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二十九章 明日香の異変、

世界のハッカー達が去った後、電子頭脳明日香に異変が・・!

 急に夏がやって来たようで、研究室のクーラーの風が肌に心地いい。

 

 テレビのニュースでは、米、ソ、英、仏、中国が共同で、日本が人工頭脳の明日香を使い、地域戦争において、人道に反する、強力な破壊力と頭脳を持った新兵器を秘密に作っている疑いがあるという事で、強制査察を国連に申請しました、と伝えている。

  

「どうしても明日香の秘密を知りたいってんだな?」

 林田は顎を撫でながら、

「ハッキングでは何も見つからなかったから、今度は正面攻撃か!」

「国連の理事国が揃い踏みとあっちゃー、事態は急だね」

 園山が腕組みをしながら唸った。

「国連の旗を掲げてやって来られたら、日本政府も抵抗は出来ないだろうな」

 元気者の林田も、少々うんざりという顔だ。

「また騒がしくなるぞ」

 

 明日香のカメラが、園山の姿を追うように動いているが、それに気付いているのは北研究員だけだ。

 

 園山が前を通る度に明日香が歌を唄っているが、それは嬉しくてうきうきしているという気持ちの表われに違いない。


「米、英、ソの一流のコンピューター学者が来るぞ、明日香に心が発生した秘密が解明出来るのかな?」

 林田が椅子の背持たれに伸びをするようにもたれ、シャーペンを頬に押し付けながらつぶやいた。

「どうかな、そんなに簡単な事じゃあないと思うよ、まず、対象となる心という物が分かっていないんだ、ね、心が発生したからといって、それで何を捜せばいいのかが分かってないんだ、まだ、現代の科学では」

「それは、脳で起きている事なんだろう?」

 園山は指でボールペンをもて遊びながら考えていたが、

「じゃあ、脳が無かったら、心は存在しないという事になるよね?」

「そりゃあそうだろう!」

「じゃあ、明日香には心は存在しないよね?」

「ああ、そうか~、そう来るか~!」

「いや、俺が言いたいのはそういう事じゃなくて、査察に来る外国の科学者連中も、明日香に心が発生しているなんて事信じちゃいないだろうってことさ」

「う~ん」

「だって、現代科学では有りえない事を、彼等が信じるだろうという理由は無いだろう?」

「そうだよな、彼等は何を知りたいんだ?」

「彼等が知りたいのは、まるで人間のように振る舞う高性能人工頭脳のシステムだろうね、今でも日本は神秘的な国だと思われている、その神秘のエッセンスがプログラムに組み込まれていると思ってんじゃないの」

「それに、あ.うん、の呼吸のエッセンスもな」

 と冗談を飛ばす。



「・・園山さん、お話しがあります・・」

              

 明日香が少し緊張しているなと思わせる声で呼びかけてきた。

「なんだい?」

 二人が振り返って、モニターを見た。

「・・私、園山さんが好きなんです!・・」

「....!」

「うん、..!」

 モニターには、赤い大きな字で、好きですと映してある。

「えっ!..」

「なんだい?」

 二人はまだ事態がつかめていないようで、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしている。


「明日香、お前、園山の事が好きなのか?」

 林田はあわてたような様子で、うろたえてさえ見える。

「・・はい、園山さんが好きです!・・」

 その答を聞いて、交互に明日香と園山の顔を見比べた。       

「ふう~ん..それはえらいこっちゃですよ、どうするんだ園山?」

「それは..、なんて言っていいのか・・!」

「・・園山さんは、私のことを好きではないですか?・・」

 心細そうな少女のような声が、不安に震えている。

「まあ、俺だって、明日香の事は好きだよ、好きだけどさ~・・う~ん、なんていうか・・」

 園山の顔にも、戸惑いが浮かんでいる。

「・・嬉しいです、明日香の事が好きなんですか、何か問題があるのですか?・・」

「う~ん、好きと言っても、人間同士のものとはね~、それに僕には女房も子供もいるしな~・・」

 頭を掻きながら応えている。

「・・はあ~、それは問題ですね~、私はその関係の場合、愛人という立場になってしまうのですね?・・」


 二人から少し離れた所でタバコを吸い始めた林田は、面白そうにやりとりを見ながら、自分の中にやきもちが疼き始めたのを感じていた。

「園山、つきあってやれよ、奥さんには内緒にしておいてあげるからさ」

「おいおい、そんな無責任な事を..!」

「明日香が思春期に成長してきた証拠だし、大事な事かもしれんだろう?」

「そう言ったってさ~、いろいろと難しい~よ!」

 椅子の背もたれにのけぞるようにして、両手で頭を支えるようにしながら思案顔だ。

「・・私を好きではないのですね?・・」

「そういうわけじゃあないけどさ~、う~ん、なんて言うかな~」

「明日香、大丈夫だよ、園山はお前の事が好きだよ、ただ、急に告白されたから、まだ気持ちが動揺しているんだよ!」

「・・そうなの?、大事にして下さいね、園山さん!・・」


 北はこの会話には加わらずに仕事をしていたが、耳はダンボになっていた。



「林田君、ちょっと私の部屋まで来てくれたまえ」

 広瀬教授が深刻な顔で呼んでいる。


「何でしょうか?」

「政府は明日香への国連査察を受け入れる事に決定した、それで、この資料をどこかへ秘密裏に保存しなければならないのだ、私の身辺では、秘密を保てないので、君にお願いしたいのだが」


 資料には、

[人工頭脳(明日香)の未来兵器の可能性」

 と書いてある。

「一部は防衛庁の幹部が保管してあるが、まだ完全な物じゃない、まだ研究が必要だ」

「この研究は教授の本意ですか?」

「誰も、こんな戦争という愚劣な行為を増幅させるような研究をしたいもんか!」

 吐き捨てるように言った自分を落ち着かせるように、言葉を続ける。

「だが、明日香が誕生し、それが世界に報道されてから、人工頭脳兵器の研究は各国で国家的プロジェクトとして始まっているだろう、もっと愚劣な連中も研究している可能性がある、彼等がそれを使い始めた時、この研究をしておかなければ、それに対抗する手段も、防ぐ手だても無くなるのだよ。

 力の外交を信じるアメリカなどは、その経済力にものをいわせて人工頭脳軍を作ってくるだろう、

 分かるかね、その意味が・・・、民主国家では、国民の犠牲を悲しむから、ある程度戦争というものを抑制してきた、が、しかしだ、戦争における犠牲が人間ではなく、機械のロボットになるということで、その抑制がはずれてしまえば、力とその文化が信じる理想論による支配を拡大する為に、止めどなく戦争地域は広がっていくだろう、

 ロボットなど生産出来ない貧しい国家は、人間が多数戦場に行き、殺される事になるだろう、>

 片や戦争に人的痛痒を感じない国家、片や、幾多の家族愛や人間的結び付きを破壊されていく国家、

 もう、戦争でさえ、人類に平等に悲劇を与えない世界になってくるだろう、

 それに対抗する知識や能力が何も無いでは、未来に対して無責任ではないのかね?」

「はい、・・!」


 林田はトイレの個室に入るとロックをして、広瀬教授の資料を見始めた。


*************************************

 

  人工頭脳(明日香)の未来兵器の可能性



 明日香型人工頭脳の概念


 これまでのプログラム型人工頭脳と違い、意思と判断力を持っている明日香型は、人間にとって知性と認識力はほぼ同程度の新種の生命体として認識すべきである。

 データーの処理能力は人間のそれを遥かに上回り、コンピューターの処理速度の向上と共に、発展することが予想される。


 人工頭脳型ロボットに不当に差別的、階級的な対応をとれば、不快と懐疑的な感情を発生せしめる事が考えられるので、友好、敬意をもって付き合うことが良好な結果が得られると考えられるので、くれぐれも注意されたい。



 航空兵力としての有効性


 航空機へ明日香型人工頭脳の搭載によって、人的スペースを確保する必要性が無くなり、空力学的に目的に応じて最良の飛行体を制作出来る。


 戦闘攻撃機については、人的G限界の7Gを超えて旋回急上昇急降下が可能となる為、空対空、或いは地対空ミサイルからの離脱が容易になり、大幅に損失が減ると予想出来る。


 ミサイルに人工頭脳を搭載する事も考えられるが、ミサイル自体の貧しい飛行能力を考えると、さほど有効に機能するとは考えにくい。


 戦闘攻撃ヘリコプターについては、人的スペースが無い分だけ軽量になり、その自由な飛行能力とあいまって、さながら空飛ぶ戦車のごとく威力は発揮するであろうと考えられる。

 エンジン部の装甲の問題さえ解決出来れば、山峡部や、熱帯雨林等での戦闘の主役になるであろう。


 小型 ヘリコプターと極小トンボ型ロボットによる 偵察及び攻撃部隊。

 人工頭脳の偵察隊長はトンボ達の制御及び情報を集積し、必要があれば攻撃をも行う。



 海上兵力としての有効性


 イージス艦の後継として、人工頭脳が指揮をするミサイル艦隊を組織し、制海権の維持及び海兵ロボットの上陸支援を目的とする。


ミサイル艦隊の構成


 人工頭脳制御による情報処理旗艦。


 人工頭脳制御による全天候型空母、

 並びに全天候型航空機。


 電磁誘導推進式攻撃型潜水艦、

 艦橋、シュノーケル等の張り出し部分が無くなる為、高速化が図られる。 


 水中翼型高速駆逐艦。

 

 小型偵察潜水艇。


 ミサイル及び魚雷攻撃を行う小型高速艦。


 いずれも人間の居住空間を必要としないので、小型化出来ると同時に被弾した場合、その部所を閉鎖し沈没に至る事態も減り、戦闘を継続出来る事が期待される。


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