タヌキたちの結婚相談所① ~その雄、森にはもう残ってないポコ~
異世界のとある街――。
そこには、奇妙な結婚相談所があった。
看板には、こう書かれている。
――「縁結び処 ポコリーヌ堂」
店主はタヌキ。
名前はポコリーヌ。
「良縁は運ではなく、交渉力ポコよ」
という、なんとも世知辛い信条を掲げている。
今日も、相談所の扉が開いた。
「こんにちはポコ~」
入ってきたのは、一匹の若いメスダヌキだった。
名前はモモネ。
毛並みは悪くない。
顔立ちもそこそこ整っている。
だが――。
「結婚したいんですポコ」
「ほうほう、条件を聞くポコ」
ポコリーヌは帳簿を開き、筆を構える。
モモネは、少し考えた後、口を開いた。
「……まず、年収は最低でも金貨三百枚以上ポコ」
ポコリーヌの筆が、ぴたりと止まった。
「……ポコォ」
「あと、身長は85cm以上で、強くて、優しくて、浮気しないで、家事もできて、長男ではなくて、親とも仲良くしてくれる細マッチョなオスがいいですポコ」
「ほうほう……」
「それから、私のことを最優先にしてくれる人で、狩りも上手くて、危険な場所には行かない人で――」
「待つポコ!」
ポコリーヌは手を上げた。
「つまり、強いが危険は避け、稼ぎが良くて家事ができ、優しいが自己主張は少なく、なおかつ浮気しないオス……ということポコ?」
「そうですポコ!」
モモネは満面の笑みで答えた。
ポコリーヌは、しばらく沈黙した。
「……そんな都合のいいオスは、もう既に『捕獲され済み』ポコ」
「え?」
「結婚してるポコ」
「えぇっ!?」
モモネはショックを受けたように尻尾をばたつかせた。
「でも、妥協はしたくないんですポコ」
「ほう」
「だって、一生のことですしポコ!」
その言葉に、ポコリーヌは小さく頷いた。
「それは正しい事ポコ。……では、聞くポコ。モモネ殿の相手に提供できる価値は?」
「……」
モモネは固まった。
「私は……、その……、可愛いですポコ」
「うむ」
「あと……優しいですポコ」
「ほう」
「あと……、えっと……」
言葉が止まる。
ポコリーヌは帳簿を閉じた。
「……では、少し現実を見せるポコ」
奥の部屋から、一枚の板を持ってくる。
そこには、こう書かれていた。
――登録オスダヌキ一覧。
そこには、様々なオスの条件が書かれている。
金貨三百枚以上の収入を持つオスは――たった三匹。
そのうち二匹は既婚。
残り一匹は――。
「このオスはどうポコ?」
「えっと……年収はいいけど……ちょっと太ってますポコ」
「却下ポコ?」
「うーん……」
「ではこちらは?」
「この人は優しそうだけど……年収が低いポコ」
「却下ポコ?」
「うーん……」
「ではこの若いオスは?」
「顔がちょっと……」
「却下ポコ?」
「うーん……」
ポコリーヌは深くため息をついた。
「モモネ殿」
「はいポコ」
「理想は自由ポコ」
「はいポコ」
「だが、選択は現実ポコ」
「……」
「市場には限りがあるポコ」
「市場……」
「良いオスは、早く売れるポコ」
「売れるって……」
「言い方を変えるなら、『選ばれる』ポコ」
モモネは黙り込んだ。
「では逆に問うポコ」
「はい……」
「モモネ殿は、どんなオスに選ばれる存在ポコ?」
「……」
――静寂。
店の外で、風が吹いた。
「……そんなこと、考えたことなかったポコ」
「多くの者がそうポコ」
ポコリーヌは、少しだけ優しい目をした。
「だが、ここは夢を売る場所ではないポコ」
「現実を突きつける場所ポコ」
「厳しいですポコ……」
「優しい嘘より、厳しい真実の方が有用な場合もあるポコ」
モモネは、しばらく考えた。
そして、ぽつりと呟いた。
「……じゃあ、条件を少し下げますポコ」
「ほう」
「年収は……、金貨百五十枚くらいでいいですポコ」
「進歩ポコ」
「顔も……、まあ普通でいいですポコ」
「さらに進歩ポコ」
「でも、優しくて浮気しない人がいいですポコ」
「それは維持してよい条件ポコね」
ポコリーヌは頷いた。
「それでいいポコ」
「……え?」
「すべてを手に入れようとすると、何も手に入らないポコ」
「……」
「そして、譲れないものを小さく纏めれば、道は見えるポコ」
モモネの尻尾が、少しだけ落ち着いた。
「じゃあ……その条件で探してほしいですポコ」
「承ったポコ」
ポコリーヌは、再び帳簿を開いた。
「……さて、ここからが本当の仕事ポコ」
「え?」
「モモネ殿の『価値』も磨くポコ」
「私の?」
「そうポコ」
ポコリーヌはニヤリと笑った。
「料理はできるポコ?」
「……ちょっとだけポコ」
「では鍛えるポコ」
「えぇ!?」
「気配りは?」
「普通ポコ」
「磨くポコ」
「えぇ!?」
「そして、相手を見る目も養うポコ」
「それも!?」
「当然ポコ」
ポコリーヌは、ぽんと帳簿を閉じた。
「結婚とは、条件の取引ではないポコ」
「……」
「価値と価値の交換ポコ」
モモネは、ゆっくりと頷いた。
「……なんか、難しいですポコ」
「簡単なら、みんな幸せポコ」
ポコリーヌは、どこか遠くを見た。
「だが、難しいからこそ、価値があるポコ」
その言葉に、モモネは少しだけ笑った。
「……頑張ってみますポコ」
「それでよいポコ」
その日、モモネは理想を少しだけ手放し、現実を頑張って受け入れた。
そして――
数ヶ月後。
「ポコリーヌさん!」
元気な声とともに、モモネが店に駆け込んできた。
「お相手が決まりましたポコ!」
「ほう?」
「年収はそこそこだけど、優しくて、一緒にいて楽しいオスですポコ!」
「それは良縁ポコ」
「はいポコ!」
モモネは、嬉しそうに笑った。
ポコリーヌは、静かに頷く。
「最初の条件からすると、どうポコ?」
「全然違うポコ」
「だが?」
「……い、今の方が、ずっといいポコかな?」
その恥ずかしそうに零す言葉に、ポコリーヌは満足そうに目を細めた。
「ナイスだポコ」
店を出ていくモモネの背を見送りながら、ポコリーヌは古い帳面を閉じた。
外では、また風が吹く。
ほどなくして、また戸が開いた。
今度入ってきたのは、ずいぶん自信ありげな若いメスタヌキだった。
「こんにちはポコ。相談に来ましたポコ」
「どうぞポコ」
「希望条件を言っていいですポコ?」
「もちろんポコ」
若いメスタヌキは胸を張り、つやつやした尻尾を揺らして言った。
「まず、年収は最低でも金貨三百枚で――」
◇◇資料・余談◇◇
近年の女性は、昔より経済優先にシフトしていることが見て取れます。
大きな結婚相談所は、年収400万円で足切りしているみたいですね。
グラフから見るに、適齢期の未婚男性の6割超が年収400万円未満ですが…… ><。
極めて進んだ情報化からくるデータ等も、きっと少子化の一因なのでしょうね。
テレビでもネタにされる現代の若い女性の要求水準 (;^_^A
個々に見れば違うのでしょうが、凄いインパクトですね。
現在、SF戦記「星間覇道 ――没落貴族と女海賊、銀河帝位争乱――」を連載中です~♪
良かったら是非読みに来てやってください (*´▽`*)
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