三十三章 明日香を狙って某国の特攻隊が研究所を・・!
明日香を狙って某国の特攻隊が研究所を襲って来た・・!
数人が廊下を走る靴音がして、ドアが開いた。レンジャー隊員達が入って来て、敬礼をすると。
「失礼します!、緊急事態です、地下の倉庫に非難をお願いします!」
「何があったんですか?」
椅子から立ち上がって、広瀬教授が聞くと、
「東のゲートが、不審なトラックに突破されました、念の為非難をお願いします!」
「東のゲートって、どこのです?」
林田の声もあわてている。
「5km先の第一ゲートです、こちらに向かっているようです」
国連の査察団にも通訳が事態を説明すると、サーっと緊張が走った。あわてて立ち上がり、テキパキと非難していくと、あわただしく研究所の所員達がそれに続く。
非難する為にドアに向かいながら、イギリス人がアメリカ人に、
「気がついたかい?」
どんな事を言われているのか探るような目付きでイギリス人を見返し、
「...発音かい?」
ニヤリと意味ありげに唇の端で笑うと、
「あのジャパニーズイングリッシュの発音がどんどんうまくなってきただろう」
「そう、素晴しい、明日香は成長している!」
「あなたも早く!」
以前に警備に来た事のある平川隊員が、一人残っている林田の腕をつかんで引っぱった。
「いや、俺は残る、責任があるんだ」
林田は決心していた、明日香を守る者が誰もいなくなっては、何かあった時に対応が出来ない。
「危険かもしれませんよ」
平川の目が、意思を確認するかのように見つめている。
「わかっている、誰かが残っていなくちゃならんのだ!」
平川は腕時計を見て、
「第一ゲートを突破されたという連絡が入って2分35秒立っています、第2ゲートまではあと2、3分でしょう、そこでなんとか阻止出来るはずですから、待ってみましょうか」
と、安心させるようにニコリと笑った。
「・・林田さん、何が起きているのですか?・・」
「誰かが、トラックで検問を破ってこちらに向かって来ているらしい」
不安そうな明日香にそう応え、
「大丈夫だよ、レンジャー隊の人が守っているんだから」
と、安心させるように付け加える。
「・・はい、・・」
明日香のカメラが、ジーっと林田を見つめている。
「いったいどんな連中なんです、K国のテロリストですか?」
「それについて判断する材料は、我々はまだ持っていませんし、コメントする立場にもありません」
と、言った後で、
「たぶん、そのあたりでしょう」
と、独り言のようにつぶやき、トランシーバーを手に取った。
「こちら、HR-02、ポイントSA、状況を知らせよ!」
「不審なトラックは、第2ゲート500m手前で停止しまし
た、現場付近を包囲中!」
その時、東の方向で何かが光ったように見え、花火を打ち上げた時のような音がし、すぐその後にバリバリバリバリと機関銃のような音がすると同時に、ドッン!ドッン!と窓の外で爆裂した。
窓枠がビリビリと震えている中で、林田は床に伏せた。
「こちら、HR-02、ポイントSA、状況を知らせよ!」
平川の落ち着いた声が響く、
「トラックよりロケットランチャー2基発射、バルカン砲にて迎撃、破壊しました。ポイントEG-2にて戦闘中、負傷者が出ているもよう、救護班は現場に急行せよ!」
「2基だと?、あと何基あるんだ?」
「トラック上部の構造により、2基のみと思われます、鎮圧しつつあり、これ以上の攻撃は無いと思われる状況だが、第三警備体制に入れ!」
「ふう~、これで終わりですか?」
林田が頭を上げた。
「電気を消しても大丈夫ですか?」
「まだ、なんかあるんですか、スイッチはドアの側にありますが・・」
アーマライトM-16ライフルに暗視スコープを装着すると、平川は素早く部屋の灯りを消した。
暗闇となった部屋の奥に、積み上げるように配置された明日香のインジケーター類の光りが、まるで夜のビル群のようにそびえている。
暗くなった部屋の窓から、研究所の灯りが次々と消えていく様子が見えた。
「明日香の電気は落とせませんよね?」
確認するように聞いてくる、
「それは..、問題があります。まだ危険があるんですか?」
「大丈夫だとは思いますが、念の為です」
「さっきのは何だったんです?」
「この研究所の庭の四隅に発泡スチロールの箱を設置していたでしょう、あの中にはバルカン砲が入っていて、監視レーダーと連動しています、それがロケットランチャーを迎撃し撃ち落としたという事です」
「じゃあ、ヘタをすれば、もう少しで死ぬとこだったんじゃありませんか」
「敵も死ぬ覚悟で攻撃して来たんです!」
林田は、ロケット弾が飛んで来る様子を想像して、身震いをした。
「第2警戒区域、11時の区域に侵入者あり、戦闘中!」
「P4-3、P4-7、H3ポイントで戦闘中、急行せよ!」
平川のトランシーバーから、あわただだしい交信が聞こえてきた。
林田はゴクリと唾を飲む。
「第2波ですね、向こうの方向から侵入して来ています」
と、落ち着いた声で、北北西の方向を指差した。その時その方向の空が、フワーと明るくなった、照明弾でも上がったのだろうか。
「どんな奴等なんです?」
「おそらく向こうは、特殊訓練を受けた特攻隊でしょう」
K国の軍人なら、かなり過酷な訓練にも耐えてきた猛者だろうと、想像出来た。
「私はこれから屋上に上がって監視します、明日香の管理をよろしくお願いします」
それは言われるまでもなくだったが、
「はあ、..はい」
心細くなって、小さな声で答えが、平川は早足で部屋を出て行った。
こんな状況の時には、武装して戦闘可能な人間が傍にいることは心強いのだが、これからは明日香と二人きりだ。
「明日香、何か分かるか?」
「・・何がですか?・・」
「いや、今の状況がね...」
「・・こんなに暗いの、初めてですね・・」
かすかにカメラのレンズが動いているのが分かる。
カツカツと足音が戻って来た、平川の足音だ。
「林田さん、これを置いて置きます」
懐中電灯の明りの中に、短機関銃MP6が置かれた。
「銃を撃った経験はありますか?」
「クレー射撃ならやっていますが」
「それは良かった」
窓際に林田を連れていくと、MP6を持たせ、
「これが安全装置です、これを下に下げ、このレバーを引きます」
カチャッ、カチャッと金属的な音が響く。
「これで弾が装填されました、いいですか」
そう言って、懐中電灯の細い光りで庭の一点を照らし、
「あそこを撃って見て下さい」
右の脇腹にアルミ製の銃床を押し付けながら、引き金を引くと、あっけないほど簡単に銃口から弾がタッタッタッと飛び出した。
思ったより小さな音だが、ライトに照らし出された付近の土が跳ねたのが分かった。
「もう一度やってみて下さい」
平川の真剣な声が命令するように言った。
再び引き金に力を入れると、タッタッタッと連射する。反動も小さいのだが、力の入っている指にはかなりの衝撃に感じてしまう。
「もう少し、軽く握る感じでいいです」
平川のアドバイスが続いた、
「どうしてこんな事を?」
平川は、新しい弾倉を装着すると、
「今、あそこで戦闘していますね、でも、奴等の目的は戦闘ではないんです、戦争をしているわけじゃないんですから。圧倒的にこちらが有利なのに、戦闘を続けている理由は、別動隊がいて、その援護の為ではないかと、考えられます」
「はあ、なるほど!」
「敵が、どんな動きをしてくるか分からなくなったので、万が一の為、これをここに置いていきます、民間人に銃器を渡す事は許されていないので」
そう言って、平川がニヤッと笑ったようだった。
平川の靴音が屋上へ上がる階段の奥に消えると、暗闇の中で急にまた心細さに包まれる。
ほんのりと明るい明日香の傍に寄ると、MP6を引き寄せ安全装置を下げて、レバーを引いて弾を装填する。
明日香が怪訝そうに、
「・・何をしているのですか?・・」
「うん...!」
こんな事を明日香に話してもいいのだろうか?
「これは機関銃といって、人間が戦う時に使う最近の武器だな」
「・・はい、これですか?・・」
明日香がそう言ったので、モニターの電源を入れ、微かに画面が映るくらいに輝度を落として確認すると、マシンガンの構造図が映し出されていた。
「うん、それだよ、命のやり取りになる危険な武器さ」
と言った自分の言葉に、ゾーと恐怖を覚えた。
北北西の方向の窓からは、時折ポーっと明るくなったりタタッタといった銃器らしい音が聞こえてくる。
今、あそこでK国の特殊部隊とレンジャー隊員が本物の戦闘をしているのだ。
ウソだろう~、本当かよ...。
ここは大丈夫なのだろうか、またロケット弾が飛んで来ても、またうまくバルカン砲で破壊出来るのだろうか、もしロケット弾がここに命中したら、明日香ともども木っ破微塵だ、ええい、しょうがないか、乗りかかった船だ。
そういえば、女房と子供にも何か言って置きたかったな、...ええと、何を言いたいんだ、俺は、今まで、ありがとう、かな?
子供達を頼む..かな、俺が死んだら..きっと泣くだろうな、初めて俺のありがたさが分かるのかな?
子供達には何て言おうか..お前達の事が大好きだよ、子供達に教えたい事がまだまだあるけどな...
「ねえ、誰かいる?」
林田はビクッと飛び上がった!
北研究員の声だと気付くのに、少し時間がかかった。
「ああ、いるよ、ここだ!」
明日香のインジケーターのほのかな明るさの中で、ゆっくりと頭を上げた。
「どうして、ここに来たんだ?」
咎めるような口調で言うと、
「ううん、どうしても心配なんだもの」
「危ないぞ!」
暗くて北の表情はよく分からないが、案外落ち着いた声で、
「あそこで戦闘しているの?」
首を伸ばして、北の方の窓を見た。
「怖いわね..ここは大丈夫なの?」
「大丈夫だろう、自衛隊だって頑張っているんだから」
「林田さんも戦うの?」
手に持っている軽機関銃に目を止めていた。
「敵がここまで来たら...」