秋月の下の邂逅~Trick or Treat~
こんにちは、初めての方は初めまして、コネクトと申します!
本日は当小説を閲覧いただき、誠にありがとうございます。
小説を書き始めてそろそろ3年の駆け出しもいいところな作者ですが、
そんな作者の稚拙な文章、物語でよければ、どうぞご覧ください。
ちなみに、ハロウィン当日までには完成させるつもりです。
長くなるためフライング掲載となりますが、どうかよろしくお願いします。
2013/10/23追記…
サブタイトルを「秋月の下の邂逅」から
「秋月の下の邂逅~Trick or Treat~」に改稿、本文も一部改稿しました。
「トリック・オア・トリート!!」
そう聞いたら、画面の前のあなたは何を思い浮かべるだろうか。
この言葉を聞いて思い浮かぶもの―――一般の方なら、ふつう「ハロウィン」が思い浮かぶだろう。
いたずらされるか、おもてなしするか、どっちがいい?という意味を持つこの言葉。
もしもそれが、別世界への招待状だったら?
キンコーン。
最近では珍しくなったベルの音が鳴るチャイムを聞き、俺は不意に玄関のほうを見やった。
この時間に人が来るのは珍しく、かつこんな時間に訪ねてくる知人友人はいない。加えて、独り身ゆえに俺以外を訪ねる人間もいない。
そこから類推するに、やってきたのは宅配便か、集金かのどちらかだろう。
そんなことを考えながら、俺は立ち上がって玄関に向かう。途中にあったカレンダーをふと確認し―――チャイムの正体を悟った。
10月31日。この数字が意味することは、そう多くない。
「こんばんはーっ!」
玄関を開けると、そこにいたのは小学生か中学生ぐらいの背丈の少女だった。ご丁寧に、黒いマントとプラスチック製のかぼちゃを被っている。
くりぬかれたかぼちゃの形をした被り物の穴の奥には、にこにことほほ笑む女の子の顔が見えた。
「こんばんは」と軽くあいさつすると同時に、何かあったかなと記憶をたどる。
そういえば、食べる予定だったチョコレートの袋菓子が残っていたはずだ。とってこようと思い、少し待っててと口に出そうとした直後、
少女が先んじて言葉を紡いだ。
「お兄さん、ジャックが怖くないの?」
ジャック、という言葉が意味するのは、つまるところ「ジャック・オ・ランタン」のことだろう。少女が仮装しているかぼちゃ頭が、まさにそれだ。
たしかに伝承では、人を迷わせる迷惑な幽霊だと聞いている。この少女は、ジャックランタンになりきっているのだろう。
そうとなれば付き合ってやるのが年長者の務めだ、とどこからか言われた気がしたので、ひとつ化かされることにした。
「そうだな。怖いけど、我慢しているんだよ。そうしなきゃ、いたずらされちゃうだろ?」
わざとひきつった笑み――本当にひきつってるかはわからない。むしろ怪しい男にみられるかもしれない――を浮かべ、少女に向けて
手を挙げるフリをする。が、どうもそれでは満足でなかったようだ。
「ウソだウソだー、お兄さん笑ってるもん!僕にはわかるんだよ、僕の中が見えてるかどうかなんて!」
「はいはい。お菓子持ってくるから、ちょっとまってて」
それ以上付き合う義理はなかったので、俺はさっさと家の中にすっこむことにした。が、少女が服の裾をひっつかんで制止する。
これから先の俺の行動はわかっているはずなので、止める理由は見当たらなかった。よっぽど悔しかったのか、
かぼちゃの中でぷぅと頬を膨らませている。
「そういうことじゃない!……お兄さんには、僕の中身が見えてるんでしょ?」
「あ……あぁ、見えるぞ。それがどうしたんだ?」
穴が開いている以上、顔が見えるのは当たり前なはずだが―――という反論は、直後の少女の言葉にかき消された。
「よし、なら合格!お兄さん、ちょっと来て!」
「は?おい、なにいっ――――うおわっ!?」
少女にしては、ありえないほどの腕力だった。抵抗むなしく俺は外に連れ出され――応対の時にサンダルを履く癖をつけていてよかった――、
俺は夜の街へと引きずり出された。
「ちょ、すと、ストップ……!」
「お……っとと、ごめんごめん張り切りすぎた」
家から少し離れた公園の一角で、ようやく少女は停止してくれた。ちなみに歩いて5分の道のりを全力疾走させられたので、
何分体力のない俺は息も切れ切れな状態だ。
膝に手をついて肩で息をしながら、ようやく湧いて出た疑問を少女にぶつける。
「はぁっ―――はぁっ、な、なぁ。君は……はぁ、何がしたいんだ?」
実際のところ、彼女に連れ出された意図が分からなかった。何かをしたいなら両親を頼ればいいし、そもそも面識も何もない俺を
連れ出すその真意を測りかねていた。
「うんと、まずは息整えて。それから説明する」
先ほどまでの子供っぽい言動とは裏腹に、つかみどころのないさっぱりとした口調でそう言われ、しぶしぶそれに従う。
数分経って息が落ち着いた頃、ようやく少女は口を開いてくれた。
「さて、まずは自己紹介だね。僕は『ジャック・ラタン』。君の目にみえるとおり、女のジャック・オ・ランタンさ」
そういって、全身を見せるように一回転する少女―――ジャックは、次の瞬間、にわかに信じがたい単語を口にした
「僕は、君たち人間でいう『異世界』の生き物。ちょっとしたわけがあって、僕の中身が見える人を探してたんだ」
「そうか…――――まて、今なんて言った?」
異世界。その単語が確かに聞こえた。同時に、なぜかジャックの口調、恰好、その表情の意図、すべてに合点がいった。
なぜ合点がいったのかは、自分にも分からない。だが彼女の発言からは、どうにも嘘というものが受け取れなかった。
「まぁ、混乱するのも無理はないね。ちょっとまって、順を追って説明する」
俺がうなずいたのを確認すると、ジャックはおもむろに腰に手を当て、得意げな顔で説明を始めた。
「まず、この世界に『ハロウィン』っていう習慣があるのは知っての通りだよね?古くは古代ケルト人が起源と考えられるお祭りのことで、
秋の収穫を祝うと同時に悪霊を追い払う意味合いがあった…………というのは、人間の言葉だね」
滑らかな言葉とともにすらすらと説明する少女は、学者のような知的さと背伸びする子供のような無邪気さを持っている。
ほほえましいとさえ思えるその光景に思わず口元が緩みかけてしまうが、当人は真剣なようだから引き結んでおく。
「でも、それは間違いなんだ。みんな軽々しくトリートトリートっていうけど、実はあの言葉は、僕らの世界とこの世界を結ぶ
ゲートを開けるキーワードなんだ。
万が一、魔力を持つ人が開けてしまってもいいように迷路型になってるんだけど……って、そこは省略しようかな。
ともかく、そうしてこの世界と僕らの世界はごくたまに繋がれるんだけど……今、向こうが大変なんだよ」
「……大変、って?」
俺が聞き返すと、ジャックは深刻な面持ちで口を開く。
「……半年前かな。僕らの世界に、突然こっち側の人間が現れたんだ。しかも、そういう時は一人だけなのが相場だったのに、
大勢を引き連れて、しかもてっぽうや板で武装して。
僕らも抵抗したんだけど、人間の科学力にはかなわなかった。次から次へと町が奪われて、僕らの世界の人たちが殺された。
残ったわずかな人たちが今も抵抗を続けているんだけど、皆殺しにされちゃうのは時間の問題なんだ……」
そこで、という一転したジャックの明るい声が、ことの深刻さをあいまいにしてくれる。本当に深刻に思っているのか疑わしいのだが、
当人はいたって真面目に話している。それ以前に別世界などを信じられなかったのだが、信じないとどこぞのライトノベルよろしく
説明なしで引きずり込まれそうなので、突っ込まないでいる。
「僕らの司令官をやっている人が、魔力のある人間をこちらがわから連れてきて、一緒に戦おうってことを思いついたんだ。
それの代表として、僕がこの世界にわたってきて、魔力のある人間を探していたわけ」
つまり、最初にジャックが口走った「中身が見えるのか」という問いは、魔力を持つ人間を選別するためのテストだったのだろう。
魔力がないものが見れば中身は見えず、あるものが見れば中の少女が見える。
そこまで推察して、ふと疑問が浮かんだ。
「……魔力がある人間が中を見れるってことは、魔力のない人間が見たら君はどう見えるんだ?」
「うんとね、今僕は『特定の人以外には見えなくなる魔法』を使って透明になってるんだ。今かぶってるかぼちゃとマントは、その魔法を使った後に
身に着けてるんだけど、これには魔法が作用しない。つまり、魔力がない人間には、僕のことが『中身のないマントとかぼちゃ』にみえるんだ」
ハロウィンらしいでしょ?と得意げにほほ笑む。それだと見えない人間が恐怖で卒倒するのではと思ったが、口には出さないでおいた。
「……えーと、話をまとめると、君の世界がまずいことになっているから戦力を補充したい、ってことでいいか?」
「そんな感じ!やー、魔力のある人は理解力もあって助かるよ」
さっぱりとした返事をしたジャックが、かぼちゃのなかでにこりと微笑んだ。その笑顔が、彼女いない歴=年齢な俺の心に響く。
直後、再度俺の手をひっつかんで口を開く。
「さて、善は急げ!さっそく向こうに行かなくちゃ!こうしてる間にも、人間たちが攻めてきてるかもしれないし!」
「え、ちょっ、今すぐにか?!」
「うん、今すぐに!文句は着いてから聞くから、とにかくしっかり手を握ってて!」
到着してから聞かれたのではどうしようもない文句だってあるんじゃないだろうかと突っ込もうとした直前―――。
「いくよ!―――『Trick or Treat』!!」
いたずらするか、もてなすか。俺にとっては「いたずらのようにもてなされる」という意味に変わった言葉が紡がれると、
ジャックの眼前の空間が、ぐるっと歪んだ。
そこから橙色の燐光を発し、回転するひずみがみるみる大きくなる。あるところまで来ると、中央から円形の裂け目が生成されていく。
10秒もしないうちに、SF世界のテレポーターのような裂け目が、俺とジャックの目の前に現れた。
驚愕する暇もなく、俺はジャックに手を引かれ、その回廊内へと入っていく。
「―――人の身で入って平気なのか?」
「平気平気!もしかしたらちょっと酔うかもだけど、僕が先導してあげるから!」
そんな言葉を最後に、俺の意識は橙色の空間へと引きずり込まれた。
次回から異世界にわたり、主人公が魔法を使います。
さっそくハロウィンから離れるので、苦手な方はブラウザバックお願いします。