはこれは領主様……一体本日はどうなされたのですか?」
出てきた老人は言葉に早く帰れと言ったような思いを隠し、そういう。
「はは、今まで上がっていた税率の話だが……少しいいかな?税率を下げる条件をはなしたいのだが……」
「……どうぞこちらへ」
部屋に招かれ、俺はリビングにおいてある椅子に座る。
「税率の引き下げというのは一体どういった風の吹き回しですか?」
嫌味を言われても俺はピクリともせず笑う。まぁこの土地の領主の名前が変わったことは誰も知らないだろうからな。
「領主が私に代わってね?ここはラトリシア領の村ではなくフィーリス領の村に変わったんだよ。だから俺の親父の税収方針につきあう必要はなくなった」
老人の眉がピクリと動き、何かに気づいたように口が開く。
「まさか!!」
「うん、私は現ラトリシア伯爵とは別でフィーリス侯爵の地位を与えられた。ある一つの条件を成し遂げるためにね?」
まぁそれは置いておいて……
「引き下げ内容だが、村の基本税収入の2割にまで下げる。それでも苦しい家は1.5割……これ以上はさすがに国に対していいわけが立たん」
驚いている老人に対して、俺はさらにきれる手札をきり爆弾発言をおこなう。
「……条件は10年以内に亜種族と人間の合同都市を作る。先遣として魔族の村が一つここに移住してくることとなっている」
「……貴方方が……貴方方が殺した獣人への配慮もないままに、今度は舌の根がかわかないうちに共存するというのですか!!」
彼の怒りももっともだと思う、彼は共存していた人間の生き残りなんだろう。
「その通りだ。だが約束しよう俺が生きているうちは、どんな連中にもあの悲劇を起させないと」
静かにそういいながら、ちらりと隣に座るエリクを見る。
「もうあれじゃね?この人に見せてしまったほうが早いんじゃ……」
っち、それしかねぇか……
「だが断る。エリクフードを取ってくれ」
エリクがフードを取ると、村長はエリクの姿に驚いたように目を丸くする。
「俺の付き人のエリクだ。貴方方がかくまっている彼女のためにも、私を信じてくれませんか?」
村長はさらに驚いたような顔をした後に顔を破顔させた。
「いつからお気づきで?」
「この村に初めて、来た時からだ。親父は気づいていないみたいだったがな」
村長はほっとしたような顔つきになり、俺は破顔した。
「解りました。住民たちへの説得は私がさせていただきましょう」
「ありがとう。さて、エリクはエリクで働いてもらうよ。明日から村人に紛れて畑仕事して来い。人間の生活も体験してみろよ」
「それはいい案ですね。明日ぜひとも手配しましょう」
これで第一段階で危惧するべき話は彼女だけになったと……さてと、行くかな?
オフの日って一日中寝ていて後悔するってことよくありますよね?