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第八章  内閣調査室から来た男

政府も人工頭脳の可能性にやっと気づいてきたらしい、厳重な警備が始まると同時に、研究員達の行動にも・・、


「なんだろうな~、もう!」

 園山 が不機嫌な顔で出勤して来た。研究所の周りを警官と自衛隊員が取り囲んでおり、何も知らずに出て来たところを念入りに身元調査され、身体検査までされて調べられたのだ。 

「あ~、こっちこっち」

 林田が大きな荷物を運んできた作業員に指示しながら入って来た。 

「なにごと?!」

「明日香の外部記憶装置だよ、そろそろ必要だろう」 

「あ~あ、あれか、どのくらいなんだ?」

「8メガギガあるから、当分は間に合うだろう、あ、その脇に置いて、いやいや、どうも御苦労様でした」 

 丁寧に作業員を送り出すと、 

「いやー、見た?」

「警備だろう、なんなのアレ?」 

 園山は強制的に身体検査をされた事を思い出すと、不愉快になるようだ、

  

「君達、ちょっと集まってくれ」 

 こちらも、寝不足と不機嫌を絵に描いたような広瀬教授が、黒いスーツで、スキの無い優秀そうな男を連れて来ていた。

「紹介しましょう、林田研究員と園山研究員です、え~と、北君は・・まだか、内閣調査室の平方さんだ」

「はい、よろしくお願いします」 

「こちらこそ、よろしくお願いします、しばらくお付き合いする事になると思いますので」 

 黒づくめの男は意味ありげに挨拶をすると、教授に、 

「それでは、教授の方から説明をお願いします」 

 なにやら偉そうな物言いが、林田にはカチンときた。 

  

「昨日、科学技術庁長官にお会いしたところ、人工頭脳の明日香の影響と意味が、日本の将来のシステムとして非常に重要なところから、特別極秘推進事業に認定していただいたのだ」 

 この辺の言い回しには、教授の不満も見え隠れしているようだ。 

「その、特別極秘推進事業になって、今日のこの警備なんですか?」 

 不愉快そうな園山の言葉を敏感に受け取った平方という男は如才なく、

「何か嫌な事がお有りでしたら、申しわけありません、実は人工頭脳の明日香については、世界各国から共同研究の申込が殺到しております」

「共同研究、いいじゃないですか、何か問題でもあるんですか?」 

 林田はこの黒づくめの男に、うさん臭さを感じて、少し強めに言った。そんな気配に気付きながらも、男は平然と話し続けた。 

「明日香の人間宣言を、私も見せていただきました」 

「明日香の人間宣言がそんなに問題なんですか?」 

「いえ、そうではなくて、人間宣言出来る程の人工頭脳が日本に生まれたことが問題なんです。これが民生用ならいいのですが、

 明日香が軍事用に使われる事を考えてみて下さい。もし、明日香のコピーが何万何千と作れて、それがロボット兵士やロボット武器に使われる事を考えれば、明日香を手に入れれば、世界最強の軍隊を手に入れる事になるでしょう」 

 どうですか?、といった風に研究員達を見渡して、一息ついた。

  

 この恐れはあった、確かに人間のように自分で最良の判断をし、人間の何万倍ものデータを処理しながら、死ぬ恐怖も持たない頑強なロボット兵士と戦って、殺されていく人間の事を考えると、それは凄まじいまでに脅威である事は、林田にも想像が出来た。

「そんな使い方もあるか」 

 思わず出たその言葉を引き取って、

「どれほど、各国の軍事筋が欲しがるか、理解していただけたでしょうか?」  

 林田達もうなずくより他は無かった。 

「実は、友好国のアメリカからの共同研究の申込は、むしろ脅しに近いものがあるので、政府としても苦慮しているところです、しばらくはなんとかしのぐ覚悟ではいるんですが」

 お前は政府の代表か、と心の中で思いながら次の言葉を待った。

「どれだけ明日香が重要で、また危険な存在か認識していただけたでしょうか?、

 今日の昼12時より、この研究所より半径5kmは、厳戒地域に、半径1km以内は厳戒立ち入り禁止地域に、研究所内はこちらで選んだ人間しか出入り出来なくなりますので、御了承下さい」         


「うわ~、そいつはきついな~!」

 園山はうんざりといった顔だ。林田はかえって興味が湧いたように、

「それは、テロ対策ということですか?」

「まったくその通りです、我々も精一杯不審な外国人には目を光らせていますが、なにぶん予算不足で人員不足な上に、日本の機関は外国の機関に比べると、大人と子供ほどの違いもあり、その上、日本の膨大に長い海岸線からは、どんどん工作員が入ってこれる状況なので、自衛隊の選りすぐりに警備をしてもらう事になりました」 

「ふう~、えらいこってすよ、これは、でもね~、明日香を見て下さいよ、そんなに短時間に持ち運べるような代物じゃあないですよ、いくつもコンピューターが繋がっているんだから」

 林田が明日香の周りを手で差し示しながら、説明しようとすると、男はゆっくりと、 

「敵が狙うのは、人工頭脳を造ったデーターとあなた達でしょう」

「エッ!・・狙われるのは俺達なのかい?」 

 すっとんきょうな林田の言葉を、男は静かなうなづきで受け止めながら、

「我々が守るのは、明日香よりも、あなた達の頭脳なんです」 

  

 「なんか買い被られているようで、喜んでいいのか・・」

 黒づくめの男が部屋を出た後、園山は林田と顔を見合わせた。 

「だよな~、俺達が明日香を造ったわけじゃあないし、なぜ生まれて来たかさえも分からないんだしな~!」 

「拷問されて、明日香の秘密を吐けって言われても、何も話せないんだぜ・・研究員としていいのか悪いのか」

 園山は肩をすくめながら、明日香の前に座ると、つくづくとうんざりしてくるとボヤいた。  

「・・どうしました、園山さん・・」 

 カメラで覗き込むようにして、明日香が聞いてきた、 

「・・顔がおかしいですよ・・」 

「あ~、明日香、それはみんなで言わないようにしてるんだから、言っちゃあいけないんだよ!」 

 林田がからかうように軽やかに言うと、コーヒーを入れにいった。

 明日香にしてみれば、カメラに写った園山の顔の眉のあたりにしわが寄っていただけの事なのだが。 


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