二十六章 ジャックが明日香を賞賛
ジャックは未来のOSの設計図を手に入れるが、
「・・カナダからの発信者が侵入しました・・」
明日香が新しい侵入者を報告すると、それに続けて
「切り裂きジャックさんからのメールが届いています」
「こいつには、さんなんか付けなくていいんだよ!」
と明日香に言いながら、林田はメールを開いた。
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明日香研究の優秀で尊敬
する研究員達へ
新しいCPUの設計図と
ソフトを受け取る準備は
整った、至急送ってくれ
たまえ。
ROMのコマンドは受信
完了後に送信する。
ジャック
└───────────┘
ジャックの新しいアドレスを園山と確認する。
「・・メキシコ、メキシコシティー、ダラス、ニューヨーク、ソーホー地区、DM9470386、SA208553、ここが本拠地の隠しアジトか?」
「おそらくな」
林田は、腕を上に上げて大きく伸びをすると、
「さあ、明日香、データーを切り裂きジャック君に送信してあげよう!」
と言いながら、明日香のカメラのレンズに向かってウインクをすると、そのカメラがかすかに頷くように動いた。
明日香がジャックに送信を始めるとすぐに、新しいデーターがダウンロードされてきた。
「ふふふ、ジャックを裸にしてあげよう」
林田はなにやら嬉しそうだ。
「これは何のデーターなんです?」
平方が肩越しにモニターを覗き込んできた。
「たぶん、ジャックの一番大切なコンピューターに入っているデーターです、明日香がデーターを送ると同時に奴のハードディスクの中身をダウンロードしているって事なんです」
「ジャックはこれには気付いてはいないのかね?」
「奴は、自分の夢を実現させるCPUの設計図を受信している最中なんですよ、もし自分の大切なデーターがダウンロードされている事に気付いても、回線を切る勇気があると思います?」
と林田は逆に聞き返した。
「ふむ、なるほど、奴も今は緊張と葛藤の中にいるという事か、これは一種の勝負ですな」
「ジャックにやられっぱなしじゃあ、税金を収めていただいている国民に申し訳無いでしょう..ふふふ!」
冗談を飛ばしながら、わくわくしている様子でデーターを読んでいる。
モニターを見ていた平方の目が緊張し始めた。
文字列の中に、M1-6, CIA, KGBの重要書類らしい物を見つけたのだ。
「ははあ、..こ、これは!」
「何か、面白いものでもありますか?」
「すみません、しばらく黙っていてもらえますか?」
人を黙らせる強い口調だ、
「はあ、......!」
モニターを見つめる平方の喉仏がゴクリと上下した。
林田にとっては、どうみてもゴミのような資料にしか見えない。
もともとネットで入れるようなコンピューターに、重要なデーターなど入っているはずはないのだ。
平方は膨大なメールの中の発信地と日付に
注目していたのだ。内容はとりとめもない会話である、これも何かの暗号が含まれているに違いないが、これは時間がかかるので後回しだ。
K.G.Bのコードネームで発信されている発信地と日付けをC.I.Aの資料のメールの発信地と日付を対称させると、彼等の目的と行動の意味がボンヤリとではあるが輪郭が出てくるのだ。
中には日本からの発信の物もある、これで彼等の日本での暗躍の一端が解明出来るかもしれない。
「ははあ~、そうだったのか!」
平方の口から、ため息のようにそんな言葉が漏れる。
今までの国際紛争の影での彼等の動きと、それに対するかけひきと対立、時には共同歩調をとった国家間の勢力争いの秘密活動がおぼろげに読み取れたのだ。
「すみませんが、このデーターを全てCDに焼いて下さい」
平方の顔は 興奮した為か、上気して赤らんでいる。
「何かいい情報でも有りましたか?」
「いいえ、見た通りのゴミの資料ですが、時間をかけて調べれば、何かいい情報が見つかるかもしれませんからね、それが私の仕事なんですよ」
興味深げに聞いてくる林田に、さらりと軽く答えたが、焼かれていくCDを見つめている体には緊張感が溢れている。
「・・切り裂きジャックからのメールが届きました・・」
明日香の声が林田に呼びかけた。
「まだ、データーは送信中だろう、何なんだ?」
┌───────────┐
明日香研究の愚劣で馬鹿
な研究員達へ
約束を破ったな、誰かが
ここを嗅ぎつけて包囲し
ている。
ゲームは終った、コマン
ドは送信しない。
ジャック
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林田は急いで返信した。
┌───────────┐
約束は守っている、もし
誰かがお前を逮捕しよう
としているのなら、たぶ
んそれは、今、明日香に
ハッキングをかけている
K.G.Bか、C.I.A、M 1-6
のどれかの可能性がある。
我々は約束は守っている、
コマンドを送れ!
└───────────┘
あわてたようなジャックのメールが届いた。
┌───────────┐
俺のアイデアのCPUの
設計図のデーターも、
奴等に盗まれているのか?
└───────────┘
林田もメールを返す。
┌───────────┐
それはハッカーである
お前なら、今ここで何が
起きているかは、理解し
ているはずだ。
今頃は、君の新しい
コンピューターのアイデ
アに、尊敬と賞賛の声を
上げているだろう、
おめでとう!
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ジャックからのメール。
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なんていう馬鹿なんだ、
お前達は!
あのアイデアは長い間
俺が考え続けてきたもの
なんだ、世界中にバラま
いてどうする。
クソッたれ!
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