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死者の聖域で、少しだけ前に進んだ気がする


ロザリオの地下墓標・第4層――

その入口に足を踏み入れた瞬間、肌にまとわりつく空気が変わった。


息を呑むほどの静寂。

光の届かない深淵。

ただ、冷気とは違う“霊の気配”が、全身にまとわりついてくる。


「……こりゃまた、えらく歓迎されてんな……」


 


『おお~!出たね第4層!ここ、女神的にもなかなかキてる空間だよ? ユウくん、気合入れてこ~!』


「入れてるよ。主にビビり気味って意味で」


 


クロエと並んで歩き出す。

だが、どこか空間が歪んでいるような違和感がずっとつきまとっていた。


(……魔力の流れが、おかしい?)


氷魔法の感覚がブレる。

だが、逆に死霊魔法はスッと通る。第4層の特徴が、肌で理解できるほどだ。


 


「白骨の魂よ、跳ねよ──《スケルタル・ラビット》!」


 


ぴょこん、と現れた小さな骨うさぎ。

でも、どこか様子が違った。


ガシャンッ!


うさぎの骨が、一回転して地面に着地すると、鋭い牙をカチカチと鳴らした。


「お、お前……進化してね!? 牙生えてね!? なんかすげぇ機敏なんだけど!?」


『えっへん!それが今回の目玉!その子の新フォーム、《スケルタル・ファングラビット》で~す☆』


 


進化って……進化ってあるの!?

しかもなんか普通に戦えそうな雰囲気出てるし!


そんな中、突如、通路の奥から漂う邪悪な気配。

闇に浮かび上がる、ぼんやり光る人影。


「……アンデッド……?」


 


姿を現したのは、聖職者の装束をまとったアンデッド――《沈黙のアコライト》。


「くっ……クロエ、下がって!」


「別に下がる必要なんてないわよ? だけど……見せてもらいましょうか、下僕の実力」


 


言われてしまっては、やるしかない。


 


「アイス・ミスト!」

「氷の吐息よ、視界を閉ざせ――《アイス・ミスト》!」


冷気の霧がアコライトの視界を遮る。

その隙に、スケルタル・ファングラビットが突進!


ガキィン!


鋭い牙でアコライトの腕を抉る!

怨霊のような呻きが通路に響いた。


「おおっ!? ホネウサ、やるじゃん!!」


 


だが、アコライトの手に浮かぶ光――呪詛の魔法陣!


「やばっ──!」


クロエが魔法で援護しようとしたそのとき。


俺の脳内に響く声があった。


 


『ユウくん、今だよ!この空間は、死霊魔法がよく通るでしょ? 今こそ、新しい力に目覚めるときだよ!』


「目覚めるって、お前はいつも説明不足なんだよ……っ!」


 


とにかく、イメージする。


敵を捉え、動きを奪う──霊の手を具現化するイメージ!


 


「沈黙の黄昏よ──影より現れ、我が指先に応えよ。《レイス・リーチ》!」


 


空間が歪み、霊的な手がアコライトを絡め取った!


「よっしゃあああああ!!」


 


さらに。


「この魂に印を刻まん──死の名のもとに。《デスブランド》!」


刻まれた印が、アコライトの身に宿る。

そこへ、スケルタル・ファングラビットが飛びかかり、決定打!


 


アコライトは崩れ、霧のように消えていった。


 


──勝った。


 


「ふ、ふふ……見たか、クロエ! 俺、やったぞ!」


「……まぁ、少しは褒めてあげるわ。下僕としてはね」


「素直に褒めてよ!?」


『ユウくん、カッコよかったよぉ~!爆裂スクロール浪費者だけど☆』


「言わなくていいってその称号!」


 


でも。

少しずつだけど、俺……死霊術師として、成長してる気がする。


 




その夜。


第4層の隅に、小さな空間を見つけて休憩を取ることにした。


クロエは疲れていたのか、いつもよりおとなしい。


「……ちょっと。背中、貸しなさい」


「またかよ……」


「寒いのよ! ほら、あたしの下僕なら黙って貸すのっ」


「はいはい……」


 


背中にクロエがぴったりとくっついてきた。

エプロン姿のままで。


(……あ、背中に……すげぇ……)


「……変なことしたら殺すわよ?」


「しません!しませんって!!」


 


『やだ~ユウくん、今日も欲望に素直☆』


「うっせぇわ適当女神……っ」


 


クロエが少しだけ俺に体を預ける。



「……あんたさ、ちゃんとその指輪、毎日つけてるわよね?」


「ん? ああ、これか。つけてるよ、ずっと」


「べ、別に確認したかったわけじゃないけど! 忘れてたら張り倒そうと思っただけなんだから!」


「なんだその暴力前提の確認方法……」


「……ふん。あんたはあたしの“正式な下僕”なんだから、それくらい当然よ!」


「はいはい、光栄です、お姫さま」


「よろしい」


 ──指輪に視線を落とすクロエの横顔は、少しだけ照れてるようにも見えた。




そんなふたりを照らす、淡く揺れる霊灯。


眠りに落ちる寸前、俺は少しだけ微笑んだ。


 


──この世界で、初めて“居場所”ってやつが、できた気がした。


 





【現在のステータス:ユウ・サカイ】


職業:死霊術師ネクロマンサー

種族:人族(転生者)

Lv:1

スキル:

・《死霊魔法(第3階層)》

 ├《スケルタル・ファングラビット》

 ├《レイス・リーチ》

 ├《デスブランド》

・《氷魔法(第1階層)》

 ├《アイス・スパイク》

 ├《アイス・ミスト》


装備:

・《魔力制御入門くん》

・《折れかけの小剣》

・《エレン印の冒険セット》

・《女神エレンより、愛をこめて♡(マフラー)》

・《クロエの手作り指輪》


称号:

・女神の“お気に入り”

・異世界転生者

・触手系に反応が良い男

・爆裂スクロール浪費者

・ラッキースケベ

・吸血姫の下僕



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