第八話
投稿が遅くなってしまいました。最近ちょっと忙しかったもので…。
「ここがそのバーか、んでどうやって入るんだ?俺たちみたいのが真正面から入っても入れてなんて貰えねぇだろ」
翌日、数人の警察と合流したガイナールたちは、例のバーの前に来ていた。
「もちろん入れてもらえないわよ。隠し階段かなんかがあって、身内はそこへ。その他の客は、普通に客として扱ってるんでしょうね」
答えたのは、チームのリーダーであるリーシャ。
リーダーである以前に、ほかの3人がやりたがらないので(できないので)作戦は彼女が指示することがほとんどだ。
「昨日も言ったけど、最初はティアに偵察に行ってもらうわ。バーに客がいないことは確認済みだから怪しまれないように、バーにいる関係者を無力化。ティアが帰ってきたら全員で突入します」
「ティアちゃん1人で平気かよ。仮にも犯罪者の隠れ場所で、精霊売買にも絡んでるかもしれないんだろ?」
少し不安そうに、金髪でどことなく遊び人の印象を受けるニックが言う。
不意を打たれたとは言え、前回の事件ではチーム全員が敗北するような強者に接触しているのだ。
この不安も最もだろう。
「もちろんティアには隠密を第一にしてもらって、人数が予想より多かったり遂行が難しそうなら引いてもらうわ。あくまで偵察。無力化はサブミッションとでも考えてくれればいいわ。無力化することより隠密を優先するようにお願いね」
ティアの心配ももちろんだが、1人で行って見つかってしまえば戦力が分散されてしまう。
作戦的にも都合が悪いのだ。
「うん。適当にダラっとやってくるね…」
「いや適当にやられるのは困るけど」
いつも通り眠そうな目のティアに、リーシャが軽く呆れたように言う。
「まぁまぁ、はりきりすぎるよりはいいさ。本番はその後だ。その後は具体的な作戦があったりするのか?」
「全員ぶちのめせばいいんだろうが。ちゃっちゃと始めようぜ」
ぶっきらぼうな声で急かすのはガイナール。
「もう…。ガイはたまには大人しくできないの?えっと、地下に降りてからは方針自体はいつも通り。反抗してくる者だけは武力で応じるけど、それ以外は警察の方に任せて。とは言っても地下がどうなっているかは完全にわかんないから、臨機応変にね」
「じゃあリーシャ…。そろそろ私行ってくるね」
「そうね。じゃあ慎重にね、よろしく」
だいたいの話が終わったところで、リーシャが猫に姿を変えバーの方へ向かっていった。
「俺たちはティアが帰ってくるまで待機か。つまんねぇな」
「ティアちゃんが働いてるってのにお前は気楽なこったね。なんならガイが潜入に行ってみるか?」
「無理に決まってんだろうが。ってかそもそも偵察なんてしねぇで、最初っから全員で突っ込めばいいじゃねぇか。最終的にはそうなるんだからよ。」
「そりゃいつもは形式的にやってきたことだけどよ、今回は精霊売買が絡んでんだ。どんなやつが出てくるかわかったもんじゃないだろ?慎重にいくに越したことはないんだよ」
「はいはい、2人とも。一応私たちだって隠れてる最中なのよ?あんまりぺちゃくちゃ喋らない」
「へいへい」
リーシャの一言で、2人は会話をやめる。
そのままガイナールたちは、建物の影で待機を続けた。
「さて…どうやって入ろうかな…」
猫の姿となったティアは、バーの前にいた。
犯罪者の住処だけでなく、バー自体も地下にある。
窓などから侵入するのは不可能だし、かと言ってバカ正直に扉を開ければバレるのは確実だ。
通気口などは探せばあるだろうが、猫となったティアでも通れるサイズかわからない。
それに、探すのに結構の時間がかかるだろう。
やはり入るには、正面の扉を使うしかないようだ。
「でもさすがにここで帰るわけにもいかないよね…」
リーシャに無理はするなと言われはしたが、まだ偵察らしいことを何一つしていない。
とりあえず耳を立て、内部の音を探る。
よく犬の聴覚は人間の4倍ほどあると言われるが、猫はその犬の2倍ほどの聴覚を持っている。
ティアが偵察の際に猫となるのは、その小ささももちろんだが、聴覚強化の意味もある。
「中には1人…奥の方にいる…」
人数だけでなく、音の反射から内部の大体の構図と位置を割り出す。
ついでに隙間風が吹いている場所も数箇所、耳で見つけ出した。
隙間風が吹いているということは、その先に空間があるということだ。
通気口と思われる場所を除けばだいぶ数は絞られるので、隠し階段を見つけるのに役立つだろう。
「これでも十分かもしれないけど…」
幸いにも人数は1人で、しかも部屋の奥側にいる。
これなら無力化も可能かも知れない。
「…影集め」
ティアがつぶやくと、周囲を微量の魔力が取り巻く。
それは当たる光を吸収し、ティアの姿を周囲から隠す。
この技は戦闘中にも、死角をとるときや分身と同時に使われている。
しかしいくら足音を殺し姿を隠しても、扉をそのまま開ければ気づかれてしまう。
「どうせ悪い人の家だしいいよね…」
小さな動きで爪を振りかざし、ドアに向かって振り下げる。
魔力で強化された爪によって木製のドアは容易く切り裂かれ、ちょうど猫1匹入れるくらいの小さな穴があく。
音を出さないようにドアの欠片を回収したティアは、影から影に移動し人の気配がした場所に近づく。
そこにいたのは、短髪の女だった。
ぱっと見た感じでは戦闘慣れしているようには見えない。
もちろんそれで油断するわけではないが。
「ごめんね、おやすみ」
「っ!?」
女の真後ろをとったティアは、人の姿に戻り手刀で意識を奪う。
気絶させるほどの手刀は後遺症が残る可能性も大きいが、魔力による治療が可能なためよほどのことがなければ大事にはならない。
致命的な後遺症が残るようなら、リーシャが許可していないだろう。
「これで全部終わったね、じゃあみんなのところに戻ろうかな…」
一応猫の姿に戻ろうとしたティアは、背後に殺気を感じ瞬時に伏せ、後ろに跳び距離をとる。
感じた殺気は勘違いではなく、ティアのいた場所にナイフが突き刺さる。
「そんな…」
バー内に入ったあとも、猫でいたときは音で周囲を探っていた。
こんなにはやく接近されるはずがない。
驚きと同時に、見つかってしまったならこいつもどうにかしなければとナイフを投げた敵を視認する。
その敵を見た瞬間、ティアはナイフを投擲された時以上の驚きで、動きを完全に止めることとなった。
「え…なんで…」
目を見開いたまま動かないティアに、その男は話しかける。
「悪いが付いてきてもらおう。抵抗は…その様子じゃなさそうだな」
静かな声で呟いた男は、ティアの手を縛り地下へと降りていった。
「遅いわね…」
すでにティアが潜入を始めてから、20分がたつ。
軽い偵察でここまで時間がかかるのは、明らかに異常だ。
「おい、リーシャ。こりゃあガイじゃねぇが強行突破したほうがいいんじゃねぇか…」
「そうね…。途中報告もないとなると見つかったか…。すでに中で戦闘が起きてる可能性があるわ」
まさかティアが捕らえられているとは思ってもいないリーシャは、強行突破という選択肢を選ぶ。
「もしかしたらまたあの男がいるのかもしれねぇ。そうなったら本気出しててもティアちゃん1人じゃきついぞ」
あの男とは、精霊売買の時の二刀流の男のことだ。
「そうね。2人とも!今から私たちは建物内に突入します。一応単に時間がかかっているだけという可能性も考慮して、ドア付近までは隠密行動。そこで少し待機して、ティアからの合図がないようなら突撃。手練がいる可能性もあるわ、自分勝手に動かないでね」
「「了解」」
ティアが戻ってこないという不測の事態に、3人ともいつもより緊張のある表情でバーへと動き出した。
区切りの問題で、いつもより少し短くなってしまいました。お楽しみいただけたでしょうか?九話も近いうちに投稿できると思います(たぶん…)。引き続き感想絶賛受付中です。誤字報告等の些細なことでもいいので、皆様の声をお待ちしています。