第十二章 明日香、図書館をダウンロード
人類の歴史と知識、知恵の数々をハードディスクに丸々ストック、
早朝、02:45分
「準備はいいかな?」
林田が、周りの研究員達に声をかけた。
園山、北、応援に来てくれた3人のオペレーターがそれぞれのモニターの前でOKのサインを出して来た。
「大丈夫だよ、一時間くらい」
眠気を抑えながら、園山が応えた。
03:00分から、国会図書館のデジタルライブラリーから、専用回線で明日香用のデーターをダウンロードするのだ。
園山達は5秒毎にどんなデータが流れているかチェックするのだ、で、この04:00分までの一時間は気を抜けない。
林田がアクセスし、項目を選んでいく。
(数学理論)
実はコンピューターは数理系に強いと思われているが、実は計算能力が高いだけであって数学に強いわけではないのだ。
(プログラム理論)
明日香は自分でCPUを使いこなしている為、何の不自由も無いので、かえって人間が気軽に使えるソフトを作るのが苦手なのである。
(物理理論)
明日香に物理法則を実験で実感的に教える事が出来ないので、生半可ではあるが、ここは優等生的に学習してもらうしかない。
(人間の歴史)
これから人間社会で生きていくわけなので、どうしても、これだけは知っておいてもらわないと困る場面も出てくるだろう。
(ミュージック、ベストテンの歴史)
園山のリクエストである、明日香をカラオケ代わりにでも使うのだろうか?
(落語全集)
林田のリクエストである。理由は不明。
初日の項目は、こんなところである。
「明日香、用意はいいかい?」
「はい、いつでもどうぞ何か楽しみですね!」
03:00分
回線が開いて、明日香がダウンロードを始めると、園山達のモニターが閃光のように光って、流れているデーターをピックアップして映していくのだ。
誰も一言も口をきかず、フラッシュするモニターを見つめて流れていくデーターを確認していた。
(データーをダウンロードした後で、確認した方がいいと思われる向きもありましょうが、明日香がそれらのデーターを学習する時間も必要なので、同時にやってしまう方が効率的なのであります、チェックも兼ねてね)
「ふうむ~、それは、鋭い質問だな~、ヘラクレスが亀に追いつけない問題は、無限の概念の転換期のだね、重要な・・」
「それは、慣性の問題で、物体の持つ重量が速度エネルギーを持っていた場合の・・」
数学の教授と物理学の教授は、明日香の発する質問に答えながら、その理解力の早さと高さに舌を巻いた。
「さすが、人工頭脳と言うべきかな、・・素晴しい!」
「う~ん、確かに脅威とも言えるね、これだけ優秀だと、人間の知性では、スピード的にかなわないな~、だが、人間には出来なかった新しい原理原則を発見してくれるかもしれんから、楽しみでもあるね」
物理学の教授は豪快に笑った。
明日香は、疑問点を解説してもらいながら、まさしく砂に水が染み込むように学習していくのだ。
「三日もすれば、我々が質問に答えられなくなるレベルまで成長してしまうな」
と、教授達はうなずき合った。
「さあ、明日香、歌の時間だよ」
教授達が部屋を出た後、園山が側から声をかけると、
「は~い~♪」
歌うようなきれいな少女の声で応えてきた。
国会図書館のデジタルデーターのダウンロードも終り、明日香も一生懸命に勉強し、教えに来ている教授達に質問を浴びせている。
「人間は、なぜ発生したのか?」
「動物と人間の生きる目的は、違っているのか、それとも同じなのか?」
「宗教とは何か、神と人間の関係は?」
「死の概念とは人間の精神活動の中でどのように捉えられ、どんなふうに位置づけされているのか?」
「人口爆発と言われる現象があるらしいが、人間はどのように解決していくのか?」
「動植物の種の絶滅に、人間はどのような対策をとっているのか?」
どの教授も、真摯に質問に答えようとしていた、明日香と話しているうちに、この人口頭脳が、明日の日本の知性のネットワークに重要な意味を持つかもしれないと感じられてきたので、あやふやな答えや、ごまかしをする事が出来なかった。
いい加減な態度では、後々それがどれほど大きな影響を及ぼすかもしれないことを考えると、誰もが精一杯誠実であろうとしたのである。