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第21話〜30話

第20話までのあらすじ


 女のことみとして新たなる母体から生まれ変わってきた浩一。

 しかし、その母親は前世時代の恋人・美香だった。

 戸惑いながらも昔の自分の存在を明かさずにすくすくと育ってゆく浩一ことみ

 そんなある日、体が勝手に浩一の寝ているうちに別な行動をし始めていた。そう、今まで浩一の中で一緒に育ってきたことみ本人が、意識して体を支配できるようになったのだ。

 自分が生まれ変わったのではなく、逆にことみに取り付いているのは自分だと気づいた浩一。

 実の娘と体を共有する複雑な毎日だが、いずれは引き際が大事だと決意している浩一であった。



 第21話 打ち合わせ


『なぁことみ。あんなのどこがいいんだ?』

 学校から帰宅した浩一は、部屋に入るなりことみに脳で話しかけた。


『かっこいいし、まつ毛長いし可愛いもん』

『バカだな。まつ毛長い男はスケベなんだぞ』

『そんなことないもん!ヽ(`Д´)ノプンプン』

『だいいち、ハゲじゃねぇかよ!』

『ハゲって言わないで!野球部だから短くしてるだけじゃない!』

『どうも俺にはクソガキにしか見えんがなぁ』

 『パパは大人の目で見てるからでしょ!あたしはまだ中1なんだからねっ!龍之介先輩はすごく大人に見えるもん』

『まぁ中1から見りゃ、確かに中3はそう見えるかもな』

『でしょ?パパだって前はそう思ったはずだわ』

『うむ。。で、これからどうする気だ?』

『どうするって・・わかんない』

『なんなら俺が龍之介に告白してあげようか?』

『やだ!やめてパパ。まだいい…』

『いいのか?他に彼女できたらどうするんだ?』

『ん〜。。なんかね、そうゆうんじゃなくて・・憧れだけで満足できるってゆうか・・』

『(・。・) ほー、意外と地味な子だなことみはw つまり恋愛にまでは発展しなくていいと?』

『う、うん。。パパ恥ずかしいよ。そんなことあまり聞かないでよ』


 そうだった。ことみはまだ中1の純粋な女の子なんだ。俺がちょっかい出すと傷つく可能性もあるしな。余計は介入はしないでおくか…


『それよりパパ、夏休みにクラスのキャンプがあるでしょ』

『おう、そうだったな。もうすぐじゃん』

『うん。なんかおやつ買っておこうよ』

『前の日でもいいんじゃないのか?』

『思い立ったが吉日なの!今ヒマなんだから買いに行こうよパパ』

『でも美香におやつ代もらわないと金ないだろ?』

『ママは仕事の帰り遅いから無理よ。こないだおじいちゃんに肩叩きしたお礼にもらったお金があるよ』

『あぁ、そうだったな。どこに置いたっけ?』

『本棚にある国語辞典に挟んであるよ。』

『そんなとこに隠さなくても美香は調べたりしないってw』

『ママよりパパの方がが心配かもねw』

『俺は無駄遣いなんかしないぞ?』



 スーパーマーケット内にて


『やだパパ!何それぇ?』

『何って・・さきいかじゃねぇか!キャンプには欠かせないね!』

『もうダメだったらぁ!酒飲みのつまみじゃない!』

『酒がなくたって食えるぞ?』

『あたしそんなの食べたくなぁい!好きなもの選ばせてよ』

『わがままだなことみは』

『パパばっかり選んで何よ!しかもさきいか、ちーかま、バタピー、サラミ・・全部オヤジ族のおやつじゃないの!』

『あれまwやっぱそう思う?』

『o><)oモォォォォ〜ッ!!』

『わかったわかった!ことみが好きなの言いなさい。カゴに入れてあげるから』

『じゃ、さきいかと取り替えてね!』

『Σ('◇'*エェッ!?さきいかは外せないぞぉ!じゃバタピー外すからそれでいいだろぉ?』

『じゃいいよそれで。あたしはまず・・何かフルーツ系のキャンディ食べたい』

『なんだ、飴かよぉ!食った気がしねぇじゃんか!』

『おやつだからいいの!食べるのは夜みんなでバーベキューするんだからいいでしょ!』

『ビールがあればなぁ・・』

『パパ、絶対ビールなんて持って行かないでね!』

『はい・・ショボン。。』

『あとね、チョコレートもいいんだけど溶けちゃうしね。クッキー食べたいな。パパ、ブルボンのチョコチップ買って』

『いいのか?そんな甘いもん。太るぞ?w』

『う…そ、そうね;^_^A  じゃナビスコのリッツでいいよ』

『おお、それなら塩味のクラッカーだし、味もうまいな!』

『なんかパパのペースに乗せられっぱなしみたい。。』

『気のせいだ。ことみw』


『それとパパ。もうひとつ話があるんだけど。。』

『ん?なんだ?』

『バーベキューの日はパパが体の利用者なんだから、食べすぎないようにしてね。次の日から週代わりであたしが体の利用者でしょ!パパいつも食べすぎるから次の日あたし苦しいの。もっと体をいたわって。』

『(・д・)ノ はーい』


 なんか娘に説教されてるみたいだ。。( ̄Д ̄;;




第22話 サマーキャンプ


 夏休みに入った7月後半、俺たちのクラスは予定通りにキャンプ地へ向った。場所は山奥の避暑地。

 個人的には山より海の方が好きなんだが、担任と親の話し合いで決定したことだから仕方ない。


 行きのバスの中では早速おやつの食べまくりから始まっていた。

 生徒同士ではおやつの交換も当然のように行われている。

 そんな中、あまり言われて欲しくない一言が発せられた。


「ん?なんかイカくさくない?」

「あ、ほんとだ!イカくせぇ。誰かイカ食ってんのかよ?」


 俺はおやつに買っていたさきいかを食っていた。


「あ、相沢だ!相沢がさきいか食ってやんの!w|* ̄m ̄)ノ彡☆ププププ!!バンバン!☆」

「だって好きなんだもん。悪い?」

「お前、酒飲むつもりかよw」

「飲みたいけど中学生だから我慢してるのよ」

「ひえー!(◎0◎)大胆発言だぁ!」

「坂井君、食べたいならあげるよ?ほれ」


『ちょっ…ちょっとパパ!その言い方ヤメテ!』

 ことみが脳で話しかけてきた。

『ん?どしたことみ』

『その開き直った話し方ヤメテよパパ。あたしはまだ13歳なんだよ!13歳の女の子が同級生の前でさきイカなんか食べないよ!“ほれ”とか言わないし』

『個性があっていいじゃん。それにみんな同じおやつだったらつまんねぇぞ?』

『おやつで個性なんか出さなくてもいいの!o><)oモォォォォ〜ッ!!』

 

「相沢って見かけによらずオヤジくせぇw」

「さきイカの味がわからないんじゃ、坂井君もまだ子供ね」

「お、ゆってくれるじゃん相沢」


『パパ、このままだとあたし、生意気な子になってみんなから嫌われちゃうよ。。お願い、ヤメテ。。』 

『あ、あぁ…俺もクソガキ相手に暇つぶしもしてらんねぇからな。もうやめるよ。ごめんなことみ』


 ちょうどそのとき、俺のことが好きだと思われる里中が割って入ってきた。

「坂井、誰が何食おうと自由だろ。女子相手に目くじら立てるなんてみっともないぞ!俺だってさきイカは大好きだ!何か悪いか?」

「いや。。別に・・」

 坂井は自分の席に向き直っておとなしくなった。


「里中君、ありがとう」

「気にしない気にしない」

「お礼にさきイカ少しあげる。はい」

「はは・・ありがとう」


 俺はことみに脳で問いかけた。

『おい、龍之介なんかより里中の方が良くないか?』

『うーん。。まだよくわからない人なのよねぇ里中君て』

『まぁ確かにクラスではあまり目立たないが、随分正義感は強いんじゃないか?』

『そう・・かもね。。』




第23話 サマーキャンプその2


 真夏の炎天下が続く中、確かにこの山の避暑地は涼しかった。

 結果論とはいえ、やっぱ海のキャンプだったら肌が焼けすぎてひどい目に遭っただろう。山でホントに良かったw


 夕方からのバーベキューはとてもにぎやかだった。

 献立に鍋物をしたときに決まって鍋奉行がいるように、ここでも焼肉奉行がいた。お世話好きな女子が、焼きあがった肉や野菜を順に取り分けてくれる。俺はそんな給仕のようなマネをするタイプじゃないんで、こんな子がそばにいて非常に便利だった。


『パパ、パパ。あんまり食べすぎないでね。女の子なんだから食い意地張ってると目立っちゃうよぉ』

 ことみが脳に話しかけてくる。


「相沢よく食うなぁ。ヤセの大食いってやつか?(='m') ウププ」

「べーだ!ほっといてよ。」

「相沢、お前が大好きなイカも焼いてるぞ!アッハハハ!」


『ほらパパ、言われちゃったぁ。恥ずかしい…』 

『じゃイカ食べないでおく?』

『え?ひとくちは食べようよパパw』

『(*≧m≦*)ププッ そうこなくっちゃ』


 満腹になって動けなくなった頃、男子の里中がこっそりそばにやって来て俺に耳打ちした。

 「話があるんだ。バーベキューの片付け終ったら、向こうの丘の上の木の下に来てくれないかな?」

「いいよ。みずきも一緒でいい?」

「できれば1人で・・みんなにも内緒で」

「(・〜・) ふぅん。わかった。じゃあとでね!」

「おう」


 1時間後、俺が約束通り指示された場所に着くと、里中はもう先に来ていた。手には封の開いた缶ビールを持っている。


「里中くん、お酒飲んだの?」

「あぁ、家からこっそり持って来たんだ。悪いか?」

「いえ、うらやましいなぁって」

「(ノ _ _)ノコケッ!!」

「でも家から持って来たんじゃぬるいでしょ?おいしいの?」

「うまいとかまずいとか・・そんな理由で飲んでるわけじゃねぇさ」

 

『うわ〜すげぇ中1だなこいつ』

『なんか怖いねパパ』

『いや別に怖かねぇんだけど、里中にはいいイメージがあったのに残念だよ』


 里中が缶ビールを一気に最後まで飲み干すと、ゆっくり俺を見据えて近寄って来た。

「里中くん。目がすわってるよ?」

「相沢・・俺・・俺・・お前が好きだ!」

「里中くん、目が怖いよ。もっと普通のときに言って!」

 

 どうせこいつは酒の力でも借りなきゃ告白なんてできないガキなんだろう。しょせん中1のクソガキか。。


「相沢、お前は俺のことをどう思う?」

「どうって…里中くんの気持ちは薄々気づいてたけど…」

「そっか、そうだったか!相沢・・キスしていいか?」


 里中はいきなり俺の両肩を捕まえた。

「ちょ・・ちょっとぉ〜あたしまだ返事してないよ!」

「いいだろ。俺の気持ちわかってんなら」


 里中の顔が近づいてくる。


『ことみどうするよ?』

『絶対イヤ!』

『じゃ叩くぞこいつ』

『うん。』


 バキーン!!

 

 里中は吹っ飛んだ。

『パパッ!平手打ちでいいのになんでそこまでするのよ!』

『ヤベ…グーで殴っちまった( ̄Д ̄;;』


「痛ってぇぇぇ〜〜!何すんだてめぇぇ〜!!」

 里中が声を張り上げたため、クラスメイトが気づいて近寄って来た。

 しかし里中は、そんなこともおかまいなしに逆上して俺に再び飛び掛って来た。酒がまわって異常にテンションも高いのだ。


「ことみ危ないっ!」

「相沢逃げろっ!」

 クラスメイトも異変にすぐ気づいて声をかける。


 グチャッ!!


 無意識に出た俺のハイキックが里中の顔面をとらえた。

 彼は鼻血を噴出して倒れた。


『やばかったかなぁ。。』

『ヤバイよパパ』

『あとで謝っとくか?』

『そうじゃなくって・・今日はデニムのミニはいてるんだよパパ。なんでみんなの前でハイキックなんてするのよっ!』

『あ、そうだった。。忘れてた』


 俺は呆然と見ているクラスメイトたちに問いかけた。

「もしかして・・見えちゃった?あはw」

「うん。バッチリ」

「見せてもらっちゃったw」

「色もわかるよw」

「ことみって・・大胆ね;^_^A」


『ほらパパぁ・・明日からあたしが体の支配権なんだからねっ!恥ずかしくてみんなの前に出られないよぉ』

『だいたいお前がデニムのミニ履くってきかないから仕方なく履いて来たんじゃねぇかよ』

『だって可愛いんだもん』

『山にキャンプ来るのに素足のミニなんて、虫に刺されに来るようなもんだろが!』

『でもクラス全員にパンツ見られるとは思ってませんでしたよーだ!』


 その後、里中はすっかり酔いが覚めたようで、自分のテントで一言もしゃべらず沈んでいた。


『もうやつは近づいて来ないさ、ことみ』

『明日、からだ入れ替わりたくなーーーい!(┬┬_┬┬)エーン』




第24話 ことみの受難


 キャンプから帰った翌日、クラスメイトで親友のみずきが遊びに来た。というよりも俺の様子が気になったのかもしれない。

 里中をぶっ飛ばしてケリも入れて、俺自身はすっきりしているのだが、次の日に体の支配権を交代したことみはかなり沈んでいたのだ。


 みずきを部屋に案内して、ことみはコーヒーとお菓子を用意した。

『パパごめんね。パパはブラックが好きなんでしょうけどあたしは甘いのが好きなの』

『俺に構わなくてもいいぞ。俺は引っ込んでるからみずきと楽しく話せや』

『うん』


「ねぇことみ、まだ元気なさそうだね。里中くんのこと気になる?」

「…うん、ちょっとね。あのあと一言もしゃべってないし、2学期になって教室で会ったらどう話せばいいのかって」

「里中君、ビール飲んでたから先生に激怒されてずっとテントの中で謹慎だったもんね」

「あーどうしよぉ・・」

「ことみが悪いんじゃなんだからいいじゃない。下着見られたのがショックだったの?」

「もちろんそれもあるよ」

「おかしいよね、ことみって。あれだけ大胆なことができてケンカも強いのに、あとからすぐクヨクヨしてる」

「だってそれは・・」

「ん?」

「いえ・・そ、そりゃ反省するよあたしだって。暴力はダメだもん」

「なんかこんなことみってさぁ・・全く別人のときあるよね」

「Σ|ll( ̄▽ ̄;)||lえ?」

「おしゃべりで言葉遣いが男みたいなときもあれば、ナヨナヨしてるときもあるしさ。ひょっとして・・ことみってうつ病?」

「そ、そうなのかなぁ・・」

「だって極端に違うんだもん。体育のときだってそうだし」

「体育って?」

「体育でバレーしたときだって、ことみはあんなにすごい回転レシーブしたり強烈なスパイクも撃てたりするときもあればさぁ…」

「・・・」

「別な日になると運動オンチみたいになってる。みんな病気かなって心配してるんだよ」

「あたし・・体調の変化が週で激しいのw」

「週で?生理でもなく?へぇ・・そんな人っているんだぁ…」

「心配してくれてありがと。嬉しいよ、みずき」

「(#^.^#)えへ。あ、このビスケットおいしい。何て言うの?」

「明治のマクビティ・ブルーベリービスケットだよ。コーヒーとあうでしょ?」

「うん。とっても。今度あたしも買おっとw」



 ピンポーン♪


「え?誰だろう・・宅急便かな?みずきちょっと待っててね」

「うん」


 玄関を開けるとそこには里中が立っていた。

「!!!」

「あの・・相沢・・その・・ご、ごめん。。俺が完全に悪いと思う」

「いえ・・あたしもひどいことして・・痛くなかった?」

「思いっきり痛かったさ・・でも・・やっぱ俺が悪いし」

「お互いもうなかったことにしようよ。あたしだっていつまでも気まずいのやだもん」

「あ、あぁ・・許してもらえるんなら・・」

「うん。いいよ。これからも普通に話してね」

「普通・・ってか俺・・やっぱ相沢が益々好きになったんだ。。」

「工エエェェ(´д`)ェェエエ工 どうしてぇ?」

「なんかお前に顔面蹴られて鼻血出したとき、痛かったけど嬉しかったような・・」

「ひえー!(◎0◎)里中君てMだったのぉ?」

「知らないよそんなの」

「里中君もひょっとしてあたしの・・見えちゃった?」

「見えたよ一瞬。苺のパンツだったろ」

「なんで一瞬でそこまでわかるのよっ!もうっ!」

「とにかく今日はお詫びが言いたくて来たんだ。じゃこれで…」

「あ…うん。。わざわざありがとう」


 里中は静かな足取りで帰って行った。


「ことみ、良かったね。聞いてたよ」

 みずきが嬉しそうに微笑んでいた。

「うん・・ちょっと怪しい部分もあるけどとりあえずはね・・」

「じゃあたし帰るね。ごちそうさま」

「え?もう?」

「気になるからことみの様子をちょっとだけ見に来ただけなの」

 こうしてみずきも帰って行った。


 少し気が晴れたことみは部屋で読書をしたりして、夕方まで部屋でゆっくりと過ごした。じいさんとばあさんは町内のゲートボール大会で留守。先に母親の美香の方が仕事を終えて帰ってきた。


「ただいまー。ことみいる?」

「部屋にいるよーママ」

「あのね、ちょっと話があるんだけど・・」

「ん?なぁに?」

「こっち来て座って。ほら」


 ことみはリビングで美香と差し迎えで座る。

「ことみ、驚かないで聞いてちょうだい。ママね…」

「なんなの?」

「ママ、再婚しようと思ってるの」


 ガ━━ΣΣ(゜Д゜;)━━ン!!


「ことみは他の子よりも大人だからわかってくれると思ったの」

「あたし・・あたし大人じゃないよぉ・・大人はあたしの中のパパだもん」

「え?なに?」

「いえ・・あの・・何でもない」

「今度、この家に連れて来るから会ってね。お願いことみ」


 ことみの中に引っ込んでいる俺もことみ以上にショックだった。

 いくら大人の俺だって・・・美香よ、俺は今だってお前を愛してるのに。。お前のそばにいたいのに。。




第25話 美香の再婚相手


 とうとう美香のお相手と面会する日がやって来た。

 どうやら相手のおごりで外で食事をするらしい。

 この体の支配権はまだことみにあった。


 ちょうどいい。。俺に支配権があったら何をしでかすかわからないし、破談にしかねない。


『ことみ。今日はよろしく頼むわ。俺はずっと引っ込んでしゃべらないから。』

『パパかわいそ。。でもあたし、悪いけどすっごく興味あるんだ!ウキウキしちゃう』

『Σ|ll( ̄▽ ̄;)||lダブルショック・・』

『ちょっとおめかしして行かないとね♪』


 ことみは鏡の前でお気に入りの洋服を数着取り出しては何度も組合せを試着し直す。

『おいことみ・・それで充分可愛いって。もういいだろう?』

『もう、パパはせっかちなんだから!先週なんかパパったら破れたTシャツそのまま来て外出したじゃない!やめてよね。ああーいうの』

『ワイルドでいいじゃんかよぉ』


 なんとか着ていく洋服も決まり、美香とことみと体の支配権のない俺は、時間通りに待ち合わせの約束をした店に着いた。

 美香が店員に名前を言うと、すでに相手は到着して、奥の座敷に待機しているらしかった。


『ちょっとパパぁ。落ち着いてよ』

『なんだよ。俺は何もしてねぇぞ!』

『もうあたしの心臓バクバクしてるよ!パパのせいだからねっ!何とかしてよ!』

『そんなこと言ったってよぉ・・』


「ことみ。ママの彼にちゃんと挨拶できるわよね?」

「うん。あたしは平気」


 店員が座敷の障子を開けて、俺たちを中に通す。

 そこには初対面の美香の彼氏が腰を降ろしていた。

「よく来てくれたね。ことみちゃん・・だったね。初めまして。安徳寺ミツルと言います」

「・・・・」

「ことみ、どうしたの?挨拶は?」

「あ・・う、うん。初めまして。ことみです」

「この子ったら珍しく緊張してるみたいだわ。ごめんなさい。安徳寺さん」

 

 ことみは別に緊張などしてはいなかった。ただ、初対面とはいえ、相手のイメージと印象があまりにも予想とかけ離れていたからだ。ことみの裏にひそんでいる俺でさえ仰天したくらいだ。


 なんで・・なんで坊さんなんだよぉぉぉぉぉぉぉ〜〜!!


「あははは。無理もないね。この格好じゃ。本当はちゃんとスーツで来る予定だったんだけどね、急な代理の法事があってね。急いでお経読み終えてここに駆けつけたとこなんだ」


 そう・・まさにお相手さんは、まんまの格好なのだ( ̄Д ̄;;

 しかも・・・スキンヘッド。。

 

 今どきの坊さんでもスキンヘッドなんて滅多にいねぇよぉぉぉぉ!


 ことみだって固まるのも無理はない。

「なんか僕、いきなりことみちゃんを驚かせちゃったみたいだ」

「最初でわかった方がいいのよ」

と、美香はあっさり言う。

「ことみ。ママね、見た目にはこだわらないの」

「美香さん、手厳しい言い方だなぁ・・あはは」

「あ、ごめんなさい安徳寺さん。悪い意味で言ったんじゃないの」

「それはわかってますよ。僕自身、決して男前じゃないしね」


『男前どころじゃないぜ。タヌキじゃん!ことみ、どう思うよ?』

『うん・・見た目は抜きにして、きっとすごく優しい人なのかも・・』

『いちお、フォローしてるんだな』

『でもさ、パパのときだってママに見た目にはこだわらなく選ばれたんじゃないの?w』

『ヘ( ̄ω ̄|||)ヘぎくッ!!そういうことになるんかいっ!』

『ごめんウソよ。パパの昔の写真見たもん。カッコ良かったよ。きっとママの趣味が変わったのよ』

『うーん・・でもなぁ。。俺よりカッコいいやつなら憎たらしくても敗北は認めるが・・寺の坊さんとは・・非常にびみょーだ』

『あたし、安徳寺ことみになるのね。なんか違和感があるわ』

『モロ、寺の娘って感じじゃん( ̄ー ̄; 』


「ねぇことみ。ママ…幸せになってもいいわよね?死んだパパのことも決して忘れたわけじゃないの。でも・・頼れる人もいなくてあなたを育ててここまで来て・・もう1度ママ、再出発したいの。わかってことみ…」


 そりゃわかるけど・・なぜ坊さんなんだよぉ?


 俺とことみはきつねにつままれたような不思議な気分に駆られつつも、とりあえず無難に食事を済ませたのであった。




第26話 浩一の存在価値


 美香の再婚を前提とした相手、安徳寺ミツルという坊さんは、ちょくちょく家に現れて、俺たちと食事をするようになっていた。

 うちのばあさんやじいさんにも印象が良く、この坊さんは自然な流れでうちの家族に打ち解けていった。


 じいさんは言う。

「これで墓の管理の心配もしなくていいわい」

 ばあさんも言う。

「法事を忘れる心配もないしねぇ」


 なんだよ。そんな理由で喜んでるのかよ!


 しかしまたこの坊さんは大食漢だ。出されたのもは何でも食うし、食うのがまた早い。おかずを一口つまむとメシを一気にガバッとかき込む。

 頬を膨らませながらクチャクチャ食うさまを見ていると、見た目はタヌキだが食事の時間は豚野郎に見える。


 しかもこいつは生臭坊主だ。肉食も平気で、自身こう言っている。

「僕は魚よりお肉大好き人間でねぇ。がはははは。なかなか精進できませんよ〜」


 美香はこいつのどこに惚れたんだろう?

 てか、惚れる要素がどこにあるのか?


『なぁことみ。これからこの坊さんと一緒に暮らしていけそうか?』

『ママの決めたことだから。。あたしはあたしで好きにするからいいよ』

『おいおい、意固地になるなよ。嫌ならはっきり言ってもいいんだぞ』

『あたしは・・なじめそうもないけど。。でもママには幸せになって欲しいもん。今まで夜遅くまで残業したりしてあたしのために頑張ってきたのわかってるし…何も言えないよ』

『そっかぁ・・』

『パパの方がつらいんじゃない?このままで耐えられる?』

『うん。。そうなんだ正直。美香がこのままあの坊主とベッドを共にするのを想像すると…』

『もうっ!パパそんなやらしいこと考えてたのっ?』

『普通ならやっぱ考えちゃうさ』

『あたしまだ中1だもん。知らないっ』


 ホントに俺はこれからどうすればいいんだろう…

 と言ってみてもどうにもならないこの立場。

 でも・・でももし俺の意思通りに行動できるとしたら・・


 俺は美香が正式に再婚した段階でこの世界から消えよう。

 ことみだって俺に体を利用されなくなるわけだし…

 それが1番良い形なのは確かだ。それが自然なんだ。

 

 俺はこの世界にはもういらないかもしれない。

 いや、本来ならいるべきではなかったんだ。

 それが13年間も。。


 美香と坊主の夫婦仲むつまじい姿なんて見たくない。

 矛盾してはいるが、でも美香には幸せになってほしい。


 俺は天から美香とことみだけを見守っていよう。

 でも俺はそうなれる方法を知らない。

 しかも天に行けるとも限らない。

 地獄に落ちるかもしれない。


 俺は複雑な心境に思いを巡らせながら、この日は静かに床についた。




第27話 適応か不適応か


 あれから3年が経過した。俺とことみは高1になっていた。

 母親の美香と一緒に安徳寺ミツルの実家である寺に来てからもう3年。

 けっこういい暮らしをさせてもらっている。


 この坊さんは次男坊のため、実家といっても同じ敷地内にある「ハナレ」に住まわせてもらっている。そのため、この坊主の親と同居しなくても良いので、それほど気を使わなくて済んだ。


 ハナレも大きく、俺とことみに与えられた部屋も、美香たちの寝室まで渡り廊下を歩いてかなりの距離にあり、俺としてもよけいな想像を掻き立てる夫婦生活音が聞こえずに済むのでホッとしていた。


 しかしごくたまに、俺が夜中にトイレで美香と出くわし、髪や衣服の乱れを見たときはショックを隠せなかった。


 中3のとき、そんな気を紛らわすために受験勉強にはかなり熱が入った。俺よりことみ本人もかなり頑張ったようだ。

 そしてその結果、県内3本の指に入る有名校に合格したのだ。


 16歳になったこの夏休みも忙しく過ごした。

 俺(withことみ)は野球部のマネージャーになっていたからだ。

 家にすぐ帰るといつも坊さんがいる。決して悪い奴ではないのだが、俺には拒否反応があった。ことみは俺ほどでもなかったが、母親は母親。自分は自分。つまり好きなように行動したい意思が強く、性格的にも大胆になっていた。


 この日も野球部の合宿に同行し、この炎天下の中、選手たちのユニフォームの洗濯に明け暮れていた。

『なぁことみ、俺洗濯苦手なんだよ。めんどいし、ドロでこ汚いもんばっかだし、汗くせぇし・・』

『じゃああたしと体の支配権交代する?その代わり洗濯終ったらまた戻りたいって言ってもダメよパパ!』

『そんなこと言わないさ。じゃすぐ変わってくれよ』


 ことみとすんなり体の支配を交代し、俺は脳の奥に引っ込んだ。

 ことみは洗濯を要領よく進めていった。しかもなんか嬉しそうだ。

 汗だくになりながらも、楽しく洗濯できるなんて信じられない。

 体の共有というのは、もちろんことみが疲れたら俺も疲れるし、ケガでもしたらことみも俺も痛い。

 ただ、大きく違うのは精神面での痛みや疲れ。

 俺が自分の意志で洗濯をしたとすると、疲れは倍増。だが、楽しみながら洗濯することみであれば、疲労も少なくて済むのだ。


 なぜことみはこんなに積極的なのか?

 それはこの野球部の中の3年生に、幼なじみの龍之介がいるからだ。

 ことみがこの高校の入学を強行に選んだのも納得する。


 そして、大胆さを身につけたことみは入学するとすぐ野球部のマネージャーに応募し、積極的に龍之介にアプローチした。

 それが功を奏して現在、ことみは竜之介と付き合い始めているのである。


 俺は気づいていた。もう限界かもしれない。美香のことだけじゃなく、ことみのプライベートに立ち入ることになる。

 ことみと龍之介は今すごくいい関係だ。でも・・でもことみには常に俺がいるから遠慮しているところがある。

 龍之介がキスを迫ってきたときもうまくはぐらかした。

 決してイヤではなかったはず。

 それは・・うしろに俺がいるからだ。ことみが体験することは全部俺も体験することだからだ。

 

 練習がオフの日、龍之介の部屋に呼ばれたことみ。

 支配権は当然ことみ。もう体の支配権の順番などなかった。

 俺が表に出ればまた昔のように相手を張り倒してしまう。

 でも辛い。。

 俺は男の気持ちがわかる。

 龍之介は今すぐにでもことみを抱きたいと思っている。

 でも無理矢理はよくない。彼は迷っている。


 ことみだって・・抵抗する気などないのに。。

 また俺のせいだ。。。


『パパ・・あたし、パパがいると・・彼に身を預けられないよ…』


 つ、ついに言われてしまった。。

 

『そうだよな…ごめんことみ。俺だってお前と龍之介のえっちなんて見たくないさ』

 つい露骨なことを言ってしまうバカな俺。

『パパのバカ!もうっ!…恥ずかしくて顔から火が出そう…』

『ことみ、パパ真剣に考えるよ。この体をお前自身だけのものにしてあげるから。もう少しの間、辛抱してくれないか?頼む…』

『。。。。。』




第28話 それぞれの思い


 俺はずっと考えていた。ことみの体からどうやったら抜け出せるのか。そしてもしそれができたとして、俺はその後どうなってしまうのか。

 一抹の不安も感じる。でもこのままではことみの人生を台無しにしそうだ。高校時代が1番大事な成長期。曲りなりにも俺は父親。子供に不自由はさせたくない。


 ここ数週間、俺は体を支配せず、ことみに任せて考えていたが、ことみが俺を哀れに思ったらしく、この日1日は体の支配権を譲ってくれていた。

 それだというのにこの俺は、日曜なのに全く外出もせず、部屋でそのことばかりを考えていた。今物理的にしていることと言えば、自分でコーヒーを入れては何杯も飲みまくっていることだ。


 ヒントになるのは、数年前の俺自身の墓参りのときに起きた幽体離脱だ。でもあのときは数時間後に再び自分の体に戻っていた。

 それを永遠に戻らないようにするためには。。


『ねぇパパ。。』 

 ことみが脳に話しかけてきた。

『ん?なんだ?どうした?ことみ』

『えと・・あのね・・やっぱり聞けないや・・』

『なんだよ。よけい気になるじゃん。俺に遠慮はなしだぞ!』

『うん・・でも。。また次でいいよ』

『はっきり言えよことみ。俺とお前は一心同体だろが!』

『二心同体ですっ!』

『まぁそれはそうだけどよ。。( ̄ー ̄;  』

『じゃあのね・・』

『おう、なんだ?』

『パパ・・えっちってそんなに気持ちいいの?』

『ぶほっ!!』

 俺はコーヒーを噴出した。

『なんだよいきなり〜』

『だから言いたくなかったのよ。。』

『あぁ・・悪い悪い。お前がそんなこと聞くとは思いもよらなかったんでな』

『だってあたし・・龍之介先輩に求められたらもう断れないもん。。でもあたしバーージンだし、すごく痛いんでしょ?』

『俺は男だったからなぁ・・痛くはなかったが・・』

『あたし、なんか怖いんだもん。みんなの話聞いてるとさぁ…』

『あぁ、お前たち女子が固まってしゃべるとすげぇ過激なこと言ってたよな』

『あたしは過激じゃないよ。みずきとか柚穂だよそれは』

『なんて言えばいいのかなぁ。。父親である俺がSEXのことを娘に言うのもなぁ・・第一、まだ高校生の分際で不純異性行為をすること事態、許せることじゃないんだぞ』

『よくゆうわよ。パパの初体験はいくつだったっけ?』

『えと…16(~д~ )ゞデヘヘ』

『ほらあたしの歳じゃない!』

『がははは(~д~ )ゞ』

『まわりの友達はもうバージン捨てた子いっぱいいるんだよ!』

『バカ言うな。そんなの早い遅いの問題ですることじゃないだろ!』

『そりゃそうだけど。。』

『人から遅れてると思ってSEXしたって気持ちもクソもないじゃんか。お互いの愛情を理解しあって、気分が最高潮になり、そして流れに任せれば、どんな痛みだって充実感や満足感、嬉しさに変わるんじゃないのか?』

『パパもそうだったの?』

『お、おう!そうだとも( ̄ー ̄; ヒヤリ』

『そうなんだ。。。』

『でもことみが俺にそんなことまで相談してくれたことは嬉しかったぞ』

『だって・・パパは20代後半で死んだんでしょ?ママは今40を超えてるもん。あたしとパパの方が年齢的に感覚が近いと思ったの』

『な、なるほど。。』

『でも将来、このままの状態であたしがパパの生きてた年齢を超えちゃったらどうなるんだろうね?』

『…そうはならないさ。ことみのために俺は時期に消えるよ』

『あたし・・体の支配は全て自由になりたいけど、パパとお別れしちゃうともう話せなくなるんでしょ?』

『そりゃそうだろう。戻る体もないんだしな』

『パパの魂、どこに行っちゃうの?』

『そんなのわからんよ。俺は今ここにいるんだし、別に坊さんでもないんだからあの世のことなんて・・・・あっ!』

『どうしたの?パパ』

『ことみ、ヒントがある。あの生臭坊主なら何かわかるかもしれない』

『安徳寺さんのこと?』

『お前の苗字も今は安徳寺だろうが!』

『そうでしたwどうもまだ慣れなくてw』

『とにかく聞いてみたらいい。聞き方は・・そうだなぁ。。この世に彷徨っている魂を正しいに世界に戻すためにはどうしたらいいですか?とでも聞きなさい』

『うん。わかった』

『よし。じゃ体の支配権はお前に戻す。頼んだぞ!』

『でもパパ・・やっぱりあたし・・寂しいよ。ずっとあたしが赤ちゃんのときから一緒だったんだよ』

『じゃやめるか?w』

『いやそれもやっぱし…』

『((ノ_ω_)ノバタ なんじゃそりゃ』


 ことみはハナレの部屋から安徳寺ミツルのいる本堂へ向った。




第29話 訪れた運命の日


「あのぉ・・お義父さん。ちょっと教えてもらいたいことがあるんだけど。。」

「ん?どうしたことみ?珍しいじゃないか」

「うん。。あのさ・・お義父さんはこの世に霊がいるって信じてる?」

「なんだそんなことか・・勉強教えろって言われたらどうしようかと思ったよ」

「勉強だったらダメなの?」

「だってお義父さん高卒だし」

「あたしまだ高1だよ」

「高校のときは特待生だったから勉強しなくても良かったんだよ」

「そんなの初耳。何かしてたの?お経の暗記とか?」

「アホ!お経で推薦されるかいっ!昔は陸上選手だったんだ」

「へぇー。。人は見かけによらないもんだね」

「悪かったな。で、何が聞きたいんだっけ?」

「霊の存在のこと」

「あ、そうそうそれね。そりゃ当然いるさ。ただ霊の存在ってのは、誰にでも見えるもんじゃない。霊感の強い人ってよく聞くだろ?そういう人だけがわかるんだよ」


 俺はすかさずことみの脳に囁いた。

『じゃこの生臭坊主は霊感がないんだな。(='m') ウププ』

『みたいね(*≧m≦*)ププッ』

 ことみもすぐに同調した。


 坊主は不思議そうに聞いてきた。

「でも何でそんなことを聞くんだ?・・ことみひょっとして体に何か異変でも感じてるのか?」

「別にないけど。。」

「ホントにそうか?それならいいが・・以前お母さんから聞いた話を今思い出したんだが。。」

「どんな?」

「ことみの体に、亡くなった前のお父さんが乗り移る瞬間があるって言ってたんだ」

「ふぅ〜ん。。」

「そのときって覚えてるのかい?」

「よくわかんない・・でもそうだとしたらどうなるの?」

「だとしたら、お父さんはこの世に彷徨っていて成仏していない。ちゃんと拝んであげないとね」

「拝むだけでいいの?」

「お経を唱えて、家族全員が同じ時間に心ひとつになって正しく念じれば成仏すると思うよ」

「正しくって・・何かおまじないでもあるの?」

「おまじないじゃないけど、ちゃんとした言葉を繰り返し念じるのさ」

「そっかぁ・・できるんだ。。」

「そうそう、美香から聞いたが今年はそれこそお前の亡くなったお父さんの17回忌じゃないか!いい機会だ。今年は私が法要してあげよう」

「いいの?」

「もちろんさ。ことみのお父さんの墓前にも、私が美香と再婚した報告をしなくてはならないし、それに…」

「それに?」

「お父さんの浩一さんて人は交通事故で亡くなったらしいね?」

「うん。でもお父さんが悪かったんじゃなくて、対向車がカーブを曲がり切れなくてオーバーランして正面衝突したって聞いたよ」

「それは痛ましい事故だったね。きっと浩一さんは自分が死んだことには気づいていないんだろう。だからことみの体に異変が起きるのかもしれないな」


『おい、クソ坊主!俺は自分が死んだことくらいわかってるぞこら!』

『まぁまぁ、パパ落ち着いて。天に行く方法がわかったじゃない』

『この坊主のお経くらいで効き目あんのかねぇ。。』


「お義父さん、もしもあたしの体に死んだお父さんがいたとしても・・このままじゃダメなの?」

「ダメだ。いずれことみの体に障りが来る!死んだ人間は、生きた人間を自分の世界へ引っ張ろうとするものなんだ」

「そ、そう。。」

「ことみは心配しなくていいよ。私がちゃんとするからね。これでお母さんも安心してくれると思うよ」

「うん。。」


 ×月×日 浩一の17回忌法要


 この日はわずかな身内だけでおごそかに執り行った。

 俺のこの世での存在はいよいよ今日を持って終ろうとしているのだろうか?

『パパ・・あたしなんか複雑。。』

『これでいいのさ。今までお前と一緒に過ごせて本当に楽しかったぞ』

『あたしもだよパパ。。ありがとう。でもごめんね。。』

『謝るのは俺の方さ。子供時代はお前の体を占領してしまって、お前自身の思い出が作れなかった。。』

『ううん。そんなことない。お父さんのしたことはあたしの中に全部あるもん。2歳のときも保育園のときも小学校のときも・・全部あたしの思い出だよパパ』

『そうか。それを聞いて安心したよ。これからことみは自由だ。思う存分、自分の信念に従って後悔しないように生きなさい』

『うん。。(゜ーÅ)ホロリ』

『泣くな!まわりから変に思われる』

『ごめん。でも…でもパパ。。涙が止まらないよ』

 

 そんなことみに美香が気が付いた。

「ことみ、どうしたの?なんで泣いてるの?」

「だって・・パパが。。パパが。。」


『おい!ことみゆうな!何血迷ってるんだ?』


「パパが。。パパが。。」

「パパがどうしたの?ことみ」


『ダメだって!絶対ゆうな!』

『パパ・・いいの?これが最後だよ』

『何がだ?』

『浩一としてママと1度もしゃべらなくていいの?もう最後なんだよ!今までだってママと何度も話したくて苦しんだでしょ?』

『・・いや、話はいろいろしてきたさ。。』

『それはことみとしてでしょ!どんな形であれ、親子3人で一緒に暮らしてきた証をママにも教えてあげたいの』

『それはダメだ。。せっかく再婚した美香を迷わせることになる』

『だから、パパがそれに対してちゃんとした言葉で認めてあげるのよ。ママも再婚には随分悩んだと思う。パパのことが頭から離れなくてね』

『・・・・・』

『ママも安徳寺さんもきっとわかってくれると思うよ』


「ことみ?具合悪いの?大丈夫?パパって・・もしや。。」

「ママ。。今、パパと代わるね。最後だからしっかり話してね」

「え・・・?」


 俺はことみと体の支配権を代わった。

「美香・・同棲以来、ずっとお前とここまで暮らせて楽しかったよ」


 それは紛れもなく「俺自身の声」だった。それはなぜかことみの声帯から発せられているのではなく、霊声とでも言うのだろうか。。とにかく俺自身も驚いた。

 そしてそれゆえ、美香も俺のおふくろも、俺の存在に明らかに気が付いた。

「浩一・・やっぱりずっといてくれたのね。。」

「ごめんな。でも俺はもう必要ない。俺は何もできない。このクソ坊主に・・いや、この安徳寺さんに幸せにしてもらえよ」

「もっと早くひとこと言ってくれたら。。」

「いや、お前のためだ。過去に生きてはダメだ。前を見て行け」

 

「浩一かい?またお前の声を聞けるなんて・・奇跡だよ。お母さん嬉しいよ」

「俺もだ母さん。でもお別れだ。いつもお供えしてくれてありがとう。これからも頼む」

「もちろんだとも…」


 安徳寺ミツルが切り出した。

「このような現象に出会うとは。。まさにこの法要が浩一さんを成仏させる絶好の機会。みなさん、心をひとつにして念じて下さい。いいですか?」

「どう念じれば・・いいんですか?」と俺のおふくろ。

「浩一さんに対して『成仏』と『昇天』というふたつの言葉を繰り返し繰り返し念じるのです。どちらが欠けてもダメですよ!」


 同時に安徳寺の読経も始まった。


 俺は宙に浮き出した。もちろんことみの体が浮いたわけではない。

 きっと俺の魂がことみから離れ始めたのだろう。

「美香。母さん。そしてことみ。。どうやら逝けそうだ。。」

「パパ・・サヨナラ。。今までありがとう。。」


「みんなさようなら。さようなら。。俺の2度目の人生。。」


 そして法要が終った。。。。


「ママ。。あたしすごく体が軽い」

「そう。。本当に逝ってしまったのね」

「でも疑問があるの」

「え?」

「今までだって、3回忌や7回忌があったのにどうしてそのときパパは向こうの世界逝けなかったんだろう?」

「それはね」安徳寺が言った。

「それはね、浩一さん自身がその気にならなかったからだよ。そして我々も心底から彼の昇天を祈らなかった。まさかこの世に魂が存在してるとは思わなかったからね」

「そうなんだ。。」




第30話 転生


 気がつくと俺は目の前の道路を見ていた。

 

 なんだこりゃ?


 しかも道路が手前に流れている。

 おいおい、三途の川って実は道路のことなのか?と思った。

 しかもちゃんと舗装してある上に中央線まである。

 だがそれは違った。もうろうとした俺の意識がはっきりしてくると、自分が今、ハンドルを握っているということに気が付いた。


 あ!俺・・今運転してるんだ。。。


 なだらかな下り坂。数百メートル続いている直線道路。日が沈みかけている夕暮れ時。

 この光景・・なんとなく、見覚えがある。。

 たしかこの先の左手には簡易郵便局があって、右手にはカーコンビニクラブがある。そしてその先は急カーブ・・・


 ────あっ!!!


 俺は今の自分の立場がはっきりとわかった。

 もしそうだとすると・・

 この先のカーブで対向車線をはみ出した車が来る!!


 俺は自分が運転している車を減速して、簡易郵便局の駐車場に頭から停車した。すぐさま後ろを振り返ると、猛スピードで、対向車線より追い越しをかけながら走行している2台の車が、2列に並んで目の前を通過して行った。


 や、やっぱり・・・

 ・・・ということは・・俺は。。


 俺はすかざずルームミラーで自分の顔を確認した。


 (!o!)オオ! 俺じゃん!!


 まさに俺の姿は浩一本人、その人であった。

 夢かどうかわからいが、とにかく俺は何かを確かめようと郵便局の中へ入った。そして壁に掛かっているカレンダーを見る。都合よく日めくりだった。


 よしっ!こりゃ間違いない!ことみから離脱した17年前だ。しかも今日は俺の命日・・いや、そうじゃない。

 俺はさっき、あの車と正面衝突して死ぬはずだった。

 でも俺は事故を避けた。運命を自分で変えたんだ!

 俺はこれからも浩一として生きられるんだ!


 やったぁぁぁ〜〜〜!!マジで俺だぁぁぁぁ!!


 俺はすこぶる上機嫌で、車の中で雄たけびをあげながら帰宅したのだった。

「浩一、おかえりー」

 この時代、同棲していた美香が俺の帰りを待っていた。

「お、美香。若返ったか?」

「へ?あたしそんなに老けてた?」

「う・・いや、その。。いつにもまして可愛いなってw」

「バカw」


 やばっ。。40代の美香を見慣れたせいだ( ̄ー ̄; ヒヤリ


「あたし今日疲れちゃったよ。仕事きつかったぁ」

「ん?どうかしたんか?」

「荷受係が欠勤してね。あたしが代役したんだけど、それが今日に限って重い荷物ばっかりで」

「そんなの他の男に任せれば良かったじゃん」

「それがさ、ちょうど昼休みでみんなごはん食べに出て行っちゃってあたしが留守番だったの!もう最悪!」

「・・で、お前が運んだのか?」

「明日きっと筋肉痛だわ」

「バカ!何やってんだお前!腹にことみがいるのに──あ!」

「???何それ?」

「いやその・・もし美香が妊娠でもしてたらと・・」

「そんなことは・・あ、でもそういえば今月まだ生理来てないかな?」


 やっぱりそうだったか!死ななくて良かったホントに。


「でもことみって何?」

「あ・・も、もし女の子ならことみがいいかなってw」

「きゃはははは(≧▽≦)ノノノ☆ 名前まで決めてるのー?男の子だったらどうすんのよ?」

「それは考えてない」

「変なのー。浩一って」

「元々変だから俺w」

「でもさ。今の言葉なんか嬉しいよ浩一。もし赤ちゃんできてたら産んでもいいってことだよね?」

「そりゃもちろん。大事に育てような」

「うん。ありがとう浩一」


 まさに今が幸せの絶頂だ。かつては俺が死んで、どれほど美香に精神的ダメージを与えてしまったことか。。

 やり直せて良かった。神様・・もしいたら心からお礼を言います!


 数日後、美香が嬉しそうに俺に報告してきた。

「浩一、あたし妊娠3ヶ月だって。」

「やったな!美香。これからは特に体大事にしないとな!」

「うん。でも浩一のカンて鋭いのね。わかってたみたいだもん」

「男のカンてやつかな」

「そんなの聞いたことないよー。(*≧m≦*)ププッ」

「そっかw あはははは」

「でさー、あたしのお腹が目立たなくならないうちに・・式挙げない?」

「そう・・だな。よし!大至急手配するか。忙しくなりそうだ」

 

 赤ん坊が産まれるまでは、結婚式の手配やら段取りやらでハチャメチャに多忙な日々が続いた。それでもようやく主な行事を終え、ついに俺たちの赤ん坊が産まれる日がやってきた。

 俺自身は、当然ことみの誕生日を知ってるわけで、仕事もあらかじめ休みをもらっていた。そして美香の陣痛がおきてから、迅速に行動して産婦人科に運び、そばにずっと付き添っていた。


 数時間後、けたたましく大声で泣く赤ん坊の声がして、廊下で待っていた俺は歓喜の声をあげた。ここの病院は夫の立会いはできなかったからだ。

 ひとりの看護士さんが分娩室から出てきた。

「どうですか?ことみは五体満足に、元気で産まれて来ましたか?」

「・・あら。もう名前も決めていらっしゃったんですか?でもよく女の子だとおわかりでしたね??」

「え?いや・・なんとなく泣き声で・・;^_^A アセアセ・・・」

「母子共にとても元気ですよ」

 俺はことみと対面した。やっぱり可愛い。かつてこの体を支配していたとは。。

「美香、この子の名前はことみでいいよな?」

「(*≧m≦*)ププッ だってもうずっと前から決めてたじゃないの」

「そうでしたw」



 ────2年後


「じゃ、ことみのおもりよろしくね」

「おう!任せとけ!」


 この日、美香は友達の結婚式に出席するため、俺は家でことみのめんどうを見ていた。2歳になったことみは前の世界同様、やっぱり可愛い。

 以前の世界と変わったところといえば、あの口臭漂うじいさんとばあさんとは別々に暮らしているということだ。

 俺はことみに絵本を読んで聞かせていた。

「おい、ことみ。ちゃんと聞いてんのか?」

「うん。聞いてるよ。パパ」

「じゃパパの顔ばっかり向いてるんじゃない!」

「だってぇ。。」

「ん?パパの顔にごはんつぶでもついてるか?」

「ちがうよぉ。んとね、ことみが思ってたのはねー」

「うん。言ってみなさい。」

「パパはやっぱり写真より生で見た方がいいなって」


 ────は?


「パパ・・ことみもう2歳だし、保育園に入らないと龍之介先輩に会えないよ。なんとかして」


 ガ━━ΣΣ(゜Д゜;)━━ン!!


「ことみ・・お前ひょっとして・・」

「うん。そうなのパパ。あたしも赤ちゃんの体に戻っちゃったの。」

「んなアホなぁぁ〜!」

「ママがいないときだから言えたの。今まで隠しててごめんねw」

「いやはや・・こりゃ参ったな。」

「でも現実のパパにだっこされて嬉しかったよ」

「あはは;^_^A それはそうとして、じゃあのときの…16歳からのことみはその後どうなったんだ?」

「どうもならないよ。パパがあたしの体から抜けていなくなってから、みんなで精進料理食べてたのね」

「うむ。それで?」

「で、そのあとあたし、眠くなっちゃって自分の部屋に戻って寝たの」

「そかそか」

「そして気が付いたら・・赤ちゃんだったのw」

「はぁ?それだけかよっ!?」

「でもホントなんだもん」

「単純な話だが俺の心境はあまりにも複雑だよ( ̄Д ̄;;。」

「最初はショックだったわ。でも今は違うの。パパと暮らせるし、あたし自身、あたしの意思で動けるし、ママは残業してまであたしのために苦労しなくてすむし・・そう思えばこの世界の方が絶対好き!」

「そうだな・・そうだよな。ことみはいつもプラス思考だな。パパも見習わないとな」

「そうよ。見習ってね!」

「とりあえず、お前が何かの事故で死んでから生まれ変わったんじゃなくて良かったよ」

「パパはやっぱり優しいね。大好きだよ」

「龍之介よりもか?」

「ううん。パパは彼の次」

「((ノ_ω_)ノバタ・・でもことみさぁ・・当分は年相応な言葉遣いにするんだぞ!」

「誰かさんの前例があるからわかってます!」

「げっ!Σ|ll( ̄▽ ̄;)||l・・・ことみにはかなわん。。」

                (続く)


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