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ただいまは月の下~Trick the treat~

今回で完結となります。

「よいしょ……っと。はい、到着だよ」

数十分後、すっかり夜も更けた現実世界に、俺はようやく帰還できた。秋の世界に入った時と全く同じ公園に、ジャックとともに着地する。

緊張で凝り固まっていた全身をこきこきと鳴らしていると、ふとジャックが口を開いた。

「重ね重ね、ありがとねお兄さん。どれだけ感謝しても足りそうにないよ」

「そ……うか?まぁ、喜んでくれてるなら、願ったりかなったりだ」

正直、ここまで感謝されるとは予想だにしていなかった。頭を掻きながら、すこし照れ交じりに返答を返す。

そこから、しばらく無言が続いた。寒空にぽっかりと浮かぶ月を見上げながら、ふと思う。

「…………そういえばさ、ジャック」

「うん、なんだい?」

ほほえみ交じりに聞き返すジャックの顔が、少し眩しく見えた。

「お前は、来年も来るのか?」

そう聞かれたジャックは、おとがいに手を当てて少しの間思案する。やがて、いたずらっぽい笑顔を浮かべながらこくりと頷いた。

「そう、だね。僕らはこっち側の人間から、元気や楽しみをもらって生きているんだ。だから、ハロウィンになったら毎年来るよ。

…………もしかしてさ、寂しい?」

「そんなんじゃないさ。……たださ」

彼女の問いかけに、静かに首を振りつつ、ずっと思っていたことを口に出す。

「ただ、来年も来るんなら……また、うちに寄ってくれよ。菓子なりなんなり用意して、待ってるからさ」

たった一年に一度だけの、特別な出会い。それを、今回だけで終わらせたくなかった。

ジャックと出会って、異世界と出会って、魔法と出会って、夢に出会った。

小さな、ほんの小さな出来事だったが、俺は今日、大切な何かを学んだような気がする。

そんな俺の意思を汲んだのか、それとも菓子にひかれたのか、はたまた別の理由なのか。



ともかく、ジャックは花のような笑顔でうなずいてくれた。







  * * * 







キンコーン。

最近では珍しくなったベルの音が鳴るチャイムを聞き、俺は不意に玄関のほうを見やった。

この時間に人が来るのは珍しく、かつこんな時間に訪ねてくる知人友人はいない。加えて、独り身ゆえに俺以外を訪ねる人間もいない。

そこから類推するに、やってきたのは宅配便か、集金かのどちらかだろう。

そんなことを考えながら、俺は立ち上がって玄関に向かう。途中にあったカレンダーをふと確認し―――チャイムの正体を悟った。

10月31日。この数字が意味することは、そう多くない。

そして俺にとっては、一年で一番大切な日。




「こんばんはーっ!」

玄関を開けると、そこにいたのは小学生か中学生ぐらいの背丈の少女だった。ご丁寧に、黒いマントとプラスチック製のかぼちゃを被っている。

くりぬかれたかぼちゃの形をした被り物の穴の奥には、にこにことほほ笑む女の子の―――ジャックの顔が見えた。

挨拶を返そうと思ったとき、ふと後ろにいた人影にも気が付いた。

「……あれ、フランケンも来たのか」

「あぁ、お守りでな。何か不満だったかい?」

「いや、むしろ賑やかでいいよ」

あれから、早いもので1年がたった。相変わらず代わり映えのしない毎日が、今では彼女らのおかげでだいぶ潤ったような気がする。

というのも。

「それで、こっちにはなれたのか?」

「うん!やっぱり向こうとは勝手が違うからいろいろ苦労するけど、それなりにね。まさに、住めば都って奴だよ」

ジャックと一年の別れを告げた翌日、ゴミ出しに行く道端で、フランケンとばったり遭遇したのだ。

詳しく話を聞いたところ、どうやらオーティアムの住人の半数はこちらに移住しており、彼らもまた移住を予定していたのだという。

都合のいい話だと皮肉ってやったら、お前もだろうと魔法関係のからかい返しをされたことが、昨日のように思える。

「じゃ、お邪魔しまーす」

「邪魔するぞー」

「へーい」

そして最近、何を思ったのかアパートを変えたという。しかもそれが俺の部屋の隣だったものだから、毎日会うようになったのだ。

むろん、会えることはうれしい。のだが、毎日会えるとなると少々刺激がなくなってしまうのが困りものだ。

ともかく、一年前の約束はきちんと守っている。ジャックにブロックチョコの袋を放り投げ、俺自身は久しぶりに作った鍋に取り掛かる。

「お、今日は鍋だったのか」

「ああ。……ついでだから、余分を作ってあるんだけど、食べるか?」

「おぉっ、食べる食べるー!」

ハロウィンの使徒とはいえ、味覚は普通の人間と大差ないと分かったのも、最近のことだ。

そそくさとこたつの前に座るジャックにせっつかれながら、俺は微笑みを浮かべる。



ハロウィンから始まるものもある。そう実感した俺が、ここにいる。

「……Trick the treat」

いたずらがおもてなしだ。そんな言葉をつぶやきながら、俺は二人が待つ居間に足を向けた。



余談だが、この後ドッキリ用おもちゃでいたずらをけしかけた結果、後日えらく大がかりないたずらを返されたことも付記しておく。

読者の方、ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます!

単発長編を執筆するのは初めて、それもたった10日間の突貫作業でしたが、

普段のように連載として書くのとはまた違った楽しみができました。

ただ、本当に突貫工事だったので、荒が目立つと思います。見つけた方は

容赦なく指摘してやってください。全速力で修正いたします。


重ね重ね、この小説を読破いただいたことに千の感謝を申し上げます!

コネクトはほかにも小説を書いておりますので、気が向いたらほかの小説、

ひいてはわたくしのブログ「コネクトの雑記スペース!」に足を運んでいただければと思います。


それでは、最後にもう一度あなたに感謝を込めて。

また会いましょう! ノシ

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