勇者の胎動と魔王の行動
魔族に大切な人を殺された……そう思っていた。私を守るために彼は死んだそれは間違えのないことだったのだ。
魔王を倒し世界を救う命を与えられた時に、彼の敵をとれると私は思っていたそれがその時は間違いだと知らずに。嘘で固められた勇者を演じていた。
それからひたすら私は戦った、魔族を殺し亜人を殺しその手はそれらの血で染まっていた。
赤と青が入り乱れた手で私は魔王城へとたどり着く。そのころには魔王はあきらめたのか、魔王の手のものはいなかった。
そんな場所で待っていたのは、鬼のような姿をした魔王だった。
彼と剣戟を交わし、魔法を打ち鳴らしながら徐々に理解する。
魔王も何かを抱えているということに……それは一人の為の復讐じゃなくて……もっと重いものを。
そして決着の時が来た、私の剣で貫かれた魔王はゆっくりとその体を崩壊させていく。最後の最後に私が体力で勝ったというわけではなく、彼が私に殺されに来たからだ。
「うそ……でしょ?」
見かけから魔族だと思っていた私は、魔族から流れる赤い血を見て驚愕の声をあげる。
魔族の血は赤くなく、その血は青いのだ……それなのに魔王の血は真っ赤だった。
最初は獣人だった?とも思ったが、魔王の体が崩れ落ち中から出てきた人間を見て私はさらに衝撃を受けることとなる。
そこにいたのは……魔王の正体とは私が愛した人だった……彼の為に復讐を決めて彼のために戦っていたはずなのに……
「恥を承知で頼みたい、勇者……虐げられし魔族や亜人たちを頼む!!」
片膝をつき、魔王の体がゆっくりと崩れる。以前見たいとしい人が死んだときのように……
私はその体を受け止めると、兜の中で涙を流す。
彼は私のことを認識していないらしい……
「何故、貴方が!!貴方は人間で死んだはずでしょ!!」
「はは、意外そうだな勇者……いや……ミーフェリア」
私は自身の名を呼ばれ、はっとする。彼が自ら刺されに来たのは私に殺されるためだということに勇者は私ということを知っていたからこそ死にに来たのだということに気づいたからだ。
「俺は思うのだ、魔族と亜人たちが人族……我らと対等な地位を得て笑い合えたらきれいな世界が見えるだろうな。俺には力でしか支配できなかったが……お前は違うだろ……」
魔王の呼吸がどんどん小さくなっていく。彼の願いは、人を掌握しそのうえで対等な平和を願うこと……そうだったと知り、私はおえつを漏らす。
そうその時初めて、私は人にだまされていたのだと知ったからだ。
「期待しているぞ、勇者よ。その威光が偽りの物ではないことを信じて……」
力を亡くなった亡骸を抱え、私は涙を流す。
「なんで……なんでこんなことをなるのよぉぉぉぉぉぉぉぉ」
愛した人の亡骸を抱え、私は力なくそう叫び声を上げる。
それから私は、魔王城ラインバースを中心に旧魔王領に亜人と魔族の為の国を立ち上げる。
彼から託された国……彼から託された思いだからだ。
「それが私の罪」
幼い魔族の子供の頭をなでると、魔族の子供はくすぐったそうに目を細める。
「それでも、おかーさんはこの国のたみを庇護してくれた器のでかい人だってとらのおじちゃんはいってたよ」
私は彼の直属だった獣人の顔を思いだし苦笑いを浮かべる。
それから数十年後私は病の床にふせることとなる。
「大きくなったわね?」
かつて魔族の子供だった青年にそう声をかけた。
「母さん!!」
「貴方に魔王の権利を譲渡します。今日からあなたが魔王よ!!」
そういうと涙でくしゃくしゃになった息子を見て、ゆっくりとほほ笑む。
「貴方ならやっていけるわ。人間の世界もこっちの世界も知っている貴方ならね?」
ゆっくりと目を閉じると、もう二度と浮上するはずない闇の中へと意識が落ちていく……
がんばりなさい。
◇
「~♪」
「ご機嫌ですね?」
帰りの馬車の中で、兵がそんなことを言ってくる。
「俺にとってあの国での出来事は、実に興味深いものだったし、いい収穫があったよ。魔族の戦略と戦術の概念なんか聞いていて楽しかったしな」
俺は書物を書き続ける手を休めずにそういう。書いているのは今後の予定や工程表だったりするのだが。
「……宰相から聞いたがあの国の人口密度はもはや飽和状態らしいしな。領地に帰ったら亜人族だけでも受け入れ態勢を取らないといけないな」
「それは周りの貴族から目をつけられるんじゃないですか?」
兵はそういうと、俺は首を横に振る。
「他種族との安定はうちの陛下の望みだし、その件に関して陛下から認可を取り付ければいいだけの話だしな。それでも突っかかってくるようなら反逆者扱いで処刑できる」
俺は頭を指さしながら、にったりと笑う。
「ようはここの使いようってね?いや、違うな……時に兵士、彼らの戦術が過去の大戦と大幅に変わりまるで一人一人がかつてうわさに聞く英雄と同じ練度だとしたらどう思う?」
「早急に対策を……いやまさか!!」
流石はお付の兵士だ、だてに監査の役も兼任しているわけではないようだ。
「武力で追いつくのは無理だ。故に仲良くやろう。正直屈服する気かと問われれば否だが……」
てかまぁあんな国にしたのはたいてい俺の責任が多いのだがな。
「……貴方は一体何を考えているのですか?」
世界平和さとつぶやき、青い空を見上げると、宰相と話していた魔族の村の話を思い出す。
「王都に戻る前に、国の魔族村と亜人の集落にいきたいんだがいいか?」
「えぇよろしいですが、なぜ?」
俺はにっこりと笑う。そんなものは決まっているだろうと、察しの悪い兵士を見た。
「俺の領地をまた別のものに作り替える。そのためにはとある魔族の力が必要なんだ」
ラインバース城で彼女達から聞いた上方によると、6人将の4人はまだ存命していて1人は集落を治める地位にいるという。
もう一人は生きてはいるが足取りがつかめないそうだ。
「どういうことですか?」
「ちょっち都市計画でも立ち上げようと思ってな?」
俺は苦笑いを浮かべながら旅路を楽しむことにする。
屋敷から出るのも久しぶりだし、体が結構なまっているしなぁ。
俺は風を肌で感じながら目を閉じる。
◇
私は目覚めるはずのない目が目覚め、少し困惑する。
「ここは?」
そうつぶやくと、今の私の名前から立場そして今いる場所を思い出す。
「まさか王国の王族に生まれるなんて……」
私はため息をつきながら立ち上がるときょろきょろとあたりを見渡す。
「まずは、安全の確保と私が勇者としての力を持っているかの確認ね……私が記憶がそのままで転生したということは」
何かこの世界に不具合が起きた……その可能性しか思い至らない。たとえば初代魔王が再び復活したか……
「選定の泉に行くしかないけど……立場上選定の泉へと向かうことは容易にできないか……」
今の立場を思い出して、私はゆっくりとため息をついた。
◇
魔族の集落につくと、周りの目が痛い……王国の領地だが、国王の計らいで、魔族のみを集めた村の設営を許可された民だが、魔族は虐げられた民なので人間に対して敵意がある。
特にこの地では貴族がクズだからそのせいもあるだろう。
「魔族の民よ。この集落の長はどこいいる?」
全員が俺の言葉を無視する。まぁ人間たちがしてきたことを考えれば、仕方ないっちゃ仕方がないのだが……
「なぁ」
「何ですか?」
お付の兵が返事をした瞬間首筋に手刀をたたきこむ。これは聞かれると少々まずいから仕方がないので内心平謝りをしながらだが。
崩れ落ちる兵士を見て、俺はにやりとわらう。
『魔王カーライアの名において命ずる。紅の魔人ガゼクノドさっさと出てこい!!』
俺の体からあふれた魔力が、かつての魔王の時の俺の姿を構築していく。漆黒の鎧に身を包んだ鬼がそこにいた。
「ま……魔王!!魔王陛下ですか!!」
あわてて飛び出してきたのは浅黒い肌をし赤い髪を持った好青年だった。好青年に見えるが実のところ俺が覚えてる限り200歳は優に超えてはいる。まぁ魔族にしては若いほうの部類に入るのかなとも思うが。
あわてる彼に集落の魔族はただ事じゃないと気付いたのかこちらから一斉に目を離す。
「そうだが、戻っていいか?流石に人間のお付の兵がいるからなあと本名で呼んでくれると助かる」
「解りました」
俺は元に戻るとふぅとため息をつく。
「転生して何も訓練していないから魔力が足りなくてあの姿の維持は少しきついんだよなぁ」
何らかの形で魔力を上げないとなぁと思いながら目を細めた。
「あのこちらの方は?」
好奇心の抑えきれなかった若者がガゼクノドに俺の正体について問いかける。どうも人間に対する嫌悪感が少ないように感じて、これはいいと少し微笑んだ。
「あん?俺が魔王陛下と呼ぶお方は初代魔王陛下だけだと言っているだろう」
集落全員の顔がこちらに向き、驚愕の色が浮かんでいた。それもそうだ、たかが人間が魔王と呼ばれているのだから。自分たちの憎んでいた相手が魔王なのだから。
「よせやい、何十年も前の話してんだよ。それに今の俺はお前らに勝てる力量持ち合わせてないしな。肉体は新調されて能力落ちてるから戻すのに何日かかることやら」
ヤレヤレとため息をつくと、ガゼクノドはジト目で俺を見る。
「あれに時間をかけたら戻せるって時点で、人外確定なんですがそれは?」
「失礼な俺は種族人間だぜ?」
まったく、一応は人間だっつうの、元から力が強い連中と一緒にすんな!!あの時かって、自分の体をいじりまくってあの力を手に入れたというのに
「アルバート様は昔からどっかずれていますからね?それより、どうされたんですか?生まれ変わったところで私を探す必要など……」
俺は目を細め愚問だなとわざと冷たい声で言うと、魔族たちはごくりと息をのむ。
「新しい魔族と人間と亜人が暮らす街を作ろうと思う」
「魔国?いや、この国自体に共存の下地を作るつもりか!!それで受け入れはいつからだ?」
話が分かるやつだと話しやすいな。まぁガゼクノドはこの国に住む魔族のためにここにいるから、これぐらいは察してくれると信じていたが。
「……一月後を考えている。それで、人間に敵対心を持たない若者が一人欲しい」
「そんなやついると思うか?」
そういわれて、いやと口をいがませる。そもそも魔人の子供が生まれるスパンが異常に長いせいなのだが。
「俺を人間として見ずに俺の正体を臆することなく聞いたそこの彼ならば……大丈夫じゃないか?」
「お……俺ですか?」
あぁそうだとうなずき、驚いている彼を引き込もうとする。
「君は話で伝えられた人間と俺との違いに戸惑っている。故に他の人間を見てみたいのではないか?」
「……俺は止めんさ」
ガゼクノドはゆっくりとそういう。
「止めろよ長じゃないのか?」
「俺は人間を憎んではいるが、人間全体を憎んでいるわけではない。現にアルバート様みたいな人間もいるからな」
うわー男に好かれてもなぁ……身の危険を感じケツの穴を抑えるように後ずさると、ガゼクノドは俺の腹をけってきた。
「この目でこの耳で知りたいです。人間が俺たちにどう当たっていくのかを!!」
俺は満足げにうなずくと、彼に笑いかける。つうか、本気で切れるなガゼクノドの野郎……
「では決定だ!!先の返答は1か月後こちらの信頼がおける部下たちが聞きに来る」
「解りました。それまでに村の者と検討させていただきましょう」
俺はゆっくりと兵に気付けの魔法をかけ立たせると、俺は行くぞと短く言った。
◇
アルバートが去って魔族の集落はざわめきだす。
「あの人間が初代魔王というのは本当ですか!!」
詰め寄ってきた村人に対してガゼクノドは苦笑いを浮かべる。
「あのお方をそこら辺にいる人間と同じ扱いをしてはいけない。てかあの人が怒ったらこの大陸支配しかける」
「え……」
初代魔王カーライア、神に最も愛されなかった人族にして神に愛された人族と同等の力を持つもの。
人の身でありながらも、人間という枠組みを超えた者……人でありながら人であることをやめた反逆者……
「いやー大変だった。魔王陛下には6人の将がいたという話なんだけどな。俺含めたその6人全員奴隷の身分まで落とされかけたんだ」
なつかしい話だ……あの時は、ぶちぎれた彼が俺たちの牢まで侵入してきたっけな。
「『あぁ~、クソ!!てめぇら俺について来い!!いっちょ大陸とったるぞ!!』って言いながら、鉄格子吹き飛ばしたのがあのお方の俺たちにかけた最初の言葉だからな」
魔王様のなりましを聞き、全員が半信半疑になっている。それもそうだろ、当時は全員半信半疑だったのだが。
「鉄格子を……吹き飛ばした?我々を拘束する場合、魔法ジャミングがかけられた鉄格子を!!」
ざわめく村人たちに対して彼はそっちかぁと苦笑いを浮かべると、思ったより交渉が早く済みそうだと思う。あのお方が私を呼んだ理由は、魔人と亜人の指揮役として私の名を使うためだろう。
人間の領地内だ、あのお方が魔王としての顔を出すわけにはいかないから、それだったら魔族や獣人たちから信頼されている俺を呼びつけたいのだろう。
「……みんな、俺についてきてくれないか?」
魔王陛下は武力だけじゃなく知力での世界平和を、新たに成し遂げようとしている。自分自身を犠牲に、勇者を巻き込んで平和にした世界のように……
だから、一度失敗し自分の死をもってけじめをつけることができる人だからこそ、力をぜひとも貸したいと彼は思っている。
「貴方がそうおっしゃられるのでしたら」
この日、紅の魔人と呼ばれた一人の魔族の男が、決意を固め後に紅の守護者と呼ばれる転機になった日だと後の歴史書には記述されていた。
◇
「そういえば、まだ名を名乗っていなかったな。、アルバートだ。君ならアルでいい公式の場ではアルバート様にしてほしいがね?」
まだ怯える兵の隣にいる青年に向けて、手を差し出す。握手というものを知らないことはないはずなのだが、しばらく間が開く。
「エリクです」
時間がかかったものの、信頼してくれた様子でがっしりとつかまれた手を見て俺は少し微笑む。
「よろしくエリク。信用してくれてうれしいよ」
「アル、そろそろ君の案を聞きたいのだけど?」
そうだな、巻き込む彼には話しておいていいかもしれないというより、彼には俺の右手としていてもらわないと困るわけだ。
「王都に君と共に陛下と謁見しに行く。本当はあいつを引っ張り出したかったんだが、あいつああ見えて堅物だろ?長という役割を最後まで演じ切るやつだしな」
「失礼ですがアルバート様。あいつというのは?なぜ魔人に知り合いが?」
兵が恐る恐る声をかけてくる。
「エリク、そう怖い顔をするな。彼は俺の監査役でもあるんだ。そうだなあいつというのは魔人側の有力者さ。現魔国に関係しないね?」
俺は馬車の外を見る。まさかガゼクノドがこちらにいるなんて、思いもしなかったが……通貨うちの国の情報部門の連中は何やってんだ?
「……俺はね?人間以外の人々と交流を持てていがみ合うのではなく手を取り合える平和な世界を作りたいと考えている……初代魔王が望んだ世界みたいに」
「問題発言ですよ!!」
俺は苦笑いを浮かべる。初代魔王の名は、人間の間ではタブーになっている。まぁ、大方教会の連中ががんばったんだろうなぁとは思うが。
「まぁ彼のやり方は結果的にまずかったが、彼の意志を継いで勇者が国を治めたのがいい例だろう」
公平な目で見過ぎて、公平な目が偏見の目に代わっているなぁ。
「……人間と我らが仲良く……か?できると?戦争前の仕打ちを覚えている者もいる……人間みたいに短命じゃないから」
「ふむ、それもそうだ。彼らの肩を持つ気はないが、自分のいいように歴史をゆがめるからな人間の……貴族って連中は……それに関しては手は打ってあるよ。敵の敵は味方ってね?」
俺は苦笑しながらそういうと、ため息をついた。
大体1000~2000文字は加筆していっています。