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十四章 未知の心との会話

人間とイルカの会話が始まったものの・・、

 

「・・こんにちは・・」 

 キューウ、キュルル 

「これはなに、どうして話し・出来る・?」 

 高い周波数の音が、プールの中に交互に交差している。 

「・・あなた達、イルカの言葉を勉強したからよ・・」 

 キュルル! 

「ふうん~、びっくり!、びっくり!」

 チャッピーとクルルは水面から顔を出し、嬉しそうに首を振って啼いた。 

「・・これからは、人間とも話しが出来るわ・・」 

「本当?・・ミッチ・話したい」 

「・・ミッチって、誰なの・・」 

「あそこ・泳いでいる・ピンク・人間・雌」

   

「あー、すみません、調教士のミッチさん、こちらに上がって来て下さい」

 林田に名前を呼ばれて、驚いたようだったが、急いで泳いで来ると、ディスプレイを覗き込んだ。 

「どういう事なんでしょうか?」 

「イルカ達が、あなたと話しをしたいそうです」 

 と林田は優しく微笑んだ。 

「うっそー!・・どうして・・本当に?!」 

 予想もしてない事が起きて、驚いて水面のイルカ達を見ながら、ようやく声を出した、

「こんにちは、チャッピー、クルル」 

「やあ、ミッチ・話し・出来る・嬉しい!」 

「本当?、これ本当なんですか?」 

 林田や園山の顔を見上げると、ゆっくりと頷いている。 

「チャッピー、クルル・・」 

 今まで言葉で話す事など考えた事もなかったので後が続かない。 

「ミッチ・好き・たくさん・好き!」 

 チャッピーがそう言うと、続けてクルルが

「ミッチ・チャッピー・たくさん・好き・クルル・好きじゃない」

 彼女はすぐにその意味を理解したらしい。

「そんな事ないわよ、二人とも好きよ!」 

「ちがう・ミッチ・チャッピー・たくさん・好き・クルル・好きじゃない」

 そう言うと、軽くジャンプして、プールの隅へと泳いで行ってしまった。 

「違うんだってばー、誤解よ!ねえ、クルルー!」

  

「ミッチ・チャッピー・たくさん・好き・嬉しい!」   

 チャッピーは半身を水面から出し、首をふりふり彼女のところにやって来た。 

「それどころじゃないわよ、チャッピー、クルルを呼んで来て!」  

 大きな声に驚いたように体を反転させると、チャッピーはクルルの潜り込んでいるプールの反対側に泳いでいった。

   

「言葉が通じると言う事は、トラブルが始まると言う事か」

 水から上がって体を拭き終えた教授が、林田に話しかけた。 

「う~ん、なんか、そのようですね~、いやはや!」 

   

 しばらくクルルの周りを泳いでいたチャッピーが戻ってくると、

「クルル・怒る・来ない」 

 水面から出した顔を横に振りながら報告しながらもその顔は屈託がない。 

「もう!」 

 ミッチは勢い良く飛び込んで、クルルの所まで泳いで行ったが、その体を側をすり抜けるように泳ぐと、反対側に泳いで行ってしまった。

 完全にすねているようなのである。 

 ミッチとクルルの鬼ごっこはしばらく続いたが、ついに人間の方が怒り出してしまった。 

「もういいわ、あんたはいつまでもそうしていなさい!」 

 とプールから出て体を拭き始めたが、興奮と悲しさの為か顔が赤くなっている。 

   

「明日香、どうしたもんだろうね?」 

 園山が呼びかけるが、 

「・・わかりません、コミュニケーションは

 とれているのですが、どうして?・・」 

「う~ん、心の問題はね~!」 

   

 いつのまにかクルルがミッチの側まで寄って来ていた。 

 キューウ、キューウ、  

「ねえ~・・、ねえ~・・」 

「何か言ってますよ」  

 林田がミッチにディスプレイを差し示す。 

「・・・・なあに?」 

 赤く泣きはらした目でクルルを見ながら聞くと、 

「怒る?」 

「怒っちゃいないけど、あんたがあんまり聞き分けがないから・・グスン」 

「ミッチ・怒る・悲しい」 

「・・クルルに冷たいわけじゃあないのよ、あなたはしっかりしているし、強いと思ったから・・大丈夫だと思っていたの・・冷たく感じたのなら、ごめんなさい!」 

「ミッチ・クルル・好き?」 

「好きよ、大好きよ!」 

「クルル・安心」 

 そう言うと、クルルはそっと口をミッチの手の平に押し付けてきた。 

   

 キュウー、キュッキュールウー 

「仲間・教える・人間・話し」 

 クルルが半身を水面から出すようにして泳ぎながら、林田達に訴えた。

「どうします、面白いけどな~、その辺はどうなんでしょう?」

 と、イルカパークの若い館長を見た。 

「エッエと、イルカを外に出すという事ですよね・・」 

「素晴しいじゃないですか、野性のイルカと話しが出来るというのは」

 側からハスキー教授が口添えをする。 

「そう言われましても・・本当にクルルが帰ってくるかどうか?」 

 顎に手を当てて、思案げな顔だ。

「じゃあこういうのはどうでしょう、明日香にこのイルカとの翻訳ソフトを作って貰いますから、それを差し上げるということで?」 

「はあ・・そうですか、それはいいですね~・・わかりました」 

 湾に続くゲートが開けられ、クルルはゆっくりと外洋に向かって泳ぎ出した。

   

「すみません、研究所の方にテレビ局の方が」  

 警備の警察官が、林田に近づいて来ると、観光客達の中でカメラを構えているマスコミを差し示した。 

 いつのまにか、地元の人間も集まり、何をやっているのかとイルカパークのプールを眺めているのだ。

「研究所の林田ですが、何でしょうか?」

「責任者の方ですか?」 

「ええ、そうですね~、この現場の責任者ではありますね」 

「イルカと会話なされているようですが、撮影させていただけませんか、もっと近くで・・?」 

「はあ~・・、近くでですか?」 

「これは人工頭脳の明日香となんか関係があるわけでしょう、実験ですか?」

「はい、まあ実験ではありますが」 

「それは、明日香の秘密に触れるまずい事でもあるんでしょうか?」

 さすがマスコミ、やつぎばやに次々と質問を仕掛けて来る。 

「う~ん、」 

 林田は腕を抱えるようにして空を仰いだ。 

「別に、まずい事は何も無いんですがね」 

「イルカと明日香の対面なわけでしょう、夕方のニュースに載せたいんですよ、コンピューターとイルカの出会いは見ていた感じでは、すごくいいじゃあないですか、全国の子供達になんとか見せてあげたいんで す、お願いします、なんとか撮らせて下さい!」  

「はあ~、じゃあこれだけは守ってください、マナーは守る事、もし、著しくひどい行為があった場合は、海に叩き込みます、いいですね!」 

 アウトドア派の林田は、腕を振りながらそう言うが、そんな身ぶりなど気にもせず、 

「おっ、すげえ、皆に言っときますよ、それとこちらに音声を流せませんか」

 どうやら、見ている観光客や地元の人間の反応も撮りたいらしい。 

「音声ですか、いいでしょう、やってみますよ」 

 二人の会話を聞いていた警備陣は、直ちにマスコミ達の身体検査を開始した。 

  

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