婚約破棄とか悪役令嬢とか、そんな事より食堂の限定メニューが食べたい
今日は頭空っぽ回^^
王立魔法学園。
昼休憩の合図である鐘がなると同時に、この学園は突如騒がしくなる。
各所から賑やかな声やどたばたという激しい音が響く中、ひと際激しい足音が一階の外廊下から響く。
伯爵令嬢エイヴリルは非常に急いでいた。
目的地は学園の食堂だ。
お昼を持っている生徒達がどこで食べようかと辺りを見回している脇をすり抜け、はたまたぎょっとした顔で避けられながら彼女は先を急いでいた。
そんな中。
彼女の勢いに負けじとその進路を塞ぐ男女の姿がある。
「エイヴリル! お前は麗しのヘンリエッタを嫉妬し、度重なる嫌がらせを繰り返してきた! よってお前との婚約を破棄する!」
そう言いだしたのは侯爵令息ブライアン。
彼はエイヴリルの婚約者。
しかしながら現在隣に連れているヘンリエッタを心から愛し、彼女と共になる事を望んでいた。
「お前はヘンリエッタを呼び出して悪口や暴力など陰湿ないじめを――」
だが浮気を理由に婚約破棄をするなど、周囲からの評判を下げるようなことが出来る訳もない。
そう考えた彼はヘンリエッタと手を組み、彼女を悪女に仕立て上げようとした。
だが、そんな事情――エイヴリルにとってはあまりにどうでもいいことだった。
彼女にブライアン達の主張は一切届かない。
「邪魔です!」
エイヴリルは二人の間をすり抜ける。
「な、おい……っ!」
そのままさっさと去っていくエイヴリル。
そんな彼女を遠巻きに見ている生徒達は皆呆れたような顔をしていた。
「エイヴリル嬢がいじめを?」
「冗談にしても陳腐過ぎないか」
「ねぇ? だって、エイヴリル様はいつだって――学食の期間限定メニューにしか目がないお方ですもの」
***
さて、場面は切り替わって食堂。
既に期間限定メニューの食券配布が始まっている。
「おばちゃん、俺に!」
「いえ、わたくしに!」
そんな声と無数の手が食堂のおばちゃんを襲う。
そして彼女が持っている食券と襲い掛かる生徒の数は圧倒的に数が合わない。
後続には絶望的な状況。
そんな中食堂に辿り着いたエイヴリルは、目の前の光景に顔を強張らせ、次の瞬間――
両手を床に翳し、魔法を発現させた。
瞬間、食堂おばちゃん周りの足場があっという間に凍り付いた。
――エイヴリルは魔法学園の中でもトップクラスの魔法の天才でもあった。
突然の足場の変化に、おばちゃんに集まってた生徒達は対応しきれず、次々と転倒する。
お陰で――道は開けた。
おばちゃんの手には最後の一枚の食券。
エイヴリルはそれに手を伸ばす。
「っ、おばちゃん、その食券――」
しかしその時だった。
おばちゃんの背後から手が伸びる。
「失礼。こちら頂いても?」
造形美の権化のような顔に爽やかな微笑みを浮かべた男子生徒。
彼が最後の一枚の食券を持っていた。
「あら、まぁ。どうぞどうぞ」
「ありがとうございます」
「そ、んなぁ……っ!」
おばちゃんの手から食券が消える。
そのショックから足元の注意がおろそかになったエイヴリルは豪快に転倒する。
そのまま床に突っ伏した彼女は、この世の絶望全てを抱えたかのような顔で号泣し始めた。
「あんまりだぁぁぁっ、私の生きがいなのにぃ」
わんわんと泣いていると、彼女の頭上からプッと吹き出す気配があった。
エイヴリルが顔を上げると、そこには先程最後の食券を手にした生徒――王太子アーネストの姿がある。
「何笑ってるんですか、殿下……っ! 貴方のせいなのに!」
「んっふふ、ごめんごめん。……ほら」
アーネストは品よく笑ってから、持っていた食券をエイヴリルへ渡す。
エイヴリルは目を丸くした。更に十回ほど高速で瞬きをした。
「……え?」
「ごめんよ。君が毎日、あまりにも必死の形相で頑張っているから俺も参加してみたくなってしまって」
アーネストが誠実な態度で謝罪をしているが、彼女には殆ど届いていない。
彼女は目を輝かせながら食券を眺めていた。
「そんなに嬉しいの?」
「もっ、勿論ですよ! 殿下にはこの限定メニューの素晴らしさが分からないのですか!? 勿体ない!」
「そうだね、そもそも食堂でご飯ってあまり食べないから」
「そんなっ! 人生損してます!」
「そうなの? じゃあ、もしよかったら一口だけ分けてくれないかな」
瞬間、喜々としていたエイヴリルの顔が突然険しく顰められる。
「ああ、それは嫌なんだね……」
「嫌です! …………けど」
エイヴリルはしわしわの顔のまま立ち上がる。
「これは元々、殿下が得た食券ですから…………一口くらいなら……」
口を尖らせ不服さ全開のエイヴリル。
彼女の様子にアーネストは目を丸くしてからまた小さく吹き出した。
「普通、逆だと思うのだけれどね」
「な……っ! も、もっと欲しいって事ですか!?」
「いいや? 君の幸せそうな顔を見れるなら、何でもいいよ」
「では早速交換してきますね、ラーメンニンニクマシマシ餃子炒飯セット!」
ぶんぶんと手を振って食券の交換へ向かうエイヴリルをアーネストは微笑ましく見送る。
勿論王太子アーネストは異国発祥の、それも俗的な料理であるラーメンを食べた事などはない。
故に……この数分後、麺類の食べにくさに苦しんだ挙句、王族にあるまじき独特な香りを纏わせる事となり、エイヴリル諸共従者などに怒られる事となるのだが。
――今の彼はそんな事、知る由もないのだった。
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