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太陽信仰  作者: 七都
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[四話]太陽信仰者

「――ということで今日は、先程皆さんに配ったレポート用USBに一週間前に起こった事件についての意見、考えを記入してもらおうと思います」


 そう言い、いつもの社会中年教師がUSBを配る。

 一週間前の事件とは、俺もテレビで見たサッカー中継のことだ。

 あの後、臨時ニュースが放送され分かったのだが、あの爆発音と閃光はスタジアムに仕掛けてあった爆弾によるテロ行為だと分かった。

 VIP席周辺に爆弾が設置されていた事から、狙いは観戦に来ていた次期大統領候補と考えられている。

 この爆発により、次期大統領は意識不明の重態。

 それに加え、その周辺にいたメディア関係の人、観客にも多く死傷者が出ている。

 そして、瓦礫に埋もれたか何かで、行方不明者も多数いた。

 リタは…観戦していたリタは、調べた結果VIP席の近くだった……。

 そして、一週間経った今でも遺体も持ち物も見つかっていない……。

 その事に対してエフは……。


「それと、あたりまえだが、USBにある文字数以上書けてない奴は居残りだからな! それでは、書けた奴から気をつけて帰るように!」

「起立! 礼!」    「ありがとうございました!」


 少なくとも、俺はありがたく思ってない礼と言葉を、教室を出ようとする中年教師の背中に送った。


 六千文字か……。


 配られたUSBのうらにはしっかり[ 6000 OR ABOVE ]と刻まれている。


 卵達は物音ひとつ立てず、即座に電子タブレットを出し、それと戯れ始めている。


 事件について……か。


 終わりそうにない授業を終わらせる為、複雑な気持ちと共に、まずはレポート用電子タブレットに触りたくもないUSBを差した。 




                        ◆





 ーーガラガラッーー


 久しぶりに物音を聞いた。扉を引く音だ。

 寝ぼけた脳でも分かる。


「おい。 トオル…?」


 名前を呼ばれ、机に伏せていた顔を上げた。

 すると目の前には女の子が……という、非日常的な出来事が起こるはずもなく、案の定エフだった。


「あぁ……、すまん寝てた」

「寝てた…って呑気にも程があるだろ? ……もうお前しかいないぞ?」


 そう言われ、見渡してみると言われたとおり卵達は帰っていた。


「あらら……」

「あらら……、じゃねーよ。それで? レポートは終わったのか?」


 エフにレポート用タブレットを見せる。

 

「まだ二千文字かよ……。相変わらず遅いな」

「苦手なもんで……。それよりお前こそ遅くないか? もう少し早く来ると思っていたのに」

「あぁ……。お前みたいなやつのレポートが終わるまで帰るな。と、お偉いさんから命令されたからな。しばらく待ってたが、余りにも遅いから仕方なく俺が書いたよ」


 エフは肩をすくめながら言った。

 お疲れさまです…。


「それで? お前は終わりそうなのか?」

「えーとですね。それが……」


 俺の何も考えてない頭では二千文字が限界です。……とはとうてい言えなかった。


「それが…何だ? まあ、どうせもうネタが尽きているんだろ?」

「……」


 図星だったので目をそらしていると、エフにタブレット端末を奪われた。

 

「……俺が書くよ」


 それだけ言うと、エフの手が素早く動き、空白の行がどんどん文字により黒に染まっていく。

 毎回思うが、頭のどの辺からそんなに文章がすらすら出てくるのか……。


「……今回のことの大体は俺が書いたからネタが尽きてると思うが……何について書いているんだ?」


 その言葉でエフの手が止まる。

 そして、こちらを向き少し溜めて言った。


「……太陽信仰者についてだ」


 その発言に対し俺は口を紡ぐしかなかった。

 そんな俺の様子に見切りをつけたエフは文章を書く作業に戻る。


 エフの口から太陽信仰と言う言葉が出てくるのは大体は予想がついていた。

 なぜかというと、エフからサッカー観戦を……リタを奪った原因だからだ。

 公のニュース局では、テロを起こした犯人は分からないままと言っているが、一部の過激なニュース局や、ネットの裏の大衆掲示板では、太陽信仰者が起こしたと断言している。


 ……太陽信仰者。

 聞いただけでは、どこかの宗教団体みたいな名前が付いているが、この名前はマスメディアが言いだした名前だったらしい。

 しかし、今となっては大衆に太陽信仰者として名前が定着しているせいで、こうとしか呼ばれなくなった。

 彼らは主に、エンドレスラインの太陽サンライトではなく、ドーム外にある『太陽』の下での生活を求める人々の集まりである。

 俺達が生まれる前辺りから出現し始めたらしい。

 出現した最初の頃は、抗議デモなどを繰り返してただけだったが、幾度も政府に阻まれたことによって、いつしかエンドレスライン内の影で破壊、略奪などをするようになり、今となっては、そればかりらしい。

 最近、太陽信仰者が絡んで公に出た事件は、中央密集区の最高刑務所襲撃事件だったっけか?

 確か勃発理由は、少し前に中央密集区に潜伏し、テロを企てていた太陽信仰者を一斉検挙したせいで起こったらしいと考えられているが…この理由も真実かどうかは分からない。

 まあ、そんな前科があるので、太陽信仰者の中でも過激派が今回の事件を起こしたとされている。


 エフはメディアの影響を強く受けたので、太陽信仰者がテロを起こしたと確信しているようだ。

 俺は正直どうでもよかった。

 リタが行方不明な事は真剣に考えているが、どんなにエフから太陽信仰者のマイナスイメージを聞かされても、なぜか心の底から同調する気は起きなかった。

 俺自身のことだが理由は分からない。

 興味が持てないからか……?


 エフの終わったぞ を聞くのは、さほど時間がかからなかった。

 その証拠に、俺は今机に伏せていない。

 それより、さすがエフだ。伊達に一般クラスで国語の点数一位の座をキープしているだけはある。


「ほらよ。トオル。早く提出して帰るぞ」

「ありがとう。恩に切る」


 エフからUSBを受け取り、橙に机と椅子しかない殺風景極まりない教室を出た。




                        ◆




 提出用USBを、上に俺の名前が書かれているUSB差し込み口に差すと、名前の横にあるランプが緑色に光った。

 課題提出の為だけに用意された、俺専用のUSB差しこみ口だ。

 ここにUSBを差すと提出完了すると言った素晴らしきシステムである。

 もし、提出内容に不備不正があるならランプが赤に光り、提出したことにならない、という無駄に高性能な一面もある。

 このシステムおかげで、本当なら提出もしない課題を俺は出す羽目になっている。


 後ろを見ると、さっきまでいたはずのエフがいなかったので、辺りを見渡した。

 すると、提出場所から少し離れている職員室前にエフ後ろ姿はあった。

 近くに行ってみると、エフは電エ掲示板を見ている。

 内容は「治安官募集」だ。

 ……事件が起きたあの日…リタがいなくなったあの日から、暇があれば見て、そして考え込んでいる。


 終わったことを知らせるため、エフの名を呼ぶ。


「……提出完了か。まあ、俺の文書だからな。当たり前だ」


 いつも通りのナルシストすれすれの発言だが、その発言に覇気はなかった。


 エフはこの一週間程、恐らく俺に気を使って、無理にいつのように接してくれようとしてくれている。

 でも、その気遣いが俺は心ぐるしかった。


「いつもすまない……エフ」

「気にするな……長付き合いだろ? それよりとっとと帰ろうぜ」


 その発言に返答する前にエフが先行ってしまった。

 心の中のもやもやを押し殺しながら、特にやり残したことはない、と再終確認を頭の中でする。

 案の定なかったので、そこそこな距離が開いてしまったエフの後を追った。




                        ◆





「まじかよ……」


 そう言葉を発したエフはただ唖然としている。

 さすがに、俺も同じ言葉を発して、同じ行動を取りたくなった。

 そうさせた原因は、エレベーターホールの発着予定版にあった。

 そこには、全てのエレベーターの発着予定時間が、発着見合わせの文字で赤く染まっていた。


 エフと目が合い頷く。

 アイコンタクトっていうやつだ。

 向かう先は無論、エレベーターホールの隅に設置されいる管制室。


「おい!何で発着見合わせなんだよ!」


 寝かけていた若い男の警備員にエフが怒鳴る。


「ん…? あぁ、まだ学生さんがいたのか……」


 半分寝ぼけ、必要のない回答がエフの癇癪に触ったようだ。

 突然、窓越しに警備員の胸ぐらを掴んだ。

 俺の制止する声も届いていない。


「何で発着見合わせ何だと聞いているんだ!」

「詳しい事は知らん! 俺も太陽信仰者が何とかしか聞いてねえよ!」


 警備員はそれを言った後、エフの顔へ拳を浴びせた。

 胸ぐらを掴む手が外れる。


「今すぐ帰りたいなら、道路に出て徒歩で帰りな! ……ったく、何でここの学生はこんなに聞き分けが悪いんだ!」


 そんな荒いアドバイスだけ言うと、警備員はピシャッという音と共に、マジックミラー加工がしてある管制室の窓を閉じた。


 少し腫れた右頬を抑えているエフへ声をかける。


「太陽信仰者……」


 エフは、どこかを睨みつけながらその言葉を呟くと、一人、一階へと続くエスカレーターへと向かった。


 太陽信仰者……。


 複雑な心情と、表情をして、俺もエフの後を追った。




                        ◆





 地上道路に出ると人がいた。

 いつもならいても一人二人だが、今日は一本の大通りに十人以上が歩いている。

 そして、その八割程が治安官だった。


 装甲車アーマードヴィークルも出てる……。

 太陽信仰者が何とかって言ってたが、一体何したんだ?


 色々考えながら、地上道路を歩く。

 すると、一人の治安官が近寄ってきた。


「おい! お前達は何だ?」

「お、俺達は、ただの学生だよ!」

「本当か? 学生証を見せろ」


 なぜかイラついている治安官に学生証を渡す。


「……確かに。紛らわしいからさっさと帰れ」

「何だよ、偉そうに!」


 エフが突っかかりそうになったので、エフをなだめ、治安官に謝罪する。


 今、エフに触れると危険だぜ?

 そんなことより、なぜ治安官がうようよして、装甲車アーマードヴィークルまで出ているのか聞いてみる。


「あぁ? お前らニュース見てねぇのか? ……ほら、あれを見てみろ」


 そう言い、治安官はビルに設置されている大画面テレビを指差す。

 放送していた番組は「ファーストファスト」24時間休まずエンドレスラインの情報を流しているニュースチャンネルだ。

 画面の右上には緊急速報と表示され、小綺麗な顔をした女性アナウンサーが深刻な顔をしている。


”「本日の昼頃に放送された、テロ行為を行ったと思われる太陽信仰者を一斉逮捕した件の速報です。

 武装治安隊の包囲を抜けた、太陽信仰者二名の内一名が、先程、第四工業区で治安隊によって取り押さえられました。

 しかし、もう一名は包囲を切り抜け現在も逃走中です。

 政府の治安省は、逃走した太陽信仰者が、他の密集区への逃走を懸念し、一時的に、東密集区のパイプライン及び、ドーム内のエレベーターの運転を停止しました。

 東密集区の住人にはご迷惑をおかけしますが、ご理解とご協力をお願いします。

 なお、逃走した太陽信仰者の特徴は、黒いマントを羽織っていたとのことです。

 外出している方は、事態が収まるまで一人での行動を避け 、できるだけ人目の触れる場所を通ることを願います。万が一発見や目撃した方は、即座にその場から離れ、当局へのアクセス及び、治安省へのアクセスを願います。」”


「……分かったか? 俺達は忙しいんだよ。くれぐれも迷惑かけんじゃねぇぞ? 分かったらさっさと帰れ」


 治安官はいかにも苛立っている顔をしながら、それだけ忠告し、持ち場へ戻った。


 さっさと帰れって…言っても……。


 俺達の寮へと続く大通りには交通規制が張られ、治安官が職務質問する気満々でスタンバっている。

 これを一々裁いていたら夜が明けそうだ。


「どうするエフ? 俺的には一回エレベーターホールへ戻った方が……って、エフ?」


 エフは大通りの脇にある細い道へ向かっていた。


「早く来いよ、トオル!」


 エフが手招きする。


 そうだ、裏路地があった……すっかり忘れてた。


 近くの治安官の目線を気にしながら、俺もエフの後を追った。




                        ◆




 ドーム 内のビルとビルとが密着して建てられていない為、その間に隙間ができ一応人は通れる道になっている。

 しかし、地上道路と名前がついているのは、ドームのど真ん中を通る中央線だけなので、この細い道は通称 裏路地 と言われている。

 地上道路でも人が通るのは稀なのに、迷路のように入り乱れているこの道を、わざわざ通るような区民は滅多にいない。

 でも、滅多にいないだけで通る人はいる。

 その理由は、道順を覚えさえすれば、場合によってはエレベーターより早く目的地に着くからである。

 その為、時々、切羽詰まった一部の学生は利用しているらしい。

 ちなみに、俺は切羽詰まった事はあるが、道順を覚えていないので、一部の生徒には入っていない。

 後、備考としては、あまり一般区民に干渉されない場所なのでそれを理由に、ホームレスや、ストリートチルドレンの絶好の溜まり場になっていたりする。

 まあ、ここは学業区なのでその人数は少ないが……。


「おい、エフ。俺、道知らないよ?」

「大丈夫だ。俺は何回か通ったことがあるから」


 そう言い、エフは先へと進む。


 何回かって……いつ通ったんだろう?

 ……まあ、思い当たる節が無いわけではないので追求はしないが。


 そんなことを考えながら、暗闇の中、微かに動くエフの肩を追う。

 ビルの隙間なので、街灯の光が届かず暗い。

 まあ、昼間でも、ビルのせいで太陽サンライトの光が届かず暗いのは変わらないのだが。


 ―― カラン ――


 突然の足元から乾いたの音に背筋が凍る。

 暗闇に少し慣れてきた目を凝らして、音のした方を見ると、ただの空き缶だった。

 少しの苛立ちと共に、その空き缶を潰す。


 「……どうした?」

 「……いや、何でもない」


 ……空き缶を踏みつぶしたことによって、少し頭が冷え、ふと浮かんだのだが……さっき言っていた太陽信仰者、第三学業区ここに来てないよな…?

 もし来ていたら……いや、そんなことはないだろう……。




                        ◆




 しばらく裏路地を進んでいると、十字路に出た。

 少し明るい。

 上を見ると、十字路を囲むように天井へ向かって建っているビルの隙間から、ムーンライトが、丸く淡く光っている。


 ムーンライトは紫外線を放つ太陽サンライトと違い、いたって普通の電気光だ。

 ただの電気光だから、わざわざ高いドームの天井に設置するような手間は省いて、街灯の光だけで十分と俺は思う。

 でも、そんな形だけの無駄なことをまだ続けているのは、やはり俺達が見たことがない、失った自然の光への執着だろうか?

 まあ、高い維持費に税金使って風流なもんだ。


「ここまで来たからもう少しだな」


 もう、寮の近くまで来たのか。

 確かに歩いた時間の割には早いな。

 まあ、道順を覚える気はないが……。


「こっちだ。トオル」


 エフが手招きする方へと行く。

 上に何か遮蔽物があるらしく、ムーンライトや街灯の微かな光さえない為、ずいぶんと暗い。


 すると、エフが携帯のライト機能を使った。

  …気がきくじゃん 。

 俺も同じように点ける。

  なんとか足元と前方は辛うじて見えるようになっ た。

  ……思ったより汚れており、所々ゴミが落ちていて汚い。


 ……シミ…空き缶…水溜まり…黒いポリ袋…人の手……。


「……ひ…ひ、人っ!」


 腰が抜けそうになったが何とか堪える。

 しかし、持っていた携帯は落ちた。


 エフも気づいたらしい。

 表情は暗くては見えないが、驚いているのは確かだ。


 エフが倒れているらしい人へとライトを当てる。

 俺も落とした携帯を拾い、同じように当てる。


 その倒れている人は治安官の服装をしていた。

 コスプレさんでない限り、治安官で間違いないだろう。

 息はしており、出血もない。

 意識を失っているだけのようだった。


「お、おい……エフ。これって……」


 よく見ると辺りにトランレシーバーとスタンロッドが落ちている。

 いつも携帯しているはずだ。それに、倒れただけで外れるわけがない。

 まさか……


「エフ……もしかして……ここに太陽信仰者が……」


 恐らく現実にもっとも近い予想をエフに言ってみたが反応がない。

 その上、こちらも向かず、俺の目の前で、俺達の進行方向の暗闇を凝視している。


「………?」


 俺も暗闇を見つめてみる。

 すると、微かに聞こえた。

 始めはただの水の垂れる音かと思った。

 だが、それはゆっくりと着実に近づいてくるのが分かった。

 瞳を鼓膜を裏路地の奥へと集中させる。


 数秒間は一定の速度だったが、次第に音と音の間隔が狭くなり、その近づいてくるものが人だと分かった時エフの目の前へと入っていた。

 その瞬間、エフの右首筋目掛けてに手刀が振り下される。


「っ!」




 エフは謎の反射神経のおかげで、突然来た手を肩すれすれでかわした。

 そしてすかさず間合いを取る。

 多分、倒れている治安官もこの一撃で気絶させられたのだろう……。

 奇襲した人間へとライトを当てる。


「お前が逃走中の太陽信仰者か?」

「…………」


 エフの問いに当然答えない。

 だが、黒いマントをはおっている時点で、大体答えは出ていた。


「おいっ!何か言えよ人殺し!」


 エフの怒声が裏路地の奥へと谺する。

 その瞬間、さっきよりも早く間合いが詰められ、同じ部位へと手刀が振り下ろされる。


「同じことしてもっ!」


 エフはさっきと同じようにかわし、同時に振り下ろされた手の手首を掴んだ。

 太陽信仰者はエフに掴まれた手を振り払おうとするが、エフはだいぶん力を入れているらしく、掴まれたままだった。


「お前は一体何なんだよ!」


 エフはマントを掴み取ろうとする。

 太陽信仰者は抵抗するが、片腕は使えないので、しばらくすると、エフにマントが取られた。

 すかさず、太陽信仰者は顔をそらすが、光に当てられているのでそれは無意味だった。

 太陽信仰者そいつは――


「お前…お、女!」


 その言葉の瞬間、一瞬緩んだエフの手を払い、女が体勢を立て直したかと思うと、エフが一瞬痙攣し、そのまま女へもたれかかった。

 エフはもたれかかったまま動かなくなった。

 女はエフを、丁寧に地面へ寝かせた。


 エフと被っていて今までよく見えなかったが、その顔や体型からして、女性と言うより少女に近く、俺と同年代とも見えた。

 黄色がかった肌や、長く綺麗な黒髪、黒い瞳から俺と同じ血が流れているような気がした。


 じっくり観察するより、この場から一刻も早く逃げることが大切だと分かっていたし、俺もそうするつもりだったが、鉄の棒になっている足にその注文は無謀だった。


 それにもう遅い…


 少女が目の前に接近し、太もも付近に何かを押し当てる。

 それとほぼ同時に、体中に激しい痛みが走り――

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