平穏の裏で
姫さんの教皇国訪問から2か月がたち、教皇国は初代魔王の復活を宣言した。無論、初代勇者のことは伏せてだが……それと同時に魔国と一部の村々から様々なうわさが流れた。
魔国からは復活なされた初代魔王は魔国を捨てたということ、一部の村々からは救世主と名乗ったその男がうわさの初代魔王の名を名乗っていたこと……そして教会の人体実験の話も……
そんないろいろとややこしい情勢となってしまった状態で俺はというと、進撃の兄弟を王都に配置したままにし、龍人と魔人に領地運営を任せて田畑をたがやしていた。
一応、イモータルも俺の領地で面倒を見ることになった。初代勇者の信者であっても、今回の一件でいろいろ吹っ切れたのだろう。つうか初代の婚約者である俺を亡き者にしようと、考えている可能性があるが。
「ふぅ……しんどいのぅ」
俺は耕した土地を軽く眺めると、その場においてある椅子に腰掛け、もってきた水筒を煽る。
「フィーリス様、精が出ますね」
領民がそう声をかけてくる。俺はそれを笑って返す。
「えぇ、私のやりたいことですし、これを品種改良成功すれば、寒冷地での食糧問題が解決するんです。この作物は痩せた土地でも育ちますからね」
そんなことをやりながら、俺は建設計画が進む俺の都市を見た。
「1年で商業区の完成……それに関する都市機能の配備だからね?領主様も無茶をなさります」
「無茶か……もっと無茶な案がありますよ。おっと失礼」
走ってきたエリクを視界の端にとらえて、俺は話を切り上げる。
「どうした?エリク」
彼は肩で息をしながら、俺に手紙を差し出してきた。俺はそれをよむとにやりと笑う。ついに、教会が動き出したかと、楽しくなってきた。
「どうしましょう、アルバート様」
俺は公式の場でないからアルでいいのにと苦笑いを浮かべると、もう決まっているよと小さく返した。
「教会がこの手の新書を送りつけてきて、初代魔王を駆ろうとするのは知っていた。あとはそれを受けてどのように行動するかだが……陛下は俺にこの案件を一任するらしいな。王都に行ってくる2,3日戻らんよ」
「俺も行くぜ」
イモータルがどこからともなく現れる。おおよそ、エリクについてここまで来たんだろう。まぁ案だけあわてていたならば、あとをつけたくなる気持ちはわからんこともないが。
「あぁ頼むよ。人体実験された元神官が来てくれるなら心強い」
「お前何するつもりだ一体……神様を抑え込んだのは理解したが、それだけじゃないだろ?」
そう問いかけられて、俺はにやりと笑う。
「宗教をつぶして、宗教を作る。俺が先導してじゃない。みんなの理性が倫理が宗教となるようなそれをね?」
俺は異世界で、宗教が弱い心の支えになるということは知っている。だから宗教は完全に排除の動きじゃなく、新しい宗教を立ち上げようとしているのだ。
今の宗教はなまじ狂った神がいるせいでおかしくなっているが、神なき世界ならばあほなことを言うやつらを弾圧していけばいい話だったのだが……
「さて行くぞ。転移」
俺は王都のはずれの街にイモータルとともに現れる。
「毎回思うが、その転移卑怯だよなぁ」
「何を言うか、俺のこれはだいぶ魔力をくってんだぞ?」
大体、人間で言うと80人分の魔力ぐらいをなというと、お前にとってはどれぐらい小規模な魔力消費だよと言われる。
「全盛期の能力も取り戻したし、大体1分で回復するレベルかな?」
「相変わらずバグっているよなぁ。彼女に対して本気出せば勝ててたろ」
まぁなと短くつぶやき、門番に目を交わせる。
「フィーリス様!!お早いおつきですね?」
「あぁ飛んできた。王城までの馬車を頼めるかな?」
俺たちは一応の体裁を整えるために、王城の城門まで馬車で向かう、道中も楽しそうなのだが一応貴族の法恩なので体裁を整えないといけないというのがつらいな。
「遊びたそうだな」
「おう、めっちゃ遊びたいぜ?」
そんなやり取りをしているうちに、俺たちは王城にたどり着き謁見の間に通される。
「お久しぶりです。陛下」
「楽にしてもらって構わない。そこにいる御仁もな」
俺たちはそれを聞き、かしこまっていたのを解く。
「はなしは娘から聞いた。お前がまさか初代魔王だったとはな……」
「はは、魔王を引退した身です。勇者を引退し魔王になった彼女みたいにね?早速ですが、まず教皇国から送られてきた親書を他の国に配ってください。周囲の目をこの国に向けます」
俺はにやりと笑うと、陛下を見る。
「……何を考えているかわからんが、いいだろう使者をすぐださせよう」
「そして次にですが、このたびの申し出を受けてください。それだけで結構です。後はこちらでやらせていただきます」
そういうと、陛下は少し驚いた表情を浮かべ、俺のことを見てくる。親書の内容は、俺の処刑といった内容だからだ。
「もっと、こう一国の王を動かすようなことは?」
「いえ、ありません。こちらにはとっておきの爆弾がありますから」
ちらりと隣を見ると、イモータルがすべてを悟ったように笑う。もともとの性格が、俺に似ているだけあってよく察してくれるなぁ
「気になっておったのだが、そちらの御仁は?」
「あぁ、元神官で90年前に私を討伐したイモータルと呼ばれている者です。教会の人体実験の生き証人にして、私が治療したイモータルのなかで唯一イモータルの不死性のみを残せたパターンです」
まぁ失敗した結果が彼なわけだが……
「まさか、狂人暗殺者イモータルか!!」
「はは、演技ですよ。90年間あそこに潜伏するためのね」
恐怖の代名詞といわれた暗殺者だったらしく、陛下もお知りになられていたとは……
「なるほど彼がお前のことを初代魔王ではないと言い切れば……」
「無理です。こいつと二人で、彼女を助けるために教皇国で暴れ倒していましたから、異端審問を開始すると思いますよ。そこで、各国にばらまいた親書の内容が効力を示すのです」
俺の狙いは、教会による内政干渉に見せるため。一応は俺は第三王女の婚約者となっているため俺を無理やりに処刑することは、内政干渉となりかねないのだ。親書の内容には貴族がどうたらとかも書かれていないことだし。
「教皇国の隔離が目的か!!えぐいことを考える」
「いやぁ……それはまだ入り口に過ぎません。教皇国の隔離はね?」
目指す世界は遠くて近いのだから……
「この騒動が終われば、学園に通ってみないか?」
「貴族の正常化か?平民として入学したほうがいいよな?」
俺はにやりとしながらそう言うと、王は目を丸くする。
「まぁいいぜ。魔王時代の力も大体戻っているし、都市計画もいい助手が見つかって計画指示飛ばすだけでいいからな。来年からでいいか?」
「あぁ、頼むよ。しかし、取り繕うことを急にやめてどうしたんだ?」
俺は王に向けてにやりと笑う。
「あぁ、面倒になった。一気に話が動きすぎてね?斜に構えているけれど、いっぱいいっぱいなんだよ」
◇
「今日届いたとして、正式な返答は2か月後……いや、魔王がいたとして相談するだろうから、3か月後か」
返答が遅れれば、遅れるほど奴がそこにいる確率が高くなる。そうなれば、世界の敵として再び戦争を起こすことができるのだ!!
『聞こえている?僕よ』
「はい、女神様。忠実なる僕であるわたくしめは聞こえています」
神の御言葉に、私は目を見開く。聖地が穢され女神様が降臨できなくなってしまったが、女神様は私と通信できる手段を残しておいでだったのだ。
『あの魔王を殺せたのは、彼女を殺せなかった魔王の甘さからくるものでした。あの女を手中に収めきれなかったのは痛いです。わかりますね?』
「えぇ女神様それは理解しています」
なぜ、神であるこのお方が、おびえているのだろうか?たった一人の人間に対して。
『……あの人間は特別なのです。悪い意味で……すべての生物は私の加護下にあります。それは生まれてくる魂すべてに加護を与えているからです』
それゆえに、女神様は慈愛の女神様として奉られているのを知っている。だからだろう、このお方のそんな言葉を聞いて怖いと思ってしまうのは。
『あの人間……いえ、あの生物はありとあらゆる神の加護を受けず。加護なしでこの世界を生きてきた唯一の存在。私は彼に恐怖しているのです』
うそだ……神の加護を受けなければ、生まれることも生きていくことも不可能なはず……なのになぜあの男は生きている!!
『ゆえに、あの者は私と同格の存在……いえ、今や私以上の力をつけている可能性があります。さらに……彼は悲しいほどに人間です』
悲しいほどに人間の意味が解らない。
「心にとめておきます……」
◇
「悲しいほどに人間だなぁ。ワシの見込んだ存在は」
「悪意では悪魔は人には勝てないか?だとしたら、俺はそれにあてはまるだろうな」
俺のことを理解してくれる友に、笑いかける。
「今、王都だろう?どうやって、ワシに幻影魔法をかけているのだ?」
その問いかけに答えるように、俺は剣を見せる。魔剣のレプリカだ。
「媒介を中心とした集団幻覚だよ。俺はここにいると同時に、ここにはいないという幻覚を半径20Km圏内の生物に対して施しているんだ」
彼はあきれたようにため息をつくと、俺はゆっくりと窓の外を見る。
「これが90年間……みてきた光景の再現か?」
「もっとすごいよ。俺が生きてきた日本という国は……生物に頼らずに長距離移動ができ、魔法を使わずに数百人単位を空で移送したり、こっから王都までの距離を2時間で走破してしまう乗り物があったりしたんだ」
この体が生きているうちに、それの再現は無理だろうが、そんな世界の入り口をここにつくりたい。だから、魔力に頼らない道具の開発などをドワーフに依頼したり、自ら設計図を引いたりしているのだ。
「だとしたら、この世界は退屈だろう?」
「娯楽がないといえばないのだけど、それを考えている暇なんかないからなぁ。記憶が戻ってからというもの、いろいろとやることが多くなりすぎた」
まったくしんどいよと小さくつぶやくと、友はゆっくりと苦笑いを浮かべた。
「そろそろ、向こうの話がややこしくなるから、幻影けすわ。そうそう、勝手に行くなよ?カギは俺が抑えとくからな!!」
◇
「なんで逢いに来なかったの?」
謁見の間を出た俺を待ち構えていたのは、鬼のような形相をしたリリー殿下だった。
「あー、自分の領地でふてくされていたんだよ」
俺は部屋にあった椅子に座ると、ゆっくりとため息を吐いた。
「まぁなんつうか……ミーフェリア、あんときと変わらずきれいだよ」
どっちかというと、俺を殺しに来た時の彼女の表情が一番きれいだと思ったのだが、それを言うと切りかかってくる可能性も捨てきれないので口をつむいだ。
「やっぱり、カーライアなのよね?」
「はは……君が育てた三代目を見てきたよ。立派な魔王をやっていた。国の中にも、人間が少しだけどいたが、君の差し金かい?」
彼女は首を横に振った。だとしたら今代の魔王が、自力でそこまでこぎつけたのか……すごいな。まぁ育ての母が人間で偉大な初代も人間だと聞かされて育ったみたいだし、人間に対してそこまで敵意を抱かなかったのが理由だろうが。
「で?ふてくされてたのって嘘でしょ?」
「……俺の体感で90年君を放置していて、逢いに来るのがね?少し気恥ずかしかったのがひとつだな」
どもりながらそう言うと、彼女はぷっと噴出した。
「そんな可愛い考えしてたっけ?私がおぼえているのは、ふてぶてしく魔王やって私を傷つけるのが嫌だからってわざと私の刃を受けたぐらいしか覚えてないのだけど」
90年前のことを、恨みに思ってらっしゃるこのお方……こわ!!顔こわ!!
「90年もありゃ、人は変わるもんだよ」
「私を見捨てて逃げたり?」
助けに行きましたよね?姐さん……まったく、恨みに持ちすぎだ。
「まっあんたが魔王になった時も、助けに来なかった理由は私が死なないからよね?」
「あぁ、助けれる奴を優先した結果だ。結果……見捨てる形になった」
ただそれだけだと、小さく俺はつぶやいた。
「だったらなぜ、なぜあの時あなたは魔族を見捨てて……自分一人死んだの?私が治めても魔族が負けたことには変わりがない!!少なからず、彼らへの風当たりは強くなった!!私を殺していれば……」
俺は目を細める。
「どれだけ、見捨てようが、俺も人の子だってことだよ。自分の愛する人を殺してまで行きたくはない。たとえそれが最悪の結果につながることになってもな」
そう小さくつぶやくと、俺は彼女の瞳を見る。彼女の瞳は歪み、今にも泣きだしそうな表情をしている。魔国を恨んでいた時の彼女はもういないか、すべてを押し殺し俺の前に立った彼女はもう……それでいいんだけど、なぜかすっきりとしない。
「お前も変わったな」
「後あと50年以上も魔国で女王やってれば変わるわよ。貴方が遺した国はいい国だったわよ。最終決戦で、貴方が死ぬことを決めてほとんど被害はなかったしね」
あぁそうか……物足りなさの原因が大体わかった気がする。彼女は敵側に回ってもらって、俺が間違った時に殺してほしいんだ。
前回魔王をやった時には、俺は人類を防衛以外の目的で攻撃していた……ゆえに途中で道をたがえたんだ……自身の理想とする平和から……今の彼女でも否定してくれるだろうか?昔の俺を
「なぁ、90年前の俺は間違ったと思うか?」
「何よいきなり……そうね、成すべきことはあっていたと思うわ。やり方は最低だったけどね」
そうか……彼女は変わってはいないならば俺の言葉は……
「なぁ、もし俺がまた道を間違えることがあったら……またその時は、殺してくれ」
そう短く告げる。俺が求めているのは理解者であり断罪者だ……あの時、安らかに死ねたのは、彼女の心に、戸惑いがあったからだろうと俺は思う。
「いいわよ。でも間違える前にたたきなおしてやるわ」
そう彼女は美しい笑顔で、俺にいうのだった。
「で?もうひとつは?」
「あ~教会の追求と俺が侯爵になった件での、俺の元実家とその周辺の貴族がきな臭くてな」
くそ、口を滑らしてしまったなぁ追求がやっぱりくるか。
「あー、その二つが手を組んだらまずいんじゃ?」
「は?次期公爵にして、国策の推進者を落としいれようとするんだ国家反逆罪でしょっ引ける」
へっへっへと笑いながら、ゆっくりと口を開く。
「うわー……本当にうわぁ」
「なんだよ、国を治めていたときによくつかったろ?あいつらの勧めで、ちなみに仕込んだの俺な」
そこから笑い声と、かる口が始まった。
こないだは申し訳ございませんでした投稿確認ができていなかったために話がバラバラになってしまいました。