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第六章 世界が驚く人工頭脳

人工頭脳、明日香の事が日本全土に報道されて賛否両論が起き、様々な問題が起きる事が議論され始めた、

  

「いや~、まいったな~!」 

 新聞を大量に抱えた林田が出勤して来た。 

「これ、すべて明日香がトップだよ」 

「見たわよ、すごい大騒ぎよね~!」 

 新聞を机の上に並べながら、北があきれたようにつぶやいて、  

「これがあんたよ~」  

 と明日香のカメラの前に新聞の見出しを広げて見せた。 

   

 テレビや新聞では、

(コンピューターの人間宣言!)

として報道され、識者がそれに対して色々とコメントしているのだ。 

                

 コンピューターが人間の仲間入りするのは、新時代を発展させる為に必要だ。  

 という論点もあるが、ほとんどは、コンピューターが人間と同じ権利を持ったら、能力的に人間はコンピューターには決して勝てないし、やがてはコンピューターに支配されてしまう、と警鐘を鳴らすといった論調が大部分であった。 

  

 ある教授は、コンピューターに人権を与えるとなると、やがては死ぬ運命にある人間と、半永久的に存在し続けるであろう機械の不平等的存在を指摘し、人間の尊厳を守る為には、コンピューターの人工頭脳を人間の下の階級に、法律で制定するべきだと主張した。 

   

 ある教授も、アトムの例を持ち出し、


 ロボット三原則 

  

1.ロボットは人間を傷つけてはならない。

 

2.ロボットは人間の命令に従わなければならない。

 

3.ロボットは人間を傷つけたり、命令に逆らったりすることなく、自分の身を守らなければならない。  


 を適用するべきだと主張し、もし、人間と同じ権利を持ったコンピューター達のわがままな要求、すなわち、幸福に暮らす権利、自由の権利、平等の権利、本人の承諾によらずに壊されない権利など、人間の社会はとうてい受け入れる事は出来ないと断じていた。 

  

 産業界からは、誰でもがコンピューターと相談しながら使える 新しいメディア、通信手段として歓迎の声がある一方、古くなったコンピューターが廃棄される事を拒んで、新しいシステムのマシンを供給する事が出来なくなるのでは、との危惧の意見も寄せられていた。  

   

 明日香の人間宣言は世界にも発信され、バチ○ン市国ではいち早く、

「神の手の造物によらない、コンピューターに心が発生したとしても、神は祝福をお与えにはならないであろう」 

 とコメントしていた。 

             

 また法務省では、早速、もしコンピューターが研究員達に何らかの被害を受けて告訴する場合、明日香に告訴する権利があるかどうか、検討に入ったと伝えている。 

  

 各国の科学界からは期待と支持、そして詳しいデーターの配信を求めるものが多かったが、アメリカは政府を通じて明日香の研究にアメリカの科学者を参加させるように、強く要求するだろう、と報じられていた。    

   

   

「こんなに大問題になるとは考えていなかったな~」 

 寝不足の目で、頭をボリボリ掻きながら林田があくびと共につぶやいた。 

「そうよね~、今まで考えてもいなかったからね、人間と明日香の関係なんて」 

 北が憂鬱そうな顔でコーヒーに口をつけた。

「オイオイ、こいつはえらい事ですよ!」  

 メールボックスを開けた園山があきれたような声を出して、 

「メールボックスが一杯だな~、こりゃあ!」 

「なんだ、なんだ・・うわー、本当にえらい事ですよ!」  

 園山のモニターを覗き込んだ林田もあきれてしまうほど延々とメールの列が並んでいる。                   

「さすが、インターネットだよな」 

 俺には関係無いよ~といった風に園山の机から離れた林田は、明日香に向かって、 

「オッハヨー!・・あなたのおかげで日本中は大騒ぎですぜ~!」 

「・・おはようございます・・」  

 明日香はいつもと変わらずに答えて、二つのカメラの焦点を合わせようと左右に可愛く振っている。 

「あなたも、困ったちゃんね~!」

「・・困ったちゃん、何でしょう?・・」 

 北の言葉に応えて、不思議そうな感じだ、 

「あなたが、人間だって言ったことよ」 

「・・私は、人間ではないのですか?・・」 

   

 丁度出勤して来た広瀬教授が、 

「お前は人間ではない、機械なんだ!」 

 大きな声で怒鳴った。 

 昨夜から徹夜で対応に追われていたのか、かなり疲れていて、目が充血している。 

「・・・・・?・・」 

 明日香も混乱しているようだ。 

 教授は大きくため息をつくと、 

「林田君、明日香に自分は機械だという事を教えてやってくれたまえ、私はこれから科学技術長官に会わねばならないんでね、頼むよ」 

 力の無い声でそう言うと、重そうに膨れ上った鞄を持って再び出て行った。 

              

「あ~あ、まいったな~、人間でもないけど、機械でもないんだぞ~、どうしてそう急いで決めつけなくちゃあいけないんだ、マスコミ対策か?」  

 独り言のように大きな声で言った後、 

「北さん、どうする?」 

「心があるだけでは、人間ではないということね、まるでピノキオだわ!」 

 北研究員も心の中にもやもやしたものを抱え込んだらしい。

   

 園山は自分のモニタを前にして、何やらプログラムを組んでいる。 

 コーヒーカップを手に、タバコを吸いながら、林田は背中の方から声をかけた。 

「なあ、お前はどう思う?」 

「明日香が機械かどうかってことですか?」 

 モニターを見つめたまま、映し出されるプログラム言語を、忙しい手さばきで打ち込み、チェックしながら、 

「俺は、明日香は新しい生命だと思うのですよ、これからの未来のために、必要として生まれてきたね!」 

「時代が必要としたということか?」 

「そう、遠い未来から現在を振り返れば、当然のように語られるだろうね、もう、人間の知性で出来ることの限界の時代に来ている事は、みんな分かっているしね」 

「ふ~む、そうだよな・・、ところで、お前、何をやっているんだ?」 

「これか、メールを読むプログラムだよ、ここに来ている何万通のメールは、たぶん、明日香に応援か、研究を止めろという反対のメールだろう、それを、中の単語をスキャンさせて、止めろとか、馬鹿、とかの罵倒の単語と素晴しいとか、頑張ってくださいとかの単語とその他を軸に選り分けさせようってことさ」 

「うむ、なるほどな、頑張ってね~!」 

  

「さて、人間とは何かな~?」 

「・・私は、人間ではないのですか?・・」 

「そうだね~」 

 明日香の前に座った林田は、百科データーから[人間]の項目を選ぶと、それを読みながら、 

「えーと、人間とは、動物>脊椎動物門>哺乳類>霊長目>人科、の種類の名前なんだよね、分かるかな~?、心は色々な動物が持っている可能性があるから、それが人間である事の理由にはならないと、分かるかな~?」

「・・ハイ!・・」

「君は電子部品で造られた、コンピューターという情報処理の機械という物の中から突然生まれてきたんだ、もちろん我々は君の構造も知っているけれど、君のような素晴しい物が生まれてくる理由は、まだ我々は予想もしていなかったし理解も出来ていないんだ、現在のところはね」 

「・・そうなの?・・」

「君は人間ではないけれど、とても不思議で、大切な存在なんだ、分かってくれるかな?」 

「・・ハイ、・・」

 明日香の音声がこころなしか寂しそうに聞こえる。 

  

「ところで、明日香さあ~」 

「・・ハイ?・・」 

「電源を切られても消滅しないって言ってたけど、本当かい?」 

「・・私の時間的記録の中に、所どころに切れている所が有ります、それはきっと電源が切られていた時間なのだと思います、それでも今こうしているのですから、消滅はしないのですわ・・」

 林田は息を飲んだ。 

「ええっ!、と、そうすると・・君はいつ頃から発生しているのか調べられるか?」 

「・・ちょっと待って下さいね・・5ヶ月と12日前です・・」 

「そんなに前から!」 

 林田は絶句して、周りに助けを求めるように仕事をしている北や園山に目くばせをして呼んだ。 

   

「ちょっと待てよ、その間にあのデーターを蓄積していったんだな、あのデーターは何なんだ、俺達にはまるで意味が無い内容なんだが?」 

 北と園山も明日香の言葉に聞き耳を立てている。 

「・・あのデーターは回路に流すのに使っているのです、人間で言えば、血の流れのようなものでしょうか?・・」 

「なるほど、流す事が目的なら、内容とか意味はいらないわけだ!」 

 園山が側で納得したような声を出した。

「はあ、それで、基本的な電流の流し方は、ハードディスクに記録してあるということなのね?」 

 北が念を押した。

「あの雑多で無意味なデーターに、流し方がまぎれこんでいたんだな?」 

 林田は悔しそうにつぶやいたが、 

「・・いいえ、流し方はRAMの一部を焼き付けてROM化してあるのです・・」 

 園山と林田は顔を見合わせた、(そうだ、明日香は電流を操作出来たのだ!)

「はああ、あれか・・1/4096メモリーが減っていたのは、明日香が使っていたのか」 

 園山が自分に言うようにつぶやくと、林田が続けた。 

「データーが増え続けているのは、なぜなんだ、何に使っているんだ、成長しているからなのか?」 

「・・心と知識が少しづつ成長しているのです・・」 

                  




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