十九章 明日香、世界の諜報機関にハッキングされる、
世界が明日香の秘密を探る為に、ゲートをこじ開けようとやって来た、
09:59
林田が腕時計の秒針を見つめている。
オペレーター達に緊張が走り、モニター画面を注視している。
10:00
「回線接続!」
林田の声が部屋の中に響きわたり、園山がスイッチを入れた。
明日香が勢い良くインターネットの海のように広い世界に飛び出して行くのが、見えたような気がした。
「アタックされています、発信、カリフォルニア!」
「アタックされています、発信、ボストン!」
「アタックされています、発信、カナダ!」
「アタックされています、発信、ドイツ、ベルリン!」
オペレーター達の声が飛び交い、データーを取っていく。
「さすがに早いな、どうやらゲートの前で待ち構えていたっていう感じですね」
園山が平方に向かって話しかけるが、
「はあ、そうですね」
と返事はほとんど上の空だ。
「アタックされています、発信、イギリス!」
「アタックされています、発信、ロシア、モスクワ!」
「アタックされています、発信、台湾!」
「アタックされています、発信、大阪!」
「アタックされています、発信、イスラエル!」
次々と報告が上がって来る、
ハッカー達は第一ゲートに群がり、次々とパスワードを機関銃のように撃ち込んでくる。
「大丈夫ですか?」
平方の顔には、緊張の為か汗が浮いている。
「すべて、予測通りです」
答える林田が嬉しそうに見えるのは、こういう緊張が好きだからに違いない。
腕時計を見ながら、
「まだ、しばらくは持ちこたえるでしょう!」
「アタックされています、発信、スエーデン!」
「アタックされています、発信、カナダ、こちらはパスワード10X10乗の途中から始めています、グループの可能性有り!」
「グループの特定を進めて下さい!」
すかさず林田が指示を出す。
「アタックされています、発信、ロシア、モスクワ、グループでアタックしています!」
「K.G.Bか・・な?」
平方がつぶやいた。
「K.G.Bか、当然狙ってくるでしょうね」
林田が少し興奮を抑えながら応える。
「アメリカ、発信地はバラバラですが、グループで、アタックをかけている模様!」
「イスラエル、グループ化しました!」
次々と報告が飛ぶ、
「モサドか・・?」
平方は落ち着かない指先で手帳に書き付けている。
モニター画面には、ハッカー達が撃ち込んでくるパスワードが、雨のように流れている。
「アタックされています、発信、ルクセンブルク!」
「アタックされています、発信、秋葉原!」
明日香がインターネットに接続したという情報が世界を駆け巡っているのだろう、次々とハッカー達が参入してくる。
オペレーター達が緊張の中でハッカーの足取りを追跡している様子を見ながら、林田は時折腕時計に目をやっている。
11:35
「第一ゲート、侵入されました、アメリカのハッカーグループです!」
「回線切断!」
林田の声が響いて、園山がすかさずスイッチを下ろした。
「ふ~う、1時間と35分か、まあまあってとこかな」
腕時計を見ながら、第一ゲートを破られた時間を測り、
「グループ化したところの情報をまとめて下さい、それが終わったら昼食にしましょう、丁度いい時間ですし、まだ長い事かかるでしょうから、腹ごしらえしておいてください、」
オペレーター達の責任者が持って来た紙には、
・アメリカAグループ、ロス、
・アメリカBグループ、ペンタゴン、 CIA?
・ロシアグループ、モスクワ、K.G.Bか?
・カナダグループ、ケベック
・イギリスグループ,ロンドン、M1-6?
・イスラエルグループ、モサド?
・ルクセンブルク小グループ、
と、まとめてある。
「各国情報機関がアクセスしてきていますね」
林田にその報告書を示しながら、
「各情報機関は、明日香への侵入が目的でしょうが、このルクセンブルクのグループは、破壊を目的にしている可能性があります」
「と言うと・・?」
「ルクセンブルクには、グリーンピースから派生した過激グループでグリーンアースというのがありましてね
、自然回帰をうたって活動しているんです、もし彼等なら人工頭脳という新しい機械支配に抵抗して、破壊コマンドを撃ち込んでくる可能性があります」
「分かりました、なんとかしましょう」
「明日香、どうだった、インターネットの世界は?」
「・・すごく広いところですね、情報がたくさんあって目が眩みそうです!・・」
林田の問いに、明日香は少々興奮した口調で答えた。
「そうか、面白かっただろう、良かったね!」
「・・はい、たくさん勉強しました、まだ分からないところも沢山ありますが・・」
「ところで、ゲートが攻撃されてるのはわかっているよな?」
「・・はい、でも、ゲートを作るのなら、なぜ完璧な物を作らないのですか?・・」
「うん、明日香なら作れるよな」
林田は周りを見渡して、誰もいない事を確認すると、
「確かに、明日香が出入りする為なら、一秒ごとにパスワードを変えてしまえばいいんだが、そうすると、外からお前にアクセス出来なくなるじゃあないか」
「・・はい、そうでしたか・・」
林田は少し考えた後で、おもむろに、
「明日香は、他のコンピューターを攻撃出来るのかい?」
「・・攻撃?・・したくありません、なぜですか?・・」
悲しそうに明日香が聞いてきた。
「そうか、お前にとっては仲間みたいなもんだろうからなあ~」
ゆっくりとため息をつくと、
「今、攻撃してきている奴等の中に、お前を破壊しようとしている奴がいるらしいんだ」
「・・私を破壊、ですか?・・」
「たぶん、破壊コマンドを送り込んで来ると思う、ハードディスクを初期化するみたいな」
「・・他のコンピューターを破壊したくはないので、怪我をさせるくらいなら・・」
「うん、それでいいよ、大丈夫だろうが、気をつけてくれ」
「・・たぶん、大丈夫です、やってみますわ・・」
しっかりとした口調で、明日香が応えた。