魔王復活の日
復活のインスタント魔王です。前回はエタリましたが頑張る所存でございます
「俺を打ち破ったか……まっただの人間が神に力を分け与えられたものに勝てるわけがなかったのか。面白い……これほどの力を持っていれば他から干渉されることはないだろう」
魔王城の一角、魔王の玉座がある崩れた壁の部屋にその赤い血を流しながら魔王がそう宣言する。
「うそ……でしょ……」
勇者と呼ばれた兜を着込んだ者からは、その鈴のような声色で驚愕の声が上がる。
魔王の体を構成していた魔力がその維持をしきれずに崩壊し、魔王の本体である人の体が現れる。
「恥を承知で頼みたい、勇者よ……虐げられし魔族や亜人たちを頼む!!俺の代わりじゃない、人の良心にたのんでいる」
片膝をつき、魔王の体がゆっくりと崩れる。
「何故、貴方が!!貴方は人間で死んだはずでしょ!!」
叫び声……それを聞き、ただただ魔王は小さく笑うだけだった。
「はは、意外そうだな勇者……いや……久しぶりだねミーフェリア。俺は思うんだ、魔族と亜人たちが人族……俺らと対等な地位を得て、互いに笑い合えたらきっときれいな世界が見えるだろうなってさ。俺には力でしか支配できなかったが……お前は違うだろ……困っている人を助け、弱った魔族までも助けてきたこの戦いに疑問を持つきみならばね?」
魔王の呼吸がどんどん小さくなっていく。そろそろ時間なのだろう……そう察した魔王は声色を変える。
「期待しているぞ、勇者よ。その威光が偽りの物ではないことを信じて……いい国を作って……」
これが魔王の1度目の死だった……
そして次に魔王が目覚めたのはその世界じゃなく、地球と呼ばれる異世界だった。
魔王は6歳の頃友人たちと遊んでいるときにサッカーボールを後頭部に受け、魔王としての記憶がよみがえる。
そしてその世界で科学者となりさまざまな知識を蓄えた魔王は、平和な世界で平和な日常を過ごしていた。
ただ魔王が研究していたのは異世界転移の研究であった……といわれている。
「もうそろそろか」
そして何十年が過ぎ彼は末期のがんとなりベッドに張り付けになる生活を送っていた。
文字もろくにかけなく、声もろくに出せなくなる前に彼は自分の娘を見る。
「世界は一つではない、平和も一つではいけない……数ある平和の形……それが成った時、世界は変わることができるだろう」
彼の漏らした言葉は願いだったという。平和に対する願望……
その願望がなぜ、異世界に行くことにつながるのかは誰もわからない。ただ一つだけ言えるのは、彼が異世界の平和を願ったということだけだった。
そして魔王は……3度目の転生を遂げる。
目覚めは12歳のこと……彼が元魔王領……現在は魔国ミーフェリアと呼ばれる地を訪れた時だった。
◇
ミーフェリアにある王城に足を入れた瞬間に、俺は妙に懐かしい既視感を覚える。
「何だこの気分……」
見たこともない場所なのに、なぜか胸が熱くなる。
「どうなされましたか?」
付き人の我が国の誇る軍に所属する兵士が俺を覗き込んでくる。
「魔王様がお呼びです」
謁見の間でひざまずく。
「楽にしてくれていい」
顔を上げると、今代の魔王が王座に座っていた。魔王の表情は温和で、人と比べ異形だが、親しみやすい雰囲気をしている。
「ずいぶんと若いな名は?」
「アルバート・フォン・ラトリシアです。先日、子爵位を渡されて領地運営をさせていただいております」
俺がそういうと、魔王は懐かしそうに目を細める。はて?魔王と会ったことがあるのだろうか?うちの親父殿はたしか人間至上主義者だったはずだが?
「どうかなさいましたか?」
「いや、先代魔王……お前たち人間では勇者ミーフェリアがよく私に語ってくれた初代魔王の名に似ていたのでな」
初代魔王……人間に絶望した人間が正体だと勇者ミーフェリアは語ったといわれている。
その名は彼女は生涯明かさなかったことを……
「失礼ですが魔王陛下は初代魔王の名前を?」
「あぁ、この件は内密にな?他に漏れたら大変なことになる」
そう笑いながら言う陛下に対して、妙な安心感がある。まるで、秘密を共有するともに話しかけるように思えるのだ。
「解りました。本日は我が国の王より親書を持ってまいりました」
魔王陛下に陛下からの手紙を献上すると、その場で無作法に読み始めた。
「ふむなるほどな、アルバート殿すぐに返事をたしなめるので、本日はとまって行かれてはいかがかな?」
「もともとこちらの方に宿をとり一泊する予定でしたので……よろしいのですか?」
意味としては暗殺者かもしれない人族を魔王のそばに置くのは大丈夫か?と聞いているのだ。俺はそんなことをするつもりはないが……
「いいのだ。お前からは、どうも我々を馬鹿にするような目ではなく親愛なるものを見る目をしているしな。フランクな場でお前と話したくなった」
そうですかと小さく言う。
通常の人間は彼等を人外のものとし下等な生き物だと決めつけまるでゴミを見るような目を浮かべる。
俺はというと、意思疎通ができるのであれば自分と姿が違えども友になれそして家族にもなれると思っている側の人間なので、魔王陛下はそんな俺の本心を見抜いたのだろうなと思う。まぁ、親父殿のせいで排斥派を演じ続けなければいけないが……
「ではお言葉に甘えさせていただきます」
外で待機させていたお付の兵と共にメイドに案内されて王城の中を歩く。
王城の壁はところどころすすけており、俺は直さないのかなと首をかしげる。
「どうかなさいましたか?あぁ壁の汚れなどですね?これらは初代魔王様と英雄ミーフェリア様が戦った跡となってます。ミーフェリア様の遺言で謁見の間や壁の崩れ以外などは直していないのですよ」
俺の心臓がドクンとはねる……
剣戟の音が聞こえ始め、王城の廊下がゆがんでいく。まるでそれがつい昨日の出来事のように感じ始め、前進が発火する感覚を覚える
俺の頭の中を脳みその脳神経一本一本に記憶が一瞬にして駆け巡り、俺の人格を侵食していく。その記憶は、はるか昔……魔王カーライアがこの国にいたときの記憶、俺が魔王としてこの国を治めていた時の記憶……
やがて、人格が侵食される感覚が消え、今度は魔王の人格が解けて消え始める。まるで、今の人格に記憶を渡すためだけに人格が存在したと思うような出来事だった。
「俺……初代を知る者はこの国に残っているのですか?」
魔王としての記憶を思い出した俺は、ゆっくりとそう呟く。
「えぇ、軍の元帥様や宰相様は初代魔王様の時からこの国におられるお方ですが……どうかなさいましたか?」
ぼんやりと白銀の鎧を身にまとった勇者の姿を思い出しながらも俺は口を開く。そう、彼らに逢わないといけないからだ。
「その方々とお話しすることはできますか?」
お付の兵はぎょっとしたような表情を浮かべる。まぁそうだろうな……一介の親善大使が興味を持つはずのないのだ。
「出来ますがよろしいので?内政干渉などを疑われるはずですが」
お付の兵は監視役も含めている。この件は実家にも王城にも上がるだろう、まぁその点はどうしようもないことであって、大丈夫じゃないのだが、嘘八百は得意なことなんだ。
「ふむ、内政にかかわるようなことを聞くつもりはないのだがね?俺は初代魔王様がどのような人であったかを聞いてみたいのですよ。伝承や嘘ではないすべてを見てきた彼らの口から直接ね?」
俺は兵士に納得させるためにただの歴史の確認をしたい、歴史を知りたいということを強調する。こんなこと親父に伝われば面倒なことこの上ないからな。
「後、兵士よ……初代の時代からこっちの情報はないんだ。いつ何が起こるかぐらいは把握できる情報を知ってもいいと思うわけだが?」
小さく笑うと、兵士はそれもそうですねと笑いかけてきた。
「こちらの部屋になります。お付の兵の方はこちらに」
「あぁ呼ぶ場合、ラインバースの森の奥には何があると思う?って言っとけ絶対慌ててくるから」
案内されたドアをくぐりながら、いたずらをしてやった子供みたいな笑顔を浮かべてそういった。
室内は俺がいた時とは違い、豪華な調度品で整えられきれいに部屋が掃除されている。ところどころに、あいつを思い出されるような細工がされていて、少し含み笑いを浮かべると、机の前におかれた椅子に座る。
座った状態から俺は天井を見上げ、ゆっくりと目を閉じる。次の瞬間、顔の先からポーンと音が鳴り響き、俺の体から魔力が体から空間に染み出ていくのがわかってくる。
その魔力は振動となって大気を揺らし俺はゆっくりと目を開けた。
「……気づいてくれよ!!誰が来るかはわからないけどな!!」
俺はほくそ笑むと、ゆっくりと椅子の背もたれに背を預けた。
◇
「宰相……気づいたか?」
「何者かが、魔力ソナーを指向性なしにはなったようですね?自分はここにいるアピールで」
私、ネルフィーはゆっくりと目を細める。懐かしい魔力の波動に心地よい流れに昔を思い出してしまったからだ。
「ソナーの魔力が妙に懐かしい……初代魔王陛下と同じ魔力の波長を感じますね。これは……」
少し首をかしげた後、魔王陛下が笑い始める。
「宰相は初代の名を知っておったのであったな。今日王国より使者として参った客人……名をアルバート・フォン・ラトリシアという」
その名を聞き、私は目を見開いた。アルバートその名が偶然だったなら、話は終わってしまうが個の魔力の波長の持ち主がそのアルバートだというのなら彼は初代の生まれ変わりだということとなる。
「初代……魔王陛下!!あの時、勇者に殺されこの国を彼女に託したはず!!」
「他人の空似だろうな」
そう陛下が仰るが、この魔力ソナーはだったら一体何のためにと……まるで私たちを呼ぶように放たれているのはいったいなぜなんだろうかと……
「失礼します」
メイドが私達の部屋に入ってくる。
「宰相様か元帥様にお会いしたいと客人のかたが……」
「……陛下……やっぱり初代の可能性が……おい、客人はほかになんと?」
あれだ、あのソナーの後にメイドが客人が呼んでいると言いに来るのがおかしいのだ……
絶対今回の客人は私達をもてあそんでやがる。
「それとお客様より伝言で『ラインバースの森の奥には何があるとおもう?』と……」
「使用人……元帥を呼んで客人の元へ連れてけ。どうせ客人は第一客室だろう私は先に行ってる」
「おい、どうしたというのだ!!」
魔王陛下はあわてて私を止めようとするが、私は少しイラついているので止まらず口だけ開く。
「陛下!!今回の客人、確実に初代です。この城の名ラインバースは私を含めた元直属部隊との押し問答でなずけられました。その押し問答が始まった時の言葉が先ほどの……」
ラインバースの森の奥には何があると思う?だ!!
これを知っているのは初期の魔王軍創設メンバーぐらいしかおらず、現在生きているのは私含めて4人……そのうち二人はここには寄り付かないので……
「なるほど、ならばその眼で確認してくるといい」
「ありがとうございます」
私は歩いていく、何かが変わるという確信を持ちながら。
◇
「懐かしい気配がするなぁ……」
歩いてくる気配は一騎当千と呼ばれた魔族の女性の物だった。彼女は美しい剣舞を披露してくれたり、戦うという動作一つ一つが美しかったと記憶している。
あの時は小さかったが、今はどうなってんだろうなぁ。
「それに、別の気配歩くチャリオットと呼ばれた虎の獣人のか!!なるほど、あの二人がこの城に詰めているというわけか」
扉がノックされて、俺はにやりと微笑みながらどうぞというと、予想通りの人物が入ってくる。
少し黒みがかった肌に赤い目を持ったナイスバディ―な女性は俺を見るなり目を丸くする。
「やぁ久しぶりだね?ネルフィー。ラインバースの森の奥には平和な国があるといいなって、俺の顔に何かついているか?」
「あ……あぁ……」
彼女は声にならない声を漏らす。今にも泣きだしそうな顔をした彼女はその場で小刻みに震えていた。
「ん?まだ足りねぇか?んじゃぁ、魔王カーライア復活したぜ?」
かっかと笑っていると、虎の顔をした筋肉質の男がネルフィーの後ろに立っていた。
「やぁクワクギル久しぶり。まずは部屋に入ってはなさないか?」
そういうと、うつろな歩みで彼女たちが入ってくる。どれだけ驚いているんだ?こいつらは……高が俺が復活したぐらいで……
「……で?まぁアンタが初代……つうことは大体わかるんだが、今まで何してた?」
クワクがそう声を上げる。彼は比較的、驚いていない様子でそう問いかけてきた。
「普通に死んでたよ。どうも始まりの俺……魔王カーライアが自身の魂に細工してな、記憶と性格を蓄積できるようにしてあるらしいな」
俺は自身の手を見る。手には青白い魔力が集まっており、その魔力は青白い炎を生じさせる。
「そんな細工をしてやがって……下手し魂が壊れて……」
「そのために条件式での記憶の解放が行われるようにセットした。一つは懐かしいと感じた時、一つは死の危機が起きた時にな。俺はさっき目覚めたばっかりだしな」
小細工やる時は徹底的に小細工を仕掛けましょうっていうことなんだけどなぁ……
「カーライア様……生きていらっしゃるのですよね?」
彼女は俺のそばでへたり込むと、そう呟く。俺は右目を閉じながら彼女の頭に手を置き、優しくなでた。
「あぁ、正確には生き返っただがな?しかしまぁ、すごい成長したなぁ」
俺はそういうと、彼女は顔を真っ赤にさせる。何を言っているのか、大体理解したようだった。
「昔から、女性に対するセクハラ癖は変わっていないんですね……いい加減人間の姿やめませんか、カーライア様の人間の姿は成れないんですが……」
「あーあんまり見せたことなかったからなぁ……まっ魔王やってた時の姿に戻るわけいかんし、しばらくはこのままだろうなぁ……ここでならいいだろうが」
そういいながら、魔力を纏い黒い鎧をまとった筋肉質の鬼が現れる。
「生まれ変わってもそれはできるんですね?」
ネルフィーがそういい、俺は苦笑いを浮かべる。
「あぁ、一応な体は以前とかっては違うがちょくちょく力を戻すとするよ」
さてと―――
「今後の話だが」
悪巧みを始めよう……
今度は誰にも邪魔されないように、邪魔させないように綿密に段階を踏んで……
力押しじゃなく知識で世界を翻弄しよう。
さぁはじめよう―――
にやりと俺が笑うと、二人は少しおびえたようにのどを鳴らした。