経験値はトドメで入るって常識だろ?
ロザリオの地下墓標・第4層、《失われた聖域》。
あの封印扉の前から少し離れた場所に、小さな聖具保管室があった。
崩れた祭壇、錆びた聖剣、そして壊れた椅子──誰もいなくなって久しい、かつての祈りの跡。
俺たちはその部屋を仮の拠点にして、少しだけ休憩を取っていた。
「……なあクロエ。俺たち、ちょっとレベル上げとかした方がよくない?」
「ふむ。あの扉の奥にいるのが“それなり”なら、今のあんたじゃ確かに、骨も残らないでしょうね」
「でしょ? だから、ちょっと戻って稼ごうぜ。さっきの《怨念の書架》とか、リポップ速かったしさ」
そう、俺のステータスはまだLv4。
中ボスが控えてるっぽいこの空気の中じゃ、今のままだと即リタイアコースだ。
だから提案してみる。俺なりに真面目に。
「クロエさんは前衛で削って、俺がとどめ担当ってことで。ね? 完璧じゃない?」
「……」
クロエの目が細くなった。
「今の言い方……まるであたしを“経験値製造機”扱いしてるように聞こえたんだけど?」
「い、いや、違う違う!そうじゃないって!」
「じゃあ何よ。“ちょろっと削って、下僕のあんたがちゃっかりトドメでおいしいとこ取り”──そういう作戦なわけ?」
「いやまぁ、正直そうだけども……っ!」
ドゴォォン!!
「ぎゃああああ!?ブーツで踏むのはやめてえええええ!!」
怒号とともに、クロエのフリル付きブーツが俺の足を踏み抜いた。
でも……その瞬間、俺の脳裏には“ある真実”が浮かぶ。
(そ、そういえば今のクロエ……裸エプロン状態だった──ッ!!)
封印されてたクロエは、全裸だった。
とっさに俺が装備させた《ブラディ・キュウジ》――黒革+フリル+十字刺繍の戦闘用エプロン、あとフリル付きブーツ。
あれ一枚だけで、今もこうして踏まれているということは……つまり、
(これ、“殺意こもった裸エプロンブーツ踏み”(ご褒美)じゃん!?)
胸元から太ももまで惜しげもなく見える美ボディ、
フリルが揺れて、大きな谷間がちらついて、足に当たる体重すらもはやご褒美。
(ああああ……これが、伝説の“尊死系踏みつけ”か……)
『ユウくん!?脳内で変態語録連発しないで!?思考がエロ方面にレベルアップしてるよ!!』
「す、すみませんでしたありがとうございます!!」
「な、なによ急に!?この変態っ!」
ツン!罵倒!踏みつけ!赤面ッ!!
なにこの最高コンボ!ありがとうございます!!
「……ったく。仕方ないわね。レベリング、協力してあげてもいいわよ」
「マジで!?ありが──」
「ただし──」
クロエはくるりと俺に背を向けて、首筋に指を這わせながら言った。
「吸わせなさい。あんたの血を……少しだけ」
「へ?」
「ちょ、ちょっとだけよ!? 魔力の回復も必要なの!そ、それに、べ、別に吸いたいわけじゃなくて、本能的な問題というか……効率重視というかっ!」
「いいよ!!」
「はやっ!?即答!?こっちの羞恥は無視なの!?」
「いやだって!吸ってくれるって言うなら、もう!ぜひ!」
「~~~~っ!!だ、黙れっ……ッ!」
クロエは頬を真っ赤に染めながら、すぐそばまでにじり寄ってきた。
吐息が首筋にかかって、耳の奥がゾワゾワする。
「い、いくわよ……」
「うっ……お願いします……」
「ん……っ、く……ふぅ……」
小さな痛みとともに、クロエの唇がそっと俺の首筋を咥え込む。
ああ……肌がゾクゾクする。
そのたびに、体の芯から熱がこみ上げて、呼吸が少しずつ乱れていく──
(これはヤバい。理性が吸われる……!)
やがて、吸血が終わり、クロエは名残惜しげに口を離した。
「……ふぅ。やっぱり、あんたの血って……すごく、美味しいのね」
「……は、はい……」
立てねぇ……もうMPも理性もゼロ。
『っっぶははは!!はいフェチポイント満タン入りましたー!』
「うるっさいな女神!!」
クロエはスッと立ち上がって、背を向けたまま言った。
「これで戦えるわ。下僕……行くわよ。あんたの役目、しっかり果たしなさい」
「うっす!全力で稼がせていただきますッ!!」
こうして俺は、血液という代償を支払い──
最強の吸血姫との狩りコンテンツを開始することになったのだった!