紅葉色の世界~Leaf cam~
前回のあとがきで「今回から魔法を使う」といったな?
あれは嘘だ。
すみません、進行の都合上主人公の魔法行使は次回になりますw
2013/10/23追記…
サブタイトル、本文を改稿しました。
「やっほーい!」
「うわあぁぁぁぁっ!?」
数秒続いた浮遊感の後に突如訪れた急降下の感触に、俺は思わず悲鳴を上げた。その横では、ジャックが楽しそうに両手足を広げている。
その拍子にかぶっていたかぼちゃが取れ、素顔があらわになった。
風にあおられてふわふわと揺れる金色のショートヘア、いたずらっぽい感情を秘めた朱色の瞳、いまは声や仕草で分かるが、よく見なければ
少女と分からない中性的な顔。
正直に言えば、普通にかわいかった。むしろ、そこらの外国人の少女よりよっぽどかわいい。
そんな少女が、黒いマントとオレンジ色の服をなびかせながら、歓声を上げて頭から落下しているのは、いささかシュールな光景だった。
ジャックを気にしながら(見とれていたともいう)落下していると、不意に橙色の空間が一気に開けた。慌てて前に顔を向けると、
そこには不思議な光景が広がっていた。
一面、秋の色に染まっていたのだ。連立する樹木からは色鮮やかに紅葉した葉が茂り、その落ち葉で地面をも茜色に染めている。
ほんのりとオレンジ色に染まった夕焼け空は、本当に肉眼で見ている光景なのかさえ分からなくなるほど綺麗だ。
「さ、一気に降りるよ!」
というジャックの声で、俺は我に返った。まだ降下は続いており、すでに地面までは残り数秒の位置だった。
「ちょっ!?」と抵抗する暇なく、俺は突如吹いてきた突風に包み込まれた。そのままみるみる落下速度が落ちていき、最終的には
地面すれすれの位置で停止した。
横のジャックに倣って姿勢を直すと同時に、吹いていた風が途切れて地に足がつく。
「よっと……はい、到着!」
ジャックの声で、俺は改めて秋の色濃い風景を視界に収めた。
キンモクセイのほのかに甘い香りが、かすかに鼻孔に伝わってくる。普段は鼻について嫌いなにおいも、ここではどこか懐かしさを覚える
不思議な香りに感じた。
「……すごいところだな」
率直な感想が、口から洩れた。ここまで一面が秋の色という光景は、現実世界でもそうそうお目にかかれないだろう。
加えて、ここは平地だ。人が住む世界では絶対にお目にかかれない光景に、しばし見とれる。
「ここが僕らの世界『オーティアム』。人間の言葉でいう、秋の季節が一年中続く場所なんだ。奇麗でしょ?と聞きたいんだけど、
今はそれどころじゃないからね。ちょっと飛ばしていくよ!」
「お、おうっ」
言うが先か、ジャックが俺の手を引いて歩き出す。飛ばしていくといったのでてっきり走るのかと思ったが、先ほどの俺の様子から
早歩きにとどめてくれているようだ。ありがたいと思いながら、少女の手を握り返して追いつこうと頑張る。
数分早歩きを行っていると、不意に喧騒が聞こえてきた。それと同時に、ジャックが慌てた様子を見せる。
「やばっ……もうここまできてるの?!ちょ、えぇと、ごめん隠れるよ!」
矢継ぎ早に単語を組み合わせたジャックが、俺を突き飛ばす。そのまま落ち葉の積もった地面に倒れこんだ俺は抗議しようとするも、
それはむなしい抵抗だった。
「ちょっとごめんよ!」と言いつつ、ジャックの細い体が俺の上に覆いかぶさってきたのだ。
「ちょおっ!?」と驚く暇もなく、俺を押し倒す格好になったジャックが言葉を紡ぐ。
「Leaf cam!」
瞬間、ひゅると風が鳴いたかと思うと、周囲の草が舞い踊り、俺とジャックを隠すように降り積もっていく。
さらにその直後、背中を預けていたはずの地面が50cmほど沈み込む。どうやら、周囲の木の葉を使って身を隠すものらしい。
鳴いていた風が収まると、ふと俺の意識だけが浮くような、奇妙な感覚を覚えた。それと同時に視界が上に移動し、隠れていたはずの地面から
頭半分が露出するような状態で停止する。
「お、おい!これじゃ見つかるぞ?」
「大丈夫。今の君の視界は、外を見張るために幽体として存在しているんだ。だから、生身の人には君が見えないはずだよ」
直後、木陰からたくさんの人影が舞い出た。その服装は、どこか見覚えがあった。
どうやら、どこかの私設部隊らしい。軍服に似た服を着込んで、手に持ったアサルトライフルを隙間なく構える。
「どう?やっぱり人間?」というジャックの声が、脳に響くような感触を伴って俺に届く。
この声もどうやら相手方には聞こえていないようで、ただ周囲を警戒するだけだ。少々安心した俺は、声を脳で伝えるようにして
言葉を伝える。
「あ……ああ。軍籍は見たことないから、多分どこかの私設組織なんだと思う。……使ってる武器は結構旧式だな」
彼らが構えているのは、堅牢性を売りにした「AK-47」というライフルだ。友人からの受け売りだが、こういうところで役に立つとは思わなかった。
「古い武器だけど、動作不良を起こしにくいタイプだ。相手の武器を封じる戦法は……っと、退くみたいだ」
俺の目の前で、軍隊はざかざかと引き揚げていった。それを確認して、改めて退いたことをジャックに伝える。
すると、視界が地中へと沈む。同時に意識も一瞬ぼやけ、瞬きをした時にはすでにジャックの顔が目の前にあった。
「どっ……こいしょお!」
姿に似合わぬジジくさい気合の入れ方をしながら、ジャックは頭上の木の葉をどかす。ばさぁという豪快な音が聴覚を揺らし、
気づけば視界は夕焼けをとらえていた。
「いやぁ、ごめんごめん。あんまりにも唐突だったから、ちょっとテンパっちゃって」
あははとほほ笑むジャックの頬が、ほんのり朱に染まっていたのは気のせいだろうか。気のせいにしておく。
「……次からは説明の一つもほしいよ」
「善処する」
立ち上がった彼女が差し出す手に、俺は素直に捕まる。
「よぅ、やっと連れてきたかジャック!」
「ごめんごめん、大変だったでしょフランケン」
数十分の間紅葉のトンネルを歩き、最終的に行き着いたのは、中世の風情あふれる何ともファンタジーじみた町だった。
町の中央にあった噴水に腰かけていた大柄な男性―――ジャックの言葉と、顔のつぎはぎから「フランケンシュタイン」と推測する―――が
こちらに気づき、うれしそうな顔で近寄ってくる。
「は、初めまして」
「おう。いきなりだが、すまんな。こっちの事情だってのに巻き込んじまって」
開口一番に謝罪されるとは思っていなかったので、俺は内心しどろもどろしながら言葉を紡ぐ。
「べ、別にかまいませんよ。……こっちの事情はこの子から聞きましたし、何か力になれるなら本望です」
結局、それが本音だった。大人になって、正義だの英雄だのという感性はすでに摩耗しきっていた。
できることがあるならば、最善を尽くして力になる。それが、大人になった自分が導き出した、一つの解である。
自分で言っておきながら軽くへこんでいると、察してくれたのかはわからないジャックの声が耳に届いた。
「今日は、彼がヒーローさ。もちろん僕らも頑張らなきゃだけど、すごいんだよこのお兄さん!」
そこから、ジャックの嬉々とした声が少しの間響き渡ることになった。
「うむ、事情は大体わかった。……お前さん、この世界に来れるという以上、なんらかの魔力による干渉を受けているはずだ」
「干渉?」とおうむ返しに呟く。確かに、ここに来るためのゲート然り、途中で身を隠すために行使されたジャックの魔法然り、
俺はすでに二度魔法を見ている。だが、フランケンがいうほど干渉というものの実感が得られない。
その旨をフランケン、ひいてはジャックに話すと、それはそれは大笑いされた。
「そりゃそーだよ!魔力と言っても、人体に影響が出るレベルじゃないしね!」
「ただ、そのせいで人間たちに太刀打ちができないというのは事実だ。どうにか有効打を与えれればなぁ……」というのはフランケンの弁。
「とにもかくにも、まずはお兄さんの適性を見ないとね。お兄さん、今から指示通りに動いてくれる?」
「お、おう」
ジャックの指示に合わせ、俺は手を開き、眼前に持ち上げる。
光の球―――オーブが手の内に収束するイメージ。
瞬間、ズバン!という快音が響き、俺の手には小さな丸い籠が生成されていた。
「うおっ!?」
「お、監獄の力だな。兄さん、珍しい力を持ってるじゃないか」
フランケンに褒められ、驚き半分嬉しさ半分の笑みを向ける。
「よーっし、そうと決まれば特訓あるのみ!すぐに連中が来ると思うから、ぱぱっと終わらせるよ!」
どこか嬉しそうなジャックが、俺の手を取って指導を始めた。
夢を見るのは何年振りだろうか。そう考えながら、俺はジャックに付き合う。
文中では説明してませんが、秋世界の司令官がフランケンさんです。
ほかにも何人か有志が滞在している設定なのですが、突貫工事を強行せねばならばい状態ゆえ登場はなしとなっています。
ミイラ男とかシーツ幽霊とか、期待していた方は申し訳ないですm(_ _;m
今回登場した魔法…
「Leaf cam (リーフ・カム)」
偽装の魔法。周囲の地形を一部変化させ、落ち葉と土の中に隠れる。