第六話
第五話に引き続き連続投稿です。
「おい、リーシャとティアは?」
「んあ?あれ?リーシャちゃんはさっきまでここにいたんだが、まぁそのうち戻ってくるだろう。」
事情を知らない男2人は、観戦席にいた。
「そうだな、次はCブロックとDブロックの試合だったな」
「おめぇとの対戦相手が決まる試合だ。しっかり目に焼き付けとけよ」
「Cブロックはリンダナだったな。Dブロックは誰だ?」
ガイナールの問いに、ニックは首をかしげる。
「随分親しげだな。ガイはリンダナと知り合いだったりすんのか?」
「昔にちょっとな、そんなことよりDは誰だよ?」
「なんだよ、気になんなぁ。今度しっかり聞かせろよ?えっとDはなぁ…わぁお。これまたチームリーダー様だぜ。アルノルフのおっさんだ、Dブロックの優勝者は」
「あのおっさんか…。こりゃどっちが上がってきても面白くなりそうだな」
「お前に勝てんのか?正直俺ぁおっさんにお前が勝てるとは思わんが…」
ガイナールは、前回の模擬戦でアルノルフに敗北している。
それも一方的にだ。
「もうあの時とはちげぇ!」
「おっさんももう年だしな、お。始まったみたいだぞ」
2人が話しているうちに、アルノルフとリンダナは動き出す。
アルノルフは黒い金属製のトンファーを、リンダナは聖騎士の由来でもある聖剣デュランダルを展開する。
「聖剣か…。準決勝ともなると持ち主もそうだが武器も化け物ぞろいだな」
聖剣とは、聖遺物の1つであり精霊武器と同等の力を持つ武器である。
決勝ブロックに進んだ4人のうち、2人もが規格外武器を持っているということだ。
だがアイノルフのトンファーも特別性であり、サイズが通常の一回りも二回りも違う。
規格外という言い方をするならば、アルノルフの武器も負けていないかもしれない。
「聖剣デュランダル。決して傷つくことなくその剣を害するエネルギーをすべてはじく…だったか?とんだぶっ壊れ武器だな」
「何言ってんだガイ。お前のサラちゃんも、俺からすればとんだぶっ壊れ武器だぞ。自分が普段何ぶん回してるのか、お前はしっかり知るべきだな」
「そうじゃぞ。私に感謝の1つでもするがよい、我が主よ」
精霊武器サラマンドは、デュランダルのように特別な力があるわけではない。
というよりは、精霊武器に何か特別な力が宿っていることは少ない。
精霊武器が規格外と言われる理由は、その圧倒的な威力ゆえだ。
ガイナールのサラマンドは、その象徴ともいえるかもしれない。
逆に聖剣などの聖遺物に近い武器は、特別な力を有するだけで威力自体は一般の武器と変わらないことが多い。
もちろん例外も存在するし、特別な力自体が高い威力を誇っていたりはするのだが。
「にしてもおっさんのトンファーといい、リンダナちゃんのデュランダルといい、攻めるよりは守る部類の武器だな。長引くかもしんねぇな」
「ニック、お前おっさんの戦闘を忘れたのか?長くはならねぇよ」
ガイナールとニックがおっさんと呼ぶアルノルフ、彼の戦闘スタイルはいうなれば重戦車だ。
圧倒的な防御力と攻撃力で、無理やりねじ伏せるごり押し戦法。
本来ガイナールが得意とするタイプの相手だが、前回負けている事実を考えれば、その存在感のほどがわかるだろう。
ステージでは、リンダナの攻撃をアルノルフが防ぎ、アルノルフの攻撃をリンダナがいなしというターン制のような戦いが続いていた。
「こりゃお前と当たるのはやっぱりおっさんかもな」
「だろうな、リンダナに勝ち筋が見えねぇ」
アルノルフの打撃をリンダナはどうにかいなし続けているが、対するリンダナの斬撃はアルノルフに届いていない。
リンダナはかわすか受け流すことに失敗すればその時点で敗北だが、アルノルフはただ受け止めればいい。
アルノルフの防御を突破できない限り、リンダナに勝ち目はない。
その鉄の防御を突破できるだけの火力を持たない者は、どうあがいても敗北を強いられる。
これがアルノルフの理不尽な強さの理由だ。
「ラスト…だな」
「そうだな」
ガイナールとニックが戦闘を見ながら確認する。
リンダナの詠唱術式。
雰囲気からしてこれが最後の一撃。
これが通らなければ、リンダナの負けはほぼ確定する。
リンダナの目の前に、巨大な白い魔法陣が描かれる。
「これで最後にしよう、アルノルフ!」
「ははっ相変わらず威勢のいいお嬢ちゃんだ。こいよ、俺は逃げも隠れもしねぇ」
「我を護りし正義の剣よ。その力を断罪の剣へと変え、我が前に立ちふさがる敵を斬り伏せよ。攻撃は最大の防御なり、表裏一体の理をなせ!」
リンダナの詠唱が、ステージに響き渡る。
本来なら止めに行かなければ不利になる場面だが、アルノルフは動かない。
「詠唱術式解放!デュランダルと同期!あの老害を切り裂け!!ジャッジメントブレイド!!」
片手に持っていた盾を捨て、デュランダルを両手持ちしアルノルフに斬りかかる。
その刃は魔力を帯び、本来の三倍ほどの大きさになっていた。
右斜め下から左上へ一閃。
斬線に沿って、アルノルフの後ろのステージが斬り裂かれる。
巻き上がった土煙と、解放された魔力が2人と観客たちの視界を奪う。
反動のように静まり返ったステージに、1人の声男のが低く響く。
「老害たぁ言ってくれるねぇ、お嬢ちゃん」
そこには両手のトンファーの交差させたまま、無傷ではないが深い傷は1つとして負っていないアルノフルが姿があった。
「ほんと頑丈な人。私の負けよ、降参」
「おれぁまだ付き合ってやってもいいんだぜ?」
「冗談。あなただってわかってんでしょ?今の私じゃ勝てないわ」
やれやれというように、リンダナは首を横に振る。
「第2回戦準決勝を制したのは、聖騎士の猛攻を受けきったアルノルフ!」
「やっぱおっさんだったな、ほらガイ。てめぇの出番だぜ」
準決勝が幕を閉じ、いよいよ決勝戦。
ガイナールは、席を立ち待機室へ向かう。
「じゃあ行ってくるぜ」
「おう、お前らしくド派手にやってこい」
ニックと拳を合わせたガイナールは、リベンジに燃え決勝戦の場へと向かった。
「よう、坊主、久方ぶりだなぁ。背もだいぶ伸びたんじゃねぇか?」
「へっ、年寄りの決まり文句だな。」
「生意気なとこは変わってねぇようで何よりだ。ならさっさと始めちまうか。どうせ長くはならねぇよ、すぐ終わる」
パワー型同士の決着は、基本的に1つだ。
極めて単純、戦いの真理ともいえる。
力が上回ったほうが勝つ。
「後輩の坊主に1つ教えといてやろう。俺が最初に出すのはガード&カウンター。俺の真骨頂だ。砕きゃお前の勝ち、砕けなきゃお前の負けだ」
アルノルフが言ってるのはつまり、一本勝負ということだ。
「望むとこだ、おっさんがなんも言わなくても初めからそうなることぐらいわかってたじゃねぇか」
「それもそうだな。おら坊主。かかってこいよ」
アルノルフはトンファーを目の前で交差し、魔力を練る。
「んじゃあド派手にいくぜぇ!サラァ!!」
「任せておけ我が主、精霊武器サラマンド!参る!!」
ガイナールの四肢に、炎をまとった装甲が展開される。
体中の魔力をただ一点。右腕に集中させる。
あふれる魔力が炎となり、ガイナールの周りを渦巻く。
「フルバースト!烈火猛進撃!!」
ティアとの戦闘にも見せた突進技。
だがティアとの戦闘時とは違い、魔力を全開までこめる。
その威力は、ティア戦のときとは段違いだ。
普段からフルバーストで放たない理由は2つある。
1つはその分隙が大きくなること、もう1つは過剰火力であることだ。
人間1人を戦闘不能にさせるには、サラマンドの威力は強力すぎる。
それならば、隙を小さくして放ったほうがいい。
だが今回は違う。相手は鉄壁の壁だ。
半端な威力では防がれてしまう。
「もってけぇぇぇ!!」
「お前もお嬢ちゃんも威勢だけは一人前だな、ふん!!」
アルノルフの前に、魔力障壁が発生する。
今までの魔法使いの比ではない。
1枚1枚が強力な魔力障壁が、何重にも重なっている。
「前座は…いらねぇぇ!!」
しかし、ガイナールはその壁をほとんど抵抗を感じさせず突破する。
そして拳は、アルノルフのトンファーと衝突する。
魔力障壁の応用で強化された金属棒は、ガイナールの拳に拮抗する。
「うらぁぁぁ!!」
ガイナールの叫びと共に、炎が巻き上がりさらにガイナールを前方へ押し出す。
しかし前には進まない。
ガイナールの拳も逆巻く炎も、その壁を越えることはない。
「強くなったな、ガイナール。だが…ここまでだ!」
アルノルフという壁に阻まれ、勢いが弱まったその瞬間、ガイナールの拳がその金属棒にはじかれる。
防がれた、どころかガイナールの拳はじきかえされた。
「ここまで連戦お疲れさん、ゆっくり休め」
低いアルノルフの声を最後に、頭部へのトンファーの一撃でガイナールは意識を失った。
目を覚ましたガイナールが、怒りで病室のベッドを叩き割ったというのはその後の話である。
「やっぱおっさんにはまだ勝てなかったな、ガイ」
病室で簡単な治療を受けたガイナールは、ニックと共にいた。
「あのおっさん無駄におれをぶん殴りやがって…。まだいてぇや」
「ははっ、愛の鞭ってやつだろ。意味があったかは知らんがな」
アルノルフとの試合に負け、いまだ機嫌の悪いガイナールに適当に返事を返す。
「いたいた、ガイにニック!」
「おや、リーシャちゃん。ったくどこ行ってたんだよ、決勝戦をさびしく1人で
観戦するはめになっちまったじゃねぇか」
結局決勝戦の時も現れず、ガイナールは試合にでていたので1人観戦させられていたニックが不満を漏らす。
「ごめんごめん、ちょっと用事があったのよ。2人とも模擬戦お疲れ様。でも明日から当然お仕事があるから」
「うぇ、1日くらい休ませてくれよ。おれぁガイみたいに頑丈にできてないんだよ」
「おい、その言い方はちょっと引っかかるな」
「なんだ?戦闘狂。お前は戦闘が趣味みたいなやつだからいいだろうが」
「はいはい、そこ。喧嘩しない。泣いても喚いても任務がある限り休みは来ないのよ。不満があるなら平和にならない世の中に言うのね」
間に立って、リーシャが2人をたしなめる。
「それに今回の仕事は例の精霊売買にかかわることよ、とは言っても噂程度だけどね」
「精霊…。」
「えぇ、精霊よ。とある倉庫に精霊が運び込まれたっていう話があったそうよ。
そこは犯罪者たちの根城にもなっているところでね、大きな被害もなかったから今までは犯罪者個人への任務はあっても、その倉庫自体は放置されていたのよ。でも今回、精霊売買と関係がある可能性が出てきたから、犯罪者取締りを理由に調査をしようってわけ」
「罠の可能性は?噂程度ならなおさらあり得るんじゃないか?」
「関係ないわ。精霊売買をネタに罠を仕掛けてくるってことは、その関係者に絞られるわ。もちろん警戒をするに越したことはないけれど、やることは変わらないわ」
「なるほどね、ガイも無駄にやる気を出してるみたいだしおれも気合入れっかな」
精霊関係と聞き、例の双剣使いの男を思い出し目をぎらつかせているガイナールを横目にニックは言う。
「あのやろう…。今度こそブッ飛ばしてやる…」
「現れるとは限らないわよ?前回の事件に関わっていたからと言って、精霊の関わる事件すべてに関わっている可能性は小さいだろうし」
「いや、あいつは確実に精霊を狙ってきてた…。少しでも噂になってるならあいつはきっと来る…」
「そう、じゃあその意気で仕事のほうもぱぱっとこなしちゃってね。個人戦準優勝のガイナールさん」
無駄にやる気をそぐ必要なないと感じ、適当に会話を切り上げる。
「お、そうだ。ティアちゃんが見当たらねぇみたいだがもう言ってあるのかい」
「もう言ってあるわ。今はたぶん部屋で休んでるんじゃないかしら」
「そうか、ならいいんだ。暑っ苦しい男といるのも疲れるんでおれももう帰るぜ。また明日な」
「そうね、疲れもたまってるだろうししっかり休んでね。私も部屋に戻るわ、じゃあねガイ、ニック」
「あぁ、じゃあな」
こうして3人は、個々の帰る場所へと戻っていった。
書き溜めてある分はこれで終わりなので、これから先の話は書き終わり次第追加していこうと思います。さてここまで読んでいただきありがとうございました。人に読んでもらう機会など当然なかったので、どう感じていただけたかとても気になります。一言でも気軽に感想を残してくださると、私としては助かります。後書きって何書いたらいいかイマイチわからないので、今回はこれで終わりとさせていただきます。