二十七章 世界からのハッカー攻撃の終わり、
再びジャックにメールを送る。
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怒るのなら、ハッキング
なんかしている奴を怒れ。
俺達は約束は守った、
これらはお前のミスから
生じたものだ。
約束どうり、ROMの書き
換えコマンドを送れ!
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「明日香、ジャックのデーターは全てダウンロードしたのかい?」
「・・はい、全てダウンロードを完了してますわ・・」
「このデーターはどうするんだい?」
園山が心配そうなのは、ジャックが保管していた物が、おそらく不法な手段で手に入れたものであるだろうからだ。
「これは我々が保管します!もし、外国から要請があれば、その都度考えましょう」
きっぱりとした口調で平方が言った。
彼はこのデーターの中に、諜報員にとっては宝のような物が含まれているのを知って、とても手放す気にはなれないのだ。
アメリカやロシア、イギリスの秘密の行動が分かれば、外交のカードにも使える。
「ジャックからのメールが来ないな~?」
林田が苛々しながら、何本目かのタバコに火をつけた。
「逃げたか、殺されたか、あるいは捕まってどこかに誘拐されていく途中か・・?」
園山の言葉に、
「誘拐だって?」
「う~ん、だって、どこかの諜報機関なら、彼は使える男だよ、天才ハッカーというのは..」
「そうだよな~、奴等も才能を無駄にはしないか」
もう、窓の外は黒青い色から暗い灰色になっている。
どうやら今日は曇りか雨らしい、
平方は黙々と、ジャックのデーターをCDにコピーして続け、それが終了すると、自分でゴミ箱にドラッグして、全てのデーターを捨ててしまった。
八枚ほどになったCDを抱え、
「林田さんの作戦も失敗でしたね」
「はあ・・・」
「明日香を明日香のコピーだと思わせるはずが、次世代のコンピューターを設計するほどの能力があることを証明してしまったんですから」
「・・まったく 」
徹夜明けでボサボサになった髪を右手で掻きむしりながら、くやしそうに冷めたコーヒーをすすった。
「これで、明日香は常に監視される状況になったのと同時に、外国からの明日香公開の要請が激しくなるものと思われますので、覚悟しておいてください!」
「・・・・」
黙ってうなずくと、平方が部屋を出て行くのを見送る。
言う事がキツイ割に、その後ろ姿には興奮と嬉しさが溢れているようだ。
平方が部屋を出てから、タバコを一本吸い、横目でドアを見ながら、戻ってこない事を確かめると、
「明日香、ジャックのデーターは回復出来るか?」
「・・はい、まだ新しいデーターを書き込んでいませんから・・」
即座にジャックのデーターがサルベージされて、新しいディレクトリーに書き込まれ、回復した、
「寝る前に、こいつをコピーしとかなくちゃなあ~」
とCDに焼き始めた。
「大丈夫か、そんなことして?」
園山は心配そうだ、
「散々な夜だったんだ、このままじゃ寝られないよ、せめてなんか戦利品が欲しいし、平方氏が何に気付いて、あんなに意気揚々と引き上げて行ったのかも..知りたいしな」
「国際社会の裏側を知り尽くしているエージェントじゃないと、分からないんじゃないの?」
「うん、そうかもしれんが、なんか気になるだろう~」
そう言うと、大きなあくびをして、意味有りげにニヤリと笑った。
「明日香、今侵入しているのは誰だい?」
「・・カナダとイスラエルです、データーを読んでいます・・」
「ロシアとかイギリスは帰ったか、よし、回線を切断するぞ」
「・・あら、どうしてですか、ネットは面白いのに?・・」
「自由に出入りされるのは、気持ちのいいもんじゃないし、明日、・・ああ、もう今日か、新しいゲートを作ろう、な、それでいいだろう?」
「・・はい、分かりました、確認応答ゲートを作っておきますね..」
「いいのが出来そうか?」
「・・やってみますわ・・」
しっかりした声で答えてきた。
園山が二人分の毛布を担いで入って来た。