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十三章 イルカとの会話に挑戦

知能動物イルカとコミュニケーションをとる事によって、人工頭脳明日香に心がある事が証明できるのか?

   

 天気予報では、夏のように暑い日になると言っていた。

 パトカーに前後にを挟まれて、自衛隊のレンジャー部隊のジープを引き連れた研究所のワゴン車は、朝の8時現在、下田にあるイルカパークに向かって箱根の山を走っていた。 

 何かあるのかと嗅ぎつけたマスコミ連中も、研究所を出た直後から、その後に続いている。 

   

 林田はこの間園山が新宿へ行った時に被っていた、ビデオカメラ着きのヘルメットを被っているが、これはマスコミ向けのいたずら心と、このような異様な姿の方が、絵になって面白いだろうというちゃめっけだった。 

「林田君、今日の手はずはどうなっているのかな、大丈夫かい?」 

 ハスキー教授の心配に、

「明日香との接続は、警察の秘密回線を使わせて貰える事になっていますし、水中スピーカーとマイクがここにありますから、準備と言うほどの準備ではありません」 

「我々にとっては、毎日が軟禁状態でしたから、久しぶりの遠出と言ったところで、歓迎ですよ」

 前の席から、園山が振りかえって、嬉しそうにそう言うと、 

「帰りに温泉にでも入って、うまい物でも食ってきましょうね」 

 と、鼻歌まじりだ。 

  

 斜めに差し込む光が美しい、伊豆スカイラインのうねっているような道を走りながら、 

「ねえ、教授、明日香とイルカを対面させる事が、どうして明日香の心の証明が出来るんです?」

「そんな事は分からんよ、それが分かってたら、わざわざこんな所まで来る必要もないじゃろう、うひゃうひゃひゃ!」 

 と楽しそうに笑うと、続けた、 

「それはじゃね、明日香の中の何かの人口頭脳に似ているプログラムが作動している可能性は、まだあるじゃろう、もしそうだとした場合、人間の作ったプログラムは、人間と会話するように作られているもんじゃ、誰もイルカ用に人口頭脳のプログラムを書いたりはせんからな」 

「はあ、それは確かに、そうですよね」 

「これから、明日香とイルカがコミュニケーションする為には、なんらかの形でイルカの言語を解析し、自分の意思で話さなければ、コミュニケーションは出来んじゃろ

 う、な!」 

「・・もし、明日香がコミュニケーションが出来なかったら明日香に心は無いという事になるんですか?」 

「いやいや、そうじゃあない、これは、幾つも考えられるテストケースの一つに過ぎない、私がそんなに短落な男に見えるかね、

 だが、明日香がある種のプログラムに過ぎないという疑念は残る事になるな、ひゃっひゃひゃ!」 

 と教授は楽しそうに笑ったが、車の中の空気はいささかどんよりと重くなった。

   

   

 イルカパークは、のんびりとした雰囲気に、陽光を浴びて大きなプールで、二匹のイルカが波紋を作りながら遊んでいるのが見られた。

 警察官達に囲まれて入って来た林田達は、ひととき緊張感を持たせたが、すぐにのんびりとした日本的な観光地の景色になっている。


 自衛隊のレンジャー達は、地元の案内人と共に、山の奥へと探索に出ていたが、こちらも、けっこうのんびりと久しぶりのハイキング気分なのが、平和な日本らしい。

   

 水中マイクとスピーカーを設置し、明日香との接続の確認に入っている林田とハスキー教授も、こんなすがすがしい朝には、体の奥まで新鮮になるような気がしていた。 

「明日香、聞こえるか?」

「・・はい、明日香です、そちらはいかがですか?・・」 

「いい天気で気持ちがいいよ、カメラのテストをしよう」 

 林田はカメラの着いたヘルメットで、湾を仕切ったイルカのプールを覗いて見た。

「・・いい所のようですね、黒い背ビレが見えているのがイルカですか?・・」 

「見えているか、カメラは大丈夫のようだな」

 そう言っている頭の上で、クルクルとカメラが泳いでいるイルカを追って動いている。 

   

 観光客とマスコミ達が警察の警戒範囲外から、興味深そうに林田達とイルカを見ている。 

 机の上にモバイルを置いて、ハスキー教授に向かい、 

「さあ、何をやるんです?」

「何を・・それは、会話だよ」

「どういう手順でやるんです?」 

「・・・・どうしようか?」 

「・・どうしようかって、そんな・・教授、行き当たりばったりな!」 

「私は動物学ではなく、経済学だよ、それにこのイルカパークは始めてなんじゃ!」 

 頭にカメラを載せた珍妙な研究員と教授が立ち上がって言い争っている様は、観光客達の失笑を買い、クスクス笑いが広がっていく。

   

「明日香、どうしようか?」 

 園山が明日香に聞いてみる。 

「・・しばらく、イルカと遊んでいただけますか?・・」  

 それを聞いた教授は、やおら服を脱ぐと、

「これでも、昔は都大会の記録を持っていたんじゃ!」 

 と、ズブンとプールに飛び込んだ。 

 さすが言うだけの事はあって、バシャバシャと勢い良く泳いで行くが、その水音に驚いてかイルカは教授を避けるように泳いでいる。 

  

「すみません、なんか勝手に荒してしまって、イルカと一緒に遊んでいただけますか」 

 調教士の若い女性にあやまりながら頼んでみる、 

「どんな事をやればいいんでしょう?」

 ピンクのウエットスーツに身を包んだ笑顔の可愛い女性が林田の前で、手順と目的を聞いてプールの中に入って行った。 

   

 チャッピーとクルルという二頭のイルカを呼び寄せながら、 

「静かに泳いで下さい、そうすればイルカも落ち着いて遊べますから」 

 教授にも注意をして、一緒に泳ぎながら手で合図をすると、勢い良く水から飛び出して、見事なジャンプをして見せた。  

「うむ、さすがにワシよりも少しは泳ぎがうまいな」 

 などと言いながら、教授も徐々にイルカに慣れ、イルカも教授に慣れ、楽しそうに遊びだした。 

   

 調教士の女性が、呼び寄せたイルカの口を持つようにしてキスをした。 

「可愛いでしょう、こんなふうにキスしてみてください」 

 教授も言われるとおりやってみると、急にイルカに対する愛情を感じて、自分が何の為にここまでやって来たのかをすっかり忘れてしまった。 

 ハスキー教授とは、そういう人物なのである。 

   

 遊んでいるうちに、太陽はすっかり真上まで上がっていた。

 教授が潜ると、イルカも一緒に潜ってくる、横目で教授を追いながら体を付けそうな位に一緒に泳いでくる楽しさに、夢中になっていたその時、 

 キューンと一声啼いたかと思うと、何かを探すようにキョロキョロし始めた。 

 教授も水の中で、イルカのような啼き声を聞いたような気がしていた。

   

 すぐにイルカは水中スピーカーのところに

寄って来た。

 それを確認した林田は、 

「明日香、いいぞ、好きにやってくれ・・おっとっと、ディスプレイに翻訳文を流してくれよ」 

「・・わかりました、では、始めますね・・」 


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