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タヌキたちの結婚相談所① ~その雄、森にはもう残ってないポコ~

掲載日:2026/04/15

 異世界のとある街――。

 そこには、奇妙な結婚相談所があった。


 看板には、こう書かれている。


 ――「縁結び処 ポコリーヌ堂」


 店主はタヌキ。

 名前はポコリーヌ。


「良縁は運ではなく、交渉力ポコよ」


 という、なんとも世知辛い信条を掲げている。



 今日も、相談所の扉が開いた。


「こんにちはポコ~」


 入ってきたのは、一匹の若いメスダヌキだった。

 名前はモモネ。


 毛並みは悪くない。

 顔立ちもそこそこ整っている。



 だが――。


「結婚したいんですポコ」


「ほうほう、条件を聞くポコ」


 ポコリーヌは帳簿を開き、筆を構える。

 モモネは、少し考えた後、口を開いた。


「……まず、年収は最低でも金貨三百枚以上ポコ」


 ポコリーヌの筆が、ぴたりと止まった。


「……ポコォ」


「あと、身長は85cm以上で、強くて、優しくて、浮気しないで、家事もできて、長男ではなくて、親とも仲良くしてくれる細マッチョなオスがいいですポコ」


「ほうほう……」


「それから、私のことを最優先にしてくれる人で、狩りも上手くて、危険な場所には行かない人で――」


「待つポコ!」


 ポコリーヌは手を上げた。


「つまり、強いが危険は避け、稼ぎが良くて家事ができ、優しいが自己主張は少なく、なおかつ浮気しないオス……ということポコ?」


「そうですポコ!」


 モモネは満面の笑みで答えた。

 ポコリーヌは、しばらく沈黙した。


「……そんな都合のいいオスは、もう既に『捕獲され済み』ポコ」


「え?」


「結婚してるポコ」


「えぇっ!?」


 モモネはショックを受けたように尻尾をばたつかせた。


「でも、妥協はしたくないんですポコ」


「ほう」


「だって、一生のことですしポコ!」


 その言葉に、ポコリーヌは小さく頷いた。


「それは正しい事ポコ。……では、聞くポコ。モモネ殿の相手に提供できる価値は?」


「……」


 モモネは固まった。


「私は……、その……、可愛いですポコ」


「うむ」


「あと……優しいですポコ」


「ほう」


「あと……、えっと……」


 言葉が止まる。


 ポコリーヌは帳簿を閉じた。



「……では、少し現実を見せるポコ」


 奥の部屋から、一枚の板を持ってくる。

 そこには、こう書かれていた。


 ――登録オスダヌキ一覧。


 そこには、様々なオスの条件が書かれている。

 金貨三百枚以上の収入を持つオスは――たった三匹。


 そのうち二匹は既婚。

 残り一匹は――。


「このオスはどうポコ?」


「えっと……年収はいいけど……ちょっと太ってますポコ」


「却下ポコ?」


「うーん……」


「ではこちらは?」


「この人は優しそうだけど……年収が低いポコ」


「却下ポコ?」


「うーん……」


「ではこの若いオスは?」


「顔がちょっと……」


「却下ポコ?」


「うーん……」


 ポコリーヌは深くため息をついた。


「モモネ殿」


「はいポコ」


「理想は自由ポコ」


「はいポコ」


「だが、選択は現実ポコ」


「……」


「市場には限りがあるポコ」


「市場……」


「良いオスは、早く売れるポコ」


「売れるって……」


「言い方を変えるなら、『選ばれる』ポコ」


 モモネは黙り込んだ。


「では逆に問うポコ」


「はい……」


「モモネ殿は、どんなオスに選ばれる存在ポコ?」


「……」



 ――静寂。


 店の外で、風が吹いた。


「……そんなこと、考えたことなかったポコ」


「多くの者がそうポコ」


 ポコリーヌは、少しだけ優しい目をした。


「だが、ここは夢を売る場所ではないポコ」


「現実を突きつける場所ポコ」


「厳しいですポコ……」


「優しい嘘より、厳しい真実の方が有用な場合もあるポコ」


 モモネは、しばらく考えた。

 そして、ぽつりと呟いた。


「……じゃあ、条件を少し下げますポコ」


「ほう」


「年収は……、金貨百五十枚くらいでいいですポコ」


「進歩ポコ」


「顔も……、まあ普通でいいですポコ」


「さらに進歩ポコ」


「でも、優しくて浮気しない人がいいですポコ」


「それは維持してよい条件ポコね」


 ポコリーヌは頷いた。


「それでいいポコ」


「……え?」


「すべてを手に入れようとすると、何も手に入らないポコ」


「……」


「そして、譲れないものを小さく纏めれば、道は見えるポコ」


 モモネの尻尾が、少しだけ落ち着いた。


「じゃあ……その条件で探してほしいですポコ」


「承ったポコ」


 ポコリーヌは、再び帳簿を開いた。


「……さて、ここからが本当の仕事ポコ」


「え?」


「モモネ殿の『価値』も磨くポコ」


「私の?」


「そうポコ」


 ポコリーヌはニヤリと笑った。


「料理はできるポコ?」


「……ちょっとだけポコ」


「では鍛えるポコ」


「えぇ!?」


「気配りは?」


「普通ポコ」


「磨くポコ」


「えぇ!?」


「そして、相手を見る目も養うポコ」


「それも!?」


「当然ポコ」


 ポコリーヌは、ぽんと帳簿を閉じた。


「結婚とは、条件の取引ではないポコ」


「……」


「価値と価値の交換ポコ」


 モモネは、ゆっくりと頷いた。



「……なんか、難しいですポコ」


「簡単なら、みんな幸せポコ」


 ポコリーヌは、どこか遠くを見た。


「だが、難しいからこそ、価値があるポコ」


 その言葉に、モモネは少しだけ笑った。


「……頑張ってみますポコ」


「それでよいポコ」


 その日、モモネは理想を少しだけ手放し、現実を頑張って受け入れた。



 そして――

 数ヶ月後。


「ポコリーヌさん!」


 元気な声とともに、モモネが店に駆け込んできた。


「お相手が決まりましたポコ!」


「ほう?」


「年収はそこそこだけど、優しくて、一緒にいて楽しいオスですポコ!」


「それは良縁ポコ」


「はいポコ!」


 モモネは、嬉しそうに笑った。

 ポコリーヌは、静かに頷く。


「最初の条件からすると、どうポコ?」


「全然違うポコ」


「だが?」


「……い、今の方が、ずっといいポコかな?」


 その恥ずかしそうに零す言葉に、ポコリーヌは満足そうに目を細めた。


「ナイスだポコ」


 店を出ていくモモネの背を見送りながら、ポコリーヌは古い帳面を閉じた。

 外では、また風が吹く。



 ほどなくして、また戸が開いた。

 今度入ってきたのは、ずいぶん自信ありげな若いメスタヌキだった。


「こんにちはポコ。相談に来ましたポコ」


「どうぞポコ」


「希望条件を言っていいですポコ?」


「もちろんポコ」


 若いメスタヌキは胸を張り、つやつやした尻尾を揺らして言った。


「まず、年収は最低でも金貨三百枚で――」




◇◇資料・余談◇◇


挿絵(By みてみん)

 近年の女性は、昔より経済優先にシフトしていることが見て取れます。




挿絵(By みてみん)

 大きな結婚相談所は、年収400万円で足切りしているみたいですね。

 グラフから見るに、適齢期の未婚男性の6割超が年収400万円未満ですが…… ><。

 極めて進んだ情報化からくるデータ等も、きっと少子化の一因なのでしょうね。




挿絵(By みてみん)

 テレビでもネタにされる現代の若い女性の要求水準 (;^_^A

 個々に見れば違うのでしょうが、凄いインパクトですね。

現在、SF戦記「星間覇道  ――没落貴族と女海賊、銀河帝位争乱――」を連載中です~♪

良かったら是非読みに来てやってください (*´▽`*)

https://ncode.syosetu.com/n1244lk/

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― 新着の感想 ―
こいつあきついぜ。 だけどこれが現実ですねえ。 このメスダヌキさんは方向転換できてよかった。 できないタヌキさんも多いんでしょうね。 でもポコリーヌさん。結婚したオスダヌキは登録リストから 削除しま…
タヌキさんたちの婚活話だとほっこりしててカワイイですけど。 これ……リアルに昨今の婚活事情ですよね? やたら高い条件を相手に求める、半分以上勘違いしている人たち。 女性ヴァージョンはタヌキさんたちの…
ポコリーヌさん名言しか言わない( ˘ω˘ )
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