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予兆

 返信が届く前に出兵と国境越えはできない……それは暗黙の了解だ。返信をできるだけ送らせ、この国に送られた親書を拡散する。

 もちろん、その目標が誰であるのかをにおわせながら……そして次に亜人種、魔族に対する特区を作る国家プロジェクトを推進するといううまを流す。

 それと同時に亜人は類まれな体力を、魔族はその圧倒的な魔力で国家の中心に位置できる逸材だということを流す。安定した力というものは国家運営に欠かせない重要なファクターだ。それをほぼノーリスクで扱えるようになるんだぜといえば、馬鹿じゃない限りこちらにつくだろう

「思惑通りに乗る国は周辺6カ国のうち4カ国ぐらいか魔国とうちをあわせて6、敵は教会合わせて3の構図ができるわけだ」

 くるくると棒状のものを回しながら俺はため息をつく。これでもリスクがあるのだ。極力リスクを減らすためにはどうするか……開戦時期をずらす方向で行くか……その間に対策は取れる。

「神の光臨できる器はなくなった……これでしばらくは勇者や神徒を生み出したりするなどの干渉が、できないだろうが……」

「なーにいってんだ、魔王。器がなくなったらこっちに干渉……なにその顔まさか……」

 苦々しい顔つきをしていたのに、彼は気づいたのだろう。あの駄女神がなにやろうとしているのかに……まぁ、わかりきっちゃいるが干渉できないんだったら、干渉できるようにするだけなんだが……

「可能なのか?」

「あぁ、現に死後俺は一度別の世界で転生している。だとしたらだ、イモータル人の手により魂の転移の可能性が示されているとは思わないか?さらに、それがもし神が行うことならば別の可能性が浮上する」

 ごくりと喉を鳴らす音が聞こえる。不死者でもつばは出るのかなぁと俺は苦笑いを浮かべる。さすがに、あの時代を知るものは頭の回転が速くて助かる。いや、あの時代の教会を知っているからこそか……

「むちゃくちゃだな、異世界からの転移により転移場所を聖域とするか……理屈は通っちゃいるができるのか?」

「お前ら初代勇者組みの敵は理屈さえ通っているならば何だってしただろ?」

 くるくると棒を回す手をやめて、苦笑いを浮かべる。理論構造は完璧に俺の頭の中に組みあがっている。

「つうことはあれか、今回のお前の処刑騒動は……」

「本当に処刑できると思っていないだろうね?教会も馬鹿じゃぁない……何か手は打ってそれをできるだけの環境を作り上げるだろうな」

 隠蔽と考えると、世界的に混乱しているほうがやりやすいつうことは……世界的な混乱を起こす手っ取り早い方法は戦争……それも飛びっきり最悪な手段を使ってくるだろう……

「それほどのことを、こっちに悟られずにできるのか?」

「できるさ、教会に目が行かないようにすればいい。たとえば人間同士の戦争を起こすとかしてね?」

 イモータルは俺につかみかかる。それもそうだ、俺が原因で再び世界に戦争が起ころうとしているのだから。そして、教会がそれをやるということをイモータルはその身で理解しているから……

「そうかっかするな、戦争は起きんよ。俺の処刑未遂後に国家間の会談が予定されている。期限は3ヶ月だけどな?」

 イモータルはゆっくりと、苦々しく笑う。こちらの意図は大分理解してもらっているようで、すぐに手が離れた。

「また何か裏でやってんのか?」

「魔王を相手取るのに、おいそれと軍は出せねぇよ。各国の上層が話し合うだろうね。うちからは第三王女とその婚約者が出て行くらしいね。予定は未定だけど」

 そういいながら、俺はのんきに笑う。イモータルは半目で苦笑いを浮かべていたが。

「政治で片をつけられるんだったら、それ出終わらせるさ」

 暢気にそういうと、イモータルはガチで戦争になった時どうするんだよこのお気楽能天気魔王!!と叫ぶ。

「戦争になるようだったら俺が出て行くよ。当然だろ?」

「あの領地はどうすんだ?」

 エリクがいるさと短くつぶやいた。



「面白いことになりましたな。陛下」

 公爵が口を開くと、陛下は苦々しい表情を浮かべながらだるそうにする。

「まさか義理の息子になる男が初代魔王だったなんてな?」

「下手を打てばこの国は女神の加護を受けられなくなりますよ?」

 そう、誰もが心配することはそれなのだ。だけども私はかまわないと思っている。加護なしで生き抜けるものがいる。ということはこの世界の人間はもしかして……

「本来の人間……いや生物は加護には守られていないのが本当の姿かも知れんな」

「それはない」

 一人の龍人が現れ、私たち二人はそちらに眼を向ける。

「いきなり失礼した。わしはエールディンじゃ」

「……初代魔王が盟友と呼んでいたと聞くが?」

 龍人はよく知っておるのぅつぶやき、笑っているのだろう口元がゆがんでいる。

「貴方の言うことは正しくもあり、間違ってもいる。はるか昔には加護はゆるかったんだ。生きる意志のみを助ける加護だった。そうしないと、進歩も発展も進化も何も起きなかったからのぅ」

 龍人が神の加護を語る。亜人獣人種のなかでもっとも若い種族である彼がなぜそのようなことを知っているのだろうか?

「ワシの罪は女神を生み出してしまったこと、この世界への贖罪方法は女神を殺し再びワシが神座につくことじゃのう」

「初代神がいたという記録はあったがまさか、貴方様が」

 頭を下げようとする私に、さげんでえぇわいと龍が苦々しい口調でそうつぶやいた。

「魔王と貴方の願いは一致していたということは……魔王は平和じゃなく……」

 そこまで言いかけて公爵が黙る。エールディン殿から異常な雰囲気を感じ取ったからだ。

「ワシの目的は神座に戻ることそのために女神を殺す。盟友は平和のために女神を殺すことに決めたんじゃ」

 平和……世界を平等な時代に戻すための戦いが、あの戦争だというのならなんと歪な状態なんだろうと私は思う。

「確かに歪じゃな。じゃが人間はワシらの言うことに耳を傾けたか?手を差し伸べたか?守ったか?そのような者がおらんかったとは言わんが……初代魔王のように彼らのために動くものはおらんかったよ」

 悲しそうにつぶやくエールディン殿を見ながら私はゆっくりと苦笑いを浮かべる。

 時代が世論が世界中の向いている方向性が違うのだ。かつての戦争を今を生きる我等が正当性を歌うことはできない……

 その正当性を知っているのは、彼らのような過去から生きるもののみなのだから……

「しかし、貴方のような者まで初代のいえ、彼のそばにいる……それだけで、初代魔王のこの世界に対する正当性があることになる」

 長年、間違った支配構造で彼らを苦しめてきた人間のほうが悪なのだと思わされるときがある。教会や神という免罪符があればこそできていたことなのだが。

「むずかしいのぅ」

 私はぼそりとつぶやく。するとエールディン殿は目を細め、くすりと笑うのであった。

「いやすまぬのぅ……ひとつアドバイスじゃ。思いつめて戦争などせぬように……主はあやつに似ておるからのぅ」

 そういうとカーライア殿は歩き去っていく、たぶんここに来た目的は人間側の協力者の視察だったんだろう……



 俺はゆっくりと目を細める。一週間ぐらいこっちで腕腕やる予定だったが、草からの通信で面倒なことになってしまっていることを聞かされたからだ。

「悪い、イモータル俺の指示書どおりに動いてくれないか?」

「いつにもなくあせっているな」

 それもそうだろう、馬鹿親父とその取り巻きの馬鹿どもが俺の領地に向けて出兵したとなると。

「あと陛下に略式裁判の手配しておいてもらうように言ってくれ、罪状は内乱罪と国家転覆罪。執行人の名前を俺にしてもらうとうれしい」

 あわててイモータルが飛び出していく、内乱という言葉を聴いて、ことがどれだけ切羽詰っているかわかっているのだろう。

「防壁のできてないところを狙ってくるか……いや、人数的に挟撃だろうなぁ」

 転移魔法で自室に転移した状態で俺はぼそりとつぶやいた。略式詠唱や無詠唱で転移魔法を使うと転移座標がずれるのだが……あせりすぎてステータスが変な具合に突破したのだろうそういうことにしておく。

 王都に行く前に渡していた通信符をハックし、俺はエリクの頭の中に直接話しかける。

「聞こえますかエリク。私は今、貴方の頭に直接話しかけています」

『アルバート様いきなりなんです』

 魔力探知型ソナーと動体感知センサー系の魔法の応用で俺は屋敷の中を彼のそばまで移動していく。

「私、アルー。今、貴方のいる部屋の隣にいるの」

『ちょ』

 あわてて四方八方の部屋の扉を彼が開ける。彼が俺のいる部屋の扉を開ける前に、俺はステルス系の魔法を駆使したが。

 彼が扉を開けた瞬間、その隣を縫って彼の後ろで足音を鳴らす。するとエリクはすごい勢いで後ろを見た。

 そこですかさずエリクが向いている方向と逆方向に立ち、俺は再び口を開く。

「私、アルー。今、貴方の後ろにいるの」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」

 耳元で叫び声が聞こえ、俺は腹を抱えながらキンキンする耳を押さえる。

「うるせぇ、エリク。戦えるものを集めて、警備を今すぐ集めてくれ建築は二の次でかまわねぇ。できるだけ敵さん到着までに体力消耗している人員は休むようにと伝えてくれ。あの二人は……騎士団に貸し出してたな」

 アンダンテ達は騎士団の女騎士にほれてしまったのか、教皇国以来ずっと騎士団にいる。

「今いるのは戦争を知らないひよっこどもか……魔国からは呼び出せねぇし……あれ?じいちゃんは?」

「ここにおるぞ、まったく王とお茶をしていたのじゃが……よほど状況が悪いのか?」

 かつての戦士としての瞳をしているじいちゃんをみて、俺はうなずく。つうかこのじいちゃん、王都にいたのかよ。

「ふむ主は建造途中の砦のほうに向かうのじゃな?ワシは別働のところの指揮と前線を構築じゃな。エリクをかりてくぞい」

 エリクの首根っこを引っ張りじいちゃんが笑いながら歩き去っていく。

 相変わらず、この地上を楽しんでいるなぁあのじいちゃん。

「さてと魔王の力を使わずにどう戦いますかねぇ」

 まぁやることは決まっているのだがなぁ……

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