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三十一章 人工頭脳明日香へ国連の国際調査委員会の訪問、

各国の学者達が、明日香の秘密を探る為にやって来た。

 

 夜中に一雨あったので、今日の朝は新鮮な感じがした。

 園山は仕事で明日香に向かう時も、努めて事務的に対応しているように見える。

 一方明日香は、園山が前を通る度に、グラビアクイーンの写真等をモニターに映し出したりしている。

 きっと、ネットのどこかで見つけてきたものだろう。

「明日香、何をやっているんだ?」

 林田が声をかけると、

「・・園山さんが好きかなと、思って・・」

 フッとカメラを園山の方へ向けて、様子をうかがったりしている。

 まだ、園山の事をあきらめ切れないらしい。

「ふう~、」

「・・園山さんは、何が好きなのかしら?・・」



「やあ、どうも、こちらです」

 広瀬教授が国連の査察団を連れて入って来た、約束の時間より10分ほど早い到着だ。

 アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国、それぞれ三人づつの大集団で、研究所内はすっかり手狭になってしまう。

 明日香は急に人が増えた事で、カメラを忙しく左右に振って、何事が起きているのか?、といった風だ。

「こちらが研究員の林田君、園山君、北君です」

 科学者らしい査察員達に紹介すると、それぞれ親しみを込めた笑顔で挨拶をしてきた。

 査察というより、人工頭脳というものに対する好奇心とその秘密が知れるかもしれないという期待感に溢れているのが分かった。


 北と林田が麦茶に氷を浮かべて持って来て、査察員達の前に並べ終わると、広瀬教授が、

「こちらが、明日香です」

 と、モニターに二つの目のようなカメラと、各種センサーを髪の毛のように生やし、40台の一般的なコンピューターを並列処理させるために、コードを乱雑に接続している棚を差し示した。

「Oh,!」

 驚いたような声を上げながら、その表情には期待はずれ

だな~こいつは、といった気持ちが読み取れた。


 彼等は一目でこのコンピューターのレベルが分かったようだ。

 もともと、この貧乏くさい研究所が、日本のこれからの経済の米になるかもしれない優秀な人工頭脳を開発している所とは、大国日本のイメージからすれば、不自然に見えただろうし、

 また、ずるい日本人はこれを明日香と言い張って、本物をどこかに隠し込んでいるのに違いない。

 ならば、これを偽物だと証明してやるぞ、と、フランスとイギリス人達の目つきは険しくなった。


 彼等が何をやるのかについておおよその予測がついている林田達も、興味深げに彼等の作業を見守っている。


 通訳が林田達に、これから明日香を調べますがいいですね、と念を押し、代表らしいアメリカ人が持参したハードディスクを接続し、

「これから、内部の査察に入ります」

 と振り返って宣言した。


 プログラマーらしいアメリカ人は、システムのプログラ

ムをチェックしながら、モニターに着いているカメラに向

かって、

「今日は、明日香さん」

 と呼びかけた。

「・・今日は、あなたはだ~れ?・・」

「オウ!、ジャパニーズイングリシュ!..私は国連の査察団のアメリカ人のジョンです、よろしく」


「ジャパニーズイングリシュは俺の責任か?」

 林田は傍の北につぶやいた。


「明日香さんを動かしているプログラムはどれですか?」

 アメリカ人らしい直球の質問だ。

「・・私は、メモリーやハードディスクを使っていますが私自身がなぜ生まれたのかは、よく分からないのです、プログラムでは無いような気がしますが・・」

「ふ~む、日本的なファジーな答えだね、こういう答えを設定しておける日本人の能力を、私は高く評価しているんだが」

「・・ファジーでしょうか、正確に言おうとすれば、こういう言い方が正しいという事もあるんじゃありません?・・」

「いや、私にとってファジーとは、まだ物事の本質を見極められていない途中の状態か、考え詰められていない状態と認識するので、解明する余地はあると考えるね」

「・・あなたは、言葉が作る定義で全ての物事を理解し得るという考えをお持ちなんですね・・」

「ふふふ、私は詩人ではなく科学者なので、そういう認識をしないといけないとも言えるがね」

 ジョンはそんな会話を交しながら、システムのプログラムをチェックをしていたが、怪訝な顔をして振り向いた。

「これは、ごく当り前のシステムプログラムだ!」


「それは予測がついていたと思いますが?」

 そう言う広瀬教授をさえぎるように、イギリス人科学者が、

「実にうまく人間のように振る舞う人工頭脳だね、私の知っている人工頭脳の中でも、これほど的確に応答するプログラムは知らないな、

 ここは、広瀬教授とここの研究員達に敬意を払いたいです」

 林田達を振り返って、軽く日本式に黙礼すると、

「ここまで人間らしい応答させる為には、どんなアルゴリズムを使っているんですか?」

 いわゆる、カマをかけてきた。

「いえ、残念ながら、我々は明日香の誕生にタッチしてないのです」

 と答えると、急に冷ややかな笑いを浮かべ、

「この、どこにでもあるコンピューターで突然人工頭脳が発生した事が、自然の摂理からいって起こりうることだと納得のいく説明をしていただけますか?」

 イギリス人らしい、かなり皮肉を込めた慇懃無礼な物の言いようだ。

「それが、私達にも分からないので困っているのです」

 そう広瀬教授が答えると、

「明日香を動かしているプログラムについて教えてくれればいいのです」

 フランス人の学者が、威圧的に言ってくる。

 その態度にいささかカチンときた広瀬教授は、

「それほど言うのなら、自分で明日香を調べられてはいかがでしょうか、その権限であなた達は来ているわけでしょうから」

 フランス人の通訳に言うと、フンといった風に侮蔑の視線を投げかけ、

「日本人は小狡い嘘をつくからな~」

 フランス語でつぶやくと、モニターに映し出されたハードディスクの中のソフトに目を通していく。


「このCPUを並列に使うシステムは良く出来ている、スーパーコンピューターほどではないが、それに近いパワーを出しているようだ、安く上がるし、素晴しいアイデアだ、

 問題は各CPUに処理を分担させる方法だが、これを教えてもらえませんか?」

 ロシアの実直そうな科学者はしきりに感心している。


「それよりも、日本ほどの経済大国で、明日香をスーパーコンピューター上で動作させないのはなぜですか、

 言っては申し訳ないが、この研究所はさほど立派とも言えないし、

この世界の未来を変えるかもしれない人工頭脳の研究に、日本の政府は力を入れていないのか、無知なのか、或いはもっと素晴しい何かに金を使っているのですかな?」

 仁徳の豊かそうな中国の科学者が、率直な疑問を投げかけてくる。

 林田が通訳に、

「疑問はもっともですが、明日香が発生した理由を我々も解明していないので、どのようにスーパーコンピューターに移植出来るかが分からないという事です、この並列処理型だから発生したという可能性もあるからです。

 日本政府の科学に対する態度について充分なものではありませんが、さほど不足しているというわけでもありません」

 政府答弁のような答えをすると、アメリカ人科学者がその中国人科学者に、

「日本の大学の研究所を見学に行くといいですよ、日本政府の知的な物に対する態度が良く分かりますから」

 と言うと、林田に向かってニヤリと笑い、ウインクしてみせた。


 ハードディスクの中身をさらって、人工頭脳らしいプログラムの無い事に首を傾げながら、アメリカの同僚らしい男と、

「どう思う?」

「プログラムで動いているのでは無いとすると、本当にあの日本人達が言っているように、偶然発生したのかな?」

「それでも、何かが作用しているはずだよ、ROM,RAM,CPUのどれだろう?」

「この明日香のCPUは並列的に接続され、それぞれに違った処理をさせているだろう、これは脳の構造に近いよな、脳に比べればかなり単純な構造ではあるが」

「うん、その説明はかなりいいね」

「この400台のコンピューターで一つの脳として機能しているのだとしたら、この構造を変えてみれば何か変化が起きるのかな」

「やってみたいね!」


「プロフェッサー ヒロセ、どうだろう、明日香のコンピューターの配置を変えて、その影響を調べてみたいのだが?」

「あなた達の目的は何です?明日香が軍事における新兵器の開発しているかどうかを査察する事であって、明日香の構造を知る事ではないはずだ、それとも、明日香を消滅させようという意図を持ってこちらへ来られたんですか?」

 そう言われると、アメリカ人らしい大げさな身振りで肩をすくめ、

「わかりました、確かに明日香が消えてしまう危険もありますからね、ところで、ヒロセは明日香の構造について何か知っていますか?」

「残念ながら、我々も研究中なんです」


 ロシア人の科学者が、モニターに向かって、

「明日香さん、軍事的な資料を見せてくれたまえ」

 と呼びかけた。

「・・はい、わかりました・・」

 明日香が集めた兵器等のデーターがモニターに映し出してきた。

 それらは国会図書館で集めたもので、最新ではあるが、すでに公表されているものばかりだ。

 ロシア人科学者がモニターで兵器の資料を見ていくのをアメリカ人達は嫌な顔をして見ている。

 彼がチェックしているのが、主にアメリカ製の最新兵器だからだ。

 

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