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第二十二章 天才ハッカーの手口

世界の諜報機関とハッカー達に、最後のゲートに迫られた人工頭脳、明日香は・・、

 

「どういうことなんだ?」 

 林田は何かを確認するように考えている園山の顔を覗き込んだ。

「切り裂きジャックは、自由自在に出入りしているように見える。今までの行動はイギリスから情報を得ているんじゃないかと思ってきたけど、今回はロシアの後だろう、まさか、ロシアがアメリカに情報を流すだろうか?」 

「今は落ち目のK.G.Bとしても、それはしないだろうな」 

 平方が相槌を打つのに続けて、

「それに、もし、自由自在に出入り出来るのだったら、なぜ直接明日香に侵入しない?、必ず誰かの後に現われるだろう」 

「ああ、そうか!」

 林田は理解したように声を上げたが、平方は怪訝な顔つきだ。

「いかに天才ハッカーであろうとも、物理原則は超えられないという事です」

 園山は自信満々に説明を続ける。

  

「たぶん、切り裂きジャックはイギリスから情報を得ていたのではなく、イギリスやロシアが得たゲートの鍵を盗み出していたのです」

「各情報機関にハッキングしていたというのか?」 

 平方が驚いたような声を出した。 

「たぶん、彼は日常的に情報機関にもハッキングしていたのでしょう、もちろん日本もね」 

「各国情報機関だって、ハッカーに対するチェックはやっているはずだ」 

「もちろんやっているでしょう、でもこの時間は日本の明日香をアタックする事にコンピューター要員は忙殺されていますからね」 

「う~ん!」 

「彼は長くはアタック出来ない、なぜなら、自分の発信位置を特定されてしまうからです、盗んだパスワードとIDだとしてもね」 

「なるほど!」

「だから、時々どこの情報機関がゲートを破って侵入したのかを知るために、見に来ていたんだろうと推測します」 

「自由自在に出入りしているように見せかけて、実は必要に迫られてというわけか」 

 林田も、納得し、自信を取り戻したようだ。


   

22:10 

   

 食事と休憩をとったオペレーター達が、それぞれのモニターの前の席に着くと、 

「皆さん、お疲れさまでした、侵入されていないのは、いよいよ最後の第五ゲートだけになりました。これも回線を接続すれば、やがて破られてしまうでしょう、それで今日の仕事は終わりです」 

「すぐに閉鎖するわけですね?」 

 オペレーターの一人が手を上げて訊ねた。

「いいえ、開けっぱなしにしておきます」 

「え、そんな無茶な、止めて欲しいですね!」 

 平方が眉間に皺を寄せて抗議した、そんな彼を押し止めるように手で抑えながら、

「聞いてください、もしあなたが銀行強盗に入ったとして、金庫に入るまで警備員がさんざん抵抗したのに、金庫に入った途端に抵抗を止めて、金を持ち出せるにまかせたら、どう思います?」 

「う~ん、それは不気味だろうね、何かの罠だと思うだろうな」  

 林田はその答えを聞くと、オペレーター達に向き直り、 

「明日香のハードディスクの中身は、すべて暗号化してありますし、またさほど意味の無いものに変えてありますので、たとえ奥まで覗かれても、支障はありません」 

「ははあ~、明日香を明日香のコピーのマシンであるように見せかけようというわけですか?」

 再びオペレーターから声が上がる。 

  

「各国の情報機関がどのように思うか分かりませんが、少なくともそういう疑念を抱くでしょうな」 

「林田さんの狙いは、そこなんですね?」

「そう思ってくれれば恩の字なんですが、

 少なくとも、自分でハードディスクの中身をすべて読んで、そこに意味のあるものが無ければ、彼等にとって明日香のアドレスにアクセスする事の興味は無くなるだろうと願っています」

「了解しました、ただ、我々は、ハッカー達の行動の監視を続けようと思います、これからの為にもいろいろと参考になりそうなので」

「それは御自由になさってください、我々はこれから明日香の傍に行きますので、何かあったら連絡下さい」

   

「では、回線接続!」 

 園山がスイッチを入れると、再びハッカー達がアタックを開始して来た。 

「あとは、明日香がうまくやってくれるかだ?」 

          


 林田達が明日香の部屋に向かう途中、警備の警官が走って来て平方を呼び止めると、なにやら報告した。 

「記者発表は二時間後なんだな?」

「ハイ、その通りに発表される予定であります」 

 腕時計を見て、

「もし、来るとしても二時間はかかるだろうな、23:00から厳戒体制をとって警戒

 するように言ってくれ」

「ハイ、そのように連絡します!」

 平方の顔に一瞬緊張が走ったのを見て取った林田が、 

「どうしたんです?」

 と聞くと。 

「そうですね・・、二時間後にはニュースでもやるそうですから、いいでしょう。

 三陸沖に不審船が現われて、東海上に逃走中だということです」 

「それがこちらと何か関係があるんですか?」 

「いや、分かりませんが、一応警戒しておきましょう」  

 と言った後、首に指を当てながら何かを考えこんでいる。

   

   

「明日香、どうだい?」 

「・・宇宙って、とても素晴しいですわ!・・」

 林田の声に答えて、明日香が嬉しそうに応えた。 

「宇宙?」

「・・今、NASAのデーターを読んでいるんですわ!・・」

「NASAか、それは素晴しいはずさ、地球の外には無限の宇宙が広がっている!、そこには、また別の生命が生まれているかもしれない」 

「そんなことより、ハッカー達の事を」

 平方が傍からうながした。

「ああ、そうですね、明日香、ハッカー達がすぐにお前の中に侵入するぞ!」 

「・・はあ、侵入してどうするのですか?・・」 

「お前のハードディスクの内容を読む」 

「・・はい、分かりました・・」 

「う~ん、あと、お前を破壊しようとしている奴もいるらしい」

「・・破壊、それは、壊されて動けなくなることですね、それはとても困ります、でも、どうやって?・・」 

「普通の手口としては、ソフトを書き換えたり、ハードディスクを初期化したりする」 

「・・あら、そのくらいの事なら、なんとかなります・・」

「うん、俺もな、お前なら大丈夫だとは思っているんだが」

  

「本当に、大丈夫なんでしょうね?」

 明日香の答えを聞いて一安心した林田は、園山と平方の分も含めて、三人のコーヒーを入れると、テーブルに運んで、心配そうな平方にすすめながら、 

「明日香は自分の意思を持っているコンピューターなんです、それがどんなにすごい事か、想像出来ますか?」 

 と、自信ありげに、椅子に座ると、胸からタバコを抜き出し、火をつけるとうまそうにゆっくりと深々と吸い込み、

「今夜は、長くなりますよ」

 いたずらっぽい目をしながら、林田は平方に囁きかけた。 

 


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