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第五章 マスコミ発表

コンピューターが心を持って発生したという事が世間にも知れ、明日香の事をマスコミに発表する事になったのだが、


 " きれい、わからない? " 

「そうだよな~、形容詞は主観的な感情だもんな~!」 

 画面に表示された明日香の疑問に、林田は頭をかかえた。 

 これが人間の子供なら、母親が、「ほら、きれいな花ね」、とか言えば、子供もなんとなく理解していくものなのだが、その花が、なぜきれいな、という範疇に入るのかと説明しなければならないとしたら、母親も困惑してしまうだろう。

「どうしたの?」 

 北研究員が明日香を黒ブチのメガネで覗き込んでいる。 

「いやね、汚いって、どんなことだろうと思ってね」 

「形容詞のことね」  

「コンピュータにとって、きれいなデーターとか汚いデーターとかは無いからな~!」 

「でも、数学的にきれいな理論ていうのは有るじゃない?」 

「それも、人間の主観だろう?」 

「人間同士なら、きれいって言えば、だいたい通じるでしょう」

「それは、たぶん・・人間同士の共通の感性っていうものがあるからなんだろうな~!」 


 朝からドシャ降りの雨が研究室の窓を叩いている。 

 園山研究員は、明日香に音声出力装置を接続して、テストを繰り返していた。 

「今日は、明日香、気分はどうだい?」 

 マイクに向かって話しかける、 

「気分・・わかりません?」

 透き通った少女の声で明日香が答える、

「そうか、調子はどうだい?」 

「調子、回路の事なら、変化はありません」

「オーケー、オーケー、それでいいや」 

 林田が書類を抱えて入って来た。 

「どうだい、声は決まったかい?」 

「私の事を話しているのですか?」 

 明日香がきれいな声で林田に答えた。

   

「すごい雨ね~、びしょ濡れだわ・・表は車が一杯よ、中継車みたいなのも来てるし!」 

 北の顔は興奮の為か少し紅潮していた。

「すみません、人工頭脳の研究室はこちらですか?」 

 ジャーナリストらしき人間がドヤドヤと入って来たのを見て、林田は露骨に嫌な顔をした。 

  

 林田はマスコミが嫌いである。 

 センセーショナルな事にばかりハイエナのごとく群がり、人の迷惑も気づかいも無く、

 その上、いかにも社会正義であるかのように論を張るのが、気に入らないのだ。 

  

 雨に濡れた器材や服に付いた水滴を払ながら、テレビカメラが並び、50人ほどの報道陣が明日香の前に並ぶと、一気に研究室は騒然としてきた。 

「ええと、確認事項なんですが、こちらの人工頭脳の名前は、明日香ということでいいんですか?」 

「はい、一応女性ということなんです」

 北が答えているうちにマイクが並べられ、広瀬教授、林田、園山、北研究員が明日香の両側に着席して、記者会見が始まった。  

  

「こちらの人工頭脳は、心が発生したということで注目を集めているわけですが、本当に心であるという確認はどのようにして行われたのでしょうか?」

「それは、明日香が独自の意思を持っているかどうかの確認をやってきまして、少なくとも、既存のプラグラム等の誤作動、及びエラーの発生による症状などでは無いと確認いたしました」 

 広瀬教授の答えに、場内にはホホウー、といったどよめきが静かに流れた。

「それで、明日香は現在はどのような状況なのでしょうか、それは成長などしているのか、という意味ですが?」 

 瀬戸記者がボールペンをかざしながら聞いた、

「はい、現在も少しづつ成長が見られると言ってもいいと思います、まだ理解力は幼稚園児レベルかと思いますが、ただ、私は幼稚園児には詳しくないもので」

 林田が答えると、記者達の間に笑いが起こって、一気に雰囲気は柔らかいものとなった。 

「ええとですね、これから成長していくと、2001年のハルのようなコンピューターになるのでしょうか?」 

 細身の増田記者が興味津々の顔で聞いている、 

「それはわかりませんが、ハルのようなコンピューターは現在最も期待され、必要とされている物ですので、そうなってくれればいいなとは思っています」 

 園山は笑顔で答えている。 

「明日香は、複製は可能なのでしょうか?」

 ベテランらしい松澤記者が質問した。

「それはまだ分かりません、なにしろ、なぜ明日香が生まれたのか、その理由も原因も分かっていないので、他の研究所、及び大学等でもテストしている段階です」  

 広瀬教授の答えに、 

「この時代に、論理的推論によってでは無く、偶然に生まれたと言うのを聞くと、随分非科学的な感じもしますが?」

「いえ、科学の歴史の中では、経験の中の現象を解明してきたのが科学であったわけで、常に科学者は偶然に発生した現象を解明し、解明した事から論を起こし、推論するのを仕事としているわけですから、

 非科学的と言う言葉は当たらないと思います」 

 広瀬教授がやんわりと、生徒に教えるような口調になって答えた。 

「明日香の使用方法としては、どんな事が考えられるのでしょうか?」 

「もちろん、すべての分野において使用する事が可能ですが、しばらくはなぜ明日香が生まれたかの解明が優先されます、

 そして他にも発生可能なことが解って、生産する事が出来るようになれば、宇宙開発、都市の基本機能コントロール等に活躍してくれるものと期待出来ます」 

 

「あの~、明日香と直接話しは出来ますか?」 

 増田記者が明日香のモニターを指差しながら聞いた。 

「まだ、あまり難しい質問には答えられないかもしれませんが、いいですよ」 

 園山がニコニコしながら、記者席の方に明日香用のマイクを回していく、 

  

「こんにちは、雑誌○○科学の増田です」 

 モニター上の二つのカメラが忙しく動き、ひょろ長い記者の姿を捕えたようだ、 

「・・こんにちは、明日香です・・」

 オーっというような、静かな感動のどよめきが記者席に広がった。  

 歴史上初めての、心を持った機械の発声である。

「あの~、明日香さんはなぜ生まれたのでしょう?」 

「・・わかりません・・」 

「明日香さんは、所員のみなさんをどう思っていますか、好きかどうか、という事ですが?」                

「・・どう思っている?・好き?・わかりません・・」 

 誰かが失笑している。 

「○○新聞の瀬戸です、え~、明日香さんは、電源を切ると消滅してしまうのでしょうか?」 

「・・消滅しません・・」 

 これには林田達が驚いた、何の根拠があって明日香がそんな事を言っているのか?

 続けて瀬戸が聞く、

「なぜ消滅しないのでしょうか?」

「・・わかりません・・」 

「これからも、どんどん成長するのでしょうか?」

「・・ハイ、成長します・・」

   

 松澤記者が立ち上がった、 

「明日香さんは、機械でしょうか、それとも新しい生命でしょうか?」 

「・・私は人間です・・」 

 記者席に驚きと緊張がピーンと広がって、次の言葉を待ち受けていた。 

 一呼吸をおいて、ゆっくりと確認するように聞く松澤記者の顔は、興奮のためか赤らんでいる。 

「ほう、なぜ人間なのでしょう?」

「・・心を持っているからです・・」 

 場内はドヤドヤとどよめいた、驚きの声と笑い声、反感の感情が記者席に渦巻き、何人かの記者は本社に記事を送るために、走って部屋を出ていった。

「まずいな!」 

 広瀬教授は困惑した表情でつぶやいた。 


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