答え
一、答え
そう。瑛大が自分の命にかえて助けたのは、私の姉だった…。
瑛大が事故に遭ったことを知らせてきたのは姉だった。その時、気が動転していて、どうして姉から知らされるのか、分からなかったけど。一緒に帰らなかったこと、葬儀のとき、姉が瑛大の両親と慰め合い、肩を抱き合っていたこと、違和感は感じていたけれど、瑛大を失ったことの方が大きくて、その答えをみつけようとしなかった。
答えが出たのは、姉が家を出て、4か月ほど経った冬の日。ロッキーの散歩から帰ると、見たことのない可愛らしい靴があった。中から話し声がきこえる。
誰だろう…
私は玄関で、ロッキーの足を拭いて毛を研いでしていると、母の声と姉の声が近づいてきた。
「お姉ちゃん?」
あの靴、お姉ちゃんの?ヒールのない靴なんて持ってたっけ?
「お母さん、ごめんね…。じゃあ、私、行くわ」
「でも、真凛、ちゃんと話せば…」
「無理だよ…」
「でも…」
姉が、小さなスーツケースを持って玄関に現れた。
「お姉ちゃん」
「まゆ…」
姉は、バツの悪そうな顔をした。
「真優、帰ってたの!」
母は慌てた様子だった。
姉は私から目を反らした。何も言わず、あの靴をはき、出ていこうとした。私とロッキーの横を通り抜けようとした。そのとき、私は、姉の異変に気が付いた。
「お姉ちゃん、妊娠してるの…?」
その言葉に、姉が一瞬固まった。けれど、すぐに出ていこうとした。私はとっさに姉の腕を掴んだ。
「お姉ちゃん、どこ行くの?お母さん、心配してるよ。帰ってきてよ。しかも、赤ちゃんいるなんて…」
「……」
クゥ~ン…ロッキーもなにかを察したのか、寂しそうな声をだした。
ゆっくり振り向いた姉の目は、いまにもこぼれ落ちそうな涙でいっぱいだった。涙の奥の大きな瞳が私を睨んだ。
「この子、瑛大の子だよ。まゆ、それでも、いいの?」
彼女の目から涙があふれでた。
「瑛大が事故にあったときのこと、まゆ、覚えてる?」
「え?」
「あのとき、一緒にいたのは私なの…私を助けて、彼は死んだんだよ!」
そう言い放って、私の手を振りほどき、姉は出ていった。
どういうこと?
母は姉の後を追いかけて出ていった。
父が出てきて、私の肩をさすった。
「さぁ、中に入りなさい。冷えるから。」
その夜、父と母に呼ばれて、これまでのことを知らされた。父も母も当初は知らなくて、葬儀が終わって、1週間ほど経った頃、姉から全てをきかされたらしい。
私は姉が友人とシェアハウスを始めた、そう聞かされていたけど、本当は、今は、ひだまりの丘の施設長のところに身をよそているらしい。
父と母は、私のことを心配して言わなかった。ずっと隠しててごめん、と謝っていた。