落ち葉舞う日の夢~Wood Prison~
今回、ようやく主人公が最初で最後の魔法を披露してくれます。
そもそも魔法なんていらないだろ、とかいう突込みはなしでお願いしますw
その後、30分ほどの練習を経て、魔法に関しては問題なしとジャックから認定を受けた。
俺が所持していた魔法は「監獄」というらしく、いろいろな使用方法を試した結果、「幽閉」「壁生成」など、主に相手の行動を
阻害するための魔法だったようだ。
「……ってことは、これを使ってあいつらを捕まえれば済む話じゃないか?」
そう進言したが、ジャックとフランケンの両方に苦い顔をされてしまう。
「それなら、苦労はしないんだろうけどなぁ。あいにく、魔法の力っていうのは発達しすぎた化学よりも弱いんだ」
「うん。複数の魔法を組み合わせて使ってみたこともあったんだけど、全然効果なし。効果があったのもあったんだけど、
肉弾戦に持ち込まれてはいお終い。八方塞がりなんだよなぁ」
はー、と大げさにため息をつくジャックだったが、俺にはある単語が引っかかった。
「……魔法を組み合わせる、って、どういうことだ?」
俺の言葉には、いち早くフランケンが察知してくれた。
「組み合わせる、っていうのはな。二人以上の魔法を連続して発動させて、二つ以上の効果を同時に得る方法のことだ。
たとえば、ジャックが持っている『偽装』に、いまは偵察でいない奴の『衝撃』を合わせれば、
相手の武器を叩き落としてそれを見えなくする、なんてことが可能なんだ」
「つまり、魔法によっていろいろと戦略を立てられるのか……ん?」
瞬間、俺の脳裏には高速で何かが構築されていく。「衝撃」「偽装」「監獄」。この三つを使って、何かできることはあるか。
―――あった。
「あぁ、そうだ、その手が使える!」
不敵に笑う俺を、二人が怪訝な顔で見やる。
「ウルフマン、戻ったぞ!」
数十分後、「伝達」の魔法を持った仲間にメッセージを飛ばしてもらい、件の「衝撃」を持つ人材――目の前の
オオカミ人間だ――を呼び戻してもらった。
これで、すべての準備は整った。あとは、作戦の成功を祈るのみ。
俺が考え付いた作戦は、現在ここにいる3人の「監獄」「偽装」「衝撃」を組み合わせて、初めて成功するものと言えるだろう。
加えて、副産物としてフランケンが持っていた「守護」の魔法を使うことにより、成功率は底上げできた。
そして今、ウルフの陽動によって人間部隊――総勢十名の小隊だったが、それでも魔法サイドが壊滅状態に追い込まれていたことから、
科学に対して魔法がいかに貧弱かがわかる――がこちらに向かってきている。
「……ねぇ、成功できるかな」
ふと、ジャックが俺を見上げて聞いてきた。その顔が笑いをこらえていることから、少なくとも不安に駆られているわけではないようだ。
むしろ、これからの戦いに対して期待をしているようにも見える。劣勢が続いていたというのに、余裕なものだ。
「安心しろ。人間の戦い方は、人間が一番よく知っている……って、ダチが言ってたよ」
受け売りの言葉だったが、安心してくれたようだ。くすりと笑い、俺の向くほうへと視線を戻す。
来たか。少なくない期待に胸を膨らませつつ、静かにその時を待つ。
* * * * * *
「いました!」
「よし、全員密集陣形!科学の力、とくと思い知らせてやれ!」
将校のような恰好をした男が、秋色の迷彩を着込んだ仲間の隊員に指示を飛ばす。
隊員たちはそれぞれアサルトライフルを構え、将校を守るように周囲を囲いながら進撃してきた。
対岸には、魔法陣営が呼び寄せた青年と、残った魔法陣営。
「――――てぇっ!!」
瞬間、将校の怒号が鋭くこだました。それを皮切りに、隊員たちが次々と発砲する。が、
「Tree wall!」と青年が。
「Aegis field!」とフランケンが叫ぶ。
その直後、魔法陣営の周囲を分厚い木の壁が覆い隠した。その上から、ジェルに似たエネルギーが覆っていく。
そこへ、隊員たちの銃弾が飛来した。だが、分厚い壁と魔法の壁の二重壁に、ことごとくはじかれた。
効果がないのを確認した将校が「撃ち方やめ!」と叫ぶ。射撃の反動で立ち込める硝煙の中から現れたのは、将校の予想通り無傷の壁だった。
二重の壁が解除され、その中から再度、魔法陣営の面々が姿を現した―――直後。
「いくぞ!!」という鋭い咆哮とともに、青年が地を蹴り、飛び出した。そこへフランケンが
「Wall bit!」と唱え、青年の眼前にジェル状のバリアが形成される。直後に、再度撃ち込まれた銃弾の嵐が迫る。
ズガガガガガ!と、強烈な衝撃音が、双方の聴覚を震わせた。
数刻の後―――再度たちこめた硝煙の中から現れたのは、全身に傷を受けた青年だった。かはっ、という小さなせきを残し、
落ち葉に埋もれた地面へと倒れこむ。
「……ふん、人間が科学に逆らった結果だ」と、隊員の誰かが毒づく。
「あぁ、そうだな」という声が響いたのは、直後のことだった。それも、将校の真後ろで。
「Wood Prison!」
叫んだのは、彼らの目の前で傷だらけになり、倒れているはずの青年だった。無傷の状態から唱えられた魔法は、
周囲にいた将校や隊員を、まとめて牢獄の中へと叩き込む。むろん青年も閉じ込められ、そのまま彼の魔法で牢獄は宙に浮く。
そこに、決め手となる声が響き渡った。
「Shock fumble!」
響いた声の主は、ここまでほぼ喋らなかったウルフだった。唱えられた魔法の効果で、周囲一帯の風が鳴る。
瞬間、バチン!という快音が響いた。同時に、隊員たちが手に持っていた武器―――科学武器が、弾き飛ばされて牢獄の隙間から滑り落ち、
落ち葉の地面にどさどさとつもる。
「くっ……!」という、将校の怨嗟の声を聴きながら、それに紛れて牢獄の格子をまげて、魔法を行使している本人である青年が脱出する。
「さ、仕上げと行こうか」
と言って立ち上がったのは、傷だらけで倒れていたもう一人の青年だった。その姿が不意に歪み、中からはジャックが現れる。
青年がとどめを確認するために凝視するなか、ジャックの口元が妖しい笑みに変わった。
「目ぇつぶっときなよ、『Nightmare』!!」
* * * * * *
「あいたっ」
ドシャン、という音とともに、俺は力なく地面に落下した。が、どうやら作戦は成功したようだった。
俺の狙いは、まずなにより魔法を無効化する「科学兵器」という矛をもぎ取ることだった。
そのために、ウルフの「衝撃」が有効だったという成果を利用した。
次に、そのもぎ取った武器を拾わせないというところである。ここで、俺の「監獄」が出番となる。
はたき落した武装を取れなくするために、俺の能力を使用して手の届かない位置まで強制移動させるのだ。
そして、余計に抵抗されて監獄を脱出されないよう、ジャックの「偽装」を使って五感を欺き、悪夢を見させる、という算段だ。
問題は、相手の反撃をどうかいくぐるかだった。俺の能力は、都合上あまり離れすぎていると使えない。
そこにジャックが進言したのが、入れ替わりだった。
俺の監獄で壁を作り(ついでに降り注ぐであろう弾丸を、フランケンの「守護」とともに二重の壁で防ぎ)、その中で相手には見えないよう、
ジャックと俺が「偽装」で入れ替わる(といっても、俺は見えなくなるだけであり、実質的にジャックの姿が消えることになるのだが、
相手が気付かなかったのは幸いだった)。
そして壁を解除すると同時にフランケンがジャックに壁を貼り直して弾丸を防ぎつつ、別方向から俺が近づく。
過剰な硝煙を「偽装」して姿を隠した後、傷を負ったように「偽装」してジャックが倒れるのと同時に、近づいていた俺が
「監獄」を発動、相手をとらえる、という作戦だった。
その場しのぎで集った四人が持ち合わせていた、異なる四つの能力があわさったからこそ、今回の作戦は成功できたといえるだろう。
立ち上がり、ジャックらにむけて無事だと知らせる。直後、ジャックがぱたぱたと駆け寄ってきた。
「お疲れ様ー!いやぁ、思ったよりもスムーズだったね?」
「そうだな。相手の数が少なくて助かったし、なによりジャックが頑張ってくれたからな」
「ん、そうかい?」と言って頭をぽりぽりと掻くジャックの顔は、満面の笑みに満ちていた。後方から駆け寄ってきたウルフとフランケンも、
その顔に浮かぶ喜びを隠そうとはしていない。
笑ってくれると、こちらもうれしくなる。なにせ、とりえのない自分が、こうして世界を救うのに貢献したのだから。うれしくないはずがない。
「ともかく、これでここの危機は去ったわけだね。よーやくだよー」
「そうだなぁ。まったく、ずいぶんとてこずったものだ」
ジャックとフランケンが、快活な笑みを浮かべて笑いあう。そして―――
「ようやく、人間を潰しに行けるね」
ジャックの笑みに、影が入った。同時に、その言葉に内心で戦慄する。
「まったく、あの人間どものせいでずいぶんと遅れてしまったな」
「ほんとに。そのにくい人間の力を借りなきゃだったんだから、ほんと気分悪かったよー」
「だが、それも終わりだろう?」
「もちろん。僕としては、今すぐにでも始めたいんだけど、いい?」
だが、そんな状態の俺にはお構いなしに、二人の会話はどんどん進展していく。もはや何が何かわからない俺に、ジャックがくるりと振り向く。
「……な、なんだよ」
にこにこと不気味な笑みを浮かべるジャックは、再度薄く笑うと天を振り仰いだ。
「ちょっと待っててね。まずはあっちが先。―――『Deletion bomb』」
つぶやきがかすかに耳に届いた直後―――上空に浮いていた、軍隊の人間を収容していた監獄が、突如として大爆発を起こした。
「な―――っ!?」
爆風が届き、爆煙が周囲を包む。その霧が風と共に晴れたころには、そこにはすでに何もなかった。
「うむ、相変わらず見事な処理だ」
「おほめに預かり光栄でーす。じゃ、次はコレだね」
フランケンに褒められたジャックが、先ほどから微動だにしない薄ら笑いを張り付けた顔をこちらに向ける。
その顔は、まるで笑みをかたどった能面のようで。
「お兄さんには教えてあげる。……僕らは、お兄さんたち人間をぜーんぶ吹っ飛ばして、向こうの世界を僕らのものにするのが目的。
さっきの組織が邪魔だったんだけど、お兄さんのおかげで吹っ飛ばせたのには感謝しないとね」
すぅ、とその指先が、俺の額に突きつけられる。
「でも、猿は大嫌い。だから消えて」
ぴん、と、額がはじかれた。
「っ……う!」
衝撃に耐えきれず、俺はうずくまった。とたん、頭にかかったもやが消えたような、不可思議な感覚に襲われる。
「おぉーい、大丈夫ー?」というジャックの声に、俺はすぐに頭をもたげた。そのまま、もてる限りの力で魔法を発動する。
「―――『Wood Prison』!!」
「えっ?……うおわぁっ!?」
すぐにジャックを拘束することには成功したが、問題は横にいるウルフとフランケンだ。
彼らには、牢獄を破る手段が備わっている。このままでは、ジャックを解放されてお陀仏なのだ。
が、その焦燥は、思わぬ形で懐柔されることになる。
「お、おーい。まだ悪夢みてるのー?」
「……―――あく、む?」
おうむ返しに呟く。そこまで至って、ようやく俺はことの顛末を思い出した。
そうだ。俺は、効果があったかを確かめるため、ジャックのほうを向いて思い切り目を開いていたのだ。
おそらくは、ジャックの魔法にかかってしまい、悪夢を見ていただけ。そう考えて、ようやく自分の行動を反省した。
すぐに牢獄を解除し、ジャックを開放する。
「…………すまない、変なことしちまった」
「いやいや、そのくらいの悪夢を見てくれたのはちょっと嬉しいよ。効果てきめんだってことが証明されたわけだし」
はにかむジャックが振り向くと、そこには唸り声をあげて牢獄の中で転がる兵士たちがいた。まだ悪夢は続いているらしく、一部からは
ウオーとかヒィーとかノォーとか聞こえてくる。
多少のトラブルはあったが、作戦は成功したようだ。無意識のうちに、安堵の息が漏れる。
「……いやはや、兄さんには本当に世話になったな。感謝してもしきれないくらいだ」
そこに、フランケンが近寄ってきた。感謝にあふれた笑顔を向けられ、こちらも思わず頬が緩む。
「そんなことありません。お役に立てたなら、それで充分ですよ」
裏表のない笑顔に、こちらも裏のない返答を返す。久しぶりに夢を見させてくれたのだ。このくらいなら、わけはない。
「それじゃ、そろそろお兄さんをもとの世界に戻さないとね」
次いで、ジャックの少し寂しげな声。振り向くと、ふと無邪気な笑みを浮かべる。
何か言わなければならない気がしたが、ふと俺は口をつぐんだ。
今は、まだいう時ではないと思ったから。
次回、いよいよ完結となります。
あやうくまた締切に間に合わなくなるところでした…w
今回使用した魔法…
「Tree wall (ツリー・ウォール)」
監獄の魔法。牢の格子の隙間をなくすことで壁として生成した、応用技。
「Aegis field (イージス・フィールド)」
守護の魔法。使用者を中心に広大な魔法壁を形成し、攻撃を遮断する。
現状唯一化学兵器に対抗できたが、攻撃用ではなかったため反撃には
至らなかった。
「Wall bit (ウォール・ビット)」
守護の魔法。人一人を守れるほどの大きさの不可視の盾を付与する。
「Wood Prison (ウッド・プリズン)」
監獄の魔法。固い樹木でできた監獄を生み出し、標的をとらえる。
「Shock fumble (ショック・ファンブル)」
衝撃の魔法。相手の反射神経に直接働きかけ、手に持ったものをはじき落とす。
「Nightmare (ナイトメア)」
偽装の魔法。発動の瞬間を目にした相手の五感を欺き、悪夢を見せる。
「Deletion bomb (ディレイション・ボム)」
粉砕の魔法。遠距離の標的をチリも残さず砕く。
劇中で悪夢の中のジャックが使用していたが、本来の持ち主が別におり、
ジャック自身は所持していない。