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決意

「ふむ、ここが教会か……」

 俺は村の教会に足を踏み入れると、そこにはシスターがいた。

「……ふむ、貴女がこの教会のシスターですか?」

「はい、そうですが一体何のご用でしょうか?」

 少し微笑むと、目を細めた。グールの対処ができるシスターがそうほいほいいてはたまらない、ということは彼女は……

「……この村で発生したグールの対応についてお聞かせ願いたいと……呪い憑きだったという話があるのですが」

 シスターは俺の口から漏れた言葉に顔を青くする。

「……もう知られてしまったのですね?」

「大方、教会から逃げてきたんだろう」

 ゆっくりとため息を吐いた。

「え?……」

 何を不思議そうにする必要があるのか、解らないが彼女はそう問い返してきた。

「アンタが、異教徒ばっかりのこの村にわざと厄災を持ち込んだと思えないんだ……魂の色的にな?」

 俺の得意とするのは、魂の操作だったり肉体の操作だったりする。その副次的能力として、人の魂が見えたりいろいろあるのだ。

 その能力で見た結果、彼女の魂の色は包容力のあるきれいな青色をしていた。

「……隠し通せるものじゃありませんね?教会の人体実験をされた彼を匿い逃げるためにこの村に布教という形で逃げてきました」

 ……異教徒だらけの中にわざわざ調査隊を派遣するような余裕はないか……

「彼か……彼とは親しいのか?」

「一緒の町の出身なんです」

 そうつぶやく彼女の顔には、嘘偽りもない……ということは……

「はぁ、人体実験は強制か?」

「そう……です」

 なるほどよく分かった……殺すのも寝覚めが悪いなぁ……

 かといって治療をするにも、準備が足りないし……

 イモータルの奴と同じ状態にするか?だがそうなってくると……彼女は同じ時を生きれない……

「なぁ、あんたはどっちがいいと思う?君が匿った人間が化け物になって殺されるのと、人間として殺されるのの?」

 そうつぶやくと、シスターは静かに目を閉じた。別れの覚悟を決めたような表情……

「……もう限界ですよね。こんな生活が長続きするわけが……」

 俺はため息をつく。彼女に対しては、別の可能性を示したくなったからだ。

「かつて同じ術を施された奴が勇者パーティーにいた。そいつはさ……死にに魔王城まで来たんだ。薄れゆく自意識の中ね」

 かつてあった、不死者の呪いをかけられた男の話……

「魔王はさ、勇者と戦いながら、そいつにさらなる呪いをかけた……それは教会が研究していた不死の軍団の完成系の呪いを」

 彼女は目を開け、恐ろしいものを見るような目で俺を見てくる。

「……イモータル!!まさか、唯一助かった不死者のことですか!!」

「あぁ……俺に任せてくれないか?俺は……初代魔王の秘儀を扱うことことができる」

 彼女は少し驚いた声を上げる。初代魔王の秘儀ならば可能性があると考えたのだろう。

「初代魔王の秘儀……さまざまな魔法を生み出したかの厄災!!」

 俺はにっこりと笑うとゆっくりと歩き始める。時間的に、あいつらがここまでたどり着くか直前の町まで来ているころあいだろう、さてタイムアタックで治療術式構築か……しんどいなぁ。



「……兄貴をここで待つしかないか」

 結界で護られた町で俺たちは腰を下ろしていた。

「何故、教皇国の禁術で生み出されたグール達がこんなところに?」

「……殿下、ご存じなのですか?」

 主従のやり取りを見ながら、俺は笑う。

「初代勇者パーティーのおかげで露見した人体実験……破棄された奴です」

 俺はそのやり取りに口をはさむ。

「え?」

 フレイトはそんな声を漏らす。

「本当にアレだった場合、初代魔王以外の対処法は被験者を一瞬にして、蒸発させるしか方法がなくなりますが……」

「……なぜあなたがそのことを?」

 姫さんに聞かれて、俺は苦笑いを浮かべる。

「姫さんが知っているわけないんだがな。まぁいい、この仕事につくまで色んな教会の研究所を潰してきたから知っているんです」

 そう告げて、目を細める。

「まっ、つうことで不死者ごとき俺等兄弟が遅れをとるわけないんですよ」

「よぅ姫さんとフレイト。どうしたそんな顔をして」

 血まみれの格好で兄貴はひょうひょうと戻ってくる。

「まったく、血でべとべとじゃないか」

「あぁ狂化の呪いも重ねが消されててな、本気で教会潰したほうが早いわ」

 狂化の魔法、通常意識がはっきりした奴を狂わせるための禁術でアンデット系の意識が飛んでいる奴にかけると若干の知性を与えることができる……

 知性が若干でもあると、僕らに対処できる不死者の域を超えている……

「姫さん……この町にしばらく滞在になります。僕ら二人で不死者討伐してきますんで」

「……大丈夫なのですか?」

 兄貴の提案に姫様は問いかける。

「こればっかりはやってみないとね?」

 全く、消滅魔法の久しぶりの行使か、胸が熱くなるなぁ。

「フレイトさん姫様の護衛をお願いします」

 俺たち二人はたがいに歩き始める。

「さぁ受け継がれし六人将の血から見せつけてやろうぜ」



「狂化の呪いもついているのか、やっぱり……しゃぁない本気になるしかないのかな?」

 ゆっくりと、魔法陣の構成を空中に描いていく。

「ここをああすればこの式が無効化されるから、ここをああして思考能力と理性の増幅をすると……問題は不死性をどうするかだよなぁ。あの式の流用はやるとして、不死性の排除はやっぱ解呪しかないか……」

 空間に踊る文字を眺めながら、俺はゆっくりと苦笑いを浮かべた。

「魔法か……向こうの世界だったら鼻で笑ってたよなぁ」

 組み変わっていく文字は一つの意味を導き出す。昔の俺だったら、導き出せなかった魔法が完成する。

「不死性殺し……性質だけを殺し切る魔法か……これならば」

 やれる……俺はどこまでも人間に戻すことも  を殺すことも……

 ゆっくりと右腕の拳を握りしめて笑う。

「さて始めようか、90年前にできなくて諦めたあの結果の焼き直しを……」



 街で聞き込みをしていると、これから通過する村でグールが発生したという話を聞かされる。

 それをたどっていくと、実際にどういう状況でなにが起きているのかが大体わかる。

「ふむ、時期的には理性を失っていてもおかしくはないのか」

「……どんなに強くても、不死の呪いだと発狂するからね?いや狂化もついているから余計か」

 そうだなと小さくつぶやきながら、町の外へと出る。

「……なぁ、兄貴勝てるだろうか?」

「勝つんだよ。何のために魔王様から託された!!」

 前にも向かっても、後ろに進んでも結果は同じなんだ。

 平和に暮らしたいという全ての人々の願いを、俺たちが受け継がなきゃいけない。

「それもそうだ」

 各々の意志を受けて俺たちは動き出す。

 戦いの元へと。



 男は一人暗闇の中でもがき苦しむ。

「だれか……」

 かすれた声が響き渡り、森の中へと消えていく。

「だれか……俺を……」

 それはまるで何かを呪うような呪詛にも聞こえる。

「殺してくれ」

 でも、ただそれは呪詛ではなく、助けを求める声だったが……

 男は一人、失われていく理性と増大していく本能のはざまでもがき苦しむ。

 それに答えるように森が騒がしくなってくる。

 まるで……まるで主の慟哭に騒ぎ始める家来みたいに思える。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 男にはもう希望はなかった……

 人体実験を施され、愛した人と逃げ切っても自分が自分でいられる保証などどこにもないのだから……

 限界だったのだ。このままくるってしまったほうが楽だと感じてしまっている自分に気づく。

 たとえ……たとえ恋人を裏切る形になってしまっても……

 男はそんな考えを振りほどき、月を見上げる。

「人間に戻る気はあるか?」

 まがまがしいほど漆黒の人型の何かがこっちに声をかけてくる。

「初めまして、アンデット。我はそう……魔王カーライア」

「俺を殺しに……」

 カーライアと名乗った魔王はにやりと口の端を上げる。

「我はただ問いかけただけだ、人間に戻る気はあるかと……神の理の外にいる我なら……いや我しかできないことだな、神の外法を打ち破ることができるのは」

 ぱちんと魔王は指を鳴らす。

「明日、君の恋人が我の使者を連れてここに来る。君は先ほどの問いかけにその使者に答えてくれればいい」

「はい……え?」

 男は気づく、精神を削られる痛みも声も治っていることに、魔王と名乗った男はいったい自分に何をした?

「貴様がその時までに狂われても対処に困るからな……少しいじらせてもらった。なぁに、害はないよ。あの外法と違ってね」

 そういうと魔王は舌打ちする。まるで予想外の者が近づいているといった風にも思える。

「ずいぶん近くまで来ているようだな。では、またな」

 魔王は男を残して消えていくのだった。

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